愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

面白かった本

2019年08月18日 | Weblog
小中学生の夏休みは後半に入りました。しかし、大学生の夏休みはまだ1か月残っています。毎年諭すことですが、長い休み中に、大学時代でなければできないことを手掛けてほしいと思います。私はいつも、長期の旅行と読書(乱読)を薦めます。両方とも、社会人になると、時間的制約からできなくなることが多い。教員の立場では、とくに読書を薦めます。

今回ゼミ生にお薦めの書物は、小熊英二『日本社会のしくみ――雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書、2019年) です。今夏発売され、現在多くの書店でベストセラー新書扱いされています。

日本社会のしくみと言いながら、実際には、本書は日本の雇用慣行に焦点を置いています。雇用から、日本社会の歴史を探るというのが著者の姿勢です。本書は、今私たちが直面している正規雇用と非正規雇用の分断に至る歴史について、明治期を起点として描いています。

具体的な内容は本書を読んで知ってほしいのですが、私が興味深いと思った内容を簡単に紹介します。

かつて、日本的経営の主要要素として指摘された、新卒一括採用、長期雇用、年功序列賃金、企業別労働組合という雇用慣行は、明治期に官庁や軍隊から生まれたと本書で指摘されています。官庁が企業に対してモデルを提供していたということです。

さらに、その雇用慣行を適用されるのは、一部のエリート層だけで、下層の従業員には年功制や長期雇用は適用されないという身分差別が存在していた。そして、その身分は学歴によって決まっていたという歴史的事実が記述されています。さらに、第二次世界大戦後、エリート層に適用されていた慣行が広く多くの従業員に適用されるようになった歴史が記述されています。

ただし、この身分差別は、現在まだ残っていると考えられます。つまり、非正規雇用と正規雇用間の不合理な待遇格差や、非正規雇用から正規雇用への転換が簡単ではないという事実は、身分差別に起因しているということです。明治期までその起源をさかのぼることができるというのです。そうなるとなかなか根深い問題で、経済合理性の考慮だけではその格差問題は解決しないのかもしれません。

本書は新書にしては大作で、600ページを超えます。専門書に匹敵する内容になっています。ここでは紹介しきれません。ゼミ生のほとんどは近いうちに卒業して、就職していきます。その前に、日本の雇用慣行がどのように形成されてきたのか、是非本書で学んでほしいと思います。そして、自分たちが直面する雇用のあり方を振り返ってほしいと思います。

コメント
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