福西崇史「磐田の山田は勢いに乗っている」
元日本代表が語るJ1前半戦ベストゴール
2011年8月24日(水)
2011年のJ1もシーズンの半分を折り返し、今季もさまざまなスーパーゴールが生まれるなか、世界を舞台に戦ってきた元日本代表MF福西崇史氏が前半戦のベストゴールをセレクト。かつてジュビロ磐田で中心選手として黄金時代を築き、現在は解説者としてもその落ち着いた口調と冷静な分析力でサッカーの魅力を発信し続けている福西氏が選ぶゴールとは!?
■福西氏のベストゴールセレクション(前半戦)
ベストゴール:山田大記/磐田 第18節 vs.福岡
相手を誘ってまたを抜き、あの角度からのループシュートはイメージがないとできない。非常に難しい選択だし、チャレンジして結果を残したのは素晴らしい。完全に今の磐田を引っ張っているし、10番という重い番号を背負いながらしっかりプレーできる落ち着きは新人離れしている。コントロールからのターン、体の持って行き方、GKの動きを見てループシュートに決めた判断、メンタル面の強さ含め、総合的に前半戦ベストゴールにふさわしいゴールだった。
乾貴士/C大阪(現ボーフム/ドイツ2部) 第19節 vs.鹿島
ターンから2人の間を抜けて、相手のコースを邪魔しながらスピードに乗ったままボールに力を伝えている。しっかり止めて蹴る、ドリブルする、基本的なことの大事さが凝縮されている得点だった。止めて蹴るで言えば、ヤット(遠藤保仁/G大阪[第17節 vs.柏])のゴールとも悩んだが、こちらの方が『こういうドリブルをしてしっかり練習しなさい』というメッセージが伝えられるかなという点で選択させてもらった。
小笠原満男/鹿島 第19節 vs.C大阪
ボールを奪った瞬間にGKを見られる視野の広さと枠に入れる裏づけされた技術、シュートを選択した決断力、簡単そうに見えて非常に難しい得点だし、何よりワクワクさせてくれるゴール。サッカーは遠いから入らないとかではないし、サッカーの醍醐味(だいごみ)を伝えてくれる1つの得点だったと思う。
ハーフナー マイク/甲府 第5節 vs.G大阪
敵を抑えながら自分の体を支えられる強さと、その中でボールを向こうに運ぶ技術、感覚というのは、高さのない日本の中ではなかなか見られないもの。ボールの勢いは比較的そのまま伝えられるが、ボールの角度を変える当て感、力加減は非常に難しいだけに、こういうシュートを決めてくれると周りの選手は楽になる。
石原直樹/大宮 第3節 vs.G大阪
ストライカーらしい動きと、とっさの判断、動きながら自分の考えていたボールが来なかった中でのアイデア。試合を見ている人は思わず『えっ』となるプレーが楽しいわけで、このアイデアは好きですね。外れたら外れたで「アイデアはすごいね」となるが、結果を出さなければいけない世界でアイデアと結果が一致した面白いゴールだった。
■駆け引きの重要性と面白さ
今季のゴールの傾向は、斜め45度の巻くシュートが多いこと。もちろんボール自体の影響、意識の問題もあるが、外国に比べるとミドルシュートが少なかったなか、技術は格段に上がってきている。ただ、ゴールの選定について言うと、やはりサッカーは11人でやるものだし、シュートまでのつくり、つくってくれている人の動き、そういうものに目がいってしまう。あとは基本がちゃんとできているかと、駆け引き。乾のゴールにしても、自分の体をしっかり整えて蹴らないと力は入らなかったし、山田のゴールはもしGKがじっと立っていて上を狙っていたら無理だった。そういったところに面白さを感じる。
現役時代の自分のスタイルをあらためて分析すると、僕自身、駆け引きが好きだった。ボールを取る前に体を当てにいったり、相手のスピードを殺すためにコースに入っておくとか、自分のところでボールを取るために前の選手にコースを切らせたり、逆に僕が誘い込んで後ろの人に取ってもらうとか、そういうプレーに魅力を感じていた。選手としては自分を知るというのはひとつ大事なところで、僕は走れないというのが分かっていたし、じゃあ走らなくていいためには、チームとして力を出すためにはどう協力すればいいかを考えた。個人競技じゃないし、それを補ってチームとしての力にすればいい。今はサッカーをやっていて本当に良かったなと思う。
チームを作り上げる上で、選手として一緒にやりやすかったのは言葉で言わなくても分かり合える選手。あの磐田の黄金時代の選手たち(当時中山雅史、名波浩、藤田俊哉、奥大介らが在籍)は言葉いらずでサッカーができるので、OBになって動けなくなってもいまだにやれる。イメージが合う選手とはボールを蹴るだけで分かるし、日本代表で言えばヤットはやりやすかった。反対に相手選手としてやりにくかったのは、裏を突こうとする選手。俊輔(中村/横浜FM)は技術もしっかりしていて、相手との駆け引きで局面を変えるし、個人個人でやっていても嫌な選手だった。ただ、一番はやはりあの黄金時代の磐田の選手たち。敵にしたら絶対に嫌だし、もうお手上げだと思う(笑)。
■若手の勢いとベテランの経験、サッカーの醍醐味
今季のJ1を眺めると、ベストゴールにも選ばせてもらった山田は勢いに乗っているなと感じる。もちろん柏の田中順也や川崎の小林悠ら結果を出している選手たちというのは、それが自信になって思い切りのいいプレーが出ている。そういうことが成長を助けるし、新人なのでミスをして当たり前。思い切りのよさは新人の特権だし、柏の酒井宏樹が右サイドを駆け上がっていく姿なんていうのは、彼は最初ケガをしていたわけだけど、プレーしていくなかで自分の思った通りのプレーができて、そこで生まれた自信が彼の良さを引き出していると感じている。
ベテランで言えばヤットは当然見るべき選手だし、見る側としては経験豊富な選手が新人をコントロールしているところまで見られれば面白いし、サッカーをより知ることができる。僕がボランチをしていたこともあって後ろで安定感を作るところに目が行ってしまうが、楢崎(正剛)が落ち着いてやっているところや闘莉王(以上、名古屋)が指示している姿、中澤(佑二)がうまく栗原(勇蔵=以上、横浜FM)のカバーをしているとか、そういうところに魅力を感じる。外国人選手では、レアンドロ ドミンゲス(柏)が気に入っている。基本に忠実なところと献身的なところ。組織の重要性が増す中、助っ人がなじめないこともよくあるが、チームの一員として技術をいかんなく発揮しているし、チームの躍進に大きな影響を与えている。
チームとして今見ていて面白いのは、やはり柏。J2から昇格したばかりでJ1の上位にいられるのは力がないとできないし、全員守備、全員攻撃というJ2で戦ってきた力がそのまま出ている。あとは広島もこの4、5年ずっとやってきて、誰が出ても同じようなサッカーができるのは見ていて面白い。僕の理想のチーム像は、自分たちでボールを奪いにいって奪えて、攻撃では相手に触らせずにゴールを決められるようなチーム。選手としてやっている中で「サッカーは楽しくないと」と思ってずっとやっていたが、そういう方が見ている人も応援したくなるだろうし、面白いと思う。ただ、相手がいればうまくいかないし、それをうまくいかせようと駆け引きする。やっぱり、それがサッカーの醍醐味だと思う。
<了>
(取材日:2011年8月9日)
2011年Jリーグ前半のベストゴールに満男を銅像ゴールを選ぶ福西氏である。
簡単そうに見えて難しい得点と語っておる。
子のゴールは胸をすく気持の良いものであった。
満男の視野の広さと技術が生んだこの素晴らしいゴールを、福西氏はサッカーの醍醐味と称した。
このようなプレイを堪能すべく、我等はスタジマムに向かう。
そして、また素晴らしいゴールに出会えるであろう。
楽しみにしたい。
元日本代表が語るJ1前半戦ベストゴール
2011年8月24日(水)
2011年のJ1もシーズンの半分を折り返し、今季もさまざまなスーパーゴールが生まれるなか、世界を舞台に戦ってきた元日本代表MF福西崇史氏が前半戦のベストゴールをセレクト。かつてジュビロ磐田で中心選手として黄金時代を築き、現在は解説者としてもその落ち着いた口調と冷静な分析力でサッカーの魅力を発信し続けている福西氏が選ぶゴールとは!?
■福西氏のベストゴールセレクション(前半戦)
ベストゴール:山田大記/磐田 第18節 vs.福岡
相手を誘ってまたを抜き、あの角度からのループシュートはイメージがないとできない。非常に難しい選択だし、チャレンジして結果を残したのは素晴らしい。完全に今の磐田を引っ張っているし、10番という重い番号を背負いながらしっかりプレーできる落ち着きは新人離れしている。コントロールからのターン、体の持って行き方、GKの動きを見てループシュートに決めた判断、メンタル面の強さ含め、総合的に前半戦ベストゴールにふさわしいゴールだった。
乾貴士/C大阪(現ボーフム/ドイツ2部) 第19節 vs.鹿島
ターンから2人の間を抜けて、相手のコースを邪魔しながらスピードに乗ったままボールに力を伝えている。しっかり止めて蹴る、ドリブルする、基本的なことの大事さが凝縮されている得点だった。止めて蹴るで言えば、ヤット(遠藤保仁/G大阪[第17節 vs.柏])のゴールとも悩んだが、こちらの方が『こういうドリブルをしてしっかり練習しなさい』というメッセージが伝えられるかなという点で選択させてもらった。
小笠原満男/鹿島 第19節 vs.C大阪
ボールを奪った瞬間にGKを見られる視野の広さと枠に入れる裏づけされた技術、シュートを選択した決断力、簡単そうに見えて非常に難しい得点だし、何よりワクワクさせてくれるゴール。サッカーは遠いから入らないとかではないし、サッカーの醍醐味(だいごみ)を伝えてくれる1つの得点だったと思う。
ハーフナー マイク/甲府 第5節 vs.G大阪
敵を抑えながら自分の体を支えられる強さと、その中でボールを向こうに運ぶ技術、感覚というのは、高さのない日本の中ではなかなか見られないもの。ボールの勢いは比較的そのまま伝えられるが、ボールの角度を変える当て感、力加減は非常に難しいだけに、こういうシュートを決めてくれると周りの選手は楽になる。
石原直樹/大宮 第3節 vs.G大阪
ストライカーらしい動きと、とっさの判断、動きながら自分の考えていたボールが来なかった中でのアイデア。試合を見ている人は思わず『えっ』となるプレーが楽しいわけで、このアイデアは好きですね。外れたら外れたで「アイデアはすごいね」となるが、結果を出さなければいけない世界でアイデアと結果が一致した面白いゴールだった。
■駆け引きの重要性と面白さ
今季のゴールの傾向は、斜め45度の巻くシュートが多いこと。もちろんボール自体の影響、意識の問題もあるが、外国に比べるとミドルシュートが少なかったなか、技術は格段に上がってきている。ただ、ゴールの選定について言うと、やはりサッカーは11人でやるものだし、シュートまでのつくり、つくってくれている人の動き、そういうものに目がいってしまう。あとは基本がちゃんとできているかと、駆け引き。乾のゴールにしても、自分の体をしっかり整えて蹴らないと力は入らなかったし、山田のゴールはもしGKがじっと立っていて上を狙っていたら無理だった。そういったところに面白さを感じる。
現役時代の自分のスタイルをあらためて分析すると、僕自身、駆け引きが好きだった。ボールを取る前に体を当てにいったり、相手のスピードを殺すためにコースに入っておくとか、自分のところでボールを取るために前の選手にコースを切らせたり、逆に僕が誘い込んで後ろの人に取ってもらうとか、そういうプレーに魅力を感じていた。選手としては自分を知るというのはひとつ大事なところで、僕は走れないというのが分かっていたし、じゃあ走らなくていいためには、チームとして力を出すためにはどう協力すればいいかを考えた。個人競技じゃないし、それを補ってチームとしての力にすればいい。今はサッカーをやっていて本当に良かったなと思う。
チームを作り上げる上で、選手として一緒にやりやすかったのは言葉で言わなくても分かり合える選手。あの磐田の黄金時代の選手たち(当時中山雅史、名波浩、藤田俊哉、奥大介らが在籍)は言葉いらずでサッカーができるので、OBになって動けなくなってもいまだにやれる。イメージが合う選手とはボールを蹴るだけで分かるし、日本代表で言えばヤットはやりやすかった。反対に相手選手としてやりにくかったのは、裏を突こうとする選手。俊輔(中村/横浜FM)は技術もしっかりしていて、相手との駆け引きで局面を変えるし、個人個人でやっていても嫌な選手だった。ただ、一番はやはりあの黄金時代の磐田の選手たち。敵にしたら絶対に嫌だし、もうお手上げだと思う(笑)。
■若手の勢いとベテランの経験、サッカーの醍醐味
今季のJ1を眺めると、ベストゴールにも選ばせてもらった山田は勢いに乗っているなと感じる。もちろん柏の田中順也や川崎の小林悠ら結果を出している選手たちというのは、それが自信になって思い切りのいいプレーが出ている。そういうことが成長を助けるし、新人なのでミスをして当たり前。思い切りのよさは新人の特権だし、柏の酒井宏樹が右サイドを駆け上がっていく姿なんていうのは、彼は最初ケガをしていたわけだけど、プレーしていくなかで自分の思った通りのプレーができて、そこで生まれた自信が彼の良さを引き出していると感じている。
ベテランで言えばヤットは当然見るべき選手だし、見る側としては経験豊富な選手が新人をコントロールしているところまで見られれば面白いし、サッカーをより知ることができる。僕がボランチをしていたこともあって後ろで安定感を作るところに目が行ってしまうが、楢崎(正剛)が落ち着いてやっているところや闘莉王(以上、名古屋)が指示している姿、中澤(佑二)がうまく栗原(勇蔵=以上、横浜FM)のカバーをしているとか、そういうところに魅力を感じる。外国人選手では、レアンドロ ドミンゲス(柏)が気に入っている。基本に忠実なところと献身的なところ。組織の重要性が増す中、助っ人がなじめないこともよくあるが、チームの一員として技術をいかんなく発揮しているし、チームの躍進に大きな影響を与えている。
チームとして今見ていて面白いのは、やはり柏。J2から昇格したばかりでJ1の上位にいられるのは力がないとできないし、全員守備、全員攻撃というJ2で戦ってきた力がそのまま出ている。あとは広島もこの4、5年ずっとやってきて、誰が出ても同じようなサッカーができるのは見ていて面白い。僕の理想のチーム像は、自分たちでボールを奪いにいって奪えて、攻撃では相手に触らせずにゴールを決められるようなチーム。選手としてやっている中で「サッカーは楽しくないと」と思ってずっとやっていたが、そういう方が見ている人も応援したくなるだろうし、面白いと思う。ただ、相手がいればうまくいかないし、それをうまくいかせようと駆け引きする。やっぱり、それがサッカーの醍醐味だと思う。
<了>
(取材日:2011年8月9日)
2011年Jリーグ前半のベストゴールに満男を銅像ゴールを選ぶ福西氏である。
簡単そうに見えて難しい得点と語っておる。
子のゴールは胸をすく気持の良いものであった。
満男の視野の広さと技術が生んだこの素晴らしいゴールを、福西氏はサッカーの醍醐味と称した。
このようなプレイを堪能すべく、我等はスタジマムに向かう。
そして、また素晴らしいゴールに出会えるであろう。
楽しみにしたい。