目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

“Born to climb”山野井泰史

2010-12-21 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

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山野井氏は、「生まれついてのクライマー」なのではと思わせられる。小さいときから壁をよじる。自然と壁があるところへ足が向かう。そこへ行くのにどんなに困難が待ち受けていようと、まっしぐらにそこへ向かって歩いていく。磁石に吸い寄せられるかのように。山のために生活があり、生活が山と一体化している。彼の著書や彼を描いたノンフィクションを読むとそう思わざるを得ない。

私とは同世代であるが、彼を知ったのは遅い。ヤマケイの丸山直樹著の「ソロ」という連載でだ。その連載は1冊の本にまとめられ、発売と同時くらいにさっそく買って読んだ。過去の手帳を繰っていくと、1999年の年初にこの本のことがメモってあった。すごい人間がいたものだと、このときに驚嘆したものだ。ただしあまりにも自分とは違う世界にいるので、ある種フィクションの世界を読んでいる感覚だった。この頃の彼は絶頂期で、輝いていた(今も!)。チョ・オユー南西壁をソロで登った頃だ。

この『ソロ』から10年以上経って、先ごろ山野井氏本人の著作『垂直の記憶』がヤマケイ文庫から出た。ヤマケイもついに文庫を出すようになったのかと思いながら、思わず手にとって購入してしまった。いずれは読もうと思っていたが、単行本だとどうしても持ち運びに不便だから、億劫になるんだよね。

この本は『ソロ』と内容がかぶるけれど、本人が書いているから視点が違ってまた面白い。『ソロ』は文章が気負いすぎていて、読みにくかったが、本人の記録は、すんなりストーレートに事実としてあったこと、感じたことが書かれているので、読みやすい。また読み手のほうも感情移入しやすいしね。

最後の章は、あの有名な生還劇のギャチュン・カン北壁の記録。これについては、『凍』で詳細が書かれているので、読み比べてみると面白い。

『凍』も文庫になってから読んだ。ギャチュン・カンのベースキャンプに入るまでが、物語の導入でまったりしているのだが、すぐに緊迫したシーンの連続になる。字面から想像して読んでいくと、尋常ではない寒さと、くたくたどころではない疲労の最果てに直面して、怖すぎて文字どおり身がすくむ。『凍』はノンフィクションの旗手、沢木耕太郎氏の筆によるもので、読ませてくれる。この壁で起きたことを重層的に次から次へと書き連ねている。その筆致に圧倒され、われわれは氷の壁にいつの間にか取り残された気分になるのだ。おお怖。

山野井氏のパートナーである妙子さんの記述もいい。芯の強い、いつも前向き、頼れるお姉さん(?)で、じつは世界的には有名な女性クライマーということが、いかんなく語られている(『ソロ』ではくさしていたな、たしか)。こんな妙子さんあっての山野井氏だと感じる。

それにしても、こんな生還劇のあとも、めげずに(本当はめげているのか?)元気に自分たちのスタイルで登山を続けている彼らの姿は美しい。
私も山の神とともに山登りを続けるぞ。

ところで、山野井氏の近況は山野井通信に詳しい。私もたまにこのサイトへとんで、へぇーと驚いたり、ほおーと感心したり、ふうんと納得したりしている

垂直の記憶 (ヤマケイ文庫)
クリエーター情報なし
山と渓谷社
コメント
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