昨年末リリースのW.C.カラスの新作『耐えて眠れ』を深夜、よく聴いている。
率直に言って素晴らしい。
深夜に聴いているから閉ざされた空間を連想する人もいそうだけど
閉店後の店に独り居て、驚くほど開かれた気分を感じる。
今回のアルバムはゲストを一切入れず大屋 W.C.カラス 清さんがギターを抱え全編をひとりで歌っている。これは録音作品では初めてのこと。
ファーストアルバムはジャケットや冒頭の印象、全体のカラーからブルース弾き語り風に感じるが
実は多くの曲でバンドが最小限のサポートをし、プロデューサーナカムラの手腕も冴え渡った作品である。
セカンドアルバムはいきなりエレキギターにサックス!鮮やかにソウルフルなバンドサウンドが飛び出して来て驚かされる。
思えば清さんは初めてバイユーゲイトで歌ったときこそリゾネーターギター弾き語りだったが、
すぐにまったく大袈裟な感じでもなく当たり前にエレキギターを持って現れた。
数年後、バイユー10周年イベントではソリッドギターにスーツ姿。エレキギター弾き語りでロックして魅せた。
俺はまったく見る目がなく、こんな間口の広い人だとは気づきませんでした。
わずかな時間で様々な共演者と独自の信頼関係を結び、
それぞれとの(デュオ等の)セットでそれぞれ違ったW.C.カラスを見せて
お客さんに(W.C.カラスというミュージシャンを)楽しませる姿には正直驚きました。
もしかしたらこんな見る目のないのは俺だけなのかもしれんが…。
そんなカラス清さんが不意をつくかのように出してきた弾き語りアルバム。
「地元(富山)でやっていたころ、東京など(や県外)に歌いに行くようになる前にやっていたスタイルに近い。暗い部分を出している。」「楽しめないという人もいるかもしれないけれどじっくり聴いてもらえたらわかると思う」。
細部が違っているかもしれないけれど、こんなようなことを語っていた。
確かに最初の音から深くてダークな音色。
「地元で、お客さんに相手にされずやっていた頃」。
縁あって、彼が外の世界に本格的に踏み出すタイミングで近しい関係になれた自分は
当時、最初のアルバムを録音する前の音源を聴いている。
今も歌われている曲が録音されたCD-R。今回のアルバムと同じくひとりきりで録音された音源。
『耐えて眠れ』を聴いてすぐに気づいた。
でも何度も何度も聴きました。年末から何回聴いたろう。
やっていることは基本変わらない。
でもまったく違う。音楽の手触りが、空気感が。
深夜独りで聴いていると、違いが迫ってくる。
暗い、そしてダークかもしれないが閉じていない。
歌世界、音世界を飛び越える圧倒的な、聴き手に対して開いた感。
それは、思わず人間性を疑うようなバカみたいな開き方や、安易な商売での開け放たれ方とはまったく違う、音楽の開かれ方だ。
「リスナー」に対して意識過剰にならずとも、
作品に感応した聴き手に対しては自然に届く音楽の強さだ。
カラス清さんはこれまでの積み重ねはそのままに大きく変わった。
ファーストアルバムが注目されてからのこの数年間に信じられないほどの多くの人に観られ、
人に出会い(昨年は全国で100本以上のライブをしたそうだ)大きく変わった。
強く、開かれたと感じます。あるがまま聴き手に伝わるであろう確信をもった歌声。
それが過信に陥らないのはこれまでの不遇時代があるからでしょう。
凄いな。そう感じます。
暗くない。基本は変わらないのだろうけど暗くなんてない。わかり易くなったのでもない。
ひとりスタジオでこんな音を出していたなんて、感動的だ。
こんな過程にタイミング良く立ち会えて俺って幸運だ。
ブルースってどんなにダークなトーンで歌っても暗くないんですよ。
いや「歌」って上辺の色は関係ないのだなあと思います。
音楽が、人を拒絶していなければ。
俺は不思議な開放感を味わえることもあります。
是非、買って聴いてみて欲しいと思います。