母が入院中なので見舞いに行ってみると、いきなり「病院の食事が不味い」なんて言われてしまいましたねぇ。
まあ、内蔵の病気ではないので、そうなるんでしょうが、昼食をちょっと食べてみたら、確かに不味かったです。
ということで、本日は――
■Kenny Drew Trio (Riverside)
1980年代に人気絶大なピアニストとなったケニー・ドリューは本来、1950年代からハードバッパーとして頭角を現していたのですが、私の世代では1970年代前半にジャズ喫茶を賑わせた一連の欧州録音で、その存在を知ったのではないでしょうか。
その溌剌としたスタイルは当時、電化物に犯されていたジャズ喫茶にとっては救世主的な存在として、もてはやされたのです。
そしてそこから遡って辿り着くのが、リバーサイドやブルーノートに残されていた1950年代のレコーディング作品でした。
中でもこのアルバムは、優れた共演者を得た純正トリオ物として、名盤扱いにされていたものです。
録音は1956年9月20&26日、メンバーはケニー・ドリュー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) ですから文句無し!
A-1 Caravan
デューク・エリントン楽団というよりも、我国ではエレキインストのザ・ベンチャーズによって広く親しまれている曲でしょう。そしてそのラテンロックっぽいグルーヴが、ここではどうなっているのか!? それがこの演奏の命題というのは大袈裟でしょうか。
で、ここでの演奏は超アップテンポ! テーマ部分ではフィリー・ジョーのラテンビートも冴えまくり、エキゾチックな味わいもあって、ケニー・ドリューのイキイキとしたピアノが飛跳ねます。もちろんアドリブパートでもトリオが一丸となった高速4ビートですから、たまりません。
ただし、このテンポでは些か無理があるというか、ケニー・ドリューの持ち味がイマイチ、発揮されていないような雰囲気も漂いますが、ラストテーマ部分のアレンジと各人の見せ場のハッスルぶりは流石のスリルが満点!
A-2 Come Rain Or Come Shine
ケニー・ドリューが十八番のスタンダード曲で、ミディアムテンポのグルーヴィな味わいと軽妙なノリが上手くミックスされた快演♪ ポール・チェンバースの堅実な助演とシャープなフィリー・ジョーのドラミングが実に良い雰囲気です。
ケニー・ドリューは明快な歌心とファンキーな味付けのバランスにも気をくばっているようで、このあたりはソニー・クラークと通じる良さがあるんですねぇ。思わず腰が浮いて、指パッチンの世界です♪
さらにポール・チェンバースも素晴らしいと思います。
A-3 Ruby, My Dear
セロニアス・モンクの有名なオリジナルで、スローで演奏される深遠なメロディからは、なかなか格調高い響きが堪能出来ます。
ここでは、まずケニー・ドリューがクラシックからの影響も感じさせるソロピアノでテーマを奏し、煮詰まったところでグゥ~ンとビートが強いベース&ドラムスが入ってくるという、本当に上手い仕掛けがニクイです。いやはや、この部分だけ聴くために、この演奏があるという感じでしょうか。
それでもアドリブパートでは、ケニー・ドリューが持ち味の黒っぽいフィーリングも入れながら演奏を纏めていくのですが、やや中途半端な雰囲気も……。
A-4 Weird-O
一転して溌剌としたハードバップで、とにかく徹頭徹尾、このトリオの躍動的な演奏が楽しめます。あぁ、こういうノリこそが、一連の欧州録音へダイレクトに繋がっているものでしょう。
グイノリ4ビートに拘って唯我独尊のポール・チェンバースはアルコ弾きも過激ですし、フィリー・ジョーは全篇で十八番の“フィリー・ビート”を敲きまくりで、特にテーマ部分のラテン調、さらにピアノとのソロチェンジが最高の輝きなのでした。
B-1 Taking A Chance On Love
これもフィリー・ジョーのドラミングが冴えきった躍動的な演奏で、もちろんケニー・ドリューは歯切れの良いタッチとファンキーなフィーリング、鮮烈な歌心を完全披露しています。
あぁ、思わずウキウキしてきますねぇ~~~♪
このあたりのグルーヴは後年の欧州録音物とは似て非なるものでしょう。なんというか腹の底から湧き上がっていたというか、分厚い黒っぽさがたまりませんから、何度聴いても飽きませんねっ♪
B-2 When You Wish Upon A Star / 星に願いを
1980年代になってもケニー・ドリューが十八番にしていた名曲ですが、ここでの演奏には、後年の思わせぶりというか、クサミがありません。むしろ不器用な感じで魅惑のメロディを独りでシンミリと弾いています。
そして定石どおり、途中からドラムス&ベースが入り、そこからはポール・チェンバースの巧みな絡みもありますから、演奏はジワジワと熟成していくのでした。
B-3 Blues For Nica
ケニー・ドリューが書いたブルースで、粘っこい演奏がたまりません。とにかくケニー・ドリューの持ち味が全開! ファンキーなフレーズと力強いタッチ、さらに真っ黒なフィーリング! これぞハードバップです。
グッと重心の低いポール・チェンバースのベースワーク、ハイハットとスネアのコンビネーションで最高のビートを敲き出すフィリー・ジョーも素晴らしく、まさにこのアルバムのハイライトの1曲でしょう。
B-4 It's Only A Paper Moon
オーラスは軽快で楽しいスタンダード曲のハードバップ的な展開が用意されています。独特のクッション&テンションで飛び跳ねるようにピアノを鳴らすケニー・ドリューの真骨頂が楽しめるのです。もちろん、あの横流れするような波乗りフレーズや粘っこいファンキー節も駆使しながら、どこまでも止まらない演奏は快感ですねぇ~~♪
それは決して聴き易いということばかりでなく、ガッツとジャズ魂が渾然一体になったところが、モダンジャズ全盛期の勢いという感じです。ポール・チェンバースのベースソロ、そのバックで味わい深いケニー・ドリュー、そしてビシバシにキメまくりのフィリー・ジョーというピアノトリオの醍醐味が楽しめるのでした。
ということで、個人的にはB面を聴くことが多いです。
ちなみにこのトリオはウマが合うというか、ジョン・コルトレーンの名盤「ブルートレイン(Blue Note)」やジョニー・グリフィンの「ウェイ・アウト!(Riverside)」等々をガッチリ支えたリズムセクションとしての働きも歴史に残るところです。かなり3人とも自己主張しているようで、実は協調性も高いあたりが、実力の証明かもしれません。