愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

range

2021年10月24日 | Weblog
私は現在商学部で専門教育を担当しています。長年の経験から,教育過程で,学生が知識を蓄えるためにはある程度専門領域を絞ったほうがうまくいくことを了解しているつもりです。専門教育を低学年から行い,分野を絞り込んで同様の知識を繰り返し学生に学習してもらうことが重要であると。

しかし,その一方で,大学にとって重要な教育は教養教育なのではないかという考えを捨てきれないでいます。専門教育は企業の内部教育でも可能であるし,専門学校のような大学以外の教育機関でも可能であるが,教養教育は大学ならではの教育であるからというのがその理由です。つまり,様々な学問知を駆使して,多様な目で物事を分析する力を養うことが,複雑な社会で長く生きていくためには必要であるが,それができる数少ない場の一つが大学であるという思いです。

最近ある本を読みその思いを強くすることになりました。デイビッド・エプスタイン『RANGE―知識の「幅」が最強の武器になる―』日経BPです。早期教育を施して専門特化するよりも,若いうちは様々な経験をし,幅広い知識を身に着けたほうが大成するということを,スポーツ,学問,ビジネス,文筆,絵画,音楽など色々な分野の事例を通して説明しています。

この本の中に専門家の愚かさを示す例が出てきます。米ソ冷戦時代の国際政治の専門家による短期と長期の将来予測8万以上を集め,それらと実際の結果を照合して,専門家の予測の成否を探った研究によると,専門家の予測は間違いだらけであったといいます。専門家の学位,経験,極秘情報へのアクセスの可能性などは予測能力には何ら関係せず,専門家がありえないといった出来事が15%の確率で起き,間違いなく起きるといった出来事が4回に1回は起こらなかったという。面白いことに専門家の知名度と予測を間違える確率は反比例の関係にあったといいます。

アメリカの政府機関が予測トーナメントを立ち上げ,政治経済に関する様々な出来事の予測を複数チームに競わせたところ,素人のボランティアチームが機密情報にアクセスできる専門家チームに圧勝したといいます。ボランティアチームには多様なバックグラウンドのメンバーが集まっていましたが,個々のメンバーも様々な経験を積んでいたそうです。

専門家は世界の動きに関する理論を自分の専門分野という一つのレンズだけを通して作り上げ,どんな出来事もその理論に合うように曲げてしまうことが間違う理由であるといいます。専門家は愚かであるということは大学に生息している私にとって理解可能です。(これ以上書くと怒られるので書きませんが・・・・。さらにお前はどうなんだと言われるでしょう。私は専門家として中途半端なので,最低ラインの人材であることは自覚しています。)

以上の例で出てくる専門家と大学の専門教育は異なる概念ですが,専門教育は専門家を養成することを想定しているので関連しています。ともあれ,多様な目を養成するために知識の幅を広げていく,経験を多様にしていくことの重要性を鑑み,学部における専門教育と教養教育のバランスや学び方を考え直す必要があると思います。幸い,愛知学院大学には教養部という部署があり,教養教育をおろそかにはしていません。今後,これが自分の学部の教育にどれほど有効か,つまりは学生たちに多様な目を身に着けてもらうことにつながっているか,確認する必要があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

テーマ再考

2021年10月08日 | 運営
現在ゼミの3年生,4年生にとって,研究発表と卒論のために最高度に努力しなければならない時期に入っています。ゼミ生たちはあいかわらず(例年通り)テーマが決まらないと嘆いています。どのゼミ生もテーマがあいまい(ぼんやりして)で大きすぎて,根拠のある独自の主張ができない様子です。根拠のある独自の主張を行うには,扱っている社会現象を限定し,研究目的を具体的にしなければなりません。つまりテーマを絞る必要があります。

テーマを絞るためには,何より対象としている社会現象に関連した知識をたくさんインプットしなければなりません。その知識には関連する理論も含まれます。しかし,ゼミ生たちを見ていると,社会現象に関する知識が不十分なうえに,理論をまるっきり参照していません。理論は社会現象を整理する思考の枠組みになります。したがって理論を学んで思考の土台としていないと,社会現象を整理することができず,ただ社会現象を羅列して終わりになります。残念ながら,今のうちのゼミ生の多くはこの段階にとどまっています。

テーマを絞るための思考法の一つを伝えます。社会現象を捉える際に,まずプロセスと条件を見出す努力をするのです。3年生の発表チームの一つが,インフルエンサー・マーケティングを社会現象として捉え,インフルエンサーの情報発信によって消費者を電子商取引サイトに誘導し,そこで消費者に商品購入を促すようなマーケティング戦略を立案するというテーマを述べました。

例としてこれを取り上げて,プロセスを考えてみると,インフルエンサーはそもそも誰か,それが商品情報の発信をするまでの段階はどのようになっているかを捉えることに加え,消費者がその情報を受信し,それをネット上で再投稿する,あるいはそれに反応して電子商取引サイトにたどり着くまでの心理的・行動的段階を捉えることになります。それらの段階は人によってまちまちで,その心理は複雑ですが,「見える化」を図り,一般的で単純な段階に整理する必要があります。

つぎに条件を考えてみると,インフルエンサーが発信しやすい商品情報は何か,消費者に受信されやすい情報にはどんなものがあるのか,どのようなタイプの消費者が受信度が高いのか,電子商取引サイトに誘導されやすい商品情報は何か,どのようなタイプの消費者が電子商取引サイトに誘導されやすいのかなどを捉えることになります。What,Where,Who,When,Howという項目で条件を考えてみるとよいでしょう。

プロセスと条件がある程度捉えられたら,つぎに要因を捉える努力をします。「なぜ (Why)」そのようなプロセスになっているのか,なぜこの条件の時には誘導が起きるのかなどを追究するのです。ここまでくると研究発表にふさわしくテーマは絞り込まれます。

3,4年生は結論を出すまであと2か月しか猶予がありません。私には全く時間が足りないようにみえます。しかし,ゼミ生たちはなんだか危機感なく悠長です。10月21日に商学部の学内研究発表会の中間発表会が小規模で行われます。まず,ゼミ生には,そこまでにプロセスと条件を整理し,そのうえで,自分たちはどの部分を考察対象とするのか決めてほしいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オンライン発表

2021年10月02日 | 名古屋マーケティング・インカレ
10月2日土曜日午後,名古屋マーケティングインカレの第2回中間発表会が開催されました。うちのゼミの3年生も3チームに分かれて参加しました。今回は緊急事態宣言が直前まで出ていた関係で,ZOOMを使ったオンラインによる発表会となりました。大学によっては,会議室,教室などの大学施設に学生が集まり,そこでオンライン参加できたケースがありましたが,うちのゼミ生は自宅から個別に参加しました。

いつもは自分のゼミ生の発表は参観しません。その時間は他大生の発表を見ます。自分のゼミ生の発表内容は把握しているので,他大生の発表を見たほうがこちらにとっては学びになるからです。しかし,今回は自分のゼミ生の発表も見て詳しく発表内容や方法をチェックしました。ゼミ生の実際の発表状況を把握しておいたほうがよいと考えたのです。なぜならば,オンライン発表はこの催しにおいて初めての試みであるうえ,ゼミ生はゼミの授業時間ではオンライン発表の練習をしなかったからです。

内容はさておき,発表方法を振り返ってみると,所定時間内で発表を収めることができなかったチームがありました。練習不足,学生間の連携不足でした。プレゼン技術が未熟で,説明が原稿棒読みで聞き取りづらい個所が何か所もありました。オンライン発表においては,顔や姿が十分見えない分,発話において丁寧さが求められるのですが,そこまで気が回らなかったようです。

他2チームは何とか時間内に発表を収めることができましたが,質疑応答が今一つでした。質問者が聞きたいことに十分答えることができていませんでした。臨機応変の対応はできず,質疑応答の予行演習が十分ではなかった印象です。

ゼミ生にとっては良い経験になりました。うまくできなかったことは全然問題ではありません。むしろ,それで自分たちの能力的に足りない部分を把握することができれば,今後の能力開発につながります。

今就職活動ではオンライン面接が当たり前のように採用されています。また,就職後はオンライン会議に出席することも多いでしょう。その前に,本格的な研究発表会でオンライン発表することができ,自分の足りない部分を知ることができたのは僥倖なのです。

なお,発表内容は問題だらけでした。早速発表終了後,各チームごと問題点を記したペーパーを配信しました。ゼミの授業は対面で行っていますので,今度のゼミ授業では,対面できちんと問題点の解説をします。その際,声のトーン,身振り手振り(ノンバーバル・コミュニケーション)を読み取って,反応を返してほしいと思います。叱ることも含め,問題点の指摘は対面が良いと思います。ノンバーバル・コミュニケーションが加わりよく情報が伝わります。

最後に,オンライン発表を取り仕切ってくれた愛知大学の学生の皆さんに感謝いたします。運営はスムーズでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする