OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ブルーノートのクラーク=ボラン

2010-12-17 15:47:29 | Jazz

The Golden 8 / Kenny Clarke - Fancny Boland (Blue Note)

ジャズにおけるオールスタアズと言えば、ジャムセッションが一番に相場でしょうが、もうひとつ侮れないのがフルバン、つまりジャズオーケストラでしょう。

例えばデューク・エリントンやカウント・ベイシーあたりの有名楽団ともなれば、そこに参集しているメンバーはリーダーセッションを持っている者がほとんどですし、あるいはスタジオの仕事ではファーストコールの腕利きが当たり前というのが現状でした。

そして欧州では、クラーク=ボラン楽団にジャズ者が大注目!

バンド名が物語るように、リーダー格はモダンジャズを創成した偉大なドラマーのひとりであるケニー・クラーク、そして当時は新進気鋭の作編曲家であり、硬派なピアニストでもあったフランシー・ボランなんですが、とにかく2人が一緒に活動する中~大編成の楽団を運営するにあたっては、欧州の有力興行師だったジジ・カンピの尽力があったと言われています。

で、その最初の成果となったのが、ダスコ・ゴイコビッチのリーダー盤らしいのですが、そのレコーディングが1961年2月であり、次に有名なのが、本日ご紹介のアルバムセッションです。

しかも発売がアメリカの名門レーベル! ブルーノートなんですから、如何に当時から注目されていた実力派バンドだったか、一切無用に知れようというものです。

録音は1961年5月18&19日、メンバーはダスコ・ゴイコビッチ(tp)、レイモンド・ドロス(alto-horn)、クリス・ケレンズ(baritone-hone)、デレク・ハンブル(as)、カール・ドレボ(ts)、フランシー・ボラン(p,arr)、ジミー・ウッド(b)、ケニー・クラーク(ds,per) という、今ではお馴染みの面々も、当時は世界的に無名の達人プレイヤーも含む8人編成ですから、そのものズバリのアルバムタイトルを眩しく感じますねぇ~♪

A-1 La Campimania
 前述したダスコ・ゴイコビッチのリーダー盤でも初っ端に収められ、またクラーク=ボラン楽団としても、以降は十八番となる景気の良いハードバップ! しかも約3ヵ月前にやったダスコ・ゴイコビッチのセッションよりも、グッとテンポアップし、さらにシャープなドライヴ感が増した演奏は、このバンドの充実を証明するものでしょう。
 アドリブパートはダークな質感も好ましいクリス・ドレボのタフテナー、硬質なタッチで妥協しないフランシー・ボランのピアノ、ツッコミが激しいジミー・ウッドのペースからケニー・クラークのドラムソロと続きますが、要所を彩るシンプルなリフを基調としたバンドアンサンブルの如何にもジャズ的に楽しさが、一番の魅力じゃないでしょうか。
 個人的にはイントロからビバップ魂を感じさせるケニー・クラークのシンバルワークにシビレます♪♪~♪

A-2 Gloria
 クリス・ドレボを主役としたスローな演奏で、曲はスタンダートらしいのですが、そのメロディの思わせぶりな吹きっぷりとサブトーンを交えた音色は、まさにテナーサックスの魅力がいっぱい♪♪~♪
 もちろんハードバップ本来の黒っぽい雰囲気とソフトな情感のバランスも秀逸ですから、サイケおやじは初めて聴いた瞬間から、その当時は日本で知られていなかったクリス・ドレボの大ファンになりましたですね。

A-3 High Notes
 いきなりジミー・ウッドのベースがテーマらしきリフを弾き出し、アップテンポでスタートするハードバップなんですが、お待たせしました! ようやく登場するのがダスコ・ゴイコビッチのクールで熱いトランペットということで、辺りはすっかりマイルス・デイビス!? いゃ~、これが実にジャズ者の琴線に触れまくりなんですよねぇ~♪
 ケニー・クラークのシンバルワークも素敵ですから、往年のプレスティッジセッションを想起させられますが、バックから煽るリフのシャープなフィーリングは、明らかに1960年代じゃないでしょうか。
 本当に短いのが勿体無い!

A-4 Softly As In A Morning Sunrise
 これはお馴染みのスタンダードメロデイということで、アレンジもウリのバンドが、どのような演奏を繰り広げるのかという興味は深々でしょう。
 そして結果はクリス・ケレンズのバリトンホーンとレイモンド・ドロスのアルトホーンによる、歌心満点のアドリブ合戦が存分に堪能出来る仕上がりなんですよ♪♪~♪
 ちなみにバリトンホーンやアルトホーンが、一体どんな形態の楽器かは知らないんですが、トロンボーンのような柔らかで重厚な音を出しますから、アンサンブルでの膨らみのある色彩や豊かなハーモニーを作り出すには最適なんでしょうが、やはり2人の実力者ゆえにアドリブの素晴らしさも特筆ものでした。

A-5 The Golden Eight
 アルバムタイトル曲は急速4ビートのハードバップ!
 そしてデレク・ハンブル、ダスコ・ゴイコビッチ、クリス・ドレボと続くアドリブの激しい楽しさが、たまりませんねぇ~♪ もちろんバンドアンサンブルの迫力も素晴らしく、ビシッとキマッた演奏をさらにドライヴさせるリズム隊の意外にクールな姿勢も高得点だと思います。

B-1 Strange Meeting
 モードと循環コードの折衷みたいな曲ですが、初っ端からケニー・クラークのブラシをメインにアップテンポでブッ飛ばす演奏は痛快! そして当然ながら、こういうスタイルではダスコ・ゴイコビッチが良い味出しまくりですよ♪♪~♪
 マイルスもどき、大歓迎!!
 要所を締めるフランシー・ボランのピアノも好ましいかぎりです。

B-2 You'd Be So Nice To Come Home To
 ジャズ者ならば、このアルバム中で最も期待してしまうであろう、これが有名スタンダード曲の決定版! 告白すれば、サイケおやじはダスコ・ゴイコビッチがミュートで演じてくれる事を願ったのですが……。
 結果はフランシー・ボランのピアノをメインにした、ちょいとクールな哀愁演奏です。
 しかし、これが所謂トリスターノ派の流れをハードバップで解釈したようなスタイルで、侮れません。
 そして中盤から熱くプローするクリス・ドレボ、さらにダスコ・ゴイコビッチがリードするブラスアンサンブルとベースの掛け合いという展開は、意外なほど熱いんですよねぇ~♪
 う~ん、これはこれで、モダンジャズでは数多い同曲の名演のひとつかもしれませんねぇ~♪ スッキリしたミディアムテンポのスイング感も素敵だと思います。

B-3 Dorian
 そして始まるラテンタッチのハードバップは、所謂エキゾチックな味わいとして、ハリウッド映画のサントラ音源のようでもありますが、各プレイヤーが演じるアドリブパートの充実は特筆されるでしょう。
 中でもダスコ・ゴイコビッチが例によってマイルス・デイビスの味わいを追求すれば、バックではフランシー・ボランがハービー・ハンコックをやってしまう、この茶目っ気にはニヤリとさせられますよ。
 またデレク・ハンブルが演じるフィル・ウッズ~キャノンボール・アダレイの路線は、継承杯に一歩手前の敢闘賞! またまたサイケおやじの好むところです。

B-4 Poor Butterfly
 これも素敵なメロディの人気スタンダード曲ですから、クリス・ケレンズのバリトンホーンがトロンボーンよりも、さらにソフトな音色で演じてくれれば、身も心も素直に委ねるしかないでしょう。
 バックを彩るアレンジも控えめながら、しっかりツボを押さえていますし、中盤から歌いまくりのアドリブを披露するデレク・ハンブルも、熱くて良いんですよねぇ~♪

B-5 Basse Cuite
 ジミー・ウッドのペースがリードするハードボイルドなテーマから、実にクールでカッコ良すぎるトランペットはマイルス・デイビスじゃなくて、ダスコ・ゴイコビッチが十八番のフレーズを連発です♪♪~♪
 あぁ、これを待っていたんですよねぇ~♪
 何度聴いても、シビレが止まりません♪♪~♪
 そしてビバップ丸出しのデレク・ハンブルがチャーリー・パーカーに捧げる熱血アルトを披露するあたりも、まさに黄金のモダンジャズでしょう。
 不安感を増幅させるようなホーンアンサンブルは、ヨーロッパ風の翳りといった感じかもしれません。

ということで、今日では欧州派の名演集として決定的なアルバムになっているんですが、実はブルーノート正統派のファンからは異端の1枚として、些か白眼視されていたようです。

それは如何にもブルーノートらしいドロドロしたアングラ風情、あるいはギラギラしたコッテリ感が無いからで、それを欧州らしいスマートなフィーリングと解釈すれば、実は本場物とは違うところが偽物とは言わないまでも……。

しかし1970年代になって、ダスコ・ゴイコビッチの人気が急上昇するにつれ、またクラーク=ボランのオーケストラが学生バンドを中心に崇拝される流れがあれば、この隠れ名盤にも光が当たろうというものです。

実はサイケおやじにしても、これを聴きたいと願ったのは、ダスコ・ゴイコビッチの存在ゆえでした。

そして結果はカール・ドレボという、新しい宝石を発見し、また欧州モダンジャズの凄さに目覚めたというわけです。

ちなみに中編成でのアンサンブルとモダンジャズとしての存在意義を鑑みれば、ウエストコースト派の演奏、あるいは黒人系ならばベニー・ゴルソンあたりのソフトパップをイメージしてしまいますが、フランシー・ボランのアレンジは、その何れとも異なるシャープさと彩りの豊かさ、そしてヘヴィなドライヴ感があります。

それは既にグループがダンス用の営業よりも、鑑賞としてのモダンジャズを優先させた意識の表れだと思いますし、ほとんどの曲を書き、またアレンジを施したフランシー・ボランの先端的アイディアの発露といって過言ではないでしょう。

実はクラーク=ボラン楽団の映像作品を観て、殊更に実感したのですが、フランシー・ボランは思いっきり愛想の無い人で、それがまた、やっている音楽にジャストミートしている気がしたほどです。

またセッションのプロデュースにはブルーノート本社のアルフレッド・ライオン、あるいはフランシス・ウルフは関わっておらず、前述した興行師のジジ・カンピの仕切りにより、レコーディングエンジニアも現地のスタジオ関係者と思われますが、それでもきっちりと「ブルーノートの音」のイメージを保っているのは、カッティングマスターを作る仕事はヴァン・ゲルダーがやった所為でしょう。

個人的には何時までも飽きないアルバムです。

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