愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

秋の読書

2020年11月18日 | Weblog
今大学は次年度の計画を確定させる時期に入っています。さらに、推薦入試の時期でもあります。私は学部長として、まさにてんてこ舞いの毎日を送っています。ところで、今は読書の秋。忙しい時であっても読書をしようと、いつも電子書籍リーダーを持ち歩いて、5分、10分の隙間時間にそれを開いています。

最近読んだ本を紹介します。学生の皆さんは読書の参考にしてください。

まず、磯田道史『感染症の日本史』(文藝春秋社、2020年)。現在、新型コロナウイルス関連の書籍が書店に積まれています。電子書籍のネットストアでもたくさんリストアップされます。疫学・医学の専門的な内容では隙間時間に気軽には読めないので、あまり専門的ではない新書を求めてこれに行き当たりました。歴史学者の磯田さんが病気に対してよりよく生きるために、歴史的経験の蓄積を残すために書いたそうです。気軽に読める文章ながら、知る喜びを味わうことができる良書です。

私が興味を持ったのが、江戸時代のパンデミックを取り上げた章。江戸時代のパンデミック期の社会情勢が書かれていますが、物資の高騰、宿泊施設や飲食店の営業停滞など現在と同じことが起きていたことが分かります。さらに、幕府や藩による定額の給付金や領民生活補助、商人による医薬品の支援までがおこなれていたことを知ることができます。定額給付金については、「給付は必要か否かといった」議論が今年春に散々行われましたが、その議論で時間を空費したこと自体江戸時代よりも遅れていると本書で指摘されています。また、別章のスペイン・インフルエンザのパンデミックに関する多面的な歴史的記述は、現在の新型コロナウイルスパンデミックと照らし合わせて、異同を確認しながら読むと、今後の生活の在り方を考えるうえで大変参考になります。

中野剛志『目からうろこが落ちる奇跡の経済教室―基礎知識編』(KKベストセラーズ、2019年)、中野剛志『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室―戦略編』(KKベストセラーズ、2019年)。両書はセットになっています。昨年アメリカや日本で論争を巻き起こした現代貨幣理論(MMT)に基づいて、日本経済の現況を分析しています。MMTは著名な経済学者にこぞって批判されています。したがって、私は、MMTはあやしげな異端理論であるので、ベストセラーであるとしてもそれらは読むには値しないと断じて昨年は手に取りませんでした。しかし、平成時代日本経済がデフレに陥り、政府の奮闘むなしく、まったくデフレ脱却ができないのはなぜか、自分なりに考察したく、それらを読みました。

両書のロジックは非常に単純で、デフレの原因は供給に比して需要不足であるということです。そしてその脱却に向けて、需要を増大させるために政府が積極的に財政支出をする必要があると主張しています。しかし、日本政府は、財政規律という考えのもと、積極的な財政支出を拒み、金融緩和に拘泥してきた。いくら金融緩和しても、市場が縮小する中では企業側に資金需要がないので、投資が起きず、経済は停滞したままになる。こういう時は、政府が企業に代わって大胆に公共投資をすべきだというのです。にもかかわらず、政府は政権が交代しても一貫して公共投資を減らしてきたと説明しています。また、構造改革、自由貿易協定、外国人労働者の積極導入など昨今の様々な改革はどれも供給を増やすことになるので、デフレ脱却には悪材料であるという指摘もしています。ましてや消費税の増税は需要を落ち込ませるので論外であるといいます。

この議論の中核は、政府は積極財政のために、財政赤字をものともせず国債をたくさん発行すべきだという点です。政府が自国通貨を発行している限り、自国通貨建ての国債による赤字は何ら問題がないというのです。この是非については、門外漢の私にはよく分かりません。ただし、大幅な財政赤字がやがて国債の暴落(金利の暴騰)を生むと散々聞かされてきました。大幅赤字で財政破綻間近だといわれてきたにもかかわらず、超低金利が続く日本経済の現状について納得のいく説明に触れたことはありません。

なぜ日本では先進国で唯一長期間のデフレが続くのか、どうすれば脱却できるのか、学生の皆さんは、両書を読むとともに、別の視点の経済政策の本も読み、じっくり考えてみてください。

コメント
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