
いつも安定してハイレベルな演奏を聴かせてくれるN響なのだが、数年に一度、胸が締め付けられるように痺れる演奏会がある。今日のブロムシュテッド(以下、敬意を込めてブロム翁)とのN響A定期はまさしくそうした演奏会だった。
今シーズンのAプロ、私は芸劇のRB席を確保したのだが、楽屋の入口から奥まで見える席である。そんな席から、今日、ブロム翁がカヴァコスと並んでステージに出てきた光景を見たとき、それだけで胸が一杯で涙が出そうになった。コロナ禍を経て、満員の会場に94歳のブロム翁が帰って来てくれた。その姿やシチュエーションそのものが、一ファンとしてはそれほど感動的であったのである。
そして、演奏は今度こそ涙がこぼれるものだった。ブラームス ヴァイオリン協奏曲はカヴァコスの安定して理知的かつ情熱的な骨太のヴァイオリンソロが圧巻だった。カヴァコスは過去のN響との共演も聴いているし、ロンドンでLSOとの共演も2回聴いているが、そのオーラが数段パワーアップしているように感じられた。
オケも決して負けてなかった。木管陣の美しい音色が出色だったが、それ以上に印象的だったのは、オケの皆さんの前のめり度、集中度だ。ステージ横のRB席であるが故に、楽員の緊迫さ、真剣度が手に取るように分かる。カヴァコスと楽員の間にポジティブな「気」の火花が散っているのが見えるかのようであった。こんなブラームスのヴァイオリン協奏曲を聴いた記憶、視た記憶は過去にない。
休憩後のニルセンの交響曲第5番も超絶演奏だった。馴染みがある音楽では無いのだが、北欧を感じさせる美しさと荒涼さが併存した出だしから戦いを経ての平安の世界。そして、クライマックスは人間讃歌、地球讃歌に聞こえる一連の音楽が、前半と同様にブロム翁とオケの緊張感一杯のやり取りの中で紡がれる。側で聴いているだけで、その空気の張りがピリピリと感じられるものだから、こちらも前のめりで聴く。ライブならではの相互作用だ。
満員のホールからは、ブラボーこそ叫べないものの、万雷の拍手とはこのことだと言わんばかりの賞賛が寄せられた。コロナ対策のためか、楽員が先に引き上げ、最後に翁がコンマス白井さんと退場する形だが、スタンディングオベーションの拍手は止むことを知らず、呼び戻されること2回。この場に居合わせていること自体が、奇跡のような気がした。

第1939回 定期公演 池袋Aプログラム
2021年10月17日(日)開場 1:00pm 開演 2:00pm
東京芸術劇場 コンサートホール
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ニルセン/交響曲 第5番 作品50
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ヴァイオリン:レオニダス・カヴァコス
No. 1939 Subscription (Ikebukuro Program A)
Sunday, October 17, 2021 2:00p.m. (Doors open at 1:00p.m.)
Tokyo Metropolitan Theatre
Brahms / Violin Concerto D Major Op. 77
Nielsen / Symphony No. 5 Op. 50
Herbert Blomstedt, conductor
Leonidas Kavakos, violin