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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

フルートも流石のローランド・カーク

2011-03-07 16:25:02 | Jazz

I Talk With The Spirits / Roland Kirk (Limelight)

複数管同時吹き、息継ぎ無し(?)吹奏、その為に独自考案したという珍しい管楽器や日常的な鳴り物等々を堂々と駆使しながら、実は誰よりもモダンジャズの王道を歩もうとしていたのが、ローランド・カークだったと思います。

しかし、失礼ながら本人には盲目というハンデがあった事もあり、そうした姿勢が結局はキワモノ扱いされていた現実は否定出来ません。

実際、ゴッツイ黒人がグラサン姿で不思議な楽器や鳴り物をぶら下げ、臨機応変にそれらを操っている写真を最初に見たサイケおやじは、完全に???!?

そして超人的な演奏が記録されたレコードを聴いて、吃驚仰天!?!

正直、最初はどうやって吹いているのか、想像もつかない部分さえありましたし、映像ではありますが、初めて動くローランド・カークに接した時は大袈裟ではなく、感動しましたですねぇ。

このあたりは現在、DVDも出回っていますので、一度はご覧いただきとうございますが、さらにもうひとつ、凄いなぁ~と思ったのは、ローランド・カークが実に正統的な楽器の鳴らし方を身につけている事で、例えばテナーサックス奏者としての存在感は決して軽く無いでしょう。

で、同じように凄いというか、味わい深いのがフルートやピッコロでの実力で、本日ご紹介の1枚は、まさにそれに徹して全篇を作り上げた裏名盤だと思います。

録音は1964年9月16&17日、メンバーはローランド・カーク(fl,vo,etc)、ホレス・パーラン(p)、マイケル・フレミング(b)、ウォルター・パーキンス(ds,per) が中心となり、適宜ゲストが参加しています。

A-1 Serenade To A Cuckoo
 ローランド・カークのオリジナルとされていますが、聴けば誰もが、どっかで……?
 そう思うほどに親しみ易い曲メロが素敵です。
 しかもタイトルどおり、カッコーの鳴き声を模したというか、イントロから鳩時計と思しき効果音やフルート&ピッコロによる音楽的表現が冴えわたり、加えてモダンジャズ王道のクールでグルーヴィな4ビートが的確に融合しているのですから、たまりません♪♪~♪
 さらにローランド・カークならではの巧みな息遣いを利用したアドリブのジャズ的な実用度の高さも快適至極ですし、クリスタル・ジョイ・アルバートという女性歌手のスキャットボーカルが絶妙に使われるあたりは、1960年代映画の劇伴サントラの趣まであるんですから、ねぇ~~♪
 ホレス・パーランの短いアドリブも、独得のピアノタッチがニクイです。

A-2 Medley
     We'll Be Together Again
     People
 これは有名なスタンダード曲という事で、お馴染みのメロデイを意外なほどすんなりと聞かせてくれるローランド・カークのフルートからは、その実力が充分認知されるはずです。
 もちろん呻き声(?)や語り調で歌詞を呟く手法は、分かっちゃいるけど、ニヤリとさせられる瞬間でしょうねぇ~♪
 その、あまりにも素直な歌心には、驚かれるかもしれません。

A-3 A Quote From Clifford Brown
 アップテンポの正統派4ビートで演じられるハードバップのブルースは、タイトルどおり、どうやらクリフォード・ブラウンのアドリブフレーズが利用されているのかもしれませんが、それに拘る以前にローランド・カークのジャズ魂は真っ向勝負に輝いています。
 リズム隊の実直なノリを背景に、なにやら様々な事をやらかすローランド・カークのオチャメなところは???ではありますが……。

A-4 Tree
 これまた、どっかで聞いたことがあるようなメロディが心地良い、ローランド・カークならではのオリジナル曲です。
 もちろんバックはモダンジャズ王道路線の4ビートで、なかなかグルーヴィな雰囲気を盛り上げていますが、それにしてもアグレッシヴなフルートを熱演するリーダーのアクの強さは唯一無二! なんとなくリズム隊が翻弄される瞬間さえあるような感じでしょうか。
 しかしホレス・パーランの本気度は高く、変則ワルツビートっぽいノリやアドリブの面白さは特筆物だと思います。

A-5 Fugue'n And Alludin'
 これは短い、つまりはLP片面終了の場面転換を意図した演奏なのかもしれません。
 それはバロックのメロディと手法を借用したもので、神妙に演じた後にオチャラケるローランド・カークが憎めませんねぇ~♪
 ちなみにヴァイブラフォンはボブ・モーゼスが担当したという事です。

B-1 The Business Ain't Nothin' But The Blues
 これまたローランド・カークが十八番というか、黒人ブルースやR&Bの「お約束」をたっぷりと転用させた粘っこいモダンジャズで、その黒っぽい雰囲気の醸し出し方は流石!
 しかも素直に分かり易いんですよねぇ~♪
 まあ、このあたりの率直な表現方法が、ヒネクレタ感性を至上主義とする我国の玄人ジャズファンには嫌悪される部分なのかもしれませんが、虚心坦懐どころかストレートに受け入れてしまうだけの快楽性は、何もこの演奏だけではなく、ローランド・カークが提供する全てに共通するものだと思います。
 ホレス・パーランにしても、この手のグルーヴは得意技ですし、絶対にキワモノとは決めつけられない、これぞっ、立派なモダンジャズ!

B-2 I Talk With The Spirits
 アルバムタイトル曲も、これまたローランド・カークの狙いがミエミエという仕掛がイヤミ寸前ではありますが、ちょいとエスニックな導入部から幽玄のメロディ展開、そして原始のムードが強く滲む静謐なソロパフォーマンスには、不思議と惹き込まれてしまいます。

B-3 Ruined Casties
 これはズバリ!
 「荒城の月」なんですねぇ~、滝廉太郎のっ!
 それを堂々と自らのオリジナルとクレジットしたローランド・カークの胸中は如何に???
 短い原曲メロディだけの演奏ですから、日本人なら怒るよりは、ニンマリして聴きましょうね。

B-4 Django
 お馴染み、MJQの人気ヒット曲がノリノリの4ビートで演じられる、唯それだけでモダンジャズを聴く喜びに満たされるんですから、如何にローランド・カークが正統派のプレイヤーなのか、納得するしかないと思います。
 決して妙なケレンはやっていないところが逆に物足りない?
 そんな我儘さえ言いたくなるのが不思議なのは、この天才を認められない証拠かもしれませんが。

B-5 My Ship
 これも有名スタンダード曲ですから、その魅惑のメロディをジンワリと吹きつつ、次第に感情が高ぶっていくが如きアドリブ表現へと踏み込むローランド・カークの見事な目論見!
 いゃ~~、これがジャズかもしれませんねぇ~♪

ということで、なかなか痛快にして味わい深いアルバムです。

一般にローランド・カークはアトランティック期の作品が人気高かもしれませんが、極言すれば駄作を残さなかった稀な演奏家だと思います。

ただし、そこに十人十色の好き嫌いがあるのは否定出来ません。

その意味で、本日ご紹介の1枚は、なかなか人気の共通度も高いアルバムでしょう。

ちなみにジャズ喫茶では「荒城の月」ゆえにB面が定番かもしれませんが、CDならば、ぶっ通し鑑賞がOKかもしれません。

それほど素敵な演奏集なのでした。

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西海岸のハードな2人

2011-02-23 17:20:01 | Jazz

Hear Ye! / The Red Mitchell - Harold Land Quintet (Atlantic)

ハロルド・ランドという黒人テナーサックス奏者は決して超一流では無いと思いますが、所謂B級グルメ大会ともなれば、最高得票のひとりじゃないでしょうか。

スバリ、その本筋は西海岸ハード!

ご存じのとおり、マックス・ローチ(ds) とクリフォード・ブラウン(tp) がLAで旗揚げした史上最強のハードバップクインテットで1954年からレギュラーの座にあり、リーダーの2人が東海岸に拠点を戻した後は地元に留まりつつも、例えばカーティス・カウンス(b) のバンド等々でその主張を受け継いだ活動を展開し、見事なまでのジャズ魂を貫き通しています。

本日ご紹介のアルバムも、まさにそうした中の1枚で、制作録音されたのは1961年でしたから、時代はモードが最先端の所謂新主流派が台頭し始めた時期でありながら、ここで演じられたのは直球勝負の熱血ハードバップ!

しかしセッションを残したグループの実態は、これまた西海岸をメインに凄い実績を既に残していた白人ベース奏者のレッド・ミッチェルとの双頭リーダーバンドでしたから、一筋縄ではいきません。

それはファンキーな感覚と如何にもスマートなセンスを同居させんとした試みかもしれず、また明るいスピード感が実に新鮮な、文字通りのモダンなジャズになっています。

録音は既に述べたように1961年10月14日&12月13日、メンバーはレッド・ミッチェル(b)、ハロルド・ランド(ts)、カーメル・ジョーンズ(tp)、フランク・ストラッゼリ(p)、レオン・ペッティーズ(ds) という正統派クインテットです。

A-1 Triplin' A While
 力強く演奏されるハロルド・ランドのオリジナル曲は、その最初のパートがテナーサックスとベースのユニゾンというのが、如何にもこのバンドを象徴しています。
 そして次いで正統派黒人ジャズがど真ん中のテーマ合奏、さらにガッツ溢れるハロルド・ランドの硬質なプローが流石に素晴らしく、短いセカンドリフのアクセントを経て登場するのが当時期待の新鋭だったカーメル・ジョーンズで、そのクリフォード・ブラウンに憧れきったスタイルが侮れません。
 いゃ~、実際、とことん天才を研究したんでしょうねぇ。もちろん輝きは及びませんが、ここまでやれれば大したもんだと思います。
 その意味でハロルド・ランドと組んだ狙いは外れるはずもなく、さらにフランク・ストラッゼリのピアノが疑似ウイントン・ケリー!?!
 このあたりを素直に喜びへ変換させることが出来れば、アルバム全篇は必ずや楽しめると思います。
 そしてレッド・ミッチェルの自意識過剰のベースワーク、堅実なサポートが好ましいレオン・ペッティーズのドラミングもニクイばかりですよ。 

A-2 Rosie's Spirit
 最初っから全力疾走のアップテンポで演奏されるのはレッド・ミッチェルのオリジナル曲ということで、作者本人のペースも大ハッスル! ツッコミ鋭い伴奏から過激スレスレのアドリブソロが冴えわたりですよっ!
 もちろんカーメル・ジョーンズとハロルド・ランドも手抜き一切無しの姿勢が潔く、フランク・ストラッゼリがウイントン・ケリーの夢よもう一度をやっていますが、個人的にはレオン・ペッティーズのシャープなドラミングが最高に好ましく思います。
 またバンドアンサンブルが如何にも西海岸派らしい仕掛けの中で、ハードな心意気を貫くメンバー各人の熱血も凄いの一言です。

A-3 Hear Ye!
 アルバムタイトル曲はミディアムテンポのワルツビートで演じられる所為でしょうか、些か混濁した雰囲気が隠しようもありません。それは逆に言えば、これこそが新しい時代へ向かうモダンジャズの最前線だったように思います。
 しかしパロルド・ランドにしろ、カーメル・ジョーンズにしろ、ストレートに分かり易アドリブを心がけているようですから、オリジナルの作者たるレッド・ミッチェルが些か独り善がりの浮きあがりも……。
 結論から言えば、リズム隊が提供する新しい表現は今日でも少しばかりですが、しっくりこないフィーリングかもしれません。
 ただし演奏の密度は各人のアドリブパートも含めて、濃いですよ。

B-1 Somara
 カーメル・ジョーンズが書いた勿体ぶったハードバップ曲なんですが、これがアドリブ主体に聴き進めば、なかなかに痛快至極です。
 特に先発のハロルド・ランドからレッド・ミッチェルに受け渡されていく得意技の完全披露は、この時代のアドリブがコード分解とモードの折衷に腐心していたという事情を解き明かすものかもしれません。
 しかし流石に作者のカーメル・ジョーンズは何も考えていないんでしょうねぇ~。感性の閃きを素直にトランペットからの音に託して吹きまくり♪♪~♪ 続くフランク・ストラッゼリも楽しいピアノを聞かせてくれますが、この演奏のハイライトは、なんといっても最終バートのバンドアンサンブルにおけるスリルとサスペンスですよっ!
 もう、そこを堪能するためだけに、それ以前のアドリブがあるといって過言ではないと思うほどです。

B-2 Catacomb
 これまた思わせぶりなテーマはハロルド・ランドのオリジナルとクレジットされているのが納得出来ないほど、ミョウチキリンな曲だと思います。しかしアドリブパートに入ってからは、作者本来の力強い魅力がバンド全体に波及していく有意変転が良い感じ♪♪~♪
 というよりも、もうひとりのリーダーであるレッド・ミッチェルの感性が強く出ているのかもしれません。なにしろアルコ弾きによるアドリブからは、当時のブルーノートあたりで作られていた新主流派作品とは似て非なる先進性が滲み出していますし、フランク・ストラッゼリの伴奏が少~しばかりセロニアス・モンクになっているのも意味深でしょう。
 ただしそれで難解かと問われれば、答えは否です。
 モダンジャズのひとつの魅力である、カッコ良い「わからなさ」がなんとも素敵なんですねぇ~♪
 特にカーメル・ジョーンズのアドリブを聴いていると、もしもクリフォード・ブラウンが生きていたら……、なぁ~んて妄想させられてしまう演奏が、ここにあるように思います。

B-3 Pari Passu
 オーラスはフランク・ストラッゼリが書いた猛烈なアップテンポのハードバップ!
 なんとアドリブの先発を演じる作者本人が縺れてしまうほどなんですが、流石にレッド・ミッチェルのベースワークは乱れることなく、刺戟的なオカズの調達に奔走するレオン・ペッティーズのドラミングを余裕でリードしています。
 もちろんアドリブでも強烈なツッコミをやらかしますし、このトラックに限っては、この白人ベース奏者が主役じゃないでしょうか。
 ただし、それだってバンドメンバー全員の意思の統一があってこそっ!

ということで、名盤扱いのアルバムではないと思いますが、聴くほどに熱くなる傑作だと思います。

冒頭で述べたように、自分としてはハロルド・ランドを聴きたくて、これを入手したわけですし、そこにある参加メンバー的な面白さに、さらなる興味を抱いたことも確かです。

そして実際に聴いた時、その妥協しないハードな勢いにシビれましたですねぇ~♪

なにしろ白人のレッド・ミッチェルにしても、1950年代からハンプトン・ホーズのトリオでは真性ハードバップを演じていたわけですし、その明瞭にして鋭いベースプレイは明らかに時代を先駆けていたのですから、このセッションが軟弱で終わるはずもありません。

またカーメル・ジョーンズとフランク・ストラッゼリは共に地方からLAに出て来たばかりだったそうで、如何にその実力が高く評価されていたかは、ここに充分記録されていると思います。

なによりも当時は無名の新人が、リーダーのふたりと互角に対峙したというところに、モダンジャズの全盛期が証明された気さえするのです。

アルバム全体として、親しみ易い曲は特にありませんが、そのハードで一本気な演奏は、必ずやジャズ者の心を捕らえて放さない魅力に溢れていますよ。

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ギル・エバンスの覚悟の名盤

2011-02-22 16:28:55 | Jazz

Out Of The Cool / Gil Evance Orchestra (Impuls!)

ギル・エバンスは非常に個性的で革新的な作編曲者という評価を否定致しませんが、しかしジャズ者にとっては、少しばかり困った存在じゃないでしょうか?

何故ならば、一応はオーケストラを率いてのリーダー作を残していながら、そこにはデューク・エリントンのような美メロも無く、またカウント・ベイシーのようなストレートなジャズグルーヴも出ず、はたまたクインシー・ジョーンズが提供してくれるカッコ良い大衆性もありません。

しかしギル・エバンスを無視出来ないのは、マイルス・デイビスとの一連のコラポレーション作品がジャズの歴史では決定的な名作と認定され、好き嫌いはあるにしろ、それらはやっぱり説明不可の感動を呼び覚ますのですから、ギル・エバンス本人の天才性が気にならないと言えば、それは嘘でしょう。

そこで勇躍、ギル・エバンス名義のリーダー盤を聴いてみれば、そのほとんどに最初から煮え切らないものを感じてしまうのが、本音かと思いますが、いかがなものでしょうか?

さて、そこで本日ご紹介の1枚は、そんなギル・エバンスのオーケストラ作品としては、比較的聴き易く、また名盤認定作品の最右翼盤として、ガイド本にも紹介されることが多いアルバムです。

制作録音されたのは1960年11&12月、メンバーはギル・エバンス(p,arr) 以下、レイ・クロフォード(g)、ロン・カーター(b)、エルビン・ジョーンズ(ds)、チャーリー・パーシップ(ds.per) のリズム隊をメインにジョニー・コールズ(tp)、フィル・サンケル(tp)、ジミー・ネッパー(tb)、トニー・チュード(tb)、バド・ジョンソン(ts) 等々、当時のギル・エバンスが重宝していたブラス&リードの名手が多数参加しています。

A-1 La Nevada
 ギル・エバンスが十八番の作風というか、なんとなく始まる短いリフメロディの繰り返しが、参加者各人のアドリブと不思議な膨らみが秘められたハーモニーによって彩られていく演奏です。
 しかもギル・エバンス本人が弾く、なにかミョウチキリンでミステリアスなピアノのイントロを打ち消さんとする力強いドラムスと思わせぶりなギター、さらには自在に蠢くベースという流れが加速して行き、ついにグイノリの4ビートが確立された直後、いよいよジョニー・コールズのトランペットが疑似マイルス・デイビスを演じるのですから、う~ん、これは素直に歓喜して良いんでしょうねぇ。
 実際、これは本当にジャズ者の琴線に触れる部分だと思いますし、「マイルスもどき」と決めつければジョニー・コールズには失礼かもしれませんが、それはそれで充分な存在感が認められてしまうのは、如何にもジャズの素晴らしさだと思います。
 そして続くトニー・スチュードのトロンボーンがモードジャズの秘密を解き明かせば、一般的にはモダンスイング系のミュージシャンとされるバド・ジョンソンが、なかなか新しい感覚でテナーサックスを吹きまくるのですから、参加メンバーを知らずに聴いていたら、何の違和感も無いどころか、その真相に触れて仰天させられるのが、これまたジャズの面白さでしょう♪♪~♪
 またエルビン・ジョーンズでしかありえないドラミングも心地良く、ロン・カーターとの相性が新主流派の前夜祭という感じでしょうか。このあたりも、セッション全体が聴き易くなっているポイントだと思います。
 それと要注意なのがレイ・クロフォードのギターで、この人はR&Bからラウンジ系の演奏まで幅広くやってしまう名手のひとりですから、モダンジャズでもハードバップやジャズロック、そしてモード&フリーも俺に任せろっ! ジャズ者にとっての、一番有名なセッションはソニー・クリスの人気盤「クリス・クラフト(Muse)」でしょうが、このアルバムでの存在感も抜群ですよ♪♪~♪
 もちろん、これまでに書き連ねた諸々は、ギル・エバンスならではのアレンジがあってこその輝きであることは、あらためて言うまでもないと思います。

A-2 Where Flamingos Fly
 これは一応、スタンダード曲で、確かギル・エバンスはヘレン・メリルのボーカル作品でアレンジを提供した事もあったと記憶していますが、とにかく幽玄なアレンジが原曲メロディを解体再構築しているようなムードの中、ジミー・ネッパーのトロンホーンがアンニュイなソロを演じるという奥深さが素敵です。
 このあたりは、例によってマイルス・デイビスとの一連の共演セッションでもやってきた事ではありますが、やはり既に確立されたギル・エバンスの手法がクッキリと表現されていて、個人的には大好きな世界です。
 
B-1 Bilbao Song
 これはクルト・ワイルの作曲となっていますが、こうして作られた演奏はギル・エバンス以外の何物でもありません。
 それは静謐な音の世界で蠢くベースソロの「わからなさ」であり、また独得の「色使い」としか言えないホーンアレンジの妙でもあり、聴いているうちにイライラしてくる瞬間さえあるんですが、全ては「ギル・エバンス」という免罪符に直結しているというか……。

B-2 Stratusphunk
 そこで前曲から繋がっているのが、これまた煮え切らない、この演奏です。
 基本的な曲を書いたのは、ギル・エバンスと同列の鬼才として有名なジョージ・ラッセルということで、現代音楽的でもあり、先進的なモダンジャズの変化球というべきかもしれませんが、些かのネタばれとは言え、演奏が進むにつれ、それがブルースであることにハッとさせれますよ。
 ミステリアスなホーンリフを背景にアドリブするレイ・クロフォードのギターはクールであり、その都会的なセンスがギル・エバンスのアレンジにジャストミートの潔さ! さらにジョニー・コールズのトランペットがマイルス・デイビスになっているのは全くの期待どおりですから、たまりません♪♪~♪
 最終的に、何時しか漂っている濃密なモダンジャズのグルーヴに酔わされるはずです。

B-3 Sunken Treasure
 オーラスは再びミステリアスなギル・エバンスのオリジナルですが、不思議な美しさが強く表出した仕上がりは本当に凄い! その一言に尽きます。
 しかもジョニー・コールズが主役とあって、ど~してもリスナーはマイルス&ギルのコラポレーション作品を意識せざるをえないわけですが、失礼ながらマイルス・デイビスのような傲岸不遜の自信を表出させないジョニー・コールズの個性が、この名演トラックの要因だと思います。

ということで、これはジャズ喫茶でも、それなりの人気盤だったんじゃないでしょうか。

また、オーケストラ作品でありながら、必ずしも大音量で聴く必要性もそれほど無いと思われますから、個人のコレクションにも優先された1枚かもしれません。

それは主に低音&木管楽器を操る、アドリブプレイヤー以外のオーケストラ構成メンバー各々の力量をギル・エバンスが信頼しての結果であり、唯一無二の音世界へ虚心坦懐に浸りきる覚悟を要求するものでしょう。

ですから、一般的なジャズとは異なるフィーリングにリスナーの好みが合うか否かが、ギル・エバンスの場合は特に尊重されるのです。

その意味で、このアルバムが名盤扱いになったのは、そのあたりのバランスの良さというか、ちょいと違うものを聴いているという優越感さえも刺戟する目論見がニクイところ!?

流石は名盤という思いを強くしているのでした。

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初来日が絶頂期だったセロニアス・モンク

2011-02-08 16:35:13 | Jazz

Thelonious Monk In Tokyo 1 (CBS / 日本コロムビア)

セロニアス・モンクの全盛期は、その創造力と先進性が特異に形成された1950年代中頃だったとする説が有力ながら、それは評論家の先生方や玄人ファンの認識であって、一般的ジャズファンの間で人気が高かったのは、大手レコード会社のコロムビアと1962年に契約して以降の数年間でしょう。

なにしろ当時のセロニアス・モンクは各地の有名ジャズ祭はもちろんの事、世界的な巡業ツアーや日常的なクラブ出演、そして新作レコーディングが折り重なるように続いていたです。

ただし、そこで披露される演目のほとんどは1950年代に書かれた自身のオリジナルがメインであり、または十八番のスタンダード曲を自分流に解釈したものが中心とあって、極言すれば毎度お馴染みの展開ばかりでした。

しかし当時、それが決して予定調和として非難されることが無かったのは、常にセロニアス・モンクの世界がきっちりと表現されていたからでしょう。

さらに言えば、バンドの形態はテナーサックスを入れた所謂ワンホーンカルテットが常道であり、そのレギュラーはチャーリー・ラウズという、何時も同じようなフレーズばっかり吹いている中堅プレイヤーでしたから、今となっては発掘音源も含めて、そこにマンネリ感が無いと言えばウソになります。

ところが、それでも、モンクはやっぱり良いっ!

と痛感される魅力が不滅なんですねぇ~~♪

そこで本日ご紹介のアルバムは1963年の初来日時、その5月21日に行われた産経ホールでのステージから作られたライプ盤で、メンバーはセロニアス・モン(p) 以下、前述したチャーリー・ラウズ(ts)、そしてブッチー・ウォーレン(b)、フランキー・ダンロップ(ds) というカルテット編成による名演集です。

A-1 Straight No Chaser
 マイルス・デイビス等々、大勢の有名ジャズプレイヤーが演じている事で、おそらくはセロニアス・モンクが書いたブルースの中では最も知られた曲でしょう。ここでも作者本人が朴訥なピアノスタイルで最初のフレーズを弾き出し、続いてバンドが加わってのテーマが演奏された瞬間、客席から自然な拍手歓声が沸き上がるのも当然が必然♪♪~♪ いぇ~えぃ~~♪
 こういう部分もライプ盤を聴く楽しみのひとつだと思います。
 そして肝心の演奏はグルーヴィと言うよりも、クールなハードスイングという感じで、しかもどこかしらリスナーを突っぱねるような雰囲気もありますから、このあたりが当時の最先端モダンジャズという証かもしれません。
 もちろんサイケおやじはリアルタイムでは無く、完全な後追い鑑賞ですから、そう推察する他はないんですが、それにしても毎度お馴染みのフレーズを積み重ねるチャーリー・ラウズのテナーサックスが、不思議と心地良いんですねぇ~~♪

A-2 Panonica
 セロニアス・モンク以外にも大勢のジャズプレイヤーの後援者として有名なニカ男爵夫人に捧げられたオリジナル曲として、これまた作者本人のステージでは定番演目のひとつになっていますから、今日までに多くのバージョンが残されていますが、特にこの日の演奏から滲み出るアンニュイなムードは絶品!
 スローながら絶対にダレないハードなジャズフィーリングも素晴らしく、テーマメロディをじっくりと醸成させていくチャーリー・ラウズが流石の存在感だと思います。
 そして必要以上に情に流されないセロニアス・モンクのピアノは怖いほどで、このあたりが当時の人気の秘密かもしれませんねぇ。もちろん心地良いマンネリといえば、それまでなんですが、サイケおやじにとっては、すっかり夢中にさせられる世界です。

A-3 Just A Gigolo
 多くの歌手に名唱が残されているスタンダード曲ではありますが、その胸キュンのメロディをセロニアス・モンクがソロピアノで演じる時、筆舌に尽くし難い寂寥感や気分はロンリーなムードがその場に広がっていく雰囲気の良さ♪♪~♪
 そうした空気が封じ込められたライプ録音の魅力が、ここにありますよ。

B-1 Evidence
 1940年代後半に書かれたことを思えば、その極度な先進性が尚更に恐ろしいわけですが、それにしても淡々と始まる演奏が進むにつれ、異様な熱気を振りまいていくバンドの一体感が凄すぎますっ! ミディアムテンポながら、すっとこどっこいなリズムで押し通すドラムスのオカズとビートのタイミング、またクールなウォーキングに徹するペースの存在感も侮れません。
 ですから何時もに比べれば奔放なプローを聞かせてくれるチャーリー・ラウズが、ある意味では浮いているんですが、そこがまた、このカルテットの魅力でもあるんでしょう。背後から執拗な煽りを演じていたかと思うと、次の瞬間には、だんまりを決め込んでしまうセロニアス・モンクは、そのアドリブソロの密度の濃さも言わずもがな! 

B-2 Jackie-ing
 セロニアス・モンクのステージ演目としては、比較的新しい曲ではありますが、その核となっている音楽性は如何にも普遍ですから、この年代になると必然とも思える新主流派的なノリ具合も良い感じ♪♪~♪
 実際、絶妙の「間」を活かしたイントロの短いドラムソロからスタートするテーマアンサンブルの潔さ、そして続くアドリブパートの熱気の充満は最高ですよっ! 意想外にアグレッシヴな展開をやってしまうチャーリー・ラウズとは対照的に、なかなか冷静なブッチ・ウォーレンのベースワークが図太いのも好感が持てます。
 そしてセロニアス・モンクの親分肌の熱演を支えるフランキー・ダンロップのドラミングが、これまた激しく楽しいジャズビートを大放出! いゃ~、ちょいと短めな演奏時間が悔しいばかりですよ。

B-3 Bemsha Swing
 前曲の熱い演奏から一転、またまた絶妙の「はぐらかし」を演じてしまうカルテットがニクイですねぇ~~。
 ちなみに演目は、これもセロニアス・モンクの代表曲というだけでなく、モダンジャズでは至高の聖典ですから、油断は禁物でしょう。特に作者のピアノからは、気合いが入りまくった物凄さが堪能出来ると思います。
 あぁ、これが前衛の極北!?!
 これも5分に満たない短さが勿体無いかぎりです。

B-4 Epistrophy
 バンドテーマとして短く演奏される抽象幾何学的なメロディとアンサンブルに、このバンドの全てが凝縮されているのかもしれません。
 セロニアス・モンクのピアノは本当にジコチュウでありながら、唯一無二の存在感!
 ちなみに第一部の終焉が、これだったと言われています。

ということで、かなり充実したアルバムだと思いますが、その他にも様々に残されているセロニアス・モンクのリーダー盤の中では今日、特に目立つ作品ではないのかもしれません。

掲載した私有盤は我国優先で発売されたLPの第一集で、もちろん来日ステージの後半は「第二集」として発売され、現在ではCD化もされているはずですから、容易に聴けると思います。

そんな事もあって、1960年代のセロニアス・モンクは、どうしても軽く扱われがちなんでしょうが、既に述べたように人気絶頂だった勢いが感じられるのは、この時期が一番じゃないでしょうか。

ですから、先入観ではマンネリライプ盤だったとしても、聴き進むうちに惹き込まれるのは当然の結果であって、今更遠慮は無用です。

ただただ、こういう演奏が常態化していたリアルタイムの1960年代が、羨ましくなるばかりなのでした。

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浅川マキと蠍座の風景

2011-01-24 16:37:54 | Jazz

夜が明けたら c/w かもめ / 浅川マキ (東芝)

想い出の場所ってのは、誰にでもあると思います。

例えば本日掲載の浅川マキが、昭和44(1970)年に出したシングル盤スリープに写る「蠍座」は、当時の新宿にあった所謂アングラ芝居を多く上演する小劇場でした。そして当然ながら、あまり報われることの少なかったであろう、そうした青春の情熱が集まっていた場所でもありました。

実はサイケおやじは、この「蠍座」があった建物の表の顔だった「新宿文化」という映画館に通い続けた若き日があり、そこでは昭和40年代初頭から活動を開始したATG(アート・シアター・ギルド)による、決して商業的ではありませんが、しぶとくて鋭いフィルムの数々が上映されていたのです。

しかも場所的に伊勢丹デパートの前ということは、フォーク集会やアングラ芝居のもうひとつの本拠地(?)でもあった花園神社とか、あるいはゴールデン街が近くにありましたから、スノッブな文化人やヒッピーと呼ばれた自由人も多く徘徊していたという、なかなか怪しげな地域だったのです。

で、肝心の「蠍座」なんですが、そんな経緯から存在だけは知っていたものの、当時は入る勇気も状況もありませんでした。ただ、そんな昭和49(1974)年のある日、例によってサイケおやじはエロ映画でも鑑賞するべく「蠍座」の近くを歩いていた時、全く意味不明の些細な事からチンピラに因縁をつけられ、少しばかりボコボコにされました。

もちろん正直に言えば、サイケおやじは腕っ節も強くないし、さらに言い訳としては入れてもらっていたバンドのライプが近かった事もあり、とにかく指に怪我をしないよう、ポケットに両手を入れたまんまで無抵抗だった所為もあるんですが、それにしても誰も助けてくれなかったのは理解出来る事でもありました。

道路に倒されてケリを入れられている状態で、なんとサイケおやじは周囲を通り過ぎたり、黙って眺めている人達を納得しながら観察する、妙な余裕があったんですよねぇ。

特に件の「蠍座」前に集まっていたアクの強い数人の美女達は、多分そこへ出演する女優さんだろうか……?

なぁ~んて、今でも怖いほど、それを記憶しているのです。

まあ、幸いにして大した怪我もなく、あちこちは痛かったものの、チンピラが去った後は自力で起き上がれるほどでしたから、それも納得出来るのですが、そんな事なんて世の中には珍しくもないでしょう。

こうして時が流れました。

そして昭和55(1980)年になって友人に連れて行かれた飲み屋の壁に貼られていたのが、このジャケ写であり、なんでも店のママが当時はアングラ芝居の女優として、その「蠍座」にも出演した事があるとか!?

青春の思い出よ♪♪~♪

と、柔らかな微笑みで話してくれた彼女の深い目の色は、本当に素敵でした。

もちろん「夜が明けたら」と「かもめ」が入ったレコードそのものが鳴らされたのは、言うまでもありません。

こうして、その店に時折は通う事になったサイケおやじは、ついに昨年、建物の老朽化を契機として廃業するママに頼み込んで、前述した壁に貼られたジャケットとレコードを譲り受けたのですが、掲載したとおり、上手く剥がすことが出来なかったのは悔しくもあり、また当然の帰結として、逆に良かったと思うほどです。

さて、肝心の浅川マキの歌なんですが、それはジャズ歌謡というか、ちょいとジャンルを超越した魅力があると思います。

例えば「夜が明けたら」は本人の自作によるアンニュイなムードが横溢した名曲で、4ビートに依存したグルーヴとフルートの彩りが、モロにジャズを感じさせてくれます。さらに蓮っ葉な節回しに女の純情を滲ませるボーカルの表現力は素晴らしいですねぇ~♪

また「かもめ」は変拍子のモダンジャズビートで演じられる歌謡曲メロディが秀逸で、一篇の下世話な物語が繰り広げられる、まさに浅川マキをバックアップしていた寺山修司の「らしさ」が全開したコラポレーションの結晶♪♪~♪

両曲とも、その頃に作られたテレビドラマや映画に使われた事も度々でしたから、誰もが一度は耳にしたことがあるかと思いますが、中でも円谷プロ制作の「恐怖劇場アンバランス」で昭和48(1973)年に放送の第7話「夜が明けたら」は、そのタイトルがズバリですから、浅川マキ本人も出演した傑作になっています。

そして物語の内容も、新宿の雑踏で乱暴されながら、周囲の無関心で不条理な悲劇が……、という展開が、前述したサイケおやじの被害体験と重なっているのも親近感があります。ただし、そこにあった刹那の結末には当然ながら無関係なわけですが、現在ではDVD化もされておりますから、ぜひとも皆様にはご覧いただきとうございます。

ということで、たった1枚のレコードにも、それぞれの思い出が募るというのが、本日の結論です。

特に我国ではシングル盤であってもピクチャースリーブが当然でしたから、その幸せは格別でしょう。

ちなみにジャケ写にあるとおり、リアルタイムの「蠍座」には浅川マキも出演することが多かったようですし、この「夜が明けたら」も、そこでのライプレコーディングを基本に作られていると言われています、

う~ん、それにしても浅川マキの歌は日本語がメインの所為もあり、如何にも昭和40~50年代の都市の猥雑と悲哀が滲んできますねぇ~♪ 何時聴いても、惹きこまれてしまいますよ、本当に!

そして今となっては、一度も浅川マキのライプに接する事が出来なかった自分が恨めしく思えのるでした。

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ソニー・ロリンズの大らかな初心

2011-01-15 16:32:48 | Jazz

Sonny Rollins with The Modern Jazz Quartet,
                                                      Art Blakey, Kenny Drew
(Prestige)

世の中には「天才」と呼ばれる人が数多存在しますが、ソニー・ロリンズはその前に「真の」という修飾語が付けられるジャズミュージシャン!

それはアドリブという瞬間芸が命ともいえる世界において、単にテクニックとか音楽的知識を超えたとしか思えない天性のリズム感や豊かなインスピレーション、また何よりもテナーサックスという楽器を逞しく鳴らすという魅力は絶大です。

そこで本日ご紹介のアルバムは、ソニー・ロリンズが1950年代前半に吹き込んだ初期リーダーセッションを纏めたものですが、随所に未完成な部分は感じられるものの、既にして「ローリン節」と称賛された躍動感と閃きに満ちたスタイルが顕著になっているのは流石に天才の証明でしょう。

☆1953年10月7日録音
 A-1 The Stopper
 A-2 Almost Like Being In Love
 A-3 No More
 A-4 In A Sentimental Mood
 ソニー・ロリンズにとっては3回目の公式リーダーセッションになりますが、ここまでのキャリアの中では1940年代中頃からテナーサックスの巨匠たるコールマン・ホーキンスの薫陶を受け、バド・パウエル、マイルス・デイビス、J.J.ジョンソン等々のレコーディングに参加しては確固たる評価を得ていたので、当時は急速に注目を集めていたモダン・ジャズ・カルテット=MJQとの共演も泰然自若の演奏が繰り広げられています。
 それはソニー・ロリンズ(ts)、ミルト・ジャクソン(vib)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds) という説明不要のメンバーにより、後にハードバップと称される東海岸ジャズ確立期の記録としても、最高のひとつでしょう。
 とにかく冒頭、ソニー・ロリンズが書いた如何にも「らしい」リフ曲の「The Stopper」からして、そのストップタイムを上手く使った躍動感は唯一無二! アップテンポで一糸乱れぬバックアップを展開するMJQの結束力には凄味さえ感じられますし、また同時にミルト・ジャクソンの奔放に暴れるヴァイブラフォンも、決してソニーロリンズに負けていません。
 ですから有名スタンダード曲を豪快にスイングさせた「Almost Like Being In Love」にしても、その基本になっている歌心が、このメンバーならではの素晴らしいジャズセンスで、ある意味では拡大解釈されていくんですが、実はそれこそが最高の瞬間を提供してくれますよ♪♪~♪
 あぁ、こんなに楽しいモダンジャズって!!?!
 このあたりがソニー・ロリンズの真骨頂として、後々まで貫き通される魅力なのでしょう。
 それは再びのオリジナル曲「No More」のストレートなハードバップスタイルとユーモア精神の融合、さらにデューク・エリントンの有名曲「In A Sentimental Mood」における堂々とした歌心の発露にも絶大で、特に後者は同曲の決定的なバージョンとして、モダンジャズでは十指に入るんじゃないでしょうか。ミルト・ジャクソンのアドリブも、まさに珠玉だと思います♪♪~♪
 ちなみに話しは前後しますが、この4曲は当然ながらSPやシングル盤での発売が先にあって、この12吋LPに収録されたのは1956年中頃だと思われますが、アルバム裏ジャケットに「Remastered by Van Gelder」と明記されているのは、所謂「再発」においてもモダンジャズの音作りが如何にして成立していったかを立証するものだと思います。

☆1951年12月12日録音
 A-5 Scoops
 A-6 With A Song In My Heart
 B-1 Newk's Fadeaway
 B-2 Time On My Hands
 B-3 This Love Of Mine
 B-4 Shadrack
 B-5 On A Slow Boat To China
 B-6 Mambo Bounce
 ソニー・ロリンズの公式では2回目のリーダーセッションですが、一般的にはプレスティッジと正式契約を結んだのは、ここからと言われているようです。つまりそれまではワンショット契約だったわけですから、ソニー・ロリンズが業界で完全に認められた成果が記録されているのも当然という、素晴らしい演奏が堪能出来ます。
 しかもソニー・ロリンズ(ts) 以下、参集したメンバーがケニー・ドリュー(p)、パーシー・ヒース(b)、アート・ブレイキー(ds) なんですから、ハードバップな勢いは保証付き!
 ちなみに、このセッションもSP等々で発売された後、LPとして完全に纏められたのは、この12吋盤が最初だと思われますから、やはり再発物の意義を確認したいところでしょう。
 そして肝心の中身は駄演がひとつも無いと断言して、これは絶対に後悔しないほどです。
 特に歌物スタンダードの「With A Song In My Heart」と「On A Slow Boat To China」は、ジャズの歴史本やガイド本では決定的な名演として必ず取り上げられている名演の中の大名演として、サイケおやじも完全KOされるトラックです。とにかく大きなウネリの中で発揮される歌心満点のアドリブとフェイクの妙技は必聴でしょうねぇ~♪ 一瞬、小節単位の曲構成を無視したかのような跳躍的なフレーズが出るスリルは、まさに快感♪♪~♪
 もちろん、そのあたりの独得のノリがセッション全曲で完全披露されていることは言うまでもなく、既にしてファンキーなフィーリングが滲むブルースの「Scoops」、あるいは曲全体を俯瞰したような大きな躍動感が凄すぎる「Newk's Fadeaway」といった自らのオリジナルにおいても、その怯むことないアドリブとアドリブから作り出したようなテーマリフの相関関係は痛快至極です。
 また「Time On My Hands」「This Love Of Mine」「Shadrack」といった、ちょいと地味なスタンダード曲においては、オリジナルメロディよりも素敵なアドリブフレーズが出てしまうんですねぇ~♪ もはやテンポ設定とかコード進行とか、そういう約束事がそのまんま全て、ソニー・ロリンズという音楽になっている感じでしょうか。
 その度量の大きさは、モダンジャズでは理想のひとつだと思います。
 また当然ながらリズム隊の堅実な助演も印象的で、時にはハードエッジなビートで鋭く攻め込み、またある時には膨らみのあるグルーヴを作り出しては、見事に天才をバックアップするですから、この3人も本当に偉大で、殊更「Mambo Bounce」におけるラテンビートとモダンジャズの融合が強靭なハードバップに昇華される展開はお見事! ハードドライヴィグな胡散臭さが実に良い感じです。

☆1951年1月17日録音
 B-7 I Know
 これこそがソニー・ロリンズの最初のリーダーセッションとされる名演で、おそらくはチャーリー・パーカーが十八番にしていた「Confirmation」の変奏なんでしょうが、初っ端からソニー・ロリンズがモロ出しのフレーズを大サービス♪♪~♪ もう全てがアドリブで作られているんでしょうねぇ~♪ 最高ですっ!
 ちなみに有名な伝説になっていますが、この1曲が残されたのはマイルス・デイビスの強い推薦によるものらしく、以前からソニー・ロリンズの才能と実力を高く評価していたマイルス・デイビスが自身のリーダーセッションに参加したソニー・ロリンズをこの機会にレコーディングしてくれるよう、制作者側に頼み込んだ結果だったとか!?
 ですから、メンバーはソニー・ロリンズも含めて、その居残り組がメインのパーシー・ヒース(b) とロイ・ヘインズ(ds) に加え、マイルス・デイビスがピアノで参加しています。
 そして堂々の主役を見事に演じきったソニー・ロリンズは、後の完成されたスタイルからすれば些か未熟な部分をモダンジャズならば許される豪放な味わいに変換させるという、若さゆえの特権で押し切るんですから、やっぱり天才は違います。
 この時、なんと21歳!
 個人的にも非常に好きな演奏です。

ということで、全てが3分前後のトラックばかりなのが物足りないと思う本音もありますが、しかし短い演奏時間であればこその集中力が密度の濃い仕上がりに直結したという結論も導かれるでしょう。

既に述べたように、モダンジャズはアドリブ命ゆえに、下手したら自己満足&ジコチュウな表現に長々と時間を費やすだけの音楽になる危険性もありますから、限られたスペースの中で、どれだけ自分の主張を展開出来るか!?

そうした点もジャズを楽しくする大切な要点かもしれません。

ですから、このアルバムに収められた優れた演奏がソニー・ロリンズの天才性を十分に証明しているのは当然の事であり、ソニー・ロリンズもまた、ここに記録された初心を忘れない姿勢を貫いているのは、皆様が良くご存じのとおり♪♪~♪

その大らかさが、最高の魅力なのでした。

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ドルフィーはやっぱり凄いぜ、大晦日

2010-12-31 15:30:06 | Jazz

Eric Dolphy In Europe, Vol.2 (Prestige)

ついに今年も最終日、本当にアッという間の1年だったという思いではありますが、仕事は掛け持ちでゴッタ煮状態でしたし、これまで気脈を通じていた関係者のリタイアが相次ぎ、さらには終盤の山場では自らが原因不明の病で倒れるという不始末……。

正直、追い込まれた1年でした。

しかし皆様のご厚情に支えられ、中断しつつも、なんとかプログは継続出来ましたし、本サイトの「サイケおやじ館」も更新が停滞しているのに訪問して下さるお客様がいらっしゃるというありがたさは、本当に身に染みて感謝です。

ただし振り返れば、仕事という大義名分によってダーティな事をやっている自分自身に言い訳ばかりだったのも情けない……。

そこで本日はピュアな心意気といえば、この人しか無いというエリック・ドルフィー!

ご紹介のアルバムは単身乗り込んだ欧州でのライプ演奏から作られたもので、アナログ盤としては3枚に分散発売された「イン・ヨーロッパ」シリーズの第2集ですが、以前にご紹介した「Vol.1」同様、物凄いエネルギーとインスピレーションに満ち溢れた傑作になっています。

録音は1961年9月6&8日、メンバーはエリック・ドルフィー(as,fl) 以下、ベント・アクセン(p)、エリック・モーズホルム(b)、ヨルン・エルニフ(ds) という、当時はデンマークを中心に活動していた俊英リズム隊ですから、エリック・ドルフィー本人もアメリカとはちょいと違った味わいがあるリズム&ビートの中で、唯我独尊を貫く名演を披露しています。

A-1 Don't Blame Me
 スタンダード曲を素材に、エリック・ドルフィーが抽象的で夢見るようなフルートを聴かせてくれる演奏ですが、じっくり構えて中盤以降はグルーヴィなノリを構築していくリズム隊とのコンビネーションも侮れません。
 何よりもエリック・ドルフィーの素晴らしい歌心が満喫出来るんですよねぇ~♪
 もちろんミステリアスなムードを滲ませるという十八番の中には、例の跳躍しての急速フレーズも使われていますが、それは決して意味不明なものではなく、モダンジャズ特有のスリルとサスペンスを表現する手段のひとつだと思います。
 そしてリズム隊のナチュラルなフィーリングが、これまた素敵♪♪~♪
 特に重厚な4ビートウォーキングを聴かせてくれるエリック・モーズホルムに対し、若気の至りでしょうか、途中でスティックを落としたりするスットコドッコイなドラミングで、一風変わったノリを叩き出すヨルン・エルニフが憎めません。
 またビバップを欧州的に発展継承させたようなベント・アクセンも印象的ですよ。
 う~ん、まさにアルバムのトップに置かれるだけの名演に偽り無し!

A-2 The Way You Look Tonight
 これまた有名スタンダード曲ではありますが、モダンジャズの慣例どおりとはいえ、恐ろしいまでの急速ビバップでやってしまうエリック・ドルフィー以下、バンドの勢いは最高潮です。
 あぁ、こんな強烈なアルトサックスのアドリブ地獄は、チャーリー・パーカー以降では一番その領域に迫った成果じゃないでしょうか。とにかく瞬時の緩みも感じさせない緊張感と猛烈なエネルギーの発散は尋常ではありません。
 当然ながらジルジルと鳴り続けるエキセントリックな音色と跳躍しては急降下する特有のフレーズ構成は、エリック・ドルフィーの存在証明!
 そして真っ向から逃げない姿勢のリズム隊も実に熱いですねぇ~~♪
 特にヨルン・エルニフのトンパチなドラミングは個人的に高得点! エリック・ドルフィーに対して、ここまで熱血で挑めるのは、まさに若いって素晴らしい~~♪
 ですから続くベント・アクセンのピアノのパートに入っても、ブレイクのストップタイムのスリルが意想外というか、実は私有のステレオ盤は左にアルトサックスとドラムス&ベース、右にピアノと観客の拍手声援というミックスなんですが、そんな泣き分かれの定位が、ここでは素晴らしいスリルの演出に一役買っている気がするほどなので、ここはぜひとも皆様にステレオミックスをお楽しみいただきたいところです。
 ちなみに時折入る素っ頓狂な叫び声(?)は、もしかするとヨルン・エルニフだったら、ますます憎めない奴という感じです。

B-1 Miss Ann (Les)
 幾何学的なテーマメロディはエリック・ドルフィがビバップを意識して書いたものでしょう。それがまたまたの過激なアップテンポで演じられる時、そこには間違無くモダンジャズの神様からの御加護があると感じるのはサイケおやじだけでしょうか。
 ちなみにアルバムジャケットに「Miss Ann」と記載された曲タイトルは、本当のところ「Les」が正解で、それはエリック・ドルフィーの最初のリーダー盤「アウトワード・バウンド(New Jazz)」に、また「Miss Ann」は3作目の「ファー・クライ(New Jazz)」に入っていますので、聴き比べも楽しいわけですが、確かに曲調は似ていますよねぇ。
 ただし、やっぱりライプの現場における熱気は格別なものがありますから、瑣末な事に拘る必要もないでしょう。
 そこでは自らの気持に正直としか思えないエリック・ドルフィーに対し、幾分確信犯的なリズム隊の伴奏、さらにベント・アクセンのアドリブとバンド全体が発散するコンビネーションの攻撃性が、実に心地良い興奮を演出しています。
 う~ん、それにしてもエリック・ドルフィーが吹きまくるアルトサックスの「鳴り」は強靭!
 
B-2 Laura
 これも良く知られたスタンダード曲ではありますが、初っ端から無伴奏で自由自在に空間を浮遊するエリック・ドルフィーのアルトサックスの前には???の気分にさせられるでしょう。
 ところがいよいよ曲メロがフェイクされるパートになると、瞬時に絶妙の和みが提供されるんですから、たまりません!
 しかもそこからナチュラルにアドリブされていく演奏展開の凄さは、その飛躍感とジャズ者にだけ分かってもらえれば、それでOKとでも言いたげな自己満足が十分条件になっていて、サイケおやじは心底、シビれきってしまいますねぇ~♪
 ですからエリック・ドルフィーがリアルタイムで一般大衆を喜ばせるようなヒット演奏も出せず、それゆえに赤貧の生活から抜けだせなかったのも納得する他はないと思うんですが、しかし何よりも必要以上に媚びたり、迎合しなくとも良かったのは、ある意味での幸せじゃないでしょうか。
 もちろんエリック・ドルフィーだって、お金はあれば便利だと思っていたはずでしょうが、しかし残された演奏でしか本人に接しえない大多数のファンにとっては、まさにピュアな宝物を与えられた気持になる事を、天国のエリック・ドルフィーは分かっているに違いありません。

ということで、何度聴いても心が素直に洗われるような、実に素晴らしい演奏集です。

そこには当然ながらジャズ特有のスリルや醍醐味が満載なのは言わずもがな、個人的にはあまり好んでは使いたくない「精神性」という部分も強く感じられます。

ちなみに演奏そのものの録音も、ライプ特有の臨場感があり、また同時にエグ味とエッジの強い感覚が如何にもモダンジャズ! 既に述べたように、私有はステレオ盤なんですが、出来ればオリジナルのモノラル盤も欲しいと願っているアルバムです。

最後になりましたが、本年も最初の頃からジャズモードになかなか入れず、ちょいと自分でも辛苦したのが正直な気持です。

それが最後の最後になって、不思議と自然にジャズを楽しんで聴けるようになったのは、来年に繋がる何かの予兆なのでしょうか。

今年も本当にありがとうございました。

そして来るべき新年も、よろしくお願い致します。

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ライオネル・ハンプトンの物凄いカルテット

2010-12-27 14:53:30 | Jazz

The Lionel Hampton Quratet (Clef)

ジャズのヴァイブラフォン奏者といえばミルト・ジャクソンと並んで最も有名なのが、ライオネル・ハンプトンでしょう。

というよりも、ジャズ史の上では明らかにミルト・ジャクソンを凌駕する存在かもしれません。

しかし活躍していたフィールドがモダン期以前というイメージがあり、またビバッが創成されていた頃、同時多発的に生まれたR&Bというアーバンな黒人大衆音楽の世界へ積極的に進出した事もあり、我国のジャズ喫茶を中心とするイノセントなジャズ者の間ではイマイチの評価だったかもしれません。

もちろんベニー・グッドマンのスモールコンポ、あるいはオールスタアズによる1947年のライプステージから生まれた「Stardust」の大名演、そしてクリフォード・ブラウン(tp) を世に出した因縁のパリ巡業楽団による音源等々は認められているとは思いますが、何故かモダンジャズに真っ向から取り組んだレコードは、日本での発売そのものが些か疎かにされていた事もあり、サイケおやじにしても1970年代後半になって、ようやく馴染んだ感があります。

例えば本日ご紹介のLPはタイトルどおり、カルテット編成の長尺演奏を収めた名盤のひとつなんですが、そのメンバーがライオネル・ハンプトン(vib) 以下、オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、バディ・リッチ(ds) という物凄い面々ですし、録音が1953&1954年というモダンジャズが上昇期であっただけに、それこそ充実の極みというアドリブの至芸が存分に楽しめるのです。

しかも演目が全て、良く知られたメロディのスタンダード曲というのも、嬉しいですねぇ~♪

A-1 Just One Of Those Things (1954年4月12日録音)
 いきなりオスカー・ピーターソンのダイナミックなピアノが強引なイントロを作り出し、続けてスイングしまくったアップテンポでのテーマ変奏がスタートすれば、寄り添うレイ・ブラウンのペースは見事なフォローを展開し、さらにバディ・リッチのブラシがタイトなビートを送り出してくるという、これは素敵な4ビート天国♪♪~♪ もちろん強靭なテクニックで披露される歌心に満ちたアドリブは痛快至極ですから、後を引き継ぐライオネル・ハンプトンも最初っからノリノリですよっ!
 う~ん、この軽快にしてハッピーなフレーズの連続技には、思わずウキウキさせられてしまいますねぇ~♪ 後半で盛り上がるバディ・リッチとの対決も決して意地の張り合いではなく、まさに匠の技の披露宴という感じでしょうか。
 ちなみにライオネル・ハンプトンが演じるヴァイブラフォンはミルト・ジャクソンの余韻を強めた音色とは異なり、実に軽やかで屈託の無いものですから、リズミカルな表現になればなるほど、その魅力と合致するんだと思います。
 そしてカルテットのスピード感が絶対に落ちず、スマートな勢いが最後まで持続していくのは凄いとしか言えません。 

A-2 Stompin' At Savoy (1953年9月2 or 10日録音)
 意外にヘヴィなビートを叩き出すバディ・リッチのブラシがテンポを設定すれば、絶妙なアンサンブルを構築するライオネル・ハンプトンとオスカー・ピーターソン、それを完璧にバックアップするレイ・ブラウンいうテーマ演奏の構図が美しいですねぇ~♪
 それゆえにアドリブパートに移ってからのナチュラルな躍動感は眩しいばかりで、ライオネル・ハンプトンが軽やかな中にも過激な急速フレーズを織り交ぜての歌心優先主義を貫けば、オスカー・ピーターソンがドラムスとベースの共謀を呼び込み、実にドライブ感に満ちた伴奏を披露するという凄さは唯一無二! しかもアドリブパートに至っては、抑え気味にスタートし、そこからグイグイと盛り上げていくという、まさに薬籠中の名演ですよ♪♪~♪
 あぁ、これに生で接していたら、発狂悶絶は必至でしょうねぇ~♪
 後半から終盤にかけてのバンドアンサンブルもメンバー各々の個人技を主体に、最高の極みだと思います。

B-1 How High The Moon (1954年4月12日録音)
 これまたアップテンポで繰り広げられる快演で、そのスタイルは所謂中間派とかモダンスイングに分類されるものかもしれませんが、レイ・ブラウンのペースは明らかにビバップを発展継承させていますし、そんな云々に拘る必要も無いほど、この名人カルテットの技量と音楽的センスは圧巻!
 バンド編成から、どうしてもミルト・ジャクソンが在籍していたモダン・ジャズ・カルテット=MJQとの比較は避けられないところでしょうが、少なくとも演奏のドライブ感やアドリブの瞬間芸の濃さは、完全にこちらが上でしょうねぇ。
 もちろん、そんな比較なんて、最初から意味が無いことは言うまでもありませんが、それはやっぱりジャズ者の哀しい宿業……。
 閑話休題。
 ヴァイブラフォンとピアノのガチンコ対決も強烈ですが、個人的には終盤で完全にバンドをリードしていくバディ・リッチのドラミングに熱くさせられます。凄過ぎっ!!!

B-2 The Nearness Of You (1953年9月2 or 10日録音)
 お馴染みの優しいメロディが余裕綽々で演じられる時、前曲での興奮と熱狂が絶妙の余韻を残しつつクールダウンさせられるわけですが、流石にセッションの仕切りとアルバム構成をプロデュースしたノーマン・グランツは分かっています♪♪~♪
 もちろん参加したメンバーにしても、おそらくは選曲から演奏のアレンジも含めて、現場優先主義を貫いていたのでしょうから、余計な思惑なんかあろうはずもなく、それは純粋にスイングして、充実のアドリブを披露することに全身全霊を傾けた結果だと思いますが、やはり心置きなく演奏に集中出来る環境は、どんな名人にも必要だと思いますねぇ。
 肝心の仕上がりは、スローテンポの中でダブルタイムも駆使するライオネル・ハンプトンのアドリブが目立ちますが、しかし同時に上手いフェイクでリードするテーマ演奏の和み感は絶品ですし、如何にも「らしい」オスカー・ピーターソのピアノも、その手数の多さがイヤミになっていません。

ということで、物凄いジャズが楽しめるアルバムです。

しかし、これはクレフ~ヴァーヴというレコード会社の賛否両論の特質なんですが、オールスタアセッションというプロデュース方針の所為でしょうか、一気呵成な大量録音と発売にあたってのオリジナルと再発の不統一がファンにとっては泣きの涙……。

個人的にも、ハンプトン&ピーターソン物では最初に買ったがこのアルバムとはいえ、実は当時から売り場には同じメンツによる似たような選曲のアルバムが幾つも並んでいて、完全に???の気分でした。

まあ、その時は親切な中古屋の店主からアドバイスされ、これを入手した経緯が結果オーライだったんですが、後に所謂ディスコグラフィーなんていう資料をみると、確かに演目の重複や再発における収録曲の組み換えが、レコードジャケットのデザイン変更共々、相当にあるんですよねぇ……。

しかし現在ではCDによる集大成5枚組セットも出ていますから、そこから楽しまれるのも王道かと思います。

ただし、これも音楽好き人間の宿業とでも申しましょうか、結局はアナログ盤LPが欲しくなってしまう気持も否定出来ません。

実際、サイケおやじは完全に後追いではありますが、良い出会いがあれば、このあたりをボチボチと集めているのでした。

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もっと聴きたいジャズテットのライブ

2010-12-20 15:16:01 | Jazz

The Jazztet At Birdhouse (Argo)

1960年前後のモダンジャズで、ひとつの主流となったのが、所謂三管編成だったと言われていますが、実際、当時のトップバンドだったジャズメッセンジャーズにしろ、またマイルス・デイビスのバンドにしても、フロントの管楽器奏者が3名という豪華なメンツの集合が、今日でも魅力的なのは確かです。

しかし三管編成の本来の目的は、そこから醸し出されるハーモニーの美しさと繰り出されるリフのカッコ良さも、また然りだった事は、後追いで聴くそうした諸作で充分に納得されますし、特に三管編成を大きく広めたベニー・ゴルソンが率いるジャズテットこそ、その魅力を満喫出来るバンドだと思います。

そこで本日ご紹介の1枚は、1962年頃に発売されたライプアルバムで、おそらくジャズテットでは4作目となる人気盤♪♪~♪

録音は1961年5月、シカゴにあったとされるバードハウスという店でのギクから作られていますが、メンバーはアート・ファーマー(tp,flh)、トム・マッキントッシュ(tb,arr)、ベニー・ゴルソン(ts,arr)、シダー・ウォルトン(p)、トーマス・ウィリアムス(b)、アルバート・ヒース(ds) という当時のレギュラーグループだけあって、流石に纏まりのある熱演が楽しめます。

A-1 Junction
 いきなりムード満点のファンキー節はベニー・ゴルソンが書いたものですが、もちろん十八番の所謂ゴルソンハーモニーが存分に楽しめる、実にゴキゲンな名演です。そしてシャープでグルーヴィなリズム隊共々、バンドの意思が統一されたノリは素晴らしい限り♪♪~♪
 さらにベニー・ゴルソン、アート・ファーマーと続くアドリブパートのバックで炸裂するリフのカッコ良さも特筆物でしょう。しかも、これはサイケおやじの独断と偏見かもしれませんが、ベニー・ゴルソンにしろ、アート・ファーマーにしろ、最初っから把握しているアレンジの妙を活かしたアドリブフレーズを吹いているような、つまりはちょいと出来過ぎという感も正直あるんですが、それは最高にスリリングで心地良いという、モダンジャズの楽しみに他ならないと思います。
 ちなみに収録されたトラックは、幾分の編集疑惑もあるんですが、これだけの仕上がりならば、結果オーライでしょうねぇ~♪

A-2 Farmer's Market
 1950年代からアート・ファーマーが書いたオリジナルのビバップ曲として有名な十八番なんですが、ここでも痛烈なアップテンポで爆走するジャズテットの熱演が快感! イントロからのユニゾンリフにビシッとキマッたリズム隊のラテン&4ビートが凄いですねぇ~♪
 そしてアドリブパートでは、先発するベニー・ゴルソンのモリモリ吹きまくるテナーサックスが鬱陶しさギリギリのラインで迫るの対し、熱演ながらも爽やかさが滲むアート・ファーマーのトランペットが良い感じ♪♪~♪
 う~ん、このスピード感は並みのバンドでは出せないでしょうねぇ~♪
 演奏はこの後、アルバート・ヒースのドラムソロから、これまた実にカッコ良いセカンドリフへと続き、さらにシダー・ウォルトンのスマートにドライブするピアノが飛び出せば、もう、辺りはハードバップの熱気で満たされるばかりですよっ!

A-3 Darn That Dream
 そこはかとない哀愁が魅力のスタンダード曲をアート・ファーマーがハートウォームに吹奏するという、如何にもの演出展開が安心感と安らぎを与えてくれます。
 こごては、おそらくフリューゲルホーンを吹いているんでしょうか?
 ソフトな情感が滲む、アート・ファーマー特有のメロディフェイクにジャストミートの音色が、バックを彩るゴルソンハーモニー共々にジャズテットの魅力を如実に表していると思います。
 しかし、こうした方針を「緩い」と感じるジャズ者が存在することも確かでしょう。
 それでもシダー・ウォルトンが地味な名演とでも申しましょうか、爽冷なムードのイントロや絶妙の伴奏、それに寄り添うトーマス・ウィリアムスのベースワーク、そしてダレ無いビートを供給するアルバート・ヒースのドラミングといったリズム隊の動きを中心に聴いてみると、中盤からのテンポアップ等々が実に緻密な纏まりになっていることにハッとさせられるんですねぇ~♪
 まあ、このあたりはサイケおやじの独断だと自嘲するところでもありますが、やっぱり惹きつけられる名演だと確信しています。

B-1 Shutterbug
 さて、B面トッフに収められたのは幾分モード調で演じられるアップテンポのハードバップなんですが、作曲がJ.J.ジョンソンというのがミソでしょうか。というのも、この時期の作者も自らのバンドを三管に増強し、さらに中~大編成のアレンジを使ったレコーディングを積極的に行っていたのですから、ジャズテットのライバルという側面もあったんじゃないかと思います。
 ただし、原盤裏解説によれば、J.J.ジョンソン本人がジャズテットに編曲共々提供したという事らしいので、それに応える立場のバンドも気が抜けないところでしょう。
 そして実際、タイトなテーマサンプルから、しぶといキメを織り交ぜながら得意のアドリブフレーズを連発するアート・ファーマー、煮え切らない音色でウネウネブリブリに吹きまくるベニー・ゴルソン、そして短いドラムスのブレイクからラストテーマに入っていく強烈な演奏が繰り広げられますから、たまりませんねぇ~♪
 個人的にはマイルス・デイビスの「Milestones」にちょいと似ているテーマメロディも、好きです。

B-2 'Round Midnight
 これまた収録曲中ではジャズ者が多いに気になる演目じゃないでしょうか。なにしろモダンジャズではマイルス・デイビスの決定的な名演がありますから、それを当然の如く主役を演じるアート・ファーマーが、どの様に聞かせてくれるのか? はたまたベニー・ゴルソンのアレンジはっ!?
 結論から言えば、これも名演といって過言ではないでしょう。
 ちょっと衝撃的なイントロの一発から白夜のムードで丁寧にメロディ吹奏を演じるアート・ファーマー、中間部でサブトーンを聞かせるベニー・ゴルソンの雰囲気作りもイヤミがありませんし、後半のアンサンブルから意表突いたアドリブパートのスタートも、やはりジャズテット本来の持ち味かと思います。
 ただしマイルス・デイビスのバージョンで活躍していたジョン・コルトレーンのイメージが強いことも確かですから、ベニー・ゴルソンの個性が丸出しになっているモゴモゴしたアドリブには好き嫌いがあるかもしれません。
 しかし続くアート・ファーマーが、クールでハードボイルド、それでいて優しいという、ほとんどフィリッブ・マーロウを想起させる仮想名演を披露しているのは、なんと申しましょうか……。
 その意味で続くシダー・ウォルトンの小粋なピアノが、トーマス・ウィリアムスのペース共々、耳に残ります。

B-3 November Afternoon
 そしてオーラスは、ここまでハーモニー要員としてしか目立った活躍の無かったトム・マッキントッシュのオリジナル! これがなかなかに味わい深い名曲名演になっています。
 まず幾分幾何学的なイントロから静謐なムードが滲むテーマメロディの爽快感が、良いですねぇ~♪ アップテンポながら自然とヘヴィで力強いビートが醸し出されていくのも、この曲の持つ魅力のひとつじゃないでしょうか。
 もちろんゴルソンハーモニーも冴えまくり♪♪~♪
 ですからアドリブパートに入ると、いきなりアート・ファーマーのナチュラルな歌心が全開ですし ここで唯一無二の個性と言って許される音色と完全にリンクしたフレーズの構成力は最高だと思います。
 そして、お待たせしました、いよいよ登場する作者のトロンボーンが、これまた侮れない味わいを聞かせてくれますよ。う~ん、短いのが残念っ! ただし続くベニー・ゴルソンのアドリブが、なかなか良いんで、まあ、いいか♪♪~♪

ということで、LP1枚分しか聴けないのが勿体無いほどの名演集になっています。

既に述べたように、個人的には各トラックに編集疑惑を感じますから、もしも切り取られたアドリブソロがあるのなら、それらを復刻し、また同じ時にレコーディングされた残りの演奏も入れた再発CDが出ないかなぁ~、と切望するほどです。

それとアナログ盤で聴くかぎり、少しばかりベースとピアノの存在感が薄い録音が改善されれば、もっと最高になると思いますが、まあ、それはそれとして、とにかく素敵なモダンジャズが楽しめることに間違いはありません。

ジャズテット、そしてベニー・ゴルソンが主導するモダンジャズは、個人的にはソフトパップという感じがしているのですが、ライプの現場ではたっぷりとハードバップしていますし、それを彩る柔らかなゴルソンハーモニーの魅力も、決して失われていません。

ですから、このアルバムそのものは、名盤ガイド本に登場するような事も無いと思いますが、極めてモダンジャズの良かった時代を記録した1枚として愛聴されているんじゃないでしょうか。

繰り返しますが、完全版を望んでいます。

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ブルーノートのクラーク=ボラン

2010-12-17 15:47:29 | Jazz

The Golden 8 / Kenny Clarke - Fancny Boland (Blue Note)

ジャズにおけるオールスタアズと言えば、ジャムセッションが一番に相場でしょうが、もうひとつ侮れないのがフルバン、つまりジャズオーケストラでしょう。

例えばデューク・エリントンやカウント・ベイシーあたりの有名楽団ともなれば、そこに参集しているメンバーはリーダーセッションを持っている者がほとんどですし、あるいはスタジオの仕事ではファーストコールの腕利きが当たり前というのが現状でした。

そして欧州では、クラーク=ボラン楽団にジャズ者が大注目!

バンド名が物語るように、リーダー格はモダンジャズを創成した偉大なドラマーのひとりであるケニー・クラーク、そして当時は新進気鋭の作編曲家であり、硬派なピアニストでもあったフランシー・ボランなんですが、とにかく2人が一緒に活動する中~大編成の楽団を運営するにあたっては、欧州の有力興行師だったジジ・カンピの尽力があったと言われています。

で、その最初の成果となったのが、ダスコ・ゴイコビッチのリーダー盤らしいのですが、そのレコーディングが1961年2月であり、次に有名なのが、本日ご紹介のアルバムセッションです。

しかも発売がアメリカの名門レーベル! ブルーノートなんですから、如何に当時から注目されていた実力派バンドだったか、一切無用に知れようというものです。

録音は1961年5月18&19日、メンバーはダスコ・ゴイコビッチ(tp)、レイモンド・ドロス(alto-horn)、クリス・ケレンズ(baritone-hone)、デレク・ハンブル(as)、カール・ドレボ(ts)、フランシー・ボラン(p,arr)、ジミー・ウッド(b)、ケニー・クラーク(ds,per) という、今ではお馴染みの面々も、当時は世界的に無名の達人プレイヤーも含む8人編成ですから、そのものズバリのアルバムタイトルを眩しく感じますねぇ~♪

A-1 La Campimania
 前述したダスコ・ゴイコビッチのリーダー盤でも初っ端に収められ、またクラーク=ボラン楽団としても、以降は十八番となる景気の良いハードバップ! しかも約3ヵ月前にやったダスコ・ゴイコビッチのセッションよりも、グッとテンポアップし、さらにシャープなドライヴ感が増した演奏は、このバンドの充実を証明するものでしょう。
 アドリブパートはダークな質感も好ましいクリス・ドレボのタフテナー、硬質なタッチで妥協しないフランシー・ボランのピアノ、ツッコミが激しいジミー・ウッドのペースからケニー・クラークのドラムソロと続きますが、要所を彩るシンプルなリフを基調としたバンドアンサンブルの如何にもジャズ的に楽しさが、一番の魅力じゃないでしょうか。
 個人的にはイントロからビバップ魂を感じさせるケニー・クラークのシンバルワークにシビレます♪♪~♪

A-2 Gloria
 クリス・ドレボを主役としたスローな演奏で、曲はスタンダートらしいのですが、そのメロディの思わせぶりな吹きっぷりとサブトーンを交えた音色は、まさにテナーサックスの魅力がいっぱい♪♪~♪
 もちろんハードバップ本来の黒っぽい雰囲気とソフトな情感のバランスも秀逸ですから、サイケおやじは初めて聴いた瞬間から、その当時は日本で知られていなかったクリス・ドレボの大ファンになりましたですね。

A-3 High Notes
 いきなりジミー・ウッドのベースがテーマらしきリフを弾き出し、アップテンポでスタートするハードバップなんですが、お待たせしました! ようやく登場するのがダスコ・ゴイコビッチのクールで熱いトランペットということで、辺りはすっかりマイルス・デイビス!? いゃ~、これが実にジャズ者の琴線に触れまくりなんですよねぇ~♪
 ケニー・クラークのシンバルワークも素敵ですから、往年のプレスティッジセッションを想起させられますが、バックから煽るリフのシャープなフィーリングは、明らかに1960年代じゃないでしょうか。
 本当に短いのが勿体無い!

A-4 Softly As In A Morning Sunrise
 これはお馴染みのスタンダードメロデイということで、アレンジもウリのバンドが、どのような演奏を繰り広げるのかという興味は深々でしょう。
 そして結果はクリス・ケレンズのバリトンホーンとレイモンド・ドロスのアルトホーンによる、歌心満点のアドリブ合戦が存分に堪能出来る仕上がりなんですよ♪♪~♪
 ちなみにバリトンホーンやアルトホーンが、一体どんな形態の楽器かは知らないんですが、トロンボーンのような柔らかで重厚な音を出しますから、アンサンブルでの膨らみのある色彩や豊かなハーモニーを作り出すには最適なんでしょうが、やはり2人の実力者ゆえにアドリブの素晴らしさも特筆ものでした。

A-5 The Golden Eight
 アルバムタイトル曲は急速4ビートのハードバップ!
 そしてデレク・ハンブル、ダスコ・ゴイコビッチ、クリス・ドレボと続くアドリブの激しい楽しさが、たまりませんねぇ~♪ もちろんバンドアンサンブルの迫力も素晴らしく、ビシッとキマッた演奏をさらにドライヴさせるリズム隊の意外にクールな姿勢も高得点だと思います。

B-1 Strange Meeting
 モードと循環コードの折衷みたいな曲ですが、初っ端からケニー・クラークのブラシをメインにアップテンポでブッ飛ばす演奏は痛快! そして当然ながら、こういうスタイルではダスコ・ゴイコビッチが良い味出しまくりですよ♪♪~♪
 マイルスもどき、大歓迎!!
 要所を締めるフランシー・ボランのピアノも好ましいかぎりです。

B-2 You'd Be So Nice To Come Home To
 ジャズ者ならば、このアルバム中で最も期待してしまうであろう、これが有名スタンダード曲の決定版! 告白すれば、サイケおやじはダスコ・ゴイコビッチがミュートで演じてくれる事を願ったのですが……。
 結果はフランシー・ボランのピアノをメインにした、ちょいとクールな哀愁演奏です。
 しかし、これが所謂トリスターノ派の流れをハードバップで解釈したようなスタイルで、侮れません。
 そして中盤から熱くプローするクリス・ドレボ、さらにダスコ・ゴイコビッチがリードするブラスアンサンブルとベースの掛け合いという展開は、意外なほど熱いんですよねぇ~♪
 う~ん、これはこれで、モダンジャズでは数多い同曲の名演のひとつかもしれませんねぇ~♪ スッキリしたミディアムテンポのスイング感も素敵だと思います。

B-3 Dorian
 そして始まるラテンタッチのハードバップは、所謂エキゾチックな味わいとして、ハリウッド映画のサントラ音源のようでもありますが、各プレイヤーが演じるアドリブパートの充実は特筆されるでしょう。
 中でもダスコ・ゴイコビッチが例によってマイルス・デイビスの味わいを追求すれば、バックではフランシー・ボランがハービー・ハンコックをやってしまう、この茶目っ気にはニヤリとさせられますよ。
 またデレク・ハンブルが演じるフィル・ウッズ~キャノンボール・アダレイの路線は、継承杯に一歩手前の敢闘賞! またまたサイケおやじの好むところです。

B-4 Poor Butterfly
 これも素敵なメロディの人気スタンダード曲ですから、クリス・ケレンズのバリトンホーンがトロンボーンよりも、さらにソフトな音色で演じてくれれば、身も心も素直に委ねるしかないでしょう。
 バックを彩るアレンジも控えめながら、しっかりツボを押さえていますし、中盤から歌いまくりのアドリブを披露するデレク・ハンブルも、熱くて良いんですよねぇ~♪

B-5 Basse Cuite
 ジミー・ウッドのペースがリードするハードボイルドなテーマから、実にクールでカッコ良すぎるトランペットはマイルス・デイビスじゃなくて、ダスコ・ゴイコビッチが十八番のフレーズを連発です♪♪~♪
 あぁ、これを待っていたんですよねぇ~♪
 何度聴いても、シビレが止まりません♪♪~♪
 そしてビバップ丸出しのデレク・ハンブルがチャーリー・パーカーに捧げる熱血アルトを披露するあたりも、まさに黄金のモダンジャズでしょう。
 不安感を増幅させるようなホーンアンサンブルは、ヨーロッパ風の翳りといった感じかもしれません。

ということで、今日では欧州派の名演集として決定的なアルバムになっているんですが、実はブルーノート正統派のファンからは異端の1枚として、些か白眼視されていたようです。

それは如何にもブルーノートらしいドロドロしたアングラ風情、あるいはギラギラしたコッテリ感が無いからで、それを欧州らしいスマートなフィーリングと解釈すれば、実は本場物とは違うところが偽物とは言わないまでも……。

しかし1970年代になって、ダスコ・ゴイコビッチの人気が急上昇するにつれ、またクラーク=ボランのオーケストラが学生バンドを中心に崇拝される流れがあれば、この隠れ名盤にも光が当たろうというものです。

実はサイケおやじにしても、これを聴きたいと願ったのは、ダスコ・ゴイコビッチの存在ゆえでした。

そして結果はカール・ドレボという、新しい宝石を発見し、また欧州モダンジャズの凄さに目覚めたというわけです。

ちなみに中編成でのアンサンブルとモダンジャズとしての存在意義を鑑みれば、ウエストコースト派の演奏、あるいは黒人系ならばベニー・ゴルソンあたりのソフトパップをイメージしてしまいますが、フランシー・ボランのアレンジは、その何れとも異なるシャープさと彩りの豊かさ、そしてヘヴィなドライヴ感があります。

それは既にグループがダンス用の営業よりも、鑑賞としてのモダンジャズを優先させた意識の表れだと思いますし、ほとんどの曲を書き、またアレンジを施したフランシー・ボランの先端的アイディアの発露といって過言ではないでしょう。

実はクラーク=ボラン楽団の映像作品を観て、殊更に実感したのですが、フランシー・ボランは思いっきり愛想の無い人で、それがまた、やっている音楽にジャストミートしている気がしたほどです。

またセッションのプロデュースにはブルーノート本社のアルフレッド・ライオン、あるいはフランシス・ウルフは関わっておらず、前述した興行師のジジ・カンピの仕切りにより、レコーディングエンジニアも現地のスタジオ関係者と思われますが、それでもきっちりと「ブルーノートの音」のイメージを保っているのは、カッティングマスターを作る仕事はヴァン・ゲルダーがやった所為でしょう。

個人的には何時までも飽きないアルバムです。

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