OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ローランド・カークの涙は溢れて

2009-03-31 10:34:16 | Jazz

The Inflated Tear / Roland Kirk (Atlantic)


ローランド・カークの数あるリーダー作の中で、恐らくは一番に安定感のある、つまり普通に聴いて違和感の無い名盤が、このアルバムじゃないでしょうか? 実際、ガイド本でも推薦されることが多いように思います。

なにしろローランド・カークという天才は、ジャズという定義に縛れない自由な感性が強く、それは盲目という現実との関連は否定出来ないでしょう。それゆえにリスナーは妙に構えてしまうことも、また否定出来ません。

このジャケ写からも強い印象を受けてしまう、様々に独自考案した管楽器の同時吹きとか、他にもいろんな楽器を自在に操るという、ちょいとゲテモノ系の演技演出も、聞かず嫌いの要因だと思います。

しかし、一端虜になったが最後、全てを聴かずに死ねるかの代表選手かもしれません。そしてこのアルバムは、その入口には最適で、演目も1曲を除いてローランド・カークのオリジナルです。

録音は1968年11月30日、メンバーはローランド・カーク(fl,ts,Manzello,strich,cl,etc.)、ロン・バートン(p)、スティーヴ・ノボセル(b)、ジミー・ホップス(ds) という当時のレギュラーバンドに、ディック・グリフィン(tb) が部分的に参加しています。

A-1 The Black And Crazy Blues
 陰鬱な、ちょっとニューオリンズあたりの葬列の音楽みたいなメロディが印象的ですが、ローランド・カークはソプラノサックスが猫の鳴き声のように響く、おそらくはマンゼロという楽器を吹いているのでしょう。とにかく、その切々としたメロディの魅力が心に滲みこんでまいります。
 ロン・バートンのブルースロックな、如何にも粘っこいピアノもイヤミがギリギリの素晴らしさ♪♪~♪ 終盤ではローランド・カークの得意技という複数管同時吹きによるホーンのハーモニーが被さってきますから、このハートウォームな雰囲気は最高です。
 ちなみにローランド・カークは自分の葬式には、この曲を演奏して欲しいと遺言していたか……。さもありなんの感涙です。

A-2 A Laugh For Rory
 冒頭には短く、ローランド・カークの愛する息子の声が入っているとおり、フルートによる子供向けの曲のような、ちょいとキュートなメロディが印象的です。
 しかしそれが一転、アドリブパートに入っては躍動的な4ビートでウネリの至芸を披露してくれるんですねぇ~♪ 唸り声を巧みにフルートの音色とシンクロさせるあたりは、もっと聴いていたいと思うほどです。
 またロン・バートンの正統派ジャズピアノの疾走も良い感じ♪♪~♪

A-3 Many Blessings
 野太いテナーサックスが咆哮する、ジャズの中のモロジャズ演奏!
 幾何学的なテーマアンサンブルを経て突入するアドリブパートでは、あの息継ぎ無しにジルジルと吹きまくる、ローランド・カークの超人的な大技が満喫出来ますし、なによりも真っ向勝負の姿勢が最高です。
 ロン・バートンのピアノも極めて真っ当なスタイルを追求していますが、それはドラムスやベースも同様ですから、ローランド・カークの真の実力が認識されると思います。 
 
A-4 Fingers In The Wind
 これが信じられないほどに静謐で美しいメロディの隠れ名曲♪♪~♪ それをフルートでじっくりと奏でてくれるローランド・カークが神様に思えるほどです。背後を彩るロン・バートンのピアノが、これまたイヤミのギリギリという十八番がニクイほどです。
 う~ん、それにしても、ここで遺憾なく発揮されるローランド・カークの美しき感性は、所謂ビューティフル♪♪~♪

B-1 The Inflated Tear
 アルバムタイトル曲は最初、ちょっと前衛的な打楽器やベースの絡みが危ない雰囲気ですが、それが終わるとローランド・カークが複数管同時吹きで重厚なハーモニーを響かせ、じっくりとした悲しいメロディを提供してくれます。
 いったい、どんな楽器を吹いているのか分からないのが悔しいほど、それは哀切の「歌」なんですねぇ……。そして複数管同時吹きによるアクセントの上手い使い方とか、本人の激情が迸ったような叫び声的な台詞云々!
 完全に作り物の世界かもしれませんが、これもジャズとして充分に楽しめると思います、。

B-2 The Creole Love Call
 収録曲中、これだけがデューク・エリントンの有名なオリジナル曲です。そしてローランド・カークとバンドは、作者の意図を大切にした南部風のムードやゆったりしたジャズの味わいを徹底追及! もちろんローランド・カークは複数管同時吹きで絶妙のエリントンハーモニーを再現し、リズム隊も素晴らしいジャズの本質を演じてくれます。
 あぁ、この和みとジャズを聴く喜びの満喫感♪♪~♪ 様々な楽器を吹きながら、しぶといアドリブをやってしまうローランド・カークにも脱帽ですし、それゆえにカルテットとは思えないバンドカラーが見事ですねっ♪

B-3 A Handful Of Fives
 アップテンポの躍動的な演奏で、ソプラノサックス系の音が出るマンゼロという楽器を使い、モード系のアドリブに専心するローランド・カークに激しく対峙するリズム隊という構図は、完全にジョン・コルトレーンのバンドを模倣しているようです。
 というか、これは「愛のある」パロディ?
 ちなみにローランド・カークは、この手の演奏をライブの現場では定番にしていたほどのエンタメ系でもありますが、もちろんそれは真摯なジャズ魂の発露でしょうね。そう思う他は無いほどに楽しいです。

B-4 Fly By Night
 これまたジョン・コルトレーン風のモード系バンド演奏で、ディック・グリフィンのトロンボーンが加わっている所為でしょうか、ちょいとブルーノートの新主流派っぽい雰囲気です。
 特にロン・バートンのピアノは小型マッコイ・タイナー! そしてベースはレジー・ワークマン、ドラムスはジョー・チェンバース? という目隠しテストの結果が出たとしても、あながちミスとは……。
 もちろんローランド・カークはテナーサックスで熱演です。

B-5 Lovellevelliloque
 なんだか意味不明の曲タイトルですが、演奏そのものはアップテンポの正統派モダンジャズですし、モードを使いながら、独特の痙攣フレーズを連発して山場を作るローランド・カークは、ここでもジョン・コルトレーンに帰依しているようです。
 それはロン・バートン以下のリズム隊にしても同様なんですが、ここまでの流れをジョン・コルトレーンの「物真似ごっこ」と決めつけては、ミもフタもないでしょう。素直に聴いて熱くさせられる名演だと思いますが……。

ということで、終盤の3曲はちょっと同一の雰囲気がマンネリ気味とはいえ、なかなか正統派として楽しめアルバムだと思います。それはローランド・カークの資質を尊重しながら拡大解釈したとしか思えないジョエル・ドーンのプロデュース、それを信頼して好きなことをやってしまったローランド・カークの潔さという、上手い成功例じゃないでしょうか?

それゆえに受け止められない部分も、確かにあると思います。しかし、そのちょっと突き抜けた感性は、やはりジャズ者の琴線にふれるでしょう。

ちなみにローランド・カークのライブは素晴らしく、それに接するとスタジオ録音が虚しくなるとまで言われますが、私は体験したことがありませんし、確かにライブ盤に記録された熱いギグは魅力的ですが、スタジオレコーディングも、ある意味で完成された独特の世界が、どんなアルバムにも表出されていると思います。

その強烈な存在感ゆえに、なかなか虚心坦懐に聴けないローランド・カークの作品中、これは例外的にストレートな仕上がりじゃないでしょうか。名盤扱いもムベなるかな!

コメント (2)
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