バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

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佐野vs井上戦に思う。

2013-04-16 | ボクシング

今夜はフジテレビでゴールデンタイムにボクシングの生中継がある。それも2時間。
世界タイトルマッチではない。
史上初のアマチュア7冠を達成した「怪物」井上尚弥選手のプロ3戦目(ノンタイトル10回戦)を、新たに契約したフジテレビが大々的に売り出すべく異例の生放送で中継するとのこと。そして同じくフジテレビが獲得したロンドンオリンピック金メダリスト村田諒太選手の「プロテスト」の生中継も加えての2時間だ。
これはもうボクシング中継というよりもテレビのビッグイベントのようにさえ感じる。金メダリスト村田選手に、ボクシング協会会長大橋秀行氏率いる大橋ジム所属の井上選手、これをプロデュースするフジテレビ。ある意味完璧だ。

井上選手が今後どこまで伸びるかわからないが、確かに凄い才能だと思う。村田選手のミドル級金メダルはもちろん超破格の肩書きだ。だからこそフジテレビよ、TBSのようになりませんように。近いニオイを感じている人も少なからず居るようだからこそ、そう願う。

でもそんな心配には及ばないのかもしれない。

井上選手の今夜の対戦相手は日本ライトフライ級1位・佐野友樹選手、名古屋の松田ジムのベテラン選手だ。日本タイトル挑戦経験もある24戦目の31歳。プロの世界で12のKO勝ちも収めている(17勝)。
実力では井上選手が相当に上であると見られているが、「世界だ世界だ」という前によくぞこういう試合を組んだ!というべき中身の濃いマッチメイクだと思う。
とてもかなわないとみられてはいるが、佐野選手はいわゆる叩き上げの国内トップボクサーだ。「なんとなく呼んでこられた」簡単に負けても自身のキャリアや心になんの痛手も負わないボクサーとは明確に違う。数は少なくとも彼には熱心に応援してくれる者たちがいるし、ジムメイトや対戦相手がこの試合を熱い想いで観ている。
「これだけ注目されるのは最初で最後。好きなボクシングで強い選手と戦い抜きたい」と語っているように彼にとってはキャリアの頂点に挑む気持ちで闘うことになる。
ボクシングは高度な技術に裏打ちされた打撃戦だ。ただそこにはメンタル、気持ちの入り込む余地が十分過ぎるほどにある。これまでも後の世界チャンピオンや期待のスーパールーキーがキャリア初期に無名選手に食い下がられる姿や、自分のハイレベルな技術を殺される展開を何度も見て来た。時にその無名選手に敗れることも珍しくなかった。もちろん敗れたことによって落ちていった選手もいるが、世界トップレベルとはほど遠い世界で苦しんだ経験が高度な技術を持つボクシングに筋金をいれることになり、後に名選手となった例はあまりに多い。
巨大なモチベーションを持って戦う選手はたとえ敗色濃厚になっても決して諦めないし、相手の足にしがみついてでもダウンを拒否しようとしたりする。そんな選手と直接相見える事によってこそボクサーとしての筋金が入り、風格ができると僕は信じます。事実佐野選手のブログには「大手のジムはたいした事無い選手に勝ってもすぐにランカーになったりしますが不思議に思ってます気分的にやっつけて欲しいです」
「地方の全国のジム生は皆、佐野選手を応援してます最後の試合と思い、佐野選手の持ってる力、全部出しきって下さい」という友人ではない同業者からの書込みも見られる。
こんな書き方じゃすっかり敵役の井上選手だけど、これぞ「怪物」という本物のボクシングを見せて欲しい。そして佐野選手はテレビやマスコミの思惑など忘れてしまうような佇まいを見せて欲しいと思います。

佐野選手がプロの誇りを見せるのか、井上選手が無慈悲に圧勝するのか。
どんなにデコレーションを施そうとも、こういう試合のリングには「ただのボクシング」があるだけだと思います。