愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

しつこく諭す既存研究を活かすということ

2017年05月30日 | 運営
研究発表や卒論のテーマ設定に関して,いつもゼミ生に指示しているのは,「思い付きでテーマを決めてはならない」ということです。そして,思い付きにしないために,既存研究をきちんと読んで,それを踏まえてテーマを考えることを諭しています。

たいていの学生は,テーマを自分たちの身近な経験から探そうとします。しかし,それではすぐに壁にぶち当たるのです。なぜならば,学生の経験と思考が浅いからです。ほとんどは思い付きにとどまり,明快な主張と根拠づけがないまま,体系立たない事例のつぎはぎを報告して終わりです。「アルバイト先の居酒屋がどうすれば売上高があげるのか」というテーマで,自分の体験談や,店長の話を聞き書きして報告するという類のものです。

既存研究(論文や著書)を読んで,その結果や主張が本当に妥当なのか,修正すべき点はないのか,他の分野・対象への応用可能性はないのかを検討する。これを踏まえて,テーマが案出できれば,それは思い付きではないものになるでしょう。なぜならば,専門家が手掛けた既存研究は,具体的な主張と根拠を提示しているのが普通なので,それに基づけば,学生であっても,それなりに主張と根拠を体系立たてて展開することができるからです。

出発点は身近な経験であっても構いません。しかし,そこから先,テーマを明確にする過程ではきちんと既存研究を読む必要があるのです。例えば,居酒屋を取り上げるのならば,飲食店マーケティングやサービス業マーケティングに関する論文をきちんと調べて,それらの内容を自分なりに整理したうえで,そこで示されている知見が自分が体験した事例に当てはまるのかどうか考察する。当てはまるのであれば,なぜ当てはまるのかさらに考察する。当てはまらないのであれば,自分なりに策を講じることや,原因を明らかにするチャンスがあるかどうか検討する。このように手順を踏むと,論理的に主張を展開することができます。

なお,以上に関連していつも気になるのが,たいていの学生は,インターネット上で情報検索を完結させようとすることです。それもグーグルのような検索エンジンで引っかかる情報だけを検討の対象とするのです。既存研究をきちんとレビューせよと指示すると,インターネット(最近ではスマホ)でキーワード検索して,「いいネタはありませんでした」と報告して終わり。大学ネットワーク内で利用可能なデータベース,著書や論文のような紙ベースの資料については,こちらが何度も指示しても検索・閲覧しようとしません。そんな安直な検索が,思い付きのテーマに結びついています。

データベースや紙ベースの資料は,発行と利用にコストがかかる「有料」の情報です。グーグルで引っかかる「無料」情報にはない価値があることを認識して欲しいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

テーマをひねり出す

2017年05月16日 | 卒論
現在ゼミ4年生は卒論,3年生は研究発表のテーマを模索中です。なかなか決まりそうにありません。研究テーマが明確に決まれば,論文は半分は完成したも同然なので,当たり前といえば当たり前なのですが。

研究テーマを決めるということはどういうことか。何を明らかにするのかを決めることです。ただし,これは自分が知りたいことを決めることではありません。

学生たちに研究テーマを考えて来るよう指示すると,たいてい自分が知りたい事柄をテーマとして掲げます。例えば,「ユニクロのSPAモデル」「セブンイレブンのPB開発の実態」などです。基礎知識のない学生がその知識欲を満たすには,ビジネス書を2,3冊読めば十分です。かつては,あいまいな知りたい事柄をテーマとして掲げ,ビジネス書を丸写して卒論とする例が後を絶ちませんでした。

研究テーマは,本来,未知の事柄について自分なりに知見を導き出すものでなくてはなりません。したがって,特定領域において,現状ではどこまで明らかにされているのかを探ってから,未知の事柄を整理する作業が必要なのです。そのためには,膨大な数の文献を読み込まなくてはならないのです。

自分が知りたい事柄を掲げるのは出発点として,良いでしょう。しかし,あくまでこれは勉強の方向を示すだけです。そこから,研究テーマをひねり出すためには,数多くの文献を読む必要があるのです。

もし「ユニクロのSPA」という知りたい事柄を定めたのならば,ユニクロの経営戦略を扱った論文や著書を集めます。2,3ではなく,数十は集めます。さらにそれに加えて,ユニクロの創業や現状の戦略,経営者柳井氏の発言などを記した雑誌・新聞記事を集めます。続いて,SPAというビジネス・モデルを扱った論文や著書を集めます(ユニクロとは必ずしも重ならない)。加えて,SPAの現状を記した雑誌・新聞記事も集めます。

これらを数か月かけて読み込み,ユニクロのSPAがどのように生まれ,成功に至ったのか,要因や経緯を自分なりに整理します。そうすると,既存の文献において説明の不十分な点が存在すること,複数の文献の間に記述の矛盾が存在していることが浮かび上がってきます。これらこそが未知の事柄について自分なりに知見を導き出す始まりになるのです。不十分な説明があるときに自分なりにそれを補うことができるのか,記述の矛盾が存在するときにそれを解消する事実を自分なりに探し出すことができるのか見通すことで,研究テーマをひねり出すことができるでしょう。

学生がそのようなことを行うのは至難の業であると,ゼミ生たちは訴えるかもしれません。文献を相手にすることはつまらないと考えるかもしれません。しかし,文献と格闘することが大学(とくに文系学部)における知的訓練の基本なのです。

とにかくゼミ生たちには以上の作業をきちんとやるよう繰り返し諭していきます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする