その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

山本康正『テックジャイアントと地政学 山本康正のテクノロジー教養講座 2023-2024』 (日経プレミアシリーズ、2023)

2023-06-27 09:23:44 | 

ITを巡る様々なトピックについて、専門家としての筆者の見立てを伝える一冊。日経のWeb連載の記事をベースに編集したものなので、深く掘り下げるというよりは、幅広く扱うという内容で、手軽に読める。加えて、この業界に通じた筆者ならではの考察が示され、その論点や切り口は勉強になった。

私自身、数年前にグローバル市場を対象とした仕事から離れたこともあり、海外のテックジャイアントの動向をレポートした本書には刺激を受けた。同時に、普段の自分の情報源が国内メディアに偏っており、思考も内向きになっていることに気づかされ、いかんなあと感じた。

特に気づきになったのは、PART4「メタバース&Web3、先端技術ブームの実態」。

筆者は、Web3、メタバース、NFT、仮想通貨等のはやり言葉は、マーケティング活動として広まっているのか、ビジネスや実務で使える地殻変動が起こっているのかを一歩引いて考えることが重要と言います。「本質的には変わらないものをあたかも新しい概念のように見せることが仕事になっている批評家やビジネスマンがいる」からです。「実務上で重要なのは、『技術進歩によって既存の体験のうち、どれが近未来に直接的にも、間接的(ユーザの時間や目的など)にも置き換えられるだろうか』という問い。」なのです。(p128~p131)

確かにその通りである。ただ、素人には、この問いに答えるためには、一度手を出してみたり、踊らされてみないと、なかなか考えているだけでは、肌感覚としてわからないというのがジレンマかと思った。そういった意味でも、「用語は分解して考えることで、本質を考える。」筆者のアドバイスも大切にしたい。

これ以外にも、「Web3は米国では既に下火」、「日本と同様に保守的であったフランスのデジタル化に向けた取り組み」なども、なかなか日本のメディア情報に頼っているとわからないところであり、興味深かった。

本書自身が2022年の記事をもとにしているので、技術や市場の状況は1年もすれば大きく変わってくるはずだ。この業界、エキサイティングと言えば聞こえはいいが、ホント疲れる。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする