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その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

冨山和彦 『会社は頭から腐る』 (ダイヤモンド社)

2011-04-04 23:51:28 | 
産業再生機構のCOOを務めた筆者が、日本の企業の進むべき道、今の日本人に求められるリーダーシップなどについて語る。会社再生という修羅場をくぐってきた筆者ならではの、説得力に溢れ、迫力のある持論が展開されている。わが身を振り返って、思い当たるがゆえに耳の痛い話もあるが、腹に落ちる素晴らしい主張である。

 筆者の経営に関する根本認識は人に始まって人に終わる。
「善悪一如となっている人間性と人間社会の現実にこそ、経営が大きな過ちを犯す、あるいは組織がとんでもない腐敗を起こす根源がある。自分自身も含めてさまざまな弱さ、情けなさを抱えている。それを理解し、どう対処すれば「弱さ」を克服して、組織の腐敗を防げるのか、さらには弱さを強さに転化して、企業体として「強い」集団となし得るのかに経営の本質的な課題があるのだ。」 (p6)
 激しく、同意です。

 そして、その人間、組織は、「インセンティブと性格の奴隷」であるがゆえに、経営は、自己益(一人ひとりの動機付け)、組織益(企業組織として動機付けられている方向性)、社会益(社会全体の有する動機付け)の3つが根本的なところでシンクロしているかを追求し続けなくてはいけない。(p32)

 だから、「経営者としての私のスタンスは、まずは人間を動機づけているものの本質の理解する努力を行なう。そしてそこに働きかけ、勇気付ける。本人が相互に矛盾するインセンティブの相克に苦しんでいるのなら、それを整理して、あるいはその一部を自分が引き受けて、その人を葛藤状態から解放すべくベストをつくすことである」(p29)

 最終章「今こそガチンコで本物のリーダーを鍛え上げろ」はリーダーシップ論。

 筆者は、「この20年間、日本企業の経営層の平均的なクオリティは下がり続けている」と言い、若いうちから、ガチンコの勝負、そして時には負け戦を徹底的に経験することを通じて、リーダーを育てなければならないと言います。(p174-)

 そして、社会や企業の主導的立場にたつ人は以下の3つのことが必要と言う。(pp195-198)
 一つは、「商売のリアリズムに対する肉体的理解力」。要は、「100万円の仕事を取るために、どれだけ人が苦労しているかということを自分の肌の実体験」として知ること、掴むこと。
 二つ目は、人間性。すなわち胆力や他人への影響力、目的達成への情熱や執着心といった要素。
 そして、三つ目は、能力。「基本的な経営知識、スキルと、「ありのままの現実」を冷徹に見つめる力、そして自分の頭でモノを考え、建設的に解決策を創造する力」である。

 2点目、3点目はどのリーダーシップ論にも出てきますが、1点目が最初に出てくるところが、筆者の持論である現場に基づいた経営の強さだと思う。この他にもメモしたいフレーズが山のように出てくる。

 例えば、
「多くの企業で、一人でできることにあまりにも多くの人間が関わる仕組みになっている。これでは内部の調整を上手くすすめることに、頭を使うようになる。内戦にばかりエネルギーを消耗しているようなものだ。本当の戦いは、外で行なわれているにもかかわらず、である。」(p18)

(大企業の中堅スタッフには)「ビジネスの可能性そのものを真っ正面から検討しようとする姿勢が、そもそもないのである」

 また機会があったら自分のためにも、ご紹介したい。

 脆弱な経営人材、耐用年数が過ぎた経営システムにもかかわらず、日本企業は先人が残した富と「強い現場」でなんとか経営を成り立たせている(p77)という、筆者の見立ては、本書が4年近く前に書かれたものであるにもかかわらず、今の地震・津波、原発事故の政府や企業の対応を見ていると、頷かざる得ない。

 唯一、タイトルが好みではないが、分厚い経営学の理論書を読むよりも、本書のほうがずっと経営の本質が理解できると思う。
コメント
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