バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

ブルース、ソウルにニューオーリンズ!ソウルフルな音楽溢れる東京武蔵野の音楽呑み屋バイユーゲイトにまつわる日々のつれづれを

Cornell Dupreeの遺作

2011-10-20 | 音楽

偉大なギタリスト、コーネル・デュプリーの遺作『Doin’ Alright』。
バイユーでは既にすっかりお馴染みのアルバムですが~これまでなんとなく本欄未紹介でした。Doin
60年代から主にソウル、ジャズ界隈で数えきれない程の名演、快演を繰り広げて来た凄腕ギタリスト。キング・カーティスのバンドでのプレイは今もリズム&ブルースの最高峰のひとつとして多くの音楽愛好家の心をとらえて離しません。そう鷲掴み。離れられないのです。その後の『スタッフ』以降の元祖フュージョン(クロスオーヴァー?)路線での成功も有名ですが、やはりアリサ・フランクリンやブルック・ベントン、ダニー・ハサウェイたちとの名盤の数々は今も燦然と輝いています。
そんなデュプリーさんの遺作。制作段階から「スムース・ジャズ、フュージョン路線を除外しR&B、ソウルに絞った新作を録音中」と話題になっていた作品で、完成からリリースの間に本人が亡くなってしまうという残念な出来事と併せファンには感慨深いアルバムとなりました。
録音中から既に身体の状態がかなり悪く、酸素吸入をしながら演奏する姿が知られていたデュプリーさん。懸命にグルーヴを紡ごうとするテキサスの若手バンド(オルガン入り)をバックに「間」を生かした、気持ちと歌心を込めたプレイを聴かせています。

そんなこの作品、実は各方面から否定的な意見も少なくありません。
衰えた、といえば衰えたデュプリーのギター。(気持ちは伝わるものの)可もなく不可もなくのバックバンド…。残念ながらそれら否定的な意見のすべてがある意味その通りだということは認めざるを得ません。本作をかつての彼の(特にソウル路線時代の)演奏や音盤に満ち溢れていた音楽の持つマジック!と比べてしまうことはやはり無理というものです。
それほどにかつての彼のギターには瞬間瞬間のマジックがあったのです。
制作に関わった方々にとっては「あの状態(映像で観ることができる)のコーネルとこれだけの出来のアルバムを作り上げることができた」という満足感が大きいということはよくわかります。制作サイド、参加ミュージシャンの愛も強く感じます。でもやはり「傑作」ではない。と思います。

「彼の演奏をあまり聴いたことのない方には他に聴くべきものがある」という意見にも一理あるでしょう。
でもなぁ~個人的には、こういう本物のミュージシャンの最後のチロチロ燃える炎を慈しむような演奏を最初に聴いて得るものだってあるとは思うのです。その後に「フィルモア」での驚愕の演奏を耳にしても悪くはない。そう思うのです。出会い方は人それぞれ。どのような出会いからでも、何かを得る人は得るのです。
けっして絶賛できるような素晴らしい内容のアルバムではありませんが、音楽好きが聴いて大切な「何か」を得るだけの力は持った作品だと思います。「なんだコーネル・デュプリーって大したことないな~」と思った方には将来いつかまた出会う機会があるでしょうし、今作のデュプリーから「何か」を感じソウルの奥深い世界に進んで行く方もいると思うのです。

先ほど「マジックは無い」という表現をしましたが、少し訂正を。本作の中でバンドのグルーブの緊張感やふくよかさが足りないな~という時にデュプリーさんの一音でリズムが色づき息を吹き返すような瞬間が何度かあります。音と次の音の間があっという間にバンドに潤いを与えたりする場面にはなんともマジックを感じさせれられます。音を探るように爪弾くギターソロがビートに影響を与える瞬間なんてなんともスリリングです。

以上、悪くいう人も否定はしませんが僕はよく聴いてます。の巻でした。