【寺野典子コラム】世代交代にかかる“鹿島らしさ”の復活
2011年08月02日12:01
「アントラーズらしくないですねぇ」
試合を中継するテレビのアナウンサーが繰り返す。7月31日セレッソ大阪対鹿島アントラーズ戦。試合は残り時間わずか。1-2とリードするアントラーズはボールを奪うと、前線へとロングパスを蹴りだす。たとえそれが相手ボールになっても、そのプレーが精一杯という状態。3連覇を果たし、かつて試合巧者と呼ばれたアントラーズには余裕がない。そんなプレーが“らしくない”ということだ。
考えてみれば、プレーだけでなく、今季の成績もまたアントラーズらしくはない。シーズンの半分のスケジュールを消化し、1試合少ないとはいえ、セレッソ戦前の時点で5勝4分8敗の勝ち点19で15位と低迷。
これはアントラーズ史上最悪の結果だ。多くの試合で、終了間際に失点し、勝ち点を失っている。パスを繋ぎ、相手を消耗させ、時間をかせぐ……以前のアントラーズの逃げ切りパターンは成功せず、同点弾や勝ち越し弾を許してしまう。
セレッソ戦でも後半33分にPKを献上。これはゴールキーパー曽ケ端のセーブでしのいだ。とにかく勝ち切りたいという選手たちの思いが、たとえ無様なサッカーであっても、ロングパスで逃げるというプレーを選択させたのだろう。そしてロスタイム。ハーフライン上でボールを奪った小笠原が放ったロングシュートが決まり、勝利を飾る。勝利への執念を結実させることができたが、それでも勝ち点は22。首位を走る横浜Fマリノスとの差は18ポイントも離れている。
なぜアントラーズは急激に弱くなったのか?
そんな疑問を持つ人も多いだろう。けれど、予兆は昨シーズンから感じられた。4位に終わった2010年シーズン。優勝したグランパスが8敗しているのに対して、アントラーズはリーグ最少の6敗しかしていない。3連覇を飾った3シーズン(2007年6敗、2008年7敗、2009年8敗)と比べても敗戦数だけを見れば、遜色はない。しかし、昨季は12試合を引き分けで終えている。勝ち切れず失った勝ち点が優勝を手放す原因となった。
自分たちのリズムで試合を進めながらも、ゴールが遠い。勝利を決める得点が奪えないことで、焦りが生じ攻め急ぎ、カウンター攻撃を許し、試合終盤の失点を生んでいるように感じる。昨季までなら、そんな状況でもドローで終えられたのが、今季はそれが負けへと繋がっているのだ。
3連覇の中心となった小笠原をはじめとした1979年生まれのゴールデンエイジたちも今年31歳となる。そんなベテラン勢の衰えを敗因とする声もある。
世代交代の時期をいかに乗り越えるか? クラブのフロント陣がそれを強く意識していることは、清水エスパルスから本田を、コンサドーレ札幌から西を、ジェフ千葉からアレックスを獲得した今季の補強でも明らかだ。モンテディオ山形へレンタル移籍中だった田代と増田も復帰し、シーズン序盤は監督も積極的にターンオーバー制を採用し、多くの選手をピッチへ送りだしていた。
しかし、3月の震災で被災したことはもちろんのこと、多くの誤算が生じているのも事実だ。
アジアカップのためチーム合流が遅れた本田が負傷で離脱。ルーキーの柴崎もそれに続いた。守備的ポジションのユーティリティ選手であった伊野波がクロアチアへ移籍。点取り屋として期待されたブラジル人FWのカルロンも5試合90分あまりに出場しただけで移籍した。そのうえ、7月には興梠も負傷してしまった。ブラジル人FWの獲得が発表されたが、伊野波の代わりを補強する予定はないという。この決断には、来季の獲得オファーを出しているU-22キャプテン山村への配慮を感じるが、センターバックの経験者が中田、岩政、青木と高卒ルーキーの昌子しかいないという事実は不安をぬぐえない。
現在のアントラーズの選手層では、ターンオーバー制を敷くほどの余裕はない。それは選手の力量の問題だけではなく、勝てない現実がもたらしたものでもある。結果が出ないからこそ、新しい選手に試合を託す決断を監督から奪ってしまう。途中出場でチャンスを得た選手も敗戦が続けば、自然と自信を奪われてしまうだろう。勝利が若手にチャンスを与え、彼らの成長を促し、チームの世代交代を容易する。
けれど、アントラーズを取り囲む現状は厳しいものばかりだ。そんななか、オリベイラ監督は、6月11日以降、増田を先発で起用し続けている。
高卒ルーキーでアントラーズに加入し、6シーズン在籍し100試合余りに出場していが増田だったが、小笠原の陰で伸び悩んでいた。そしてモンテディオで出場経験を積み、復帰した。しかし、同じポジションには小笠原だけでなく、青木や日本代表の本田などライバルが名を連ねている。試合出場機会を得たもののチームの結果が出ないことで苦しんでもいるようだ。
5月15日アウエイで途中出場した川崎フロンターレに敗れたあと、次のようなコメントを残している。
「意識が変わらないとダメ。鹿島の良さである“走り、人のため、献身”がまったく見えなかった」
アントラーズの強さの理由、そしてアントラーズらしさを体感してきたからこそ、彼が目指すべき目標は高い。それゆえになかなか自信を手にできないのかもしれない。謙虚で真面目の性格が災いしているのでは? と思うこともある。
そんな増田を見ていると、かつて、ジュビロ磐田で藤田や名波という大きな目標の陰に隠れ、力を発揮しきれなかった成岡や菊池のことを思い出す。
1985年生まれの増田は今年26歳。もう若手と呼べる年齢ではないが、アントラーズでは“若手”というイメージがつきまとってしまう。それを払しょくするためにも増田には結果が必要なのだ。
セレッソ戦では、本田も復帰。途中出場を果たしている。小笠原もゴールを決めた。増田の先発の座は安泰ではない。新たな危機感が、増田を成長させるのか? それとも逆に萎縮させてしまうのか? それはわからない。だからこそ、8月1日からの代表候補合宿に招集されたことで、わずかでも自信を得るきっかけをつかめればと願う。
小笠原二世と呼ばれ続けた増田が、小笠原を脅かす存在に成長するか否か? それがアントラーズの世代交代の鍵となるのかもしれない。下の世代からの追い上げがベテラン選手に刺激を与え、新たな力が生み出されることもある。
世代交代という争いのなかで、アントラーズらしさが育まれ、繋ぎ続けた伝統が次世代へ受け継がれる。その道のりは簡単なものではないだろうが、強豪クラブの名に恥じない結果を生みだしていくことに期待したい。
寺野女史のコラムである。
結局、誓志に期待するということを言いたいのであろうか。
誓志が伸び悩んでおるように見えた者は寺野女史だけでなく多くおったと思われる。
実際に出場機会はどの監督からも多く与えられておったと言えよう。
それだけ、才能についてはどの監督も見いだしておったのである。
一般人から観れば、もっと長く起用されれば伸びるという見解も多かろう。
しかしながら、誓志以上の選手が在籍しておれば、そちらを起用するのはプロの監督して当然である。
更に、試合に出れば必ずしも成長するというものではない。
山形でも、開幕当初からレギュラーだったわけではなく、絶対的な存在でもなかった。
しかしながら、山形で成長したのは、環境を変えた事によるメンタル的な部分が大きかったことは紛れもない事実であろう。
雪をかかねば、連取すらままならず、降格との紙一重での戦いは、優勝を狙う鹿島とは全く別のプレッシャーがあったと思われる。
山形での経験は、誓志によい影響を与えた。
それを糧に今のポジションがあるのである。
ポスト小笠原というポジションではなく、新機軸のボランチとして覚醒しつつあるのだ。
誓志の将来が楽しみである。
最後に寺野女史よ、79年組は今年で32歳である。