ゼミ生に,自らの主張に対して根拠づけることを求めると,ゼミ生はたいていアンケート調査の実施を検討し始めます。そして,「アンケート項目を考えてきたので,確認してください」と私の研究室にそのゼミ生が訪ねてきます。ほとんどの場合そのアンケート項目は,調査対象者にあいまいな日本語表現でYESかNOを答えさせる単純なもので,現象の背後にある要因を突き止めることができない設計になっています。その単純なアンケート調査を,サンプリングを考えずに,自分の身近にいる学生対象に実施するわけです。
私は,そういうアンケート調査はやるだけ無駄,時間と労力の浪費なので止めたほうがよいとアドバイスします。今年度も,秋学期に入ると,研究発表会や卒論のため,そのようなアンケート調査をやるというゼミ生が続出すると思われます。
そこで,ここで2次データを積極的に活用にすべきというアドバイスをあらかじめしておきます。2次データというのは既に収集されて公表されているデータのことです。他者が,その人や組織の目的に沿って収集・分析したものです。定量データの例では,政府が政策立案の参考にするために公刊している国勢調査や家計調査などがあげられます。
それらは経済政策や福祉政策等に用いられるものなので,マーケティングを学ぶ自分たちには利用可能性がないとゼミ生は考えるのかもしれません。しかし,家計における具体的な支出データを扱っている家計調査や,所得および生活意識に関するデータを扱っている国民生活基礎調査などは,消費者の購買行動に関するデータが含まれているので、ゼミ生の関心に関係しています。また,政府の統計データは比較的信頼度が高いといえます(最近一部不正が見つかりましたが,学生のアンケート調査データよりははるかに信頼できる)。
この政府をはじめとする公的機関が発表した統計データを使いこなして,自らの主張の根拠の一つとするよう,ゼミ生には検討してほしいと思います。
最近,2次データを駆使して,日本社会の動態を分析した興味深い本に出合いました。木川裕『なぜ,男子は突然,草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日本経済新聞社,2019)です。第1章では,日本の若い男性が女性への興味を失いつつある草食化がなぜ起きたのか,関連するデータを分析することで,仮説を導き出しています。筆者は,行動の草食化の進行を「一番生きがいを感じるのは,職場以外で,親しい異性といるとき」と答えた新入社員割合の低下と捉え,その低下と同様の傾向を示すデータはないかと探しました。そして,日本人のたんぱく質の摂取量が同様の傾向を示していることを見つけ出しました。すなわち,行動の草食化は栄養の草食化と関連するというのです。そして,両データの変化の近似を取り上げて,単なる偶然か,疑似相関か(別の要因が両者に影響を与えて,あたかも両者が関係あるように見えてしまうこと),因果関係があるかどうかを議論しています。最後に,栄養摂取の変化が行動の変化をもたらしたという因果関係を仮説的に論じています。
この章以外にも,食べ物の都道府県別消費額を検討する「なぜ金沢が和菓子・洋菓子ともに一番の消費都市なのか」や,貯蓄率の国際比較や都道府県別比較から日本人の貯蓄行動の変化を検討する「日本人はいつから貯蓄しなくなったのか」など,日本社会の変化を2次データの分析からあぶりだす論稿がいくつも含まれています。専門書ではないので,空き時間にさらりと読むことができます。
ゼミの発表準備に疲れたら,この本を一読し,公的機関の2次データの活用を重要視して,実際に2次データ収集に目を向けてほしいと思います。
私は,そういうアンケート調査はやるだけ無駄,時間と労力の浪費なので止めたほうがよいとアドバイスします。今年度も,秋学期に入ると,研究発表会や卒論のため,そのようなアンケート調査をやるというゼミ生が続出すると思われます。
そこで,ここで2次データを積極的に活用にすべきというアドバイスをあらかじめしておきます。2次データというのは既に収集されて公表されているデータのことです。他者が,その人や組織の目的に沿って収集・分析したものです。定量データの例では,政府が政策立案の参考にするために公刊している国勢調査や家計調査などがあげられます。
それらは経済政策や福祉政策等に用いられるものなので,マーケティングを学ぶ自分たちには利用可能性がないとゼミ生は考えるのかもしれません。しかし,家計における具体的な支出データを扱っている家計調査や,所得および生活意識に関するデータを扱っている国民生活基礎調査などは,消費者の購買行動に関するデータが含まれているので、ゼミ生の関心に関係しています。また,政府の統計データは比較的信頼度が高いといえます(最近一部不正が見つかりましたが,学生のアンケート調査データよりははるかに信頼できる)。
この政府をはじめとする公的機関が発表した統計データを使いこなして,自らの主張の根拠の一つとするよう,ゼミ生には検討してほしいと思います。
最近,2次データを駆使して,日本社会の動態を分析した興味深い本に出合いました。木川裕『なぜ,男子は突然,草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日本経済新聞社,2019)です。第1章では,日本の若い男性が女性への興味を失いつつある草食化がなぜ起きたのか,関連するデータを分析することで,仮説を導き出しています。筆者は,行動の草食化の進行を「一番生きがいを感じるのは,職場以外で,親しい異性といるとき」と答えた新入社員割合の低下と捉え,その低下と同様の傾向を示すデータはないかと探しました。そして,日本人のたんぱく質の摂取量が同様の傾向を示していることを見つけ出しました。すなわち,行動の草食化は栄養の草食化と関連するというのです。そして,両データの変化の近似を取り上げて,単なる偶然か,疑似相関か(別の要因が両者に影響を与えて,あたかも両者が関係あるように見えてしまうこと),因果関係があるかどうかを議論しています。最後に,栄養摂取の変化が行動の変化をもたらしたという因果関係を仮説的に論じています。
この章以外にも,食べ物の都道府県別消費額を検討する「なぜ金沢が和菓子・洋菓子ともに一番の消費都市なのか」や,貯蓄率の国際比較や都道府県別比較から日本人の貯蓄行動の変化を検討する「日本人はいつから貯蓄しなくなったのか」など,日本社会の変化を2次データの分析からあぶりだす論稿がいくつも含まれています。専門書ではないので,空き時間にさらりと読むことができます。
ゼミの発表準備に疲れたら,この本を一読し,公的機関の2次データの活用を重要視して,実際に2次データ収集に目を向けてほしいと思います。