今日は疲れる暇も無いほどに忙しかったです。それは土曜日に予定されているバンド演奏への序奏というか、どーしても本日中に片付ける仕事が多く……。
まあ、今夜もちょっと練習行きますけど、その前に、こんな激烈盤を聴きました――
■The Fabulous Slide Hampton (Pathe / EMI)
スライド・ハンプトンは黒人のトロンボーン奏者で、アレンジにも秀でているところからビックバンドでの活動も多く、また同業者には J.J.ジョンソンという偉大な先輩名人がいますから、いまひとつ人気がパッとしません。
しかし、このアルバムは決定的な大名演として、長らくジャズ喫茶の定番になっているはずです。
録音は1969年1月6日、フランスでのセッションで、メンバーはスライド・ハンプトン(tb)、ヨアヒム・キューン(p)、ニールス・ペデルセン(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という豪傑揃い! 結論から言うと、烈しく突っ込んだ豪快な演奏ばかりが繰り広げられているのです――
A-1 In Case Of Emergency
いきなりバンドが一丸となった爆発的な演奏が始り、大団円に向かって疾走して行く勢いに圧倒されます。それは野太いベースワークのニールス・ペデルセン、ウラウラと唸りながら厳しいコードをブチ込んでくるヨアヒム・キューン、そしてスピード感満点のシンバルワークで襲い掛かってくるフィリー・ジョーという、ド迫力のリズム隊が原動力!
そしてスライド・ハンプトンの爆裂トロンボーンが歌心も下心も隠せないという豪快なアドリブを聞かせてくれますから、これを聴いて悶絶しないジャズ者はいないでしょう!
続くニールス・ペデルセンのベースソロも恐さがいっぱい! その背後では、一切の妥協を許さないドラミングでフィリー・ジョーが睨みを効かせています。
さらにそこへ斬り込んで来るのがヨハヒム・キューンの支離滅裂でスジの通ったメチャピアノですから、たまりません。しかし絶対にフリーにはならないんですよねぇ~~♪ ヒェェェェェェ~♪ 物凄いスピード感で絡み合うリズム隊の恐ろしさ!
演奏はこの後、リフを挟んでフィリー・ジョーが渾身のドラムソロ! ハードバップも新主流派も超越した、当にフィリー・ジョーが一代の名演を聞かせてくれるのでした。歓喜悶絶!!!
A-2 Last Mimute Blues
おっ、これは♪ そうです、ダスコ・ゴイコビッチ(tp) が、あの人気盤「アフターアワーズ(Enja)」で演じていた白熱のハードバップブルース! そのオリジナル演奏が、これだと思われます。
もちろん、ここでの演奏は前曲の熱気を引き継いだ凄まじい展開で、恐いリズム隊の直線的なグルーヴに煽られながら、スライド・ハンプトンが一気呵成に突進するのです。バババババハァ~~、と吹きまくるんですから、聴かずに死ねるかっ!
そして唸りながらピアノを極限まで鳴らすヨハヒム・キューンには、発狂寸前に追い込まれます! 我関せずとしてウォーキングするニールス・ペデルセンの冷静さと、烈しく襲い掛かってくるフィリー・ジョーのコントラストも凄いですねぇ。
ちなみにフィリー・ジョーはハードバップのドラミングより一歩進んだスタイルになっているんですが、本質は独自のクッションを失っていないという素晴らしさ! ここでのドラムソロはヤケクソ寸前の潔さで、見事に場を盛り上げています。
B-1 Chop Suey
これまた恐いフィリー・ジョーのシンバルワークが最高のイントロとなってスタートする爆裂演奏です。それは当時の流行だったアフロ系のモード曲なんですが、意外に親しみ易いテーマメロディが憎めません。
しかしアドリブパートは、またまた猛烈な勢いでブッ飛ばしです。なにしろヨアヒム・キューンの指が動いて止まらず、楽想が泉のように湧きあがってくる様子が、見事に録音されています。あぁ~~、こんなアドリブ、ありですかぁ~~。
するとスライド・ハンプトンが、全く疲れ知らずの全力疾走! それを支えるベースとドラムスが痛快過ぎる4ビートを送り出しているあたりにも、心底、シビレます♪
B-2 Lament
先輩のJ.J.ジョンソンが書いた哀愁の名曲に敢然と挑んだという、勇気ある演奏です。
しかしヨアヒム・キューンは、相変わらず既成の伴奏から逸脱し、好き勝手にやっているんですねぇ~。これにはフィリー・ジョーも苦笑いというか、必死にビートを維持していく様が微笑ましく、ニールス・ペデルセンが両者を取持つ感じです。
肝心のスライド・ハンプトンは、リズム隊の熱気に押され気味とは言え、独自の歌心を大切にしていると思います。
B-3 Impossible Waltz
オーラスはタイトルどおりにワルツテンポなんですが、フィリー・ジョーのドラミングが強烈に自己主張していますから、演奏は和みを排除して、烈しい方向へ!
う~ん、それにしても、このリズム隊は強力過ぎて……。こんなに先鋭的なフィリー・ジョーには、ちょっと既成概念を覆されるほどです。またヨアヒム・キューンの我侭なピアノにも眩暈を誘発させられますねぇ~。
突如としてブチ切れで終わる演奏が、かえって潔い感じです。
ということで、アルバム丸ごとが烈しく盛り上がった内容ですから、ジャズ喫茶の大音量で聴けば、必ずや悶絶されるでしょう。心地良い疲労感も保証付き♪
こういう遠慮の無い作品も、ジャズには必要だと痛感しています。