愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

学ぶべき事柄

2017年01月16日 | Weblog
私たちの勉強は、ほとんどすべてが知識のインプットだったと思います。もちろん、いくつになっても、常に新しい情報知識に触れ、それを吸収していくことは重要です。しかし、知識量そのものを競うのであれば、AIにはかないません。それに、現代は、少しネットで検索すれば、たいていの知識は誰でもすぐに入手できる時代です。ひと昔まえのように、物知りだからと言って、尊敬されることはありません。それどころか、何かに書いてあった知識、誰かが言っていた情報をそのままひけらかすだけの人は、冷笑されるだけです。では、何が問われるのか。それは、インプットした知識、情報に対して、その人なりの独自の解釈、分析、視点など、それらに基づく「意見」を呈示することです。今人気の池上彰さんも、単に知識をわかりやすく解説するだけでなく、そこに彼の意見が反映されているのです。つまり、学ぶべきは、知識そのものではなく、その知識に対する考え方です。では具体的にどのようなとらえ方を学ぶべきなのでしょうか。わたしの場合は次の3つを基本にしています。

①今の答えが10年後の答えでもあるとは限らない
 たとえば、ついこの間までは、コレステロール値が高いことは健康にとって悪でしたが、いまでは、ある程度の高さの人の方が長生きする、というデータも出てきています。逆に、身体にいいとされていたマーガリンが身体に悪い脂の代表のように言われたりもします。このように、昨日まで正しいと思われていたことが、新事実の発表によって一晩で覆されることは珍しくありません。ましてや、ほとんどのことは現時点で証明されてもいない、ただの仮説なのです。現時点での正解が10年後もまだ正解であると断言することができないのはそのためです。

②物事を深堀り、横堀りして、常に、別の回答を探す
 常日頃から、一般的な回答を疑ってみる、別の可能性はないかと考えてみる習慣が大切です。たとえば、「法人税をもっと下げないと企業がみんな出て行ってしまう、外国から企業を誘致できない」と一般的にはいわれるけれど、本当にそうなのか、むしろ税率をもっと高くしてそのかわり経費として認める枠をもっと大きくした方が景気はよくなり、税収も上がるのではないか。そんなことを経済学者にいっても、素人考えだと一蹴されるかもしれません。しかし、試してみなければ間違っているかどうかはわからないのです。このように、一般に正しいとされている解、最初に出てくる解以外の別の解を探すことによって、通常は気づかないユニークな視点が持てるようになります。同じ情報から、深い洞察、意外な推論ができる人は、社会で希少価値をもつのです。

③勉強は、ひとつの答えを知ることではなく、多様な答えがあることを知るためにある
 真実はひとつであり、それを探求する、というのが、勉強の一般的なイメージだと思います。経営や政治経済、対人関係や人間の心理にいたるまで、正解は唯一という前提のもとに、正しいか間違っているか、善か悪かを判断しようとする傾向が強いものです。しかし、すでにお話ししたように、自分と立場の違う人と会ったり、自分の知らない世界、自分とは異なる価値観で生きる人の本を読んだりすると、世の中には多様な解、価値観があることに驚かされるはずです。それが勉強なのです。多様な答えがあることを知り、まだ知らない世界があると思えばこそ、もっと長く、健康に生きていたいと思えるのです。

 このように、自分の知らない様々な世界を知る近道は読書です。そして、読書をするときには、権威のある著者であるかどうか、には固執しすぎず、何でも読んだ方がいいと思います。
 最後に、わたしは最近のテレビについては、情報源としてもっとも価値がないと思っています。そこから流される情報はとどのつまりが真実を伝えない、いわゆる「大本営発表」だからです。ただ、たとえば政治家が出てくるニュース番組などは、政治家の発言から、裏で官僚が何を考えているか、何を動かそうとしているかを深読みする題材として利用価値があるかも知れません。あるいは、訳知り顔に語るコメンテーターや司会者の意見に対して反論をして、別の意見を考えるために観るのが賢明といえるでしょう。

(和田秀樹「物知りなだけの50代に今や何の価値もない」東洋経済オンライン,2016年12月28日)

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以上の記事は50代のベテラン企業人向けに勉強の指南をしていますが,大学生を含めたすべての人に向けられていると考えられます。

和田さんのいう学び方3つの基本は,実は,大学教育の真髄を示しています。他人の唱えた説やメディアの情報をうのみにせず,批判的に受け取り,自分なりの考えをまとめて,発信することができるようにする。批判的精神の涵養と言い換えることができますが,これが学生が大学教育を受ける目的なのです。しかし,多くの学生はこの目的を忘れ(あるいは知らずに),漫然と学生生活を過ごしています。

教室で座り,講師の発言をノートにとって,覚えるだけでは学生の批判的精神は涵養されません。そのため,大学では研究をその活動の中心におき,教員の研究活動に学生を巻き込むなかで,常に物事に疑問を持たせ,問題を発見させ,課題解決策を探らせることになっています。学生に研究活動の一端を経験させる仕掛けとして多くの大学ではゼミ(演習)が設置されています。したがって,ゼミこそが大学教育の中核であるといえます。

4年生にとってゼミはあと1週で終わりです。ここで,2年半のゼミの活動を振り返ってください。そして,和田さんのいう3つの基本が自分の中に定着したかどうか確認してください。さらに,この先ずっと,3つの基本は追い求めなくてはならないと理解してください。ゼミ内に飛び交っていた言葉,「なんで?」「ほんま?」「安直はダメ!」を思いだしてもらえば得心してもらえるでしょう。
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卒論発表会

2017年01月14日 | 卒論
今年度のゼミの卒論発表会を今月13日に実施しました。4年生に個人で卒論の概要を20分の持ち時間で口頭発表してもらい,それに対して,2,3,4年生参加者全員が投票形式で評価しました(4年生は自分以外について)。また,2,3年生にも同時に研究発表してもらいました。3年生の発表は評価対象になりました。

今回最も評価が高かった卒論は瀧本大介「JR名松線の利用者増加に向けての課題」でした。その卒論では,過去20年にわたり利用者を減らし続けている名松線の現状と課題を,利用者データや沿線地域データからあぶり出し,それを踏まえたうえで,利用者増の策を検討しています。定期券による利用者(沿線住民や通勤・通学者)が利用者のほとんどを占める中,観光客を呼び込むため,他路線の成功事例と失敗事例を引きながら,トロッコ列車,レストラン列車,グリーンツーリズムなどの策を導出しています。論旨が単純明解で分かりやすかった点はよかったでしょう。ただし,調査に不十分な点がありました。実現可能性の検討も不十分でした。後輩たちにはそれらを自らの課題として捉えて欲しいと思います。

全体として卒論のレベルは例年通りでした。うまく結論を導き出すロジックが組めなかったものもいくつかありましたが,みな大まかなテーマを狭く絞り込む過程を経てきたことが分かりました。その過程が思考を深める過程であるということができます。卒業を前に,それを4年生がみな経験できたことは重要な教育的意義であると思います。

今回良かったのは発表時の質疑応答です。4年生たちはお互いに,論理のおかしさ,用語定義の不十分さ,目的の不明瞭さを指摘しあいました。例年よりもそのやり取りは活発でした。2年次の頃には満足に質問ができなかったことを振り返ると,随分成長したと思います。

今回ゼミ生間の評価が高かった上位4つにAAの評価を与えることにしました。それは私個人の評価とほぼ同じです。4年生や3年生は評価眼が身についてきたようで,発表内容の論理性や独自性をきちんと捉えた評価ができていました。

3年生にはチームで,名古屋マーケティング・インカレ本大会発表の修正版を発表してもらいました。元々は海外テーマパークの日本市場参入に関する指針を探るというテーマでした。しかし,大きくあいまいであるため,論理性と独自性のある発表をインカレ本大会では満足に展開することができませんでした。本大会では恥をかいてしまいました。そこで,修正を図ってもらいました。結局,彼らは,日本国内にある映画のテーマパークの成功例と失敗例の比較分析というテーマに変更しました。ようやく自分たちなりの,結果の見通せるテーマを見つけ出したようです。やっと知的成長の跡を示したといえます。

2年生には先日論文コンテストに提出したものを修正して,口頭発表してもらいました。2年生の発表は評価対象にはしませんでした。論文執筆,口頭発表をやりきってもらい,その過程で,調査や発表の基礎的方法を学んでもらえばよいからです。うまくテーマが絞れず,焦点の定まらない発表をしてしまいましたが,やりきることが大事。その経過で次年度の課題を見つけ出してくれればよいでしょう。

今月末に商学部学生のためのビジネスカンファレンスにゼミ生全員が参加し研究発表します。全員今回の発表と同じ内容を発表しますが,私からは再度反省と改善を要求します。もう少し粘ってください。
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