関係者の通夜に列席のため喪服を出したら、ポケットから五千円札を発見♪ もちろんこれは私の物に違いないけれど、なんか他人の葬儀のおかげでラッキーな気分になるのは不条理か……!?
まあ、それはそれとして、本日は――
■A Double Dose Of Soul / James Clay (Riverside)
ジェームス・クレイはダラス生まれの黒人サックス奏者ということで、その演奏スタイルは所謂テキサステナー♪ しかし1950年代に活動していた所が西海岸ということで、必ずしもコテコテ派ではありません。むしろ正統派ハードバップの中にスッキリした味わいが魅力です。
そのあたりは超幻の名盤とされた「テナーマン(Jazz West)」での快演で証明済みですから、凄い共演者に囲まれたこの作品でも変わらないはずですが……。
結論から言うと、やや物足りません。
ところが前述したように、共演者の魅力が、そのまんま、このアルバムのウリになっていますし、1曲だけ、私的には大好きな名演が入っているのです。
録音は1960年10月11日、メンバーはジェームス・クレイ(ts.fl) 以下、ビクター・フェルドマン(vib)、ジーン・ハリス(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイス・ヘイズ(ds) という強力な面々で、さらに曲によってナット・アダレー(cor) が加わっています――
A-1 New Delhi
ビクター・フェルドマンが書いた哀愁モードたっぷりの隠れ名曲♪ ジェームス・クレイはフルートでじっくりとテーマメロディを吹奏した後、ジンワリとアドリブに入っていきますが、その雰囲気は最高で、ちょっと日活ニューアクションか大野雄二あたりがやりそうな、せつなく甘いハードボイルド味がたまりません。
続くビクター・フェルドマンのヴァイブラフォンもクールな歌心を存分に聞かせてくれますし、リバーサイドでは珍しいジーン・ハリスの参加も、ブルーノートでのセッション同様にリラックスした黒っぽさを発散しています♪
またルイス・ヘイズのブラシがハードバップしていますし、サム・ジョーンズの硬派なベースワークも演奏全体をしっかりとコントロールしていると思います。
あぁ、何度聞いても、実に味わい深い演奏です。
A-2 I Remember You
アップテンポで演じられる有名スタンダード曲という趣向で、ジェームス・クレイはフルートで熱演ですが、やや個性が稀薄です。というよりも、フルートという楽器は個性が出しにくいのかもしれませんねぇ。
しかし、ここでは共演陣が素晴らしいかぎりで、気持ちの良いブラシのルイス・ヘイズ、唯我独尊の4ビートに撤するサム・ジョーンズ、スピード感満点のビクター・フェルドマン、スインギーなジーン・ハリス! ですから主役のジェームス・クレイもなかなか熱くなっているのですが……。
A-3 Come Rain Or Come Shine
今度はテナーサックスでスタンダード曲を吹奏するジェームス・クレイという、ハードバップ王道路線が楽しめますが、アドリブパートで初っ端からハッスルしすぎるナット・アダレーが、些か笑えます。なんか、せつかく良い雰囲気だったテーマの演奏が……。それゆえジェームス・クレイも、ちょいとペースを掴みそこなった感じが濃厚です。
しかしリズム隊は素晴らしい存在感で、熱血のジーン・ハリス、グイノリのドラムス&ベースはゴスペル味まで醸し出す熱演です。
B-1 Pockets
サム・ジョーンズの強靭なベースが終始、演奏全体をリードするクールで熱いバードバップ! ナット・アダレーはミュートでマイルス風味を漂わせれば、ジェームス・クレイはブルースを新鮮な解釈で聞かせようと奮闘しています。
しかしここでも目立つのは素晴らしいリズム隊の存在感で、ミディアムテンポのグルーヴィな雰囲気に加えて、1960年代らしいドライなスイング感が絶妙だと思います。
そしてジーン・ハリスが、やっぱり最高なのでした。
B-2 Pavanne
これまたビクター・フェルドマンが書いた味わい深い名曲で、ジェームス・クレイがフルートでリリカルなテーマを吹いてくれるだけで満足の演奏なんですが、アドリブパートに入るとリズム隊が突如として力強いグルーヴを送り出してきますから、たまりません。
ジェームス・クレイは渾身のフレーズを積み重ね、ちょっとハスキーな音色の妙技と息遣いも冴え渡りの名演です。
さらにビクター・フェルドマンの奥深い歌心、ジーン・ハリスの熱い伴奏、クールに構えたベース&ドラムスの潔さと、まさに隠れ名演の条件が揃っていますねぇ。本当に、グッときます♪
B-3 Linda Serkene
短いながも温か味のあるモダンジャズの、これも隠れ名曲かもしれません。ジェームス・クレイのテナーサックスも味わい深く、控えめなリズム隊とのコラボレーションも良い感じです。
またナット・アダレーがアート・ファーマーっぽいアプローチから、十八番の力一杯モードに入るあたりも憎めませんし、もちろんジーン・ハリスは熱血です。
B-4 Lost Tears
オーラスは、ちょっと思わせぶりなスロー曲で、如何にも新時代に相応しい展開かもしれませんが、肝心のジェームス・クレイが煮えきりません。なんかウェイン・ショーターに成り損ねたような……。う~ん、ちょっと残念……。
ということで、個人的には圧倒的にA面ド頭の「New Delhi」にシビレまくっているアルバムです。ちなみにCDには別テイクが入っているので、それを聞きたくて紙ジャケ仕様のCDまでゲットしたほどです。まあ、私有のアナログLPは盤質がイマイチなんで、納得もしておりますが……。
そしてジェームス・クレイは、このアルバム録音からほどなくしてレイ・チャールズ楽団に入り、ジャズから足を洗っているそうです。しかしこの「New Delhi」を残してくれた事で、私は感謝しているのでした。