アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

マーラー新時代を思わせる上岡の「復活」

2019-04-01 20:00:00 | 音楽/芸術

年度末最後の週末、新日本フィルによるマーラー「復活」が演奏されたので鑑賞してきた。

マーラーの「復活」が演奏されるというだけで、まずは聴きたいと思ってしまうのは若い頃から変わらない。それも上岡敏之/崔文洙コンビの新日本フィルの演奏ならなおさらだ。昨年このプログラムが発表になった時、コンマスの崔氏が乗るかどうか確認したくらいだから、自分でもその期待感は明らかだった。

アントンKは、昔からいわゆる後期ロマン派と言われる作曲家の音楽は好んで鑑賞してきたが、マーラーもその一人であり、今回の交響曲の第2、そして第3あたりは特に大好きな楽曲なのだ。昔から演奏会でこれらの楽曲が演奏されるとなると、まずは足を運んで聴いてきた。オケの編成が大仕掛けでなかなか生演奏を聴く機会が少なく大変貴重な体験になると思っていたからであり、事実あまり演奏されない楽曲だったのだ。それでも来日オーケストラを含めても今まで10回以上にはなるかもしれない。その全てが心に響く良い演奏会だったかと言われれば、必ずしもそうではない。だから音楽鑑賞は楽しいとも言える。いくら大好きな楽曲を生演奏で聴いても、自分の体調が悪かったり、聴衆に恵まれなかったり、そして演奏が散漫だったりと、多々色々なケースがあるのだ。

アントンKも、上岡敏之氏の音楽を鑑賞して早3年になったが、その過去に例を見ない上岡節とも言える味わいは、随分体内に蓄積してきたと思っている。何を聴いてもどこか似ていて、何の主張もない音楽が横行する演奏会も多い中、上岡氏の音楽表現は、初めて出会ったその時からとても新しく感じられた。そんな彼の「復活」は?と想像するだけで夜も寝られないではないか・・・

今回のマーラー、アントンKにはとても新しく感動的な「復活」だったと今改めて考えている。バーンスタインや、テンシュテットの「復活」を頂点と考えてきたアントンKだったが、今回の演奏の前では、何か古臭く感じ全く同列には語れない。どこか次元が違っていて、この90分をも要する楽曲全てが新しい音楽のように響いていたのだ。ここで具体的に拾って書いていくと、今までにない長文になりそうでやめておくが、この膨大な楽譜の細かな指示をも、指揮者上岡氏は抜き取って解析し、自己表現に結び付けていた。過去の演奏には考えられないようなアコーギクの連続、打楽器のここぞの箇所での爆発、弦楽器群の意味のある過度の主張。そして上岡表現の核ともいえる、超微弱音の誇張。とにかく熟知していたつもりのアントンKも、聴いたことない表情に驚きの連続で、呼吸するのも忘れてしまうくらい緊張と集中の連続だった。我々聴衆は、「復活」の演奏スタイルというものを、長年知らず知らずのうちに身に着けてしまい、勝手にこういうものだ、こうでなければ、という風に解釈していたが、今回のような演奏を聴いてしまうと、今までのスタイルは何だったのか、と思い返してしまう。演奏スタイルの伝統のようなものがあるのだとして、そこから大きく外れれば、おそらく賛否両論が巻き起こり一時的でも話題となるだろう。しかし今回の演奏では、指揮者上岡氏の揺るがない信念が感じられ、崔氏をはじめとする新日本フィルのメンバーの指揮者への確固たる信頼感が現れた演奏だったと感じている。それは、過去と同じ譜面からあそこまで細部に渡った表情付けを積み上げ、そして我々聴衆の前で実現したからである。あんな「ワビサビ」の部分まで拘りぬいた演奏は、過去に一度たりとも無かったと断言できる。

あっという間の90分だったが、楽曲が進行していくにつれ、オケのメンバーの気が、客席まで浸透していくのがわかり、そういった意味でも久々に聴衆にも恵まれた演奏会だった。この長大な交響曲の幕が閉じた時、ホールから響きが消える数秒後も、誰一人微動だにせず無音が続いた。ゆっくりと指揮者上岡氏のタクトが降ろされた時、万雷の拍手とともにここにいる全ての人々が解放された気分になった。客席を振り返った時の上岡氏の、そして崔氏と抱擁を交わした時の表情が忘れられない。この時アントンKは、今ここにいることができて本当に良かったと思っていた。

最後に、終演後も興奮おさまらない聴衆に応えて、再びステージに戻ってきてくれた上岡氏の画像を掲載しておく。アントンKの知る限り、このケースは今まで無かったのではないか。感無量で涙ぐむ上岡氏を見て、アントンKはますます彼の音楽に惚れ込んでしまったようだ。

新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 ジェイド

2019年3月30日  サントリーホール

新日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会 サファイア

2019年3月31日  横浜みなとみらいホール

マーラー  交響曲第2番 ハ短調 「復活」

指揮    上岡 敏之

ソプラノ  森谷 真理

アルト   カトリン・ゲーリング

合唱    栗友会合唱団

合唱指揮  栗山 文昭

コンマス  崔 文洙