goo blog サービス終了のお知らせ 

OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

コルトレーンはタイムマシンか?

2010-12-15 16:01:17 | Jazz

John Coltrane Complete Live In Stuttgart 1963 (Domino = CD)

常日頃の鑑賞生活において、サイケおやじは「Complete」、そして「previously unissued」という言葉に弱いです。

そこで本日ご紹介は、そのふたつの条件を充分に満たす、これが素晴らしい発掘音源♪♪~♪

主役のジョン・コルトレーンは説明不要、ジャズの偉人として、時には神様扱いも当然という部分は、サイケおやじも含めて、1970年代までのジャズ喫茶を体験された皆様であれば、納得される真実だろうと思います。

決定的だったのは、所謂黄金のカルテットによる1960年代前半の演奏が、猛烈にして過激! しかし同時にヘヴィな精神性が醸し出す静謐なムードが、たまらない安らぎに結びつくという、今もって論理的な解明は不可能と思われる事象は、これがジャズ者の宿業かもしれない快感なんですねぇ~♪

そして殊更に実感されるのが残されたライプ音源の数々で、もちろん中にはプライベート録音による劣悪な音質ソースもありますが、熱烈なファンならずとも、全てを聴いておきたいという欲求は満たされることがないのです。

で、これは最近出た2枚組CDで、件のカルテットが上昇期だった1963年11月の欧州巡業から、ドイツはシュトゥットガルトでのステージを収めたものですが、以前からそれなりの高音質が評価され、加えて安定した演奏が楽しめるという優れものでした。

それが今回、さらに未発表だった音源を追加し、タイトルを信ずるならば、当日のステージが完全版となった嬉しい復刻! しかも新たなリマスターも行われているようです。

☆1963年11月4日、ドイツのシュトゥットガルトで録音
 CD-1 01 The Promise
 CD-1 02 Afro Blue
 CD-1 03 I Want To Talk About You
 CD-1 04 Impressions (previously unissued)
 CD-2 01 My Favorite Things
 CD-2 02 Every Time We Say Goodbye
 CD-2 03 Mr. P.C. (previously unissued)
 上記演目は既に黄金のカルテットでは定番中の人気曲ばかりですが、流石にジョン・コルトーン(ts,ss) 以下、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) の4人が充実期とあって、全篇にテンションの高い演奏が繰り広げられています。
 しかも無暗矢鱈に激しいばかりのフリー的な部分は意外と少なく、初っ端からの「The Promise」や「Afro Blue」ではソプラノサックスを吹きまくるジョン・コルトレーンが、どんなにエルビン・ジョーンズに煽られようとも、自己のペースを崩さず、逆にバンドとしての纏まりを尊重する姿勢を感じさせるのは、この時期にしては珍しい事かもしれません。
 ですからお馴染みのパラード演奏「I Want To Talk About You」では、歌心優先主義のメロディフェイクが冴えまくり♪♪~♪ もちろんそれは手抜きなんかじゃなくて、過激な方向へ進もうとするリズム隊を牽制しつつ、自らの情熱の赴くままに吹いてしまった結果としての名演と言っては、贔屓の引き倒しでしょうか。
 ここからはあくまでもサイケおやじの根拠の無い推論ですが、どちらかといえば保守的な観客も多い欧州巡業という事情も考慮した演奏だったのかもしれませんし、そう思ってしまえば、例によって最終パートで聞かせる無伴奏アドリブソロの纏まりの良さも納得出来ます。
 ところが、その反動というか、今回が初登場とされる「Impressions」が凄まじい限り!
 もう、タガが外れたかのように暴走するリズム隊は言わずもがな、スピード違反のマッコイ・タイナーにオドロのベースソロを演じるジミー・ギャリソン、そして果敢にもジョン・コルトレーンに喧嘩を売ってしまうエルビン・ジョーンズの3人は、決して若気の至りとは言えない心意気!
 そしていよいよ登場するジョン・コルトレーンが、エキセントリックなフレーズとビート無視の爆裂ソロをやってしまえば、そこは地獄のジャズ道場! これを苦痛に感じるか、あるい快感悶絶とするかによって、自らの立ち位置が決まるほどだと思います。
 う~ん、やるだけやって、何事なかったかのようにラストテーマを吹いてしまうジョン・コルトレーンの白々しさが、たまりませんよ♪♪~♪ まさに熱気の28分36秒!?!
 となれば、続く「My Favorite Things」に安らぎを覚えてしまうのも、これがジャズ者ならではの学習効果であり、思えばこういう演奏をジャズ喫茶で聞いては、居眠りモードに入っていった若い頃の自分を回想したりしますねぇ~♪ まさにハブロフの犬!?
 しかし心優しいメロディが心に染みる「Every Time We Say Goodbye」では、ジョン・コルトレーンの意図的とも勘繰れる、ある種のハグラカシがイナタイ! マッコイ・タイナーの綺麗なピアノタッチも眩しいほどですが、なんとなくドラムスとベースが……。
 こうして迎える大団円が、なんと35分37秒もやってしまう「Mr. P.C.」で、これもまた今回が初出とされる音源!! 正直、メッチャメチャに疲れますよ、真っ向勝負で聴いていたら!!! なにしろピアノ~ベース~ドラムスと続く地獄のアドリブパートが終了し、ジョン・コルトレーンが登場するのは17分30秒を過ぎてからというだけで、ヤバイでしょう~~~。
 ちなみに音質は、この手のソースの中では全体に良好で、もちろん最近のブートのような超高音質ではありませんが、何の問題も無く聴けるレベルですし、一般的に当時の同系音源に顕著だった弱いピアノの存在感が、ここでは前に出たミックスになっているのが、最高に嬉しいですねぇ~♪
 まあ、欲を言えば、もう少しドラムスの音圧が欲しかったところですが、それは危険な贅沢でしょう。もし、そうなっていたら、聴いているうちに発狂は間違いないでしょうから!?

☆1963年11月1日、フランスのパリで録音
 CD-2 04 Chasin' The Trane (previously unissued)
 これはボーナストラックで、シュトゥットガルトに先立つパリでの録音らしく、ちょいと音質は落ちますが、この熱演の前には、それほど気になることも無いと思います。
 その意味で、5分半ほどの演奏が短くて、物足りないかもしれませんねぇ。

ということで、鑑賞には相当の体力が要求されるブツではありますが、こういう心地良い疲れっていうのも、時には必要でしょう。と言うよりも、こうした汗と熱気を感じることが、若かった頃の自分を取り戻す一瞬として貴重なのかもしれません。

今のお若い皆様には、どのように聴こえるのかは知る由もありませんが、これが確かにジャズの真髄だった時代がありました。

う~ん、あの日へ帰りたい!

これは、そう思う心へのタイムマシンなんでしょうか。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

レイ・ブライアントの復活と安逸

2010-11-21 14:29:59 | Jazz

■Here's Ray Bryant (Pablo)

モダンジャズの4ビートが全盛だったの、おそらく1950年代だったでしょうが、実は一番に待望され、もてはやされたのは1970年代後半だったように思います。

何故ならば当時はフュージョンが大ブームで、ジャズ喫茶といえども16ビートやチャカポコリズムを鳴らさなければ、営業が成り立たない状況でした。もちろんお客さんも、そういうホイホイミュージックが好きだったわけですが、しかし同時に時たま入荷する本物の4ビート作品には、その内容以上の期待と評価をしていた実態がありました。

ですから、はっきり言えば4ビートをやっているだけの事なかれ主義に満ちた保守的な演奏集でさえ、それが名盤や人気盤となる可能性が大きかった時代の中で、確かな本物こそが求められる厳しさもあったという、ちょいとした矛盾も……。

例えば、本日ご紹介の1枚は、その最たるものでしょう。

主役のレイ・ブライアントはご存じ、ハードバップ全盛期の1950年代から優れたリーダー作品やキラリと光るサポートの名演を数多く残し、さらに1960年代に入ってからは、所謂ソウルジャズ系のヒット盤も売りまくった実績のある人気ピアニストながら、ジャズ者が常に求めるのは持ち前のブルージーなフィーリングに満ちた、黒光りするような正統派モダンジャズでした。

それは1972年に残されたソロピアノのライプ盤「アローン・アット・モントゥルー(Atlantic)」がジャズ喫茶の人気盤となり、またモダンジャズの定番アルバムと成り得た現実が証明しているわけですが、そこから幾分のブランクがあって世に出たこのLPこそが、待望久しいピアノトリオ作品なっていたのは、それだけで実に嬉しい出来事でした。

録音は1976年1月10&12日、メンバーはレイ・ブライアント(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、グラディ・テイト(ds) という、なかなか味わい深い実力者が揃っています。

A-1 Girl Talk
 ジャズファンにはお馴染みという和みのメロディが、レイ・ブライアントならではのピアノタッチで、それこそ何気なく無伴奏で流れてくる瞬間こそが至福の喜び♪♪~♪ 実際、フュージョンビートに満たされていた当時のジャズ喫茶で、これが鳴り始める時のホッとした瞬間の心地良さは、今でも忘れられない記憶になっています。
 そして演奏はベースドラムスを呼び込んで、まさにグルーヴィに展開されるという王道の楽しみが横溢するんですが、殊更時代を意識する事の無い自然体が、本当に良い感じですねぇ~♪

A-2 Good Morning Heartache
 これまた歌物スタンダードとして人気のメロディとあって、レイ・ブライアントが十八番の粋なフェイクが堪能出来る仕上がりです。それはスローなテンポに決して流されないテンションの高さを貫ける、あの強いピアノタッチとブルージーなフィーリングのバランスの良さでしょう。
 そしてトリオによる演奏は徐々にグルーヴィなノリを醸し出し、終盤になって、再びナチュラルに哀切の世界に収斂していくという流れは、まさに味わい深いと思います。

A-3 Manteca
 駆け出し時代のボスだってディジー・ガレスピーが作ったラテンジャズの名曲ですから、同じフィーリングを共有するレイ・ブライアントには得意技を完全披露出来る演目なのでしょう。ガッツ~ンとやってしまう左手のコードワークと歯切れの良い右手のメロディラインは、絶品のコンビネーションが冴えまくり! 本当に痛快です。
 また相当にアグレッシヴなジョージ・デュヴィヴィエのペースはアドリブも強烈至極ですし、グラディ・テイトのドラミングもツボを外さない流石のワザを存分に披露しています。

A-4 When Sunny Gets Blue
 そしてA面ラストに配置されたのが、このブルーなムードが満点という歌物なんですから、本当にこのアルバムの選曲は、たまりません♪♪~♪ もちろんレイ・ブライアントのピアノは、スタートからの無伴奏ソロで十八番のフェイクの上手さを納得するまで聞かせてくれますよ。
 う~ん、両手を充分に使った繊細で豪胆なプレイは、本当に素晴らしい!
 ですから、ベースとドラムスが加わってからのパートも、同じムードでの歌心が横溢し、見事な大団円に導くという流れも、決してマンネリでは無い真剣さがリアルてす。

B-1 Hold Back Mon
 レイ・ブライアントが書いた楽しいオリジナル曲で、それはゴスペルメロディでありながら、バックのリズムはボサロックという快楽主義が琴線に触れまくり♪♪~♪ そして当然ながらトリオは軽いタッチで演奏を進行させていきます。
 しかし、そんな中でもジョージ・デュヴィヴィエのペースが相当にガチンコなアドリブを演じてしまうのは、正統派モダンジャズが、まだまだ健在という証でしょうねぇ~。そんな事をリアルタイムで思っていたサイケおやじは、今でも頑固な気持で聴いてしまいます。

B-2 Li'l Darlin'
 A面ド頭の「Girl Talk」と同じく、ニール・へフティが書いた和みのメロディはジャズ者が大好きな世界でしょう。何んと言ってもカウント。ベイシー楽団の超スローテンポのバージョンが一番有名ですよねぇ~♪
 それをレイ・ブライアントが、どのように聴かせてくれるのか?
 そこに興味が深々というファンの気持を裏切らないグルーヴィな仕上がりはニクイばかりです。特にハキハキとしたピアノタッチで粘っこくスイングしていくアドリブパートの気持良さは、なかなか絶品! 同時に淡々としたベースとドラムスの存在が逆に強く感じられるのは、モダンジャズの面白さのひとつじゃないでしょうか。

B-3 Cold Turkey
 レイ・ブライアントのオリジナルヒット曲のひとつで、軽快なブルースプレイが、ここでも楽しめますが、アップテンポの流れの中で特に気負う事の無いトリオの姿勢は、ベテランの域に入ったミュージシャンだけが醸し出せる味わいかもしれません。
 しかし、それをマンネリと感じるか否かは、時代との折り合いもありますが、レイ・ブライアントが長年貫いてきた激しくも楽しいジャズの本質に触れることで、自ずと答えがでるんじゃないでしょうか。
 とにかく軽快にスイングし、気持良いほどキメまくりの構成に抜かりはありません。

B-4 Prayer song
 さて、オーラスはゴスペル風味の哀愁が滲み出た、これぞっ、レイ・ブライアントというオリジナル曲♪♪~♪ 覚え易いメロディと弾みの強いリズムのコンビネーションがアドリブパートに入ると、ますますイキイキしていく展開が楽し過ぎます♪♪~♪
 う~ん、ファンキ~♪
 本当にウキウキされられます♪♪~♪

ということで、選曲が良く、もちろん演奏もきっちり纏まった、実にピアノトリオの人気盤の条件を満たしたアルバムだと思います。

しかし同時代には先進性が無いとか、マンネリじゃないの? そんな云々が陰口のように広まっていたのも否定出来ません。ただ、それはこのアルバムがあまりにもウケが良かった事に対するヤキモチだったかもしれないんですよねぇ~。

ご存じのようにレイ・ブライアントは以降、同傾向のピアノトリオ盤やソロピアノ盤を出し続け、いよいよ本格的な人気ピアニストになるのですが、1960年代には誰よりも商業主義に傾いた演奏をやっていたレイ・ブライアントが、その発展した流れが満開となったフュージョン全盛期に正統派モダンジャズの4ビート作品を出し、それで再びブレイクした事実を忘れてはならないでしょう。

変わり身の早さといってはミもフタもありませんが、それも時代に対し先見性が強かったレイ・ブライアントの才能の成せる結果であり、このアルバムのヒットが見事に証明しているとしか言えません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

如何にもサボイな愛聴盤

2010-11-17 15:23:36 | Jazz

■The Jazz Message Of (Savoy)

めっきり寒くなってくると、ハードパップも尚更に良いですね。

で、本日ご紹介の1枚は、真っ黒なジャケットに横顔が写っていることから、ハンク・モブレーのリーダー盤とされることが多いのですが、実際は2種類のセッションをカップリングし、共通して参加しているのはケニー・クラークとドナルド・バードだけという、如何にもサボイらしい、とりとめのない制作姿勢が結果オーライの名作だと、個人的には愛聴しているアルバムです。

☆1956年2月8日録音
 A面のセッションに参加のメンバーはドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ロニー・ボール(p)、ダグ・ワトキンス(b)、ケニー・クラーク(ds) という顔ぶれですが、なんといってもピアニストが白人で、しかも黒人ビバップ否定派のレニー・トリスターノ(p) が愛弟子のロニー・ボール!?! まさに異分子としか思えないところに、聴く前から興味深々でしょう。
 しかし結論から言えば、全く違和感がありません。
 もちろんリズム隊のニュアンスに些かの微妙な味わいの変化はあるのですが、こういう異色の組み合わせも、ハードバップという当時は最高にヒップだったモダンジャズの懐の深さにあっては、かえって面白く聴けるのです。

A-1 There'll Never Be Another You
 お馴染みの歌物スタンダードが和やかなムードで演じられるという、この時期ならではのハードバップが堪能出来る仕上がりです。
 まずはダグ・ワトキンスが十八番のグイノリ系ウォーキングベースが最高のイントロになり、アップテンポで朗々とテーマを歌いあげるドナルド・バードのトランペットに対し、幾分のためらいを滲ませるハンク・モブレーのメロディフェイクが、いきなりのジャズ的絶頂感♪♪~♪
 あぁ、これこそがモブレーマニアの一番好きなツボでしょうねぇ~♪
 そしてアドリブ先発のドナルド・バードが、歌心の極みを聞かせてくれますよ♪♪~♪ もう、こんなに歌ってしまったら、後に続く共演者が困っちゃうなぁ……。
 と、思うのは余計なお世話でしょう。
 それはハンク・モブレーが独得のタメとモタレの至芸を存分に活かした、これ以上無いというグルーヴィなフィーリングに満ちた即興メロディを紡ぎ出してしまうのですからっ!
 う~ん、モダンジャズが、そしてハンク・モブレーが好きで良かったっ!
 本当にそう思ってしまいますよ♪♪~♪
 この幸福感の絶頂は、何物にも代えられませんっ!
 また気になるロニー・ボールの存在も流石と言うしかないほどで、堅実な伴奏はもちろん、アドリブパートではケニー・クラークのストレートなビバップビート対し、例によってウネウネと連なっていくトリスターノ派伝来のアドリブラインや意図的なハズシもニクイばかりのコード&メロディの遊び感覚!?!
 まさに全篇にモダンジャズの楽しさと凄さが横溢した名演だと思います。

A-2 Cattin'
 如何にもハンク・モブレーのオリジナルという中庸感覚のハードパップではありますが、そのグルーヴィな黒っぽさはアドリブ先発で飛びだす作者のテナーサックスが全てを物語っていますし、リズム隊のキメとノリもビシッとして、本当に気持良いですよ♪♪~♪
 そして絶好調のドナルド・バードは、ここでも素晴らしすぎます!
 さらにダグ・ワトキンスとケニー・クラークが作り出す、まさにストロングスタイルの4ビートは決定的で、頑固なロニー・ボールも意想外の同調を演じるあたりには、思わずニンマリ♪♪~♪

A-3 Madeline
 これまたハンク・モブレーのオリジナルというワンホーンによるスローな演奏は、そのテーマメロディからして、これぞのモブレー節がテンコ盛りですが、まあ、このあたりは例によって、幾分もっさりしたフィーリングに好き嫌いがあるかもしれません。
 しかしモブレーマニアには、そこがたまらないところでしょう。サブトーンの使い方もイヤミではありませんし、強いビートで寄り添うダグ・ワトキンスの存在感や浮きそうで浮かないロニー・ボールも良い感じ♪♪~♪
 個人的には最終パートのアドリブから自然とラストテーマのメロディをフェイクしていくハンク・モブレーに共感します。

A-4 When I Fall In Love
 いきなりハンク・モブレーの短いアドリブソロをイントロに、ドナルド・バードが人気のスタンダードメロディを屈託無く吹いてくれる、それだけでシビレが止まらない演奏です。
 う~ん、それにしても、この日のドナルド・バードは本当に好調だったんでしょうねぇ~♪ ハンク・モブレーとの相性は言わずもがな、完全にブラウニー系の歌心に迫る境地を記録出来たのは幸いだったと心底、思います。

☆1956年1月30日録音
 さて、こちらのセッションはドナルド・バード(tp)、ジョン・ラポーター(as)、ホレス・シルバー(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、ケニー・クラーク(ds) という、またま魅惑のメンツが参集していますが、中でも必然的にジョン・ラポーターの存在に対し、聴く前から違和感を感じるのがハードバップ愛好者の本音かと思います。
 それは結論から言えば、もちろんチャーリー・パーカーのスタイルを基にしてはいるものの、例えばハル・マクシックやジジ・グライスあたりの所謂知性派に属するスマートなフィーリングが、果たしてハードバップがど真ん中の他のメンバーと共存出来るのか? というポイントが面白くもあるわけですが……。

B-1 Budo
 パド・パウエルが書いた、ちょいと変則的なメロディラインが魅力のビバップ曲ですから、アドリブ先発を務めるジョン・ラポーターのアルトサックスも神妙です。しかし、そういう遣り口こそが、実はジャストミートの快演なんですねぇ~♪ 真っ黒なリズム隊のグルーヴィなノリに微妙な浮遊感で対処しつつ、灰色のアドリブフレーズを積み重ねるジョン・ラポーターは、なかなか侮れない存在だと思いますし、キメとしてアレンジされた短いリフもイヤミではないでしょう。
 結果的に演奏のほとんどがジョン・ラポーターを主役にしてはいるものの、何度も聴きたくなる仕上がりだと思います。

B-2 I Married An Angel
 あまり有名ではないスタンダード曲ですが、スローテンポでテーマメロディを見事に吹奏するドナルド・バードのトランペットを耳にするだけで、和みますよ♪♪~♪
 そしてアドリブパートでは、またまたジョン・ラポーターが実力の証明というか、かなりの心情吐露をクールに聴かせてくれるのですから、まさしくジャズ者には面映ゆくもあり、また悔しくも感動の名演じゃないでしょうか。
 その意味で続くホレス・シルバーが神妙に構えてしまうのは、ちょいと馴染めない心持ではありますが、それもまたモダンジャズが全盛期の楽しみかもしれません。

B-3 The Jazz Message
 このセッションをプロデュースしたオジー・カデナのオリジナルということになっている、実にグルーヴィなハードバップのブルースで、もちろんご推察のように、スタジオの現場でメンバー達が即興で演じた最良の結果が楽しめます。
 それは粘っこい4ビートを導くケニー・クラークのブラシからダグ・ワトキンスのウォーキングベースの気持良さ、さらにファンキーなホレス・シルバーのピアノという、これぞっ、ハードバップの魅力が横溢した展開からして、身も心も奪われてしまうのがジャズ者の宿業というものでしょう。
 そしてクールな浮遊感に満ちたジョン・ラポーターのアルトサックスが、実はなかなかの熱血ぶりで好ましく、さらに珍しくもミュートで迫るドナルド・バードのトランペットからは思わせぶりが感じられるという意想外の面白さが、たまりませんねぇ~♪
 演奏はこの後、再びリズム隊だけのパートへと移り、ダグ・ワトキンスの素晴らしいベースワークが如何にも「らしい」録音なのも素敵です。

ということで、参加したメンバーの魅力と同時に存在する違和感なんて、全く心配ご無用の名演集です。

特にドナルド・バードの快調さは本人のキャリアの中も特筆すべきものでしょうし、ハンク・モブレーの「らしい」部分も存分に楽しめるでしょう。

またジョン・ラポーターという地味な実力派、あるいはロニー・ボールという異分子の魅力に目覚める可能性も、実はきっちりと計算されたセッションの内幕は、なかなか凄い企画だったと思います。

既に述べたように、サボイというレーベルはブルーノートに比べると場当たり的というか、ちょいと???の制作方針から当たり外れが相当にある作品も否定出来ないのですが、このLPは片面ずつの異分子投入が見事な面白さを成立させています。

名盤ガイド本からは無視されている1枚ではありますが、どちらの面を聴いてもハードバップの魅力が横溢した名演集として、ジャズ喫茶でリクエストしてみるのもジャズ者の楽しみじゃないでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

これは不思議に飽きない名盤

2010-11-14 10:02:36 | Jazz

3 Blind Mice / Art Blakey & The Jazz Messengers (United Artist)

ジャズ・メッセンジャーズの全盛期が何時だったのか、今となっては、そのキャリアの全てがそうだったしか言えませんが、本日ご紹介のアルバムが制作された1962年は、その決定的な時期だった事に異論は無いと思います。

なにしろ当時のメンバーはフレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)、ウェイン・ショーター(ts)、シダー・ウォルトン(p)、ジミー・メリット(b)、そして御大のアート・ブレイキー(ds) という黄金の3管編成!

しかも音楽的なリーダーシップはウェイン・ショーターが握っていたと言われていながら、メンバー各々が作編曲にも長けていた事は、このアルバムの充実度に顕著でしょう。

それは当時の最新流行だったモード手法とジャズ・メッセンジャーズ伝来のファンキーな味わいが見事に融合した、まさに唯一無二のモダンジャズだと思います。

録音は196年3月、ハリウッドにあったクラブ「ルネサンス」でのライプセッションという事で、先鋭的な熱気とクールなカッコ良さが横溢しているところも大きな魅了♪♪~♪

A-1 Three Blind Mice
 カーティス・フラーの作曲とクレジットされていますが、実態は古くからアメリカに伝わる童謡のメロディをモード的に解釈したもので、そのアレンジをカーティス・フラーが担当したということでしょう。
 そして結果はアート・ブレイキーの強いジャズビートに煽られた、なかなか見事なモード大会! かなり意地悪なベースワークをやらかしているジミー・メリットも流石の存在感を示すリズム隊の動きが曲者でしょう。
 ですから、チョイ聞きにはシンプルなウェイン・ショーターのアドリブが深淵な企みに満ちている事が、続くカーティス・フラーの絶好調節を呼び込み、さらにクールで熱いフレディ・ハバードのトランペットを炸裂させる原動力になっていると思います。
 つまり決して一筋縄ではいかないバンド全体の纏まりは鉄壁で、これは今に至るも不滅の名演♪♪~♪
 実は告白すれば、最初に聴いた時にはそれほど感銘する事もなかったんですが、結果的には何度聴いても飽きないどころか、その度に得体の知れない凄さを感じてしまうんですねぇ~♪
 またシダー・ウォルトンの控えめな伴奏も良い感じ♪♪~♪
 う~ん、やっぱり当時のジャズ・メッセンジャーズは最強のバンドでした。

A-2 Blue Moon
 お馴染みのスタンダードメロディを朗々と吹いてくれるフレディ・ハバードの潔さ!
 それは所謂パラードプレイでありながら、静謐な緊張感と躍動的なジャズ魂に満ちた至高の名演といって過言ではないでしょう。特にジェントルなテーマ解釈からグッと腰の入ったアドリブパートでの奔放な歌心は絶品♪♪~♪
 ちなみに演奏の主役はフレディ・ハバードの独り舞台ではありますが、リズム隊の堅実なサポートに加え、カーティス・フラーとウェイン・ショーターが寄り添うホーンによるハーモニーがシブイ!
 まさに3管編成が狙いどおりの魅力になっていると思います。

A-3 That Old Feeling
 これまた映画音楽からスタンダード曲となった素敵なメロディをシダー・ウォルトンが主役となって演じる魅惑のトラック♪♪~♪
 もちろんバックでは見事な3管のアンサンブルとグルーヴィなペース&ドラムスのサポートがありますから、シダー・ウォルトンが持前の歌心と美しいピアノタッチを全開させたファンキーでスインギーな展開はお約束以上の仕上がりです。
 そして個人的にも、昔はこの演奏ばっかり聴いていた前科を告白しておきます。

B-1 Plexis
 シダー・ウォルトンが書いた先鋭的なモード曲で、ラテンビートも交えたアップテンポのバンドアンサンブルが見事なテーマ演奏を聴いているだけで、本当に血が騒ぐ名演です。
 そしてアドリブ先発のフレディ・ハバードが血管ブチキレの突撃トランペットを炸裂させれば、ウェイン・ショーターの意図的な「はぐらかし」を多用した変態フィーリングが逆に心地良く、ついにはカーティス・フラーの爆裂トロンボーンがボケとツッコミを一人二役で披露するという、これぞっ、モダンジャズの本流が凄いですねぇ~♪
 またリズム隊の躍動感も素晴らしい限りで、シダー・ウォルトンのアドリブパートでトリオ編成になった時のヘヴィでファンキー、そして尖がったフィーリングは、同時期のジャズ界では圧倒的な存在感を示していると思いますし、それこそがジャズ・メッセンジャーズをトップバンドに君臨させた原動力じゃないでしょうか。
 ちなみに、この頃のマイルス・デイビスのレギュラーバンドはケリー、チェンバース&コブという黄金のリズムセクションが抜けていたそうですし、ジョン・コルトレーンのレギュラーカルテットのリズム隊だったマッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という怖い3人組にしても、親分のジョン・コルトレーンがライプの現場はともかく、レコードの売り上げで苦戦を強いられていたとあっては、尚更だと思います。 

B-2 Up Jumped Spring
 フレディ・ハバード書いたキュートなメロディが素敵な人気曲で、作者のミュートトランペットも素晴らしいんですが、ワルツテンポを強靭にドライヴさせていくリズム隊、特にアート・ブレイキーの繊細で豪胆なドラミングが最高♪♪~♪
 あぁ、これがジャズ・メッセンジャーズの魅力でしょうねぇ~~♪
 テーマ部分でのバンドアンサンブルも気が利いていますし、ウェイン・ショーターの摩訶不思議なアドリブが思わせぶりを演じれば、カーティス・フラーの春風のようなトロンボーンが絶妙の和みを提供してくれますよ。
 また、気になるシダー・ウォルトンが些か煮え切らない感じではありますが、フレーズを積み重ねるうちに調子を上げていく流れは決して憎めず、これも現場主義の結果オーライいう、如何にもジャズの楽しみだと思います。

B-3 When Lights Are Low
 オーラスは、これまた良く知られたスタンダード曲をカーティス・フラーを主役に据えての大快演♪♪~♪ 実際、ここでのスインギーに良く歌うトロンボーンは圧巻ですし、バックのホーンアンサンブルとのコンビネーションも最高です。

ということで、このアルバムはジャズのガイド本には必ずと言っていいほど紹介される、所謂名盤のひとつなんですが、もちろんサイケおやじは後追いで聴いた事もあって、最初はピンっときませんでした。

というか、ジャズ・メッセンジャーズにはイケイケの先入観を抱いていた所為もあるでしょう。

それがこのアルバムでは、メンバー各人の独り舞台的な演奏が多く収められ、またアート・ブレイキーの強烈なドラムソロも無く、また白熱したアドリブの応酬よりは、バンドアンサンブルを重視したグループとしての表現が、個人的には物足りなくもありました。

しかし、それこそが、当時は最先端だったのでしょう。

ご存じのとおり、この時期の音源からは後に未発表演奏集が出された事によって、そこに聴かれる如何にもハードバップ的な展開は、モード手法に基づきながらも、ちょいと古臭い感じが否めません。

まあ、個人的にはそれも大好きな世界ではありますが、親分のアート・ブレイキーにすれば、長年在籍したブルーノートでの契約を更新せず、あえて別レーベルに移ったからには、新しいものを披露する意気込みがあったんじゃないでしょうか。

ちなみに当時のライプ映像に接してわかった事ではありますが、実際のステージでもメンバー各人の独り舞台的な演奏がメインという状況は、なかなか興味深いものがあります。

そう思えば、このアルバムの聴き飽きない魅力も肯定する他はありませんし、リアルタイムで接した先輩ファンを羨む気持ちが打ち消せません。

そして以降、これもサイケおやじが大好きな名盤「ウゲツ」とか、まさにモード時代の代表作を残していくジャズ・メッセンジャーズにとっては、全盛期の証となった記念碑として、永遠に聴かれ続けるアルバムと断言して、後悔しないでしょう。

最後になりましたが、今回の病気騒動の顛末では、皆様にいろいろとご心配をおかけし、また励ましとお見舞いのご厚情には深く感謝する次第です。

そして本日から、サイケおやじの生活と音楽というテーマに沿ったプログを再び続ける所存ですので、よろしくお願い致します。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

J.J.ジョンソン最強クインテット

2010-10-09 16:46:56 | Jazz

J.J. Johnson Quintet Featuring Bobby Jaspar (Fresh Sound = CD)


モダンジャズのトロンボーン奏者としてはピカイチだったJ.J.ジョンソンが、白人ながらテナーサックスやフルートに秀でたポビー・ジャスパーと組んでいたレギュラーバンドは、1956~1957年にかけて、本当に素晴らしい演奏を残しましたが、それらの音源は契約していたコロムビアレコードで3枚のLPに分散収録され、また1曲だけが別レーベルに貸し出されたりして、なかなか纏めて聴くのが困難でした。

また、後年になって当時のライプレコーディングも発掘されていますが、本日ご紹介の2枚組CDは、それらを可能な限り纏めた嬉しい再発です。

しかもレコーディングデータに従って編集されていますから、バンドメンバーの変遷によるサウンドの微妙な変化も楽しめると思います。

ちなみに、前述したスタジオ録音の分散収録のLPは以下のとおりで、末尾の記号は以降に述べる各曲が、どのLPに収められたかを分かり易くするためのものです。

 J Is For Jazz (Columbia CL 935) ●
 Jay and Kai (Columbia CL 973) ▲
 Dial JJ5 (Columbia CL1084) ★
 Playboy 1529/30 ▼

☆1956年7月24日録音
 CD-1 01 Overdrive
 CD-1 02 Undecided
 CD-1 03 Angel Eyes
 メンバーはJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts)、ハンク・ジョーンズ(p)、パーシー・ヒース(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という凄い面々!
 今日では一般的に、J.J.ジョンソン&ポビー・ジャスパーと言えば、リズム隊がトミー・フランガンの「オーバーシーズトリオ」と決めつけられますが、ハンク・ジョーンズも流石に侮れないプレイを聞かせてくれますよ♪♪~♪
 もちろんバンド全体のアンサンブルやアドリブの競演は最高レベルで、アップテンポの「Overdrive」では初っ端からテンションが高まりっぱなし! ツッコミ鋭いJ.J.ジョンソンに対し流麗なフレーズを綴るポビー・ジャスパー、さらに珠玉の音選びが素晴らしいハンク・ジョーンズに実直なペース&ドラムスの存在は、ハードバップの勢いと洗練が見事に集約されていると思います。
 そしてエルビン・ジョーンズの粘っこいブラシがグルーヴィな決め手となった「Undecided」、一転してミステリアスな情感が滲むスローな「Angel Eyes」は、人気スタンダード曲のカパーとしては上位にランクされる名演だと思います。スタン・ゲッツ風のポビー・ジャスパーが、たまりませんねぇ~♪

☆1956年7月25日録音
 CD-1 04 Tumbling Tumbleweeds
 CD-1 05 Cube Steak
 CD-1 06 Never Let Me Go
 CD-1 07 Solar
 翌日に行われた2回目のセッションは、J.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、ハンク・ジョーンズ(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という顔ぶれで、ベーシストの交代があるものの、演奏の纏まりとノリは、さらに良くなっている感じです。
 特にビバップ期からのお馴染みのリフを流用したアップテンポのブルース「Cube Steak」では、スイングしまくりのリズム隊に煽られて突進するJ.J.ジョンソンが痛快無比! またラテンリズムと4ビートを交錯させた「Tumbling Tumbleweeds」は、トロンポーンとテナーサックスのコンビならではの柔らかなのサウンドが魅力で、これはカーティス・フラー&ベニー・ゴルソン組に勝るとも劣らない味わいでしょう。もちろんアドリブも流麗にしてソフトな歌心が素晴らしく、ハンク・ジョーンズも小粋な名演です。
 そしてマイルス・デイビスのオリジナルとして有名な「Solar」が、ちょいとファンキーな味わいを滲ませて演じられるのは、如何にも1956年というハードバップ全盛期の証明! 力強いエルビン・ジョーンズも存在感がありますし、ポビー・ジャスパーがズート・シムズになってしまうのも、なかなかジャズ的な楽しみかと思います。
 その意味でシンミリ系の素敵なスタンダード曲「Never Let Me Go」が、J.J.ジョンソンのミュートとポビー・ジャスパーのフルートによって、実にメロディ優先主義で演じられたのは大正解でしょう。短くも印象的なハンク・ジョーンズのアドリブも良いですよ♪♪~♪

☆1956年7月27日録音
 CD-1 08 Chasin' The Bird
 CD-1 09 Naptown U.S.A.
 CD-1 10 It Might As Well Be Spring
 3回目のセッションとなったこの日のメンバーは、J.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という編成で、ついに前述した「オーバーシーズトリオ」がリズム隊を務めます。
 しかし、だからと言って、特にバンドの基本姿勢に変化は無く、ハードバップのスマートな解釈に徹した演奏が繰り広げられています。
 それはチャーリー・パーカーの有名オリジナル「Chasin' The Bird」におけるテーマアンサンブルの妙と濃密なアドリブパートの兼ね合いが、なかなかウキウキする興奮を呼ぶところに顕著ですし、ウィルバー・リトルの豪気なベースワークは最高!
 そして特筆したいのが、やはりトミー・フラナガンの参加ではありますが、前任者のハンク・ジョーンズも含めて、激しさよりもジャズ的にセンスの良いピアニストを起用するところに、J.J.ジョンソンの目論見があったんじゃないでしょうか。
 ですからアップテンポの「Naptown U.S.A.」にしても、ワイルドに暴れるエルビン・ジョーンズのドラミングとは正逆に端正な伴奏とアドリブを披露するトミー・フラナガンというコントラストが印象深く、極みつきのスローバラード「It Might As Well Be Spring」では、ストレートに美メロのテーマをフェイクするJ.J.ジョンソンを彩るポビー・ジャスパーのフルートという構図を、きっちりサポートするリズム隊の落ち着きは流石の一言です。

☆1957年1月29日録音
 CD-1 11 Bird Song

 CD-1 12 It Could Happen To You
 CD-1 13 Our Love Is Here To Stay
 CD-1 14 Blue Haze
 CD-1 15 I Should Care
 前回セッションから約1ヵ月後のレコーディングは上記したように、良く知られた演目が並んでいます。
 そしてJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という有名なメンバー構成は、このあたりから固まったのでしょうか。
 ですからリスナーにとっては素直にジャズを聴く喜びが強く、また実際の演奏そのものも実に充実していますが、今回は「It Could Happen To You」でポビー・ジャスパーを、また「Our Love Is Here To Stay」ではJ.J.ジョンソンをメインにしたワンホーン的な企画が嬉しいかぎり♪♪~♪
 もちろん、そうなればリズム隊の活躍も聴き逃せません。
 ポビー・ジャスパーがフルートで歌う「It Could Happen To You」ではエルビン・ジョーンズのブラシが本当に気持良く、またJ.J.ジョンソンが負けじと素晴らしい歌心を披露する「Our Love Is Here To Stay」では、リズム隊のグルーヴィなノリも最高潮です。
 それゆえにバンドとしての纏まりも、これ以上無いほどの完成度で、特にヘヴィ&ファンキーな「Blue Haze」では、トミー・フラナガンが畢生の名演を聞かせれば、ウィルバー・リトルのベースは真っ黒に蠢き、エルビン・ジョーンズのドラムスがエッジ鋭いシンバルワークで煽りますから、フロントのJ.J.ジョンソンとポビー・ジャスパーも油断出来ません。まさに名盤「オーバーシーズ」の見事な予行演習になっています。
 それはハードバップがど真ん中の「Bird Song」でも尚更に素晴らしく、矢鱈に熱くならずとも、充分にモダンジャズが演じられるという、このバンドならではの洒落たフィーリングが完成形として楽しめると思いますし、これまた有名スタンダード曲の「I Should Care」にしても、ちょいと西海岸派のようなバンドアンサンブルを主体としたライトタッチの演奏が実に颯爽として、感度良好♪♪~♪ エルビン・ジョーンズのスティック&ブラシがハード&タイトなのは言うまでもありませんが、ポビー・ジャスパーも大健闘ですよ。

☆1957年1月31日録音
 CD-2 01 Barbados
 CD-2 02 In A Little Provincial Town
 CD-2 03 Cette Chose
 CD-2 04 Joey, Joey, Joey
 これまた一連のセッションではハイライト的なパートで、メンバーは前回同様なんですが、特にポビー・ジャスパーが「In A Little Provincial Town」に「Cette Chose」というオリジナルを2曲も提供した事もあり、なかなかの活躍を聞かせてくれます。
 ちなみにこの人はベルキー出身で、フランスでの活動後に渡米し、その直後からJ.J.ジョンソンに雇われた経歴の実力者ですが、ジャズ者にとっては、ウイントン・ケリー(p) の人気盤「ケリー・ブルー(Riverside)」への参加があまりにも有名ですよね。また、フランス時代のリーダー作では、オリジナルは見たこともありませんが、同じ内容のアルバムがアメリカでも「Bobby Jasper And His Allstars (EmArcy)」として発売されています。
 で、肝心の「In A Little Provincial Town」は、サスペンス&ミステリアスな曲調の中で浮遊感さえ漂わせるポビー・ジャスパーのフルートが、思慮深いJ.J.ジョンソンと抜群のコントラストを描き出す大名演♪♪~♪
 一方、「Cette Chose」は力強いグルーヴを伴った新感覚のハードバップとして、J.J.ジョンソンの爆裂トロンボーンに負けないスインギーなテナーサックスを吹きまくりと書きたいところなんですが、ど~してもズート・シムズの影響から逃れられないのが賛否両論でしょうか……。
 しかし、それを救うのがリズム隊の存在感でしょう。
 十八番のラテンリズムと4ビートのゴッタ煮が楽し過ぎる「Barbados」では、エルビン・ジョーンズのゴリ押しが最高ですし、協調関係が確信犯的なウィルバー・リトルも流石ならば、トミー・フラナガンが如何にも「らしい」アドリブを聞かせてくれるのも当然が必然なんでしょうねぇ~♪ 完全に煽られ気味のJ.J.ジョンソンとポビー・ジャスパーが相当に熱くなっているように思います。
 そして「Joey, Joey, Joey」は、サイケおやじがこのCDをゲットさせられた真のお目当!
 何故ならば、極めて珍しいオムニバス盤に収録された幻の音源として、長年聴きたかった演奏であり、それはエルビン・ジョーンズのポリリズムドラミングが冴えまくりというアップテンポのモダンジャズ! いゃ~、最高にカッコ良いテーマからポビー・ジャスパーのテナーサックスが飛び出す瞬間だけで、シビレが止まりません♪♪~♪ 続くJ.J.ジョンソンも颯爽としていますし、溌剌としたトミー・フラナガン以下のリズム隊も強靭なジャズ魂を存分に発揮しています。
 実は以前にモザイクというコレクターズ系のレーベルから、この時期のJ.J.ジョンソンの音源が集大成的に発売されたことがありました。しかし値段が高いわりにはリマスターがイマイチという世評があり、実際に友人から聞かせてもらった時には、ちょいと残念な気分……。
 そして待つこと、幾年月!?
 結論から言えば、このCDはバランスの良いリマスターで、もちろんアナログ盤の味わいとは異なりますが、それでも充分に納得の仕上がりだと思います。

☆1957年5月14日録音
 CD-2 05 Teapot
 CD-2 06 So Sorry Please
 CD-2 07 Old Devil Moon
 これがまたしても、アッと驚く音源で、なんとリアルステレオミックスなんですねぇ~♪ もちろんアナログ盤時代はモノラルミックスでしか楽しめなかったわけですし、前述したモザイクからの再発CDがどうなのかは勉強不足でわかりませんが、とにかくここでは左にドラムスとベース、真ん中にホーン、右にピアノという定位がきっちりと決まっています。
 肝心の演奏は、J.J.ジョンソンの呆れるほどのテクニックとジャズフィーリングが強烈な「Teapot」のスピード感に圧倒されますし、リズム隊だけによる「So Sorry Please」はピアノトリオの演奏ですから、必然的に「オーバーシーズ」していて、思わずニンマリ♪♪~♪ ちなみに「So Sorry Please」では左にベース、真ん中にドラムス、右にピアノというチャンネル定位になっています。
 そして「Old Devil Moon」では、エルビン・ジョーンズの熱血ドラミングが圧巻! そのヘヴィなビートの出し方は、このバンドのスマートな行き方とは対照的にハードで重心の低いものですから、J.J.ジョンソンの目論見は見事に完遂された事だろうと思います。

☆1957年2月、カフェ・ボヘミアでのライプ録音
 CD-2 08 Johnson Introduces
 CD-2 09 Bernie's Tune
 CD-2 10 In A Little Provincial Town
 CD-2 11 I Should Care
 CD-2 12 Angel Eyes
 CD-2 13 Old Devil Moon
 CD-2 14 My Old Flame
 CD-2 15 Dailie Double
 CD-2 16 Theme: Solar
 これはボーナス扱いというか、後年になって発掘されたライプ音源で、おそらくは放送用のマスターなんでしょうか、音質は良好ですから、問題無く聴けると思います。しかも一応はリアルなステレオミックスなんですよっ!
 気になるメンバーは、もちろんJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) というレギュラーバンドですから、充実した演奏はお約束!!
 バンドリーダー自らの挨拶&メンバー紹介から、トミー・フラナガンのイントロも鮮やかな「Bernie's Tune」は、急速テンポながら十八番のアンサンブルとアドリブの競演が楽しめますし、リズム隊の素晴らしさは言わずもがな、終盤にはエルビン・ジョーンズのドラムソロも炸裂♪♪~♪
 またスタジオバージョンが存在する「In A Little Provincial Town」「I Should Care」「Angel Eyes」「Old Devil Moon」は、聴き比べも楽しいところですが、総じてそれほど雰囲気が変わっていないのは、それだけバンドの演目と纏まりが完成されていた証という事でしょうか。
 ですから、このメンバーによるスタジオバージョンが残されていない「My Old Flame」や「Dailie Double」にしても、違和感は無いと思いますし、当然ながらジャズならではの瞬間芸は、それこそ聴いてのお楽しみ♪♪~♪ 個人的にはアップテンポで演奏される「Dailie Double」の熱気に興奮させられます。

ということで、新発見のテイクは無いんですが、こういう良心的な復刻は大歓迎です。

既に述べたように、サイケおやじは唯1曲「Joey, Joey, Joey」だけを目当てにゲットしたわけですが、あらためてこのバンドの演奏を纏めて聴いてみると、そのスマートなカッコ良さとモダンジャズのグルーヴィなノリを両立させた密度の濃さにシビレさせられました。

残念ながら、この時期のクインテットは1957年秋頃には解散したらしいのですが、残された音源から纏められたLPは、何れも名盤扱いが当然の事ですし、繰り返しますがトミー・フラナガンの代表作「オーバーシーズ」に繋がった経緯も含めて、全てのジャズ者を虜にする演奏を、このCDが復刻された機会に、ひとりでも多くの皆様に聴いていただきたいと願っています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

チャーリー・パーカーでジャズモードに回帰?

2010-10-08 17:10:03 | Jazz

■Swedish Schnapps / Charlie Paker (Verve)

ようやく、少しずつではありますが、ジャズモードへの回帰も兆しているサイケおやじは、朝の一発目から、このアルバムに針を落とせたということは、かなり状態が良いのかもしれません。

ご存じ、モダンジャズの天才にして神様であるチャーリー・パーカーが、1951年に自らのレギュラーバンドを率いて行った2回のセッションから纏められたLPですが、おそらくはそれぞれがSP、あるいは10インチ盤が初出だったと思われます。

ですから、12インチ盤に再編集された時には曲順が必ずしもレコーディングデータどおりにはなっていないのが、些か拘りに水を差される結果にもなっているんですが、しかし演奏内容の素晴らしさは唯一無二!

この時期のチャーリー・パーカーは既に全盛期を過ぎていたとか、そのあたりの真偽については評論家の先生方からのご指摘もあるわけですが、しかし今に至るもチャーリー・パーカーを超えたジャズ演奏家は出現していない現実を鑑みれば、素直に楽しむのも決して罪悪ではないでしょう。

いや、と言うよりも、聴けば納得の凄さとモダンジャズの醍醐味に溢れているのが、このアルバムの真実だと思います。

1951年1月17日録音:Charlie Paker & His Orchestra (Quintet)
 B-1 Au Privave (alternate)
 B-2 Au Privave (master)
 B-3 She Rote (alternate)
 B-4 She Rote (master)
 B-5 K.C. Blues
 B-6 Star Eyes
 「His Orchestra」なんて、大仰な名義になっていますが、実は典型的なビバップのクインテット編成によるレコーディングで、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、マイルス・デイビス(tp)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、マックス・ローチ(ds) という、今では夢の5人組!
 それは前述した事と矛盾するようですが、決して連日連夜、このメンツでライプをやっていたわけではないにしろ、当時のチャーリー・パーカーは、仕事の契約に応じてバンドを組んでいたそうですから、おそらくは気心の知れた顔ぶれが集められたセッションだったと思われますし、実際、ここで聴ける演奏からはコンビネーションの練達による安定したバンドアンサンブルとアドリブの充実が、しっかりと楽しめます。
 中でも「Au Privave」はチャーリー・パーカーの有名オリジナルとして、ビバップの聖典曲のひとつにもなっているブルースなんですが、ミディアムテンポで繰り広げられるグルーヴィでテンションの高い曲調は必然的にアドリブの鋭さが求められているのでしょうか、マイルス・デイビスの必死さが良い感じ♪♪~♪ もちろんチャーリー・パーカーが余裕で演じる鋭いフレーズの連発と驚異的なリズム感は文句無しですから、ふたつのテイクのどちらも聴き応えがありますよ。
 またアップテンポの「She Rote」は、初っ端からブッ飛ばすチャーリー・パーカーの絶好調ぶりが嬉しい限りですし、一転してブルース演奏の真髄を堪能させてくれる「K.C. Blues」は、これぞっ、黒人ジャズのならではの味わいが横溢し、チャーリー・パーカーにしても名演のひとつじゃないでしょうか。
 そしてスタンダード曲の「Star Eyes」では、ラテンビートと4ビートを交錯させたテーマアンサンブルから、既に朗々と吹きまくるチャーリー・パーカーに対し、幾分の自信喪失気味というマイルス・デイビスが結果オーライ!?! アドリブの思わせぶりなところは完全に後年のスタイルに近くなっていると思います。
 ちなみにリズム隊の3人は堅実な助演と言えばそれまでなんですが、やはりマックス・ローチのタイトなドラミングは素晴らしいと思います。

1951年8月8日録音:Charlie Paker Quintet
 A-1 Si Si
 A-2 Swedish Schnapps (alternate)
 A-3 Swedish Schnapps (master)
 A-4 Back Home Blues (alternate)
 A-5 Back Home Blues (master)
 A-6 Lover Man
 B-7 Blues For Alice
 さて、こちらはアルバムタイトル曲も含んだ晩年の名演とされるセッションで、メンバーはチャーリー・パーカー(as) 以下、白人ながら当時はレギュラーに雇われることも多かったレッド・ロドニー(tp)、ジョン・ルイス(p)、レイ・ブラウン(b)、ケニー・クラーク(ds) という布陣なんですが、リズム隊の3人は既にモダン・ジャズ・カルテット=MJQとしての活動をスタートさせたばかりの時期とあって、なかなか纏まりの良い助演ぶりです。
 それはちょいとエキセントリックなテーマが印象的なブルースの「Si Si」から全開! 如何にものシンバルを鳴らすケニー・クラークに煽られ、チャーリー・パーカーが起伏の激しいアドリブを披露すれば、レッド・ロドニーは真っ向勝負の潔さですし、リズム隊各人の見せ場もソツがありませんねぇ~♪
 さらに名演とされる「Swedish Schnapps」の引き締まった展開は2テイクとも圧巻で、特にマスターテイクにおけるチャーリー・パーカーのアドリブは緊張と緩和の見事なバランスが秀逸だと思いますし、少しばかり中間派寄りのレッド・ロドニーがきっちりモダンの領域に収まっているのは、リズム隊の貢献じゃないでしょうか。
 その意味でミョウチキリンなテーマの「Back Home Blues」が、リラックスした中にもモダンジャズのブルースは、こうやるんだよっ! そんな心意気が感度良好♪♪~♪
 ちなみにここまでの演目は全てチャーリー・パーカーのオリジナルでしたが、ここでいよいよ因縁のスタンダード曲「Lover Man」が演じられるのは興味津々でしょう。そして結果は見事な流石の仕上がりという安定感があるのはもちろん、実はそれが物足りないという、何とも我儘な結論というのがサイケおやじの本音です。
 まあ、それはそれとして、時間的な制約からB面収録となった「Blues For Alice」は、不思議にも刹那的な雰囲気が横溢したテーマから完璧なアドリブパートまで、まさにチャーリー・パーカーの凄さが記録された名演だと思います。

ということで、ヴァーヴ時代は様々な企画セッションも多かったチャーリー・パーカーの、これは真性ビバップを楽しめる人気盤です。

今となってはマイルス・デイビスが参加したB面の注目度が高いと思われますが、元祖MJQのリズム隊が活躍するA面も侮れません。

そこには、ようやくジャズモードに回帰しつつあるサイケおやじを歓喜悶絶させるだけの魅力が、確かにありました。

今後とも、よろしくお願い致します。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日野晧正の真っ向勝負

2010-08-27 16:52:35 | Jazz

Now Hear This / Hal Galper (Enja)

昨日は久々にジャズモードへと帰還したことから、きっと良いことがあるに違いないと思いきや、仕事ではトラブルの続出で苦しめられ、また私的にもいろいろと……。

う~ん、これは朝からジャズなんか聴いたから……!?

とは、決して思いたくないので、今日もガチンコのジャズで行きますよ、行けるところまでっ!

そこで、本日のご紹介はフュージョンブームが真っ盛りだった1970年代後半、我国のジャズ喫茶では特別な人気盤だった王道のモダンジャスアルバムです。

録音は1977年2月15日、メンバーはハル・ギャルパー(p)、セシル・マクビー(b)、トニー・ウィリアムス(ds)、そして日野晧正(tp) という、なかなか妥協の無い面々ですが、実は当時のジャズマスコミでは、このセッションはプロデューサーが特に日野晧正を録音するために企画したという報道がなされ、実際、ジャケ写には堂々と日野晧正が登場している事が、何よりの証明になっています。

もちろん演奏も、リアルな熱さに満ちいていますよ。

A-1 Now Hear This
 アルバムのド頭に相応しい、アップテンポのハードなモード曲で、当時既にブームになっていた例のVSOPというよりも、1960年代新主流派直系の猛烈な演奏です。
 それはテンションの高いテーマ演奏からセシル・マクビーのペースが唸り、トニー・ウィリアムスのドラムスが炸裂し、フレディ・ハバードの影響を隠そうともしない日野晧正の潔いトランペットが鳴り響き、アドリブ先発のハル・ギャルパーが硬質なピアノタッチを全開せさたアドリブに突入すれば、その場はすっかりジャズ喫茶の全盛期♪♪~♪
 いやいや、あえて当時の状況を書いておけば、このアルバムが鳴りだすと、弛緩していた店内の空気がピリッとしたほどですから、まさに王道に拘っていたジャズ喫茶には救世主的なアルバムだったと思います。
 そして日野晧正のトランペットが全力疾走!
 失礼ながらリアルタイムのフレディ・ハバードには及ばないと思うのが正直な感想ですが、しかし当時、これほどバリバリに正統派ジャズをやっていた若手トランペッターはウディ・ショウ、チャールズ・トリバー、ジョン・ファディスあたりしか他にいなかったのも重大な事実だったんですよっ!
 そこで日野晧正なんですが、確かその頃はニューヨーク在住で、もちろん日本でのスタアプレイヤーという地位を捨ててまでと言われるほど、モダンジャズそのものに拘りぬいていた時期でした。もちろん盟友の菊池雅章が既に現地で活動していたこともあるでしょう。
 ですから、その迸る無心な情熱が熱気となって、ここに見事に記録されたのは幸いです。
 また共演のリズム隊が全く容赦無い姿勢なのも流石で、特にセシル・マクビーの怖さは絶品! ドカドカ煩いトニー・ウィリアムスのドラムスが、録音の所為で些か引っ込んでいるとはいえ、それは大音量で鑑賞するための方法論だと思います。
 つまりこれは、デカイ音で楽しむしかないという、まさにジャズレコードの宿命が、既にこの1曲だけで立派に提示されているように思います。

A-2 Shadow Waltz
 一転してミステリアスなムードに支配された哀切のパラード演奏で、日野晧正のハスキーな音色によるメロディ吹奏がジャストミートしています。
 しかしリズム隊は決して甘さに妥協せず、徹底的にその場を仕切ることに腐心する姿勢が強く、日野晧正の紡ぎ出すアドリブフレーズを先読みしたような展開は素晴らしいですねぇ~♪
 やはり超一流のメンツ揃いでなければ醸し出せない味わいと緊張感!
 ですからハル・ギャルパーの歌心排除型とも言うべきピアノも、自らが書いた曲メロには忠実ですから、ちょいとクール過ぎる? と感じてしまう瞬間さえも、立派なモダンジャズとして成立するんじゃないでしょうか。

A-3 Mr. Fixit
 これまた溌剌としたジャズロック系モード演奏なんですが、そのリズムパターンは定型ではなく、あくまでも自由なジャズビートを基調しているあたりが、如何にもハル・ギャルパーらしいと思います。
 実はハル・ギャルパーは、1960年代の終わり頃から既にブレッカーブラザーズを起用した過激なモダンジャズをやっていて、そのストロングスタイルは売れることがなくとも、ジャズ者には知る人ぞ知るの存在でした。
 そしてこのセッションの前には、やはりブレッカーブラザーズを正統派モダンジャズの世界に連れ戻した人気盤「リーチアウト(Steeple Chase)」をジャズ喫茶的なヒットにしていた上昇期でしたから、ここでの快演も当然だったのです。
 それに呼応する日野晧正、セシル・マクビー、トニー・ウィリアムスの面々も、ジャズを演奏することの喜びが爆発したかのような名演を披露して、痛快です。

B-1 First Song In The Day
 思わずニンマリさせられるほど、これは1970年代の真髄を堪能させられる名曲にて名演です。つまりアフリカのイメージとか、過激なモードジャズや逃げないハードな演奏姿勢が、実にジャズ者の琴線に触れるんですよねぇ~♪
 特に1960年代に在籍していたマイルス・デイビスのバンド時代とは正逆の、些か往生際の悪いドタバタしたドラミングが、逆にこの時期ならではの魅力というトニー・ウィリアムスの存在感は、流石に強いですねぇ。まあ、このあたりは好き嫌いがはっきりしていると思いますが、リアルタイムでは局地的にイモ扱いされたことを付記しておきます。
 しかも、ひたすらに基本のビートを守るべく奮闘するセシル・マクビーが、時折に怖い世界感を滲ませる小技をやってしまうあたりが、問題化寸前!?
 ですからハル・ギャルパーにしても油断は禁物ですし、それゆえに緊張感溢れる日野晧正の真摯なアドリブが侮れません。

B-2 Bemsha Swing
 ご存じ、セロニアス・モンクが書いた怖すぎる定番曲ですから、このメンツにしても神妙さが滲んでいるのでしょうか、最初はちょいと固い雰囲気が漂っている感じです。
 実はセッション全体の演目は、この「Bemsha Swing」を除いては全てがハル・ギャルパーの作曲で、しかも直言すれば、どこかで聞いたことがあるようなフックがキメになっていますから、必然的に演奏する側は気持良くやれたんじゃないでしょうか。
 ところが、この曲に関しては、既にモダンジャズの中だけでも決定的な名演が幾つも記録されていますからねぇ。
 それでも独自のスタイルを崩さないメンバーそれぞれの個人技は、流石に冴えまくり♪♪~♪ 特にハル・ギャルパーは潔いと思いますし、トニー・ウィリアムスの唯我独尊ぶりも、失礼ながら微笑ましいかぎり♪♪~♪ 初心に帰ったような日野晧正も好調ですし、ミディアムテンポでグルーヴィなスイング感を持続させるセシル・マクビーには脱帽です。

B-3 Red Eye Special
 さて、オーラスは当然ようにアップテンポのモード大会!
 全員の溌剌とした勢いは流石だと思いますが、アルバムを通して聴いていると、なんだ……、またかよ……、という苦言も禁じ得ません。
 もちろん演奏はタイトだし、アドリブパートも充実しているんですが、つまりはハル・ギャルパーのオリジナル曲に変化が乏しいというあたりが裏目なんですねぇ……。
 まあ、このあたりは、LP片面毎の鑑賞が普通だった当時では許されることなんでしょう。実際、ジャズ喫茶でも片面プレイが一般的でしたし、家庭においても、こんなハードなアルバムをぶっ続けて両面聴けるのは、相当に気力の充実が求められるんじゃないでしょうか。

ということで、ジャズを聴く充足感という点では最高の1枚かもしれません。

もちろん、このメンツがクレジットされたジャケットを見れば、そこに和みなんてものは期待されない皆様がほとんどでしょう。まさにスピーカーに対峙して、大音量での鑑賞が望ましいわけです。

ところが、今になってみると、これが何かをしながらの所謂「ながら聞き」にも心地良いんですよねぇ~。なにしろ車の運転中とか個人的なPC作業中にも、スイスイと聴けてしまうんですよ♪♪~♪

結局これは、サイケおやじのようにジャズ喫茶全盛期を体験してきた者だけの「パブロフの犬」なんでしょうか……? モードのスケールをガラガラと弾きまくるハル・ギャルパーの歌心の無さが、逆に快いと感じるあたりは屈折しているんでしょうか……?

まあ、それはそれとして、とにかく日野晧正の正統派モダンジャズが、ここまできっちり楽しめるという部分でも、 これはこれで作られた価値があったと思います。

ちなみに日野晧正が、ちょい後にフュージョンど真ん中の路線へ流れてしまったのは、ご存じのとおりですが、それを悪いと言うつもりは、毛頭ございません。全ては演じるミュージシャンの決めたことですし、リスナーは好き嫌いで判別する自由があるのですから。

その意味で、このアルバムのように、何故か今でも新鮮なムードを保ち続けている作品は貴重だと思うばかりなのでした。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

客演リー・モーガン、容赦なし!

2010-08-26 16:44:49 | Jazz

The Night Of The Cookers Vol.1 / Freddie Hubbard (Blue Note)

今日は朝っから、猛烈にジャズが聴きたくなりました。

う~ん、こんな気分は久しぶりですねぇ~~♪

いったい原因はなんなのか?

ちょいと自問自答したくなるほどです。

で、実は先日から昨夕まで、関西方面へ出張していたんですが、これが猛暑なんて言葉を超越した灼熱地獄!?! 1日に午前と午後、衣服と下着を替えねばならないほど、汗びっしょり……。仕事よりも暑さに苦しめられたんですが、おかげで少しは体が絞れたような感じなんですよ。

なんかジャズモードに入ったのも、その所為かもしれませねぇ。

ということで、取り出したのが、本日の1枚というわけです。

録音は1965年4月10日、「ラ・マーシャル」というクラブでのライプセッションで、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、リー・モーガン(tp)、ジェームズ・スポールディング(as,fl)、ハロルド・メイバーン(p)、ラリー・リドレー(b)、ピート・ラロッカ(ds)、ビッグ・ブラック(per) というガチンコの面々なんですが、実質的には当時のフレディ・ハバードが率いていたレギュラー・バンドにリー・モーガンが特別参加したものと思われます。

A-1 Pensative
 とにかく軽快にしてシャープなボサロックのビートを叩き出すピート・ラロッカが、まずは最高です。もちろんリズム隊全員の堅実さも、モダンジャズの王道でしょう。
 ですから楽しいテーマメロディから先発のアドリブをリードしていくリー・モーガンのミュートトランペットが実に快いですよ♪♪~♪ フルートでホノボノとした彩りを添えるジェームズ・スポールディングも良い感じ♪♪~♪
 いゃ~、和みますねぇ~♪
 ところが続けてフレディ・ハバードが登場すると、現場には微妙な緊張感が支配的というか、先鋭性を滲ませた駆け足的なアドリブフレーズを多用し、その合間にリラックスしたキメを入れ込むという遣り口には、大スタアを迎えながらも、バンドリーダーとしての意気地が感じられるのですが、それは決して成功とまでは言い難く……。
 個人的にはリー・モーガンの圧勝とさえ思うほどです。
 そして演奏はハロルド・メイバーンのモードなアドリブを経て、リー・モーガン対フレディ・ハバードの延々としたアドリブ対決に突入するのですが、その混濁した感情の縺れ具合は、あまり良い感じがしません。極言すれば、サイケおやじはピート・ラロッカのタイトなボサロックビートが無ければ、聴いていられないと思うほどです。
 ちなみにステレオバージョンでは真ん中からリー・モーガン、左チャンネルからフレディ・ハバードというのが基本的な定位なんですが、通常アドリブのパートも含めて、それが左右にしょっちゅう変化するんですよねぇ……。まさか演じている本人達がステージをうろうろ移動しながらということも、あまり考えられませんし、おそらくはカッティングマスターを作る段階でのミックス作業なんでしょう。最終的には右チャンネルへと定位するリー・モーガンということで、バトルの実相は更に激烈になるのですが……。
 そういうわけですから、モノラルバージョンでの団子状のミックスの方が、そのゴッタ煮風の味わいが良かったりするのでした。
  
B-1 Walkin'
 これはご存じ、マイルス・デイビスを筆頭に幾多の名演が残されているモダンジャズのブルースですから、リー・モーガンにとっては何の問題もありえない快演がお約束!
 実はこのアルバムはフレディ・ハバードのリーダー盤としての分類が一般的なんですが、驚くのは、この演奏はフレディ・ハバード抜き!?!
 ですからリー・モーガンも遠慮の無いハードバップ魂を完全披露したというわけでもなんでしょうが、とにかく初っ端からアップテンポでブッ飛ばす熱演には溜飲が下がります。
 う~ん、これが当時のリー・モーガンの日常だったんでしょうねぇ~♪ 録音データ的には「ザ・ランプローラー (Blue Note)」や「ジゴロ(Blue Note)」といった人気リーダー盤を吹き込んでいた頃ですから、十八番のトリッキーなフレーズや単独でボケとツッコミを演じてしまう独壇場の芸風が冴えまくりですよ♪♪~♪
 また、それに負けず劣らずの熱演を展開するのがジェームズ・スポールディングのアルトサックスで、その過激な勢いはエリック・ドルフィーの世界に近くなっているほどですし、当然ながらフリーにも片足を突っ込んでいるのですが、頑固なリズム隊がそれを許さない姿勢は潔いばかり! 特にピート・ラロッカは猛烈に叩きまくりながらも、絶対に基本のジャズビートを外していません。
 あぁ~、こういう安心感って、大切だと思いますねぇ~♪
 闇雲のフリーやモードよりも、ずぅ~っと難しいんじゃないでしょうか?
 まさにモダンジャズ全盛期の勢いが最高潮!
 そして演奏は打楽器の共演となり、またまたリー・モーガンとジェームズ・スポールディングの熱血バトルが展開されての大団円!
 これぞっ、ガチンコのモダンジャズです!

ということで、実に爽快なライプ盤です。

ちなみに既に述べたように、ここではリーダーのフレディ・ハバードよりも、客演したリー・モーガンが主役の様相になっていますが、実は同時に作られた「第二集」ではフレディ・ハバードが本領発揮の大活躍を聴かせてくれますので、併せてご堪能下さいませ。

あぁ、久々にジャズって最高っ!

そう思った日には、きっと良いことがあるに違いない!

そう、思い込んだのですが……。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

運命が交錯した1967年7月14日

2010-07-14 15:41:18 | Jazz

John Colrtane More Live At The Showboat 1963 (RLR = CD)

今日はジョン・コルトレーンの命日ということで、日頃は享楽的なサイケおやじも神妙に故人の演奏を聴いています。

で、このCDはちょいと前に入手した発掘音源物ですが、なんと珍しや! ジョン・コルトレーンがステージの現場で、1曲だけですがピアノを弾いているのがウリという大珍品!?

録音は1963年6月24日のフィラデルフィア、「ショウボート」という店でのライプで、メンバーはジョン・コルトレーン(ts,ss,p)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という面々ですが、本来のレギュラードラマーだったエルビン・ジョーンズは、おそらく悪いクスリ等々の諸事情から、この日はロイ・ヘインズに交代していたものと思われます。

01 Chasing The Trane
 お馴染み、ジョン・コルトレーンの猛烈に咆哮するテナーサックスが全てという、まさに当時のライプでは定番だった過激なブルースですから、オフィシャルはもちろん発掘物も含めて、幾つものテイク&バージョンが世に出ていますので、正直に言えば新鮮味は無いでしょう。、
 しかし、やっぱり聴いているうちに熱くさせられるのは、コルトレーンが神様扱いだったジャズ喫茶で青春を過ごしたサイケおやじのような世代じゃないでしょうか。
 実際、演奏はマッコイ・タイナーが抜けたトリオ編成で進行し、極言すればジョン・コルトレーン対ロイ・ヘインズのガチンコ勝負が強烈! 特にロイ・ヘインズはヤケッパチの大熱演で、その一瞬も休まないハイスパートなドラミングは圧巻ですよ。これだけポリリズムをやっても絶対にビートの芯を外さないところは、暴走するジョン・コルトレーンにとっても最適の相手役だったんじゃないでしょか。とにかく燃えに燃えています!

02 It's Easy To Remember
 人気盤「パラード」の中でも特に印象的に残るスタンダード曲なんですが、まさかこれがライプの現場でも演じられていようとは、少なくともサイケおやじは初めて聴く演奏です。
 しかし前述「パラード」収録のテイクに顕著だったセンチメンタルな甘さを期待してはなりません。最初はジョン・コルトレーンもそれなりに吹いてくれるんですが、メロディフェイクからアドリブへと進むうちに、それは何かに憑かれたが如き激情の吐露へと変化するのです。
 ちなみにこのトラックは最初が静かなんで、ライプの現場に集っているお客さんの会話が相当に聞こえます。またジョン・コルトレーンが暴れる前から既に、ロイ・ヘインズのドラミングがヤケッパチ気味になっているんですねぇ。
 ここからは聴いているサイケおやじの全くの妄想なんですが、ほとんど演奏を聴こうとしないお客さんの存在がある以上、場数を踏んでいるメンバーにしてみたら、えぇ~い、好きにやってしまえっ! 的な思惑があったんじゃないでしょうか?
 特にロイ・ヘインズに、それが顕著……。

03 Up 'Gainst The Wall
 これも発掘音源では珍しい演目で、傑作盤「インプレッションズ」に収録されていたモード系変則ブルースですから、またまた激烈な展開を聞かせてくれるのですが、同時に「間」を活かしたというか、闇雲に突進するよりは空間の広がりを如何に自分達の演奏で支配するか? そんな目論見が感じられたりします。
 そして当然ながら、ここでもロイ・ヘインズが大暴れ! ある部分ではエルビン・ジョーンズよりもジョン・コルトレーンとの相性が良いのかもしれません。後半のヒステリックな対峙は激ヤバですよ。

04 The Inchworm
 ここではついにソプラノサックスを吹いてくれるジョン・コルトレーンということで、ファンにとってはロイ・ヘインズとの奇蹟の名演として有名な同年7月7日に行われたニューポートジャズ祭のライプバージョン「My Favorite Things」を想起させられると思います。
 結論から言えば、まあ、あそこまでの強烈なカタルシスはありませんが、それでも後半から終盤の混濁した熱気は、絶対に当時でしか発散出来なかったものでしょう。
 ちなみにマッコイ・タイナーが参加してくるのは、その終盤のクライマックスの場面からなんですが、例によって暗い情念を秘めたコードが鳴りだせば、そこはジョン・コルトレーンが全盛期の証になるんですから、やっぱり侮れませんね♪♪~♪

05 Impressions (incompltet ?)
 そしていよいよ始まるのが、これが出ないなと満足出来ないという定番激烈モードジャズ! 前曲の勿体ぶった終幕から間髪を入れずにスタートするテーマ部分の痛快さは、まさにジャズ喫茶全盛期を体験した皆様にとっては、パブロフの犬でしょう、
 さらにアドリブパートの先発はマッコイ・タイナーの饒舌なスピード違反なんですが、バックで煽る速射砲のようなロイ・ヘインズのドラミンクが、これまた凄いですよっ!
 う~ん、ついつい音量を上げてしまいますねぇ~~♪
 おぉ、「リーチング・フォース」より、激しいぜっ!
 ただしここに収録のトラックは、そのマッコイ・タイナーのソロパートが終わると短いベースソロ、そしていきなりラストテーマに繋がるので、恐らくは編集してあるんでしょうねぇ……。
 それでもマッコイ・タイナーのパートが本当に熱いですから、絶対に満足!

06 I Want To Talk About You (incompltet)
 これもステージライプでは定番のスタンダード曲ですから、珍しい演奏ではないでしょう。ここでも例によって例の如く、ミディアムテンポで繰り広げられる混濁の中から時折浮かび上がってくるメロディアスなフレーズが、まさにジョン・コルトレーン・カルテットならではのロマンとでも申しましょうか、わかっちゃいるけど、ついつい惹きこまれてしまいます。
 また終盤での「お約束」として無伴奏ソロを演じるジョン・コルトレーンにしても、そのあたりは百も承知のほどよい力みで、憎めません。
 ちなみにこのトラックも前半が欠けていて、途中からフェードインする音源ですが、贅沢は敵でしょうね、

07 Mr. P.C.
 これまたジョン・コルトレーンの演目としては人気のブルースでしょう。その調子の良いテーマのスピード感がモードジャズならではの激情的快楽の源ですから、リスナーはひたすらにそれに酔うことが許されるのです。
 そして期待に応えて熱演するジョン・コルトレーン以下バンドの面々は、本当に汗ダラダラの熱気をダイレクトに伝えてくれますよ。これも「お約束」という中盤でのテナーサックス対ドラムスのシングルマッチも本気度が異常に高く、全くの疲れ知らずには絶句させられると思います。
 ただしそこがあまりにも凄すぎた所為でしょうか、続くマッコイ・タイナーの調子がイマイチというか、纏まりの無いスケール練習みたいなのが???
 まあ、このあたりは如何にもブラベート録音らしい音質と日常性の証明なのでしょうか……。

08 After The Rain
 さて、これがお目当てというジョン・コルトレーンのピアノ演奏!?
 それは自作の厳かなパラード曲のテーマメロディを、ジョン・コルトレーンがひとりでポツンポツンと弾くだけという、いやはやなんともの音源です。
 しかも録音状態がそんな所為もあって、客席のざわめきやレコーディングノイズが目立つという、正直に言えば資料的な価値しかないでしょう、本当の珍品です。
 ただしリアルタイムのステージでは、そんな場面がこの日に限らず、案外と多かったのかもしれませんね。そんな想像が様々に出来るというのも、実は楽しいことだと思います。

ということで、ジョン・コルトレーンのファンにとっては、かなり興味津々の発掘盤になっています。

気になる音質も年代や録音条件を考慮すれば、ほとんど普通に聴けるレベルだと思いますし、モノラルミックスですが、その定位もしっかりしています。そしてドラムスのバランスが幾分大きいのが結果オーライのド迫力! 状況が許すならば、大きなスピーカーの前で思いっきりボリュームを上げて聴くのがベストかもしれません。

さて、この天才のジョン・コルトレーンが没したのは1967年7月14日とされていますが、その日の我国では、もうひとつの大きな出来事がありました。

つまり昭和42年の7月14日、テレビ特撮ドラマの最高峰として今も絶大な支持を集める「ウルトラセブン(TBS)」で可憐なヒロインのアンヌ隊員役に、菱見百合子時代のひし美ゆり子が抜擢されたのです(敬称略)。

その経緯については彼女自身のプログに秘蔵写真と共に現在継続アップ中♪♪~♪

http://blog.goo.ne.jp/anneinfi

しかしリアルタイムのサイケおやじは、ジョン・コルトレーンが天国へ召されたことも、また自分の人生に多大な影響と喜びを与えてくれた菱見百合子=ひし美ゆり子が女神となる運命を知る由も無く、イノセントな少年時代を送っていたのです。

う~ん、人の世にはこうした運命の交錯も必要なんでしょうねぇ。

本当にそう思います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オスカー・ピーターソンのニュートン力学

2010-06-05 16:56:08 | Jazz

The Trio Live From Chicago / Oscar Peterson (Verve)

アインシュタインが提唱した相対性理論によれば、絶対的な基準はありえず、時間も長さも伸び縮みし、質量もそれに伴って増大減少するとされていますが、それは慣性の世界という等速運動があってのことらしいので、つまりは一般社会では今日でもニュートン力学が生きています。

つまり何かを基準に物時を判断するのは個人の自由であり、なんら他から惑わされるものではないでしょう。

ですからサイケおやじがジャズピアノトリオの基準しているのは、本日ご紹介の1枚!

と、そんな屁理屈を講じ無くとも、名盤には違いありませんし、実はサイケおやじがジャズを本格的に聴き始めた頃に買った最初のオスカー・ピーターソンが、これでした。

メンバーは言わずもがなのザ・トリオとして、オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds) というだけで、これはもう決定的なんですが、ここではライプレコーディングということで、同時期のスタジオセッションよりも曲単位の演奏時間が長く、しかも演目そのものが親しみ易いというジャズ本来の魅力が横溢しています。

ちなみに録音されたのは1961年7月28&29日らしいことが、現在では特定されているようですが、諸説もあることを付け加えておきます。

A-1 I've Never Been In Love Before
 あまり有名ではないスタンダード曲ですが、そのメロディを美味しく展開させる語り口は、まさにオスカー・ピーターソンがザ・トリオの証明♪♪~♪ ミディアムテンポの幾分地味な2ビートでの演奏進行が、中盤で4ビートに突入する場面のグッとシビレるグルーヴは、本当に独壇場の快感ですよ♪♪~♪
 しかもアレンジが実に用意周到というか、レイ・ブラウンの伴奏のキメ、あるいはエド・シグペンのハイハットひとつをとってみても、並みのプレイヤーでは相当にシンドイであろう要点が、ここでは余裕綽々で演じられているのですから、その場のお客さんはもちろんこと、スピーカーの前のファンも決して疲れずにリラックスさせられるんだと思います。
 またオスカー・ヒーターソンの弾くアドリブフレーズの随所に滲み出るファンキーでブルージーなフィーリングは、この1959年という黒人ハードバップ絶頂期の味わいとして、本当に自然な感じがして、私は大好きです。
 う~ん、グルゥ~ヴィ~~♪
 
A-2 (In the) Wee Small Hours
 ご存じ、フランク・シナトラの十八番として人気スタンダードになった小粋な曲ですから、そのジェントルでハートウォームな雰囲気は如何なる演奏者でも蔑には出来ないでしょう。そしてオスカー・ピーターソンのここでの繊細な表現は、まさに絶品♪♪~♪
 流麗なピアノタッチでじっくりと描かれていく詩情は、ビル・エバンスの世界にも通じるところでしょうが、個人的には最初に体験したオスカー・ピーターソンの流儀が優先して耳に馴染んでいます。
 一般的にはオスカー・ピーターソンというとド派手なテクニックで聴き手を圧倒するとか、豪華絢爛な世界を構築していくスローな解釈というイメージが強いと思いますが、ここでの微細な感情の綴り方は、レイ・ブラウンの寄り添うベースの秀逸さもありますから、もっと認識されてしかるべきと思います。

A-3 Chicago
 レコーディングされたシカゴに因んだご当地ソングということで、不穏なイントロからお馴染みの曲メロが出た瞬間、客席から沸き上がる拍手が、してやったり!
 こういう洒落っ気がオスカー・ピーターソンの人気の秘密なんでしょうねぇ。
 ですから演奏もグルーヴィな4ビートからラテンのリズム、さらに急加速のアップテンポまで、まさに千変万化のテクニックとノリの良さで圧倒的な実力を披露するザ・トリオの真髄が楽しめます♪♪~♪
 う~ん、それにしてもこんな曲調でゴスペルフィールを滲ませてしまうオスカー・ピーターソンは、なかなかこの時期だけの特徴かもしれません。
 またレイ・ブラウンのペースが、これまた凄いとしか言えず、それはクッキリと指使いまでも推察出来る録音の良さもありますが、基本の音楽性が驚くほど幅広いんでしょうねぇ~♪ この頃のステージ写真では、レイ・ブラウンの立ち位置がオスカー・ピーターソンの弾く鍵盤の見えるというポイントがあって、おそらくは使われるコードを先読みしながら演奏していたんじゃないか? そんなふうにも思っています。

B-1 The Night We Called It A Day
 マット・デニスが書いた名作人気曲ということで、そこに顕著な都会的な雰囲気を極力大切にしたパラード演奏の極みつき! その慎ましいピアノタッチは、しかし決して軟弱ではなく、間隙の静寂から聞こえてくる客席のざわめきさえも音楽の一部にしたかのような、実に良いムードが漂ってくるんですねぇ~♪
 もちろん基本となる歌心の素晴らしさは言わずもがな、早いフレーズの使い方も全くイヤミが無いと思います。

B-2 Sometimes I'm Happy
 これがジャズピアノトリオの歴史的名演!
 と昔っから定説になっているわけですが、それはレスター・ヤングの往年の名演で使われたアドリブフレーズをイントロと〆に使うという禁断の裏ワザからしてニクイばかり♪♪~♪ そしてナチュラルなグルーヴを追及していくザ・トリオの真骨頂が徹頭徹尾、楽しめますよ。
 しかもオスカー・ピーターソンのピアノタッチが繊細な指使いからダイナミックなブロックコード弾きまで、それこそ音域の幅と力の強弱が格段に大きく、それゆえにアンプの音量を上げてしまうと、クライマックスでガッツ~~ンとやられてしまいます。
 またレイ・ブラウンが、これまた自身の代表的な名演といって過言ではない素晴らしさで、特にアドリブソロは出来過ぎと思うほど♪♪~♪

B-3 Whisper Not
 ふっふっふっ、このプログラムが気にならないジャズ者は皆無でしょう。
 ベニー・ゴルソンが畢生の人気メロディを、その秘められた哀愁をジンワリと表現していく手法で聴かせるザ・トリオ♪♪~♪
 異論があろうことは百も承知で書きますが、作者よりも「らしい」解釈が本当に、たまらんのですよ♪♪~♪ テーマパートで繊細に震えるレイ・ブラウンのペースも気が利いていますし、シンプルなエド・シグペンのドラミングもジャストミートだと思います。
 ですからオスカー・ピーターソンのピアノがどんなに早弾きや過激な表現に走りかけたとしても、グッと抑制の効いたソフトパップの世界が維持され、リスナーはジワジワと沸き上がって来るジャズ的な快感に身を任せるのみで、全てはOK♪♪~♪

B-4 Bill Boy
 ご存じ、レッド・ガーランドやハンプトン・ホーズのバージョンも人気絶大な演目ですが、ここでのザ・トリオの演奏こそ、短い中にも濃密なジャズの魅力がいっぱい♪♪~♪
 オスカー・ピーターソンの物凄いドライヴ感も強烈ですが、レイ・ブラウンのウォーキングベースが、これほどまでにシンプルな主役になったことは珍しいと思います。
 またエド・シグペンのタイトなドラミングも素晴らしく、アッという間のクライマックスがアルバムのラストテーマっぽくて、何度でも聴きたくなるのでした。

ということで、こんな凄すぎる名演集を最初に頃に聴いてしまってがゆえに、以降の私はレッド・ガーランドもビル・エバンスも、時にはセロニアス・モンクやパド・パウエルの名盤で、それがトリオ編成ならぱ常にこのアルバムを基準に鑑賞するようになってしまいました。

つまり個人的には、ここに聴かれる演奏こそが、常に落ちる時にはきちんと落ちるという、日常的ニュートン力学の愛聴盤なのです。もちろん時間も長さも質量も、絶対に変化しない普遍性が大きな魅力! 聴けば誰しもが、素直に納得するしかない世界だと思います。

もちろんジャズの世界にだって相対性理論に基づく演奏はあるでしょう。むしろ今となっては、そちらの方が多いかもしれません。

あぁ、あの時は良かったのに……。

なぁ~んていう名盤が、相当にゴロゴロしているのでは?

確かアインシュタインの公式によれば、質量はエネルギーに換算出来ると言われています。

しかしそんな理論に頼らなくとも、ストレートに感じられる世界が一番じゃないでしょうか? 自分的には、このアルバムが、そのひとつ♪♪~♪

とにかく、これほど有機的に機能しているピアノトリオ盤は、滅多にあるもんじゃないと思うばかりです。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする