■エマニエル夫人 / Pierre Bachelet (ワーナーパイオニア)
シルビア・クリステルというよりも、エマニエル夫人……。
連日の訃報には、やりきれない気分ばかりですが、しかし彼女をこの世に使わせてくれた神様には感謝するべきと思います。
それは1974年末、吉例お正月映画として公開された「エマニエル夫人」の大ヒットにより、主演のシルビア・クリステルは日本でもトップスタアになった出来事は今や歴史でしょう。
というか、実は件の「エマニエル夫人」は封切前から相当にマスコミの煽りがあって、本質はポルノ映画でありながら、そのファッションセンスに近いソフトな映像表現によるコアなセックス描写が女性にも堂々と鑑賞出来る云々、そうした宣伝も強くあったのです。
また、特筆すべきは主演のシルビア・クリステルのポルノ女優らしくない佇まいでしょう。
実はこの映画出演以前の彼女はオランダのファッションモデルであり、加えて監督のジュスト・ジャンカも本業はファッション関係のカメラマンであったという内実が後に明かされてみれば、ハイキー調でソフトフォーカス多用の映像作りも充分にポルノ映画に使える事が証明された実績は侮れません。
ちなみにソフトフォーカスを使ったファッションやヌードの表現では、日本でもお馴染みの写真家としてデイヴィッド・ハミルトンが有名でしょうし、1970年代はそうした流行が確かにあったのです。
しかし、だからと言って、誰しもがソフトフォーカスでポルノを演じれば、それで良しとするわけもありません。
そこにはシルビア・クリステルというジャストミートな存在があり、彼女も「エマニエル夫人」を演じて、自身の代名詞ともなった名演を残したのは、時代の空気感との相性も認められるところでしょう。
特に劇中、大きめの籐椅子で挑発的なポーズをキメるシルビア・クリステルは、映画ポスターやサントラ盤レコード等々に使われたほどの絶対性があり、それは掲載したシングル盤ジャケ写でご覧になれるとおり♪♪~♪
もちろん巷でも、このイメージは広く流布しており、例えばリゾートホテルのロビーとか、似たような籐椅子がある場所では、同じポーズで記念写真を撮る観光客、殊更女性が目立ったのも、着衣姿とはいえ、自然の流れでありました。
そして当然ながら、そのシングル盤に入れられたピエール・バシュレの劇中主題歌も大ヒット!
如何にも覚え易いフレンチポップス風味のメロディは、今や誰もが一度は耳にしたことがあろうと思います。確か日本語バージョンも作られていて、某外人女性歌手だけでなく、我国のポップス系ボーカリストも演目にしていたのは、なかなか素敵なブームでしたよ♪♪~♪
ということで、実はサイケおやじはシルビア・クリステルにそれほどの思い入れがあるわけではなく、むしろ「エマニエル夫人」という事象が忘れられないのです。
なにしろリアルタイムのロマンポルノでは田口久美を主演に「東京エマニエル夫人(加藤彰監督)」なぁ~んていう、亜流作品までもが作られ、これがまた相当に素敵に仕上がりになっていたんですから、たまりません。
さらに本家「エマニエル夫人」もシルビア・クリステルによる続篇はもちろんの事、同系のソフトポルノ作品としては「卒業試験」「夜明けのマルジュ」「チャタレイ夫人の恋人」等々が1970年代に彼女の主演作として公開されればヒットは確実!
幻のデビュー作「初体験」までもが堂々の公開となった騒動(?)は、そういう勢いの凄さでした。
しかし、当然ながら、シルビア・クリステルには「エマニエル夫人」という印象があまりにも強く、サイケおやじには良いとしても、映画界全般においては、些かのマイナスがあった事も否めません。
1980年代からの低迷が本人の健康上の問題もあったとはいえ、何かそれがあたりまえの受け取られ方をしていたのは、ちょいと悲しいものがありました。
シルビア・クリステルはエマニエル夫人!
それで、良いじゃ~~ありませんかっ!
今回の訃報においても、それが納得の知らせであって、故人を偲ぶ時には忘れらない印象になるはずです。
さようなら、エマニエル夫人……。
また何時か、逢える時まで、合掌。