YS Journal アメリカからの雑感

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酸化亜鉛 (Zinc Oxide)

2010-07-30 10:35:35 | 経済の話題
酸化亜鉛は、ウィキペデイアによると希少金属らしい。(「天然には紅亜鉛鉱(Zincite)として産出するが、アメリカ合衆国の2つの鉱山からしか産出しない希少鉱物である」とあるが、その他の亜鉛鉱もあるようなので、アメリカ名物という訳では無さそうだ。)私が関係するのはゴムの加硫促進助材としてだが、医薬品、化粧品、電子部品にも幅広く利用されている。

7月22日に、アメリカの最大メーカーである Horsehead のペンシルベニア州に有る工場で爆発事故が起き、現在、製錬は行われている様だが、精錬(製品生産)の工程は停止している。(Business Week の記事)この会社約75%マーケットシェアがあり、ゴム製品が結構入っている自動車部品業界では、ちょっとしたパニックになっている。在庫や代替品があるので、一ヶ月位で工場が復旧すれば事無きを得そうだが、もし、事故調査(二人死んでいる)や工場回復に時間が掛かれば、大騒ぎになりそうである。Horsehead は既に、Forece Majeure(Act of God: 不可抗力)を宣言しており、雲行きが怪しい。(Forece Majeure を宣言すると契約上は免責となる)追記 (7-30-10):工場の復旧は年内一杯掛かるらしい。

2008年のリーマンショック後、化学薬品系の工場のキャパは整理が進んできており、年暮れから今年に掛けて、景気回復が力強い局面では、様々な原材料が欠乏する場面があった。何とかやり繰りしながら騙し騙し来た感があったが、今回はマーケットシェア最大メーカーの事故という特殊事情ではあるが、個別の分野での余裕のキャパが消えており、何かあればすぐに供給が逼迫する状況がある。

何十年も続いた経済成長のおかげで、衰退産業も過剰設備を抱えており、好況局面でも供給不足という自体は余り無かったのだが、リーマンショックが引き金となり、本格的な整理に手を付けたところが多い。(今年の上半期のアメリカ企業の好業績は、行き過ぎとも言えるリストラで筋肉質になった所に、需要が増えたという事情がある)

アメリカでも、今後の景気見通しがハッキリしない中で新規投資がなかなか行われず、サプライサイドの逼迫で景気回復の足を引っ張る事態も考えられそうだ。

必要な時に、必要な量を、適正な価格で購入出来るという事が、当たり前で無くなってくる可能性もある。サプライテェーンがしっかりしていた事で、在庫の圧縮などが進んできていたが、今後、安全在庫や計画生産といった一昔前の製造業の常識が復活するかもしれない。価格も、原材料の動きとは無関係に、流通や在庫のコストアップでの価格上昇が起き易くなってきている。

営業としては、昨日と同じ物を、明日は高い値段で売る幸せがある。上の様な講釈垂れるのも、大好きだ。結構的を得た説明だと思うが、すんなり受け入れてもらえる訳ではない。そんな時は価格が折り合わなければ、納入出来ないというサプライヤー最後のレベレッジを使うのみ。(お客さんもその辺の事情は理解しており、ヤクザな捨て台詞でも、(表面はあくまでも紳士的ですよ、念の為)取り敢えず出入り禁止になった事はない。)