自分の信義を踏みにじられたような日でした。
まさか法律の解釈を運・不運で論じられるとは……。
ということで、本日はスカッとしたいので――
■10 To 4 At The 5 Spot / Pepper Adams (Riverside)
モダンジャズのバリトンサックス奏者といえば、まずジェリー・マリガンが第一人者かもしれませんが、確かに流麗で歌心満点のスタイルは魅力的です。しかしバリトンサックス本来の持ち味である重低音を活かした演奏とくれば、同じ白人ながら対極にあるペッパー・アダムスという名手が忘れられません。
もちろんそれはハードバップがド真ん中! アタックが強くてゴリゴリと吹きまくるペッパー・アダムスこそ、真っ向勝負の潔さで人気ナンバーワンかもしれません。
さて、このアルバムは、当時コンビを組んでいたドナルド・バードとの双頭リーダーバンドによるのライブ盤♪ 徹頭徹尾、熱い演奏が楽しめます。
録音は1958年4月15日、ジャズ者には御馴染みというファイブスポットでのライブセッションで、メンバーはドナルド・バード(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、ボビー・ティモンズ(p)、ダグ・ワトキンス(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という強烈至極な面々です――
A-1 'Tis (Theme)
指パッチンからエルビン・ジョーンズの凄まじいドラミングがイントロとなって、調子の良いテーマを経てペッパー・アダムスが快調のアドリブを聞かせてくれます。
またドナルド・バードに続いて登場するボビー・ティモンズがメチャ熱いです! 得意のブロックコード弾きをキメに使いながら、テキパキとしたフレーズを積み重ねで山場を作るのですから、たまりません。
ちなみに私有盤はステレオ仕様で、左にトランペット、ドラムス、ピアノ、右にベースとバリトンサックスという定位ですが、観客のザワメキは左右に広がっていますし、バリトンサックスとドラムスが真ん中へ移動したりするミックスになっています。
そしてリズム隊だけのパートになると、この3人ですから強靭なウネリは“お約束”! いや、それ以上でしょう! 伴奏をやっている時でさえ、熱血しているのでした。エルビン・ジョーンズが暴れています。
A-2 You're My Thrill
シブイ雰囲気のスタンダード曲をスローで演じながら、アレンジは幻想的であり、しかもハードバップになっているという味わい深い演奏です。
まずペッパー・アダムスのテーマ吹奏が思わせぶり♪ モタレて粘っこいリズム隊では、我慢できずに暴発寸前のエルビン・ジョーンズが憎めません。
もちろんペッパー・アダムスは重低音の魅力を中心に、精一杯歌心を発揮しようと頑張るのですが……。
A-3 The Long Two / Four
エルビン・ジョーンズのマーチングドラムに導かれ、ドナルド・バードが書いた有名なテーマメロディが流れてきます。あれっ、これって!?
という煮え切らなさはさておき、ド迫力のリズム隊に煽られて豪快なブローに撤するペッパー・アダムスは痛快です。またリズムのキメを巧みに活かして十八番のフレーズを吹きまくるドナルド・バード、スピード感満点のボビー・ティモンズも楽しい限りで、これぞハードバッブという世界が展開されています。
そしてダク・ワトキンスのアルコ弾きアドリブの背後で暴れるエルビン・ジョーンズのハッスルぶりが、微笑ましいと思います。もう、敲きたくて辛抱たまらん状態なんでしょう。続くドラムソロは、ヤケクソ気味にドスンバスンのギッタギタ! 文字通りの大車輪! 最高です。
B-1 Hastings Street Bounce
これぞ、このアルバムのハイライト♪
ブギウギ超のリズムが真っ黒に粘り、楽しいテーマからキメが連発されるアドリブパートの充実度! ハードバップ、ここにありです。
とにかくペッパー・アダムスの分かり易いフレーズの積み重ねから余裕のグルーヴが生み出され、観客のザワメキも良い感じ♪ もちろんドナルド・バードもリラックスした好演ですが、またまたリズム隊が凄すぎます! こんな緩やかで強靭なグルーヴは驚異的でしょう。ボビー・ティモンズの伴奏&アドリブパートのユルユルな雰囲気をビシッと締めるダグ・ワトキンスのウォーキング、おぉ、誰かがグラスを落として割ったのか!? なんていう臨場感は最高級なんですねぇ。
B-2 Yourna
オーラスはドナルド・バードが書いたジェントルなバラード曲ながら、もちろんハードバップの力強さが表現されています。あぁ、この曖昧な哀愁が、そこはかとなく素敵です。
アドリブパートでのペッパー・アダムスも力強く歌いますし、ドナルド・バードが素晴らしい構成力を発揮♪ これはちょっと出来すぎ!?
しかし続くボビー・ティモンズは自然体というか、些か手癖が目立ちますが、ダグ・ワトキンスの野太いベースソロやエルビン・ジョーンズの高圧的なブラシが、たまらなく感度良好なのでした。
ちなみに、このトラックだけがモノラルバージョンになっています。
ということで、荒っぽさもほどほどという、なかなかの好盤だと思います。臨場感満点の録音は、Ray Fowler というエンジニアが担当しているそうですが、この人は要注意かもしれません。
モノラル盤も欲しいですが、けっこうステレオ盤でも満足の1枚です。