愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

知識の蓄積

2020年10月05日 | 運営
最近、榎本博明『教育現場は困っている』(平凡社新書,2020年)を読みました。近年強まる実学志向の教育改革を批判した本です。近年の教育業界の流行概念に、アクティブラーニングというものがあります。今までの教育は、学習者が受け身で知識を受け取り覚えるばかりで深く学ぶことができない。そのため、学習者が受け身で知識を伝授されることから脱却し、学習者が能動的に主体的な姿勢で、学習者同士対話を持ちながら学ぶアクティブラーニングに進むべき。これにより学習者は深い学びを得ることができるというのです。この理念自体は素晴らしいと思います。

しかし、本書はその考え方の実際上の展開に問題があるのではないかと指摘しています。すなわち、豊富な知識がないままで、深い思考に達することはない。学生が知識を獲得する前に、アクティブラーニングを実施しても教育効果は得られないといいます。豊富な知識のない学生同士の対話はただの時間つぶしのおしゃべりを超えるものではない。知識の伝授を、詰め込みと称して回避することは、深い学びを妨げるのではないか。

私も個人的にこの指摘に賛成です。知識を蓄積していない学生間の対話はただのおしゃべりでしかないことを、ゼミで確認しています。ゼミでは、ゼミ生が研究テーマを設定する際に、いつも現状分析として、研究を進めようと考える領域で起きている現象や過去の経緯、それに関連する理論等を調査し、自分なりに整理するように求めています。しかし、少々現象を調べたところで、テーマを案出するには至りません。また、ゼミ生間で質疑応答をさせても、まともな質問すら出てこないことがままあります。ゼミ生間の議論が成立するのは4年次になってからです。2年次はまったく成り立たず、3年次でもあいまいな言葉のやり取りがなされるだけです。

アクティブラーニングの前提として、学生における知識の蓄積は必須だと思います。一般的に、知識の吸収能力は既に蓄積された知識に依存します。知識が豊富にあればあるほど知識の吸収力が向上するといえるのです。また、現象の理解・分析力も蓄積された知識に依存します。知識が豊富にあればあるほど現象の理解・分析力が向上するのです。さらに、新しいアイディアは無から生まれるのではなく、蓄積された知識の組み合わせや再解釈から生まれます。知識が豊富にあればあるほど、革新的なアイディアが生まれる可能性が高まるのです。

「詰め込み」という言葉はあいまいで様々誤解を生んでいるかもしれません。ひょっとすると、悪い教育なのかもしれません。ただ、教員から学生への知識の伝授と、学生における知識の定着を悪い教育とする言説があるならば、これには警戒する必要があると思います。
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