愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

経済小説

2015年08月11日 | Weblog
以前,卒業生の森島さんが,名城公園キャンパスの図書館を見学した時に,経済小説の棚があることに驚いていたという話をこのブログに書きました。商学部や経済学部の図書館に,経済を扱っているとはいえ,小説がずらっと並んでいるのは変だというのです。確かに,学生たちはそれを読むのみで,経済に関する専門書のたぐいには目を向けないというのでは,大学で専門的な勉学を試みたことにはならないでしょう。

しかし,経済小説の中には,専門的な学問への入り口として適切なものが含まれています。経済小説の読書をきっかけに,学生が専門的な学問に対して関心を高めるかもしれません。

夏休み中,流通に関する経済小説を読み,それをきっかけに,流通に関する専門的な書物への関心を高めて欲しいと思い,ここに面白い経済小説を紹介します。

楡周平 『砂の王宮』集英社が目下のお勧めです。今年7月発刊されました。これは,スーパーを中心とした流通コングロマリットのダイエーをつくり上げた,中内功さんをモデルとした小説です。中内さんが繰り出したビジネス手法があちこちに書き込まれています。

戦後の混乱期の闇市における儲けを元手に,卸売業者の不良在庫を現金払いによって買い叩いて,それを安売りするという原初的ディスカウント商法。レジスター販売会社指導によるセルフサービス小売業とディスカウント商法との結合。法の網をかいくぐり,関税を抑えてオーストラリアから輸入した牛肉を目玉にした集客。不動産の値上がりを利用して,銀行融資を確保した結果の多店舗展開。高度経済成長下,これらは実際に中内さんが関わった手法ですが,小説の中で重要事項として登場します。さらに,近年の大型店の限界や買い物難民対応なども登場します。


欲望を柱に,殺人,裏切り,愛人,事業継承など読みどころ沢山のあくまでフィクションとして書かれた小説ですが,ビジネス手法については史実をきちんと踏まえています。流通に関する経営史や理論書で説明される手法が,登場人物の活躍とともに記述されているので,大変読み易い。

なお,中内さんモデルの経済小説として著名なものに城山三郎 『価格破壊』光文社があります。本学の図書館に所蔵されています。同名で,角川書店から文庫本として発売されています。ディスカウント商法をきちんと取り上げています。『砂の王宮』と併せて読むと中内さんのビジネス手法が良く理解できます。

小説を読んで,史実が知りたくなったら,つぎの本をお勧めします。佐野眞一 『カリスマ』日経BP社。小説ではなく,ノンフィクションです。本学の図書館に所蔵されています。改題されて,『完本 カリスマ―中内功とダイエーの「戦後」〈上〉〈下〉』書名で,筑摩書房から文庫本として発売されています。これは,ダイエーのビジネス手法だけでなく,中内さんの人間性やダイエーの組織の混乱なども取り上げ,戦後高度経済成長を照射する存在として中内さんを扱っています。

経済小説を入口にして,ノンフィクションのビジネス書を読んで知見を広げたならば,大学の講義も今まで以上に面白くなるはずなのですが,いかがでしょうか。


コメント
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