【J1:第13節 鹿島 vs 川崎F】レポート:またも名勝負を繰り広げた両チーム。鹿島が激闘を制し首位に立つ。(10.07.18)
7月17日(土) 2010 J1リーグ戦 第13節
鹿島 2 - 1 川崎F (19:04/カシマ/26,607人)
得点者:21' フェリペガブリエル(鹿島)、39' 黒津勝(川崎F)、78' イジョンス(鹿島)
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試合終了のホイッスルが鳴ると、出色のパフォーマンスを見せながら、最後のところで勝ち越し弾を許してしまった田坂祐介は両手を腰に置き、空を見上げた。ミックスゾーンでは中村憲剛が唇を噛みしめ、稲本潤一が「すいません…」と一言だけ告げて通り過ぎていく。高畠勉監督はいつもどおり淡々と記者会見の質問に答えていたが、それがかえって悔しさを滲ませていた。
それとは対照的に鹿島の面々は充実感を漂わせる。小笠原満男と大迫勇也は不満顔だったが、オリヴェイラ監督は余裕のジョークから記者会見を始め、会心の勝利に中田浩二や岩政大樹は胸を張った。どちらが勝ってもおかしくなかった試合を制したのは、30歳前後の選手が8人揃う鹿島の経験値だった。
試合は一進一退の攻防で幕を開ける。序盤から野沢拓也と小宮山尊信が競り合いのなかで激突するなど、どちらのチームも互いに譲らない姿勢は明白だった。
そんな中、鹿島が先制点を奪う。21分、李正秀のミスからレナチーニョに独走を許しそうになるも、これを中田浩二がうまくカバー。そこからボールをつなぎ、前線のマルキーニョスへ。左サイドでボールをキープするマルキーニョスの脇を外から大迫勇也が駆け抜け、うまくボールを受け取りシュートを放つ。これはブロックされてしまったものの、ゴール前にふわりと上がったボールにフェリペガブリエルが飛び込む。小宮山と競り合ったボールはフェリペの勢いが勝ち、嬉しい初ゴールを記録した。
しかし、川崎Fも黙っていない。39分、田坂が苦しい体勢にもかかわらずDFラインの裏へ見事なパスを通すと黒津勝が反応。追いすがる李正秀をドリブルでかわすとゴールキーパーの頭上をぶち抜く強烈なシュートを見舞い、同点に追いついて見せた。
だが、42分、試合に大きく影響を与えるプレーが出る。速攻に転じたマルキーニョスを稲本潤一がスライディングで阻止。この日、2枚目の警告を受け、退場となってしまったのである。均衡がとれているなかで一進一退の攻防を繰り広げていただけに、この退場は趨勢を大きく左右すると思われた。しかし、後半に入り、ゲームを支配したのは川崎Fの方だったのである。
「ディフェンスの時は4バックと中盤の3枚をトリプルの形でブロックをつくって、前線は2トップをそのまま残して、ボールを取ったときの起点になってもらうということでした」
10人になったあとのゲームプランを問われ、高畠監督は以上のような説明をした。しかし、それ以外にも策を授けていたのは明確だ。それはジウトンを狙うことである。
守備時にはジウトンにボールを持たせたところからプレッシャーをかけ、ミスを誘発させる。そして、攻撃時にも田坂を中心にジウトンがいる鹿島の左サイドから圧力を加えていった。鹿島は、川崎Fの最終ライン4人+中盤3人で形成された守備網を崩すことができず、安易な形でボールを奪われてしまうのでなかなか攻めのスイッチが入らない。前半から飛ばしてきたこともあり、運動量でも上回ることができずにいた。この負のスパイラルをどうやって挽回するのか、オリヴェイラ監督の采配に注目が集まっていた。
そこでまず、監督は63分にフェリペから遠藤に代えて中盤の支配力を高める。次いで72分、ジウトンを下げてFWの佐々木を投入。前線を3トップに変えて相手のDFに圧力を加えた。このとき、遠藤は左SBの位置に入る。この位置から攻められていたわけだが、守備を固めるのではなく、逆に攻撃の突破口にしたのは名采配と言えるだろう。
実際に、この二つの交代から形勢は一気に逆転。中央から攻めればサイドが空き、サイドに展開すればゴール前を固めなければならず、川崎Fの中盤は最終ラインに吸収され、ミドルレンジにポッカリとスペースができた。
「出した指示は"揺さぶる"」と監督。
「相手がピッチの幅で揺さぶられたら、徐々に運動量が落ち、集中力も落ちてチャンスをつくれます」
その成果が結実したのが78分。右CKから野沢拓也の蹴ったボールが李正秀の頭にピタリと合い勝ち越し。李正秀は自らのミスを帳消しにするゴールを決めたのである。
勝ち越しに成功したあとは守備の整備。鹿島の選手たちは自らの判断でポジションを変更し、左SBには中田が入り、3トップの一角に入っていた佐々木竜太がポジションを一列下げ、中田の前のスペースである左SHを埋めた。前に出る相手からボールを奪い、カウンターのチャンスが何度もあったにもかかわらずゴールに向かわずキープに努めたのは不満が残るが、それも川崎Fに勝つ難しさを身にしみて感じているからだろう。
この勝利により鹿島は首位となった。まだまだリーグ戦は長いが、「首位に立ったことを喜ばない選手はいないでしょう」という岩政の言葉が、選手たちの気持ちを代弁していた。
以上
2010.07.18 Reported by 田中滋
オリベイラ監督、魔法の采配 鹿島が奪首
2010年7月18日11時42分
(17日、鹿島2―1川崎)
退場者を出した川崎に対し、鹿島は数的優位を生かせずにいた。オリベイラ監督は後半18分にMF遠藤、27分にFW佐々木を投入。3トップを敷いて攻めに出た。すると試合は動いた。
遠藤がドリブルで起点になり、相次いでGKを襲うシュート。流れを引き寄せて李正秀が勝ち越し点を挙げた。すかさず監督は次の手を打つ。形勢を変えた遠藤を19分間で青木と交代。しかも青木は本来のボランチではなく、持ち味の運動量を生かして2列目で球を追い回した。守備を引き締めて盤石の逃げきりだ。
この時、佐々木はFWからMFに下がって中盤を厚くしていた。主将の小笠原によると「守りきるため選手同士で話し合って決めた」。オリベイラ体制4季目。監督が交代カードに込めるメッセージを、選手は言葉なしで理解し、さらに臨機応変に色づけして試合を運ぶ。宿敵・川崎からリーグ戦で3年ぶりの勝利。成熟の鹿島が、気がつけば首位に舞い戻っている。(中川文如)
川崎視点のJs'GOALとオリヴェイラ監督の采配を讃える朝日新聞である。
素人視点で見れば、あまりにも早い時間から守りきる采配を振るったオリヴェイラ監督に不満を募らせるのも頷けなくはない。
しかしながら、ここ数年に渡る川崎との相性を考慮すれば、こういうやり方もありである。
と、考えておったが、監督コメントによると、早い時間の守りきりは選手の考えであった様子。
単に中村堅剛に青木のマンマークを付けただけであり、青木自身も攻撃時には攻め上がっておる。
監督のメッセージが常にピッチ上の選手に行き渡っており、鹿島の強さばかりが浮き彫りとなった。
最高の戦術と采配で、首位をキープし、最後まで笑ってリーグ戦を締めたいものである。
7月17日(土) 2010 J1リーグ戦 第13節
鹿島 2 - 1 川崎F (19:04/カシマ/26,607人)
得点者:21' フェリペガブリエル(鹿島)、39' 黒津勝(川崎F)、78' イジョンス(鹿島)
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試合終了のホイッスルが鳴ると、出色のパフォーマンスを見せながら、最後のところで勝ち越し弾を許してしまった田坂祐介は両手を腰に置き、空を見上げた。ミックスゾーンでは中村憲剛が唇を噛みしめ、稲本潤一が「すいません…」と一言だけ告げて通り過ぎていく。高畠勉監督はいつもどおり淡々と記者会見の質問に答えていたが、それがかえって悔しさを滲ませていた。
それとは対照的に鹿島の面々は充実感を漂わせる。小笠原満男と大迫勇也は不満顔だったが、オリヴェイラ監督は余裕のジョークから記者会見を始め、会心の勝利に中田浩二や岩政大樹は胸を張った。どちらが勝ってもおかしくなかった試合を制したのは、30歳前後の選手が8人揃う鹿島の経験値だった。
試合は一進一退の攻防で幕を開ける。序盤から野沢拓也と小宮山尊信が競り合いのなかで激突するなど、どちらのチームも互いに譲らない姿勢は明白だった。
そんな中、鹿島が先制点を奪う。21分、李正秀のミスからレナチーニョに独走を許しそうになるも、これを中田浩二がうまくカバー。そこからボールをつなぎ、前線のマルキーニョスへ。左サイドでボールをキープするマルキーニョスの脇を外から大迫勇也が駆け抜け、うまくボールを受け取りシュートを放つ。これはブロックされてしまったものの、ゴール前にふわりと上がったボールにフェリペガブリエルが飛び込む。小宮山と競り合ったボールはフェリペの勢いが勝ち、嬉しい初ゴールを記録した。
しかし、川崎Fも黙っていない。39分、田坂が苦しい体勢にもかかわらずDFラインの裏へ見事なパスを通すと黒津勝が反応。追いすがる李正秀をドリブルでかわすとゴールキーパーの頭上をぶち抜く強烈なシュートを見舞い、同点に追いついて見せた。
だが、42分、試合に大きく影響を与えるプレーが出る。速攻に転じたマルキーニョスを稲本潤一がスライディングで阻止。この日、2枚目の警告を受け、退場となってしまったのである。均衡がとれているなかで一進一退の攻防を繰り広げていただけに、この退場は趨勢を大きく左右すると思われた。しかし、後半に入り、ゲームを支配したのは川崎Fの方だったのである。
「ディフェンスの時は4バックと中盤の3枚をトリプルの形でブロックをつくって、前線は2トップをそのまま残して、ボールを取ったときの起点になってもらうということでした」
10人になったあとのゲームプランを問われ、高畠監督は以上のような説明をした。しかし、それ以外にも策を授けていたのは明確だ。それはジウトンを狙うことである。
守備時にはジウトンにボールを持たせたところからプレッシャーをかけ、ミスを誘発させる。そして、攻撃時にも田坂を中心にジウトンがいる鹿島の左サイドから圧力を加えていった。鹿島は、川崎Fの最終ライン4人+中盤3人で形成された守備網を崩すことができず、安易な形でボールを奪われてしまうのでなかなか攻めのスイッチが入らない。前半から飛ばしてきたこともあり、運動量でも上回ることができずにいた。この負のスパイラルをどうやって挽回するのか、オリヴェイラ監督の采配に注目が集まっていた。
そこでまず、監督は63分にフェリペから遠藤に代えて中盤の支配力を高める。次いで72分、ジウトンを下げてFWの佐々木を投入。前線を3トップに変えて相手のDFに圧力を加えた。このとき、遠藤は左SBの位置に入る。この位置から攻められていたわけだが、守備を固めるのではなく、逆に攻撃の突破口にしたのは名采配と言えるだろう。
実際に、この二つの交代から形勢は一気に逆転。中央から攻めればサイドが空き、サイドに展開すればゴール前を固めなければならず、川崎Fの中盤は最終ラインに吸収され、ミドルレンジにポッカリとスペースができた。
「出した指示は"揺さぶる"」と監督。
「相手がピッチの幅で揺さぶられたら、徐々に運動量が落ち、集中力も落ちてチャンスをつくれます」
その成果が結実したのが78分。右CKから野沢拓也の蹴ったボールが李正秀の頭にピタリと合い勝ち越し。李正秀は自らのミスを帳消しにするゴールを決めたのである。
勝ち越しに成功したあとは守備の整備。鹿島の選手たちは自らの判断でポジションを変更し、左SBには中田が入り、3トップの一角に入っていた佐々木竜太がポジションを一列下げ、中田の前のスペースである左SHを埋めた。前に出る相手からボールを奪い、カウンターのチャンスが何度もあったにもかかわらずゴールに向かわずキープに努めたのは不満が残るが、それも川崎Fに勝つ難しさを身にしみて感じているからだろう。
この勝利により鹿島は首位となった。まだまだリーグ戦は長いが、「首位に立ったことを喜ばない選手はいないでしょう」という岩政の言葉が、選手たちの気持ちを代弁していた。
以上
2010.07.18 Reported by 田中滋
オリベイラ監督、魔法の采配 鹿島が奪首
2010年7月18日11時42分
(17日、鹿島2―1川崎)
退場者を出した川崎に対し、鹿島は数的優位を生かせずにいた。オリベイラ監督は後半18分にMF遠藤、27分にFW佐々木を投入。3トップを敷いて攻めに出た。すると試合は動いた。
遠藤がドリブルで起点になり、相次いでGKを襲うシュート。流れを引き寄せて李正秀が勝ち越し点を挙げた。すかさず監督は次の手を打つ。形勢を変えた遠藤を19分間で青木と交代。しかも青木は本来のボランチではなく、持ち味の運動量を生かして2列目で球を追い回した。守備を引き締めて盤石の逃げきりだ。
この時、佐々木はFWからMFに下がって中盤を厚くしていた。主将の小笠原によると「守りきるため選手同士で話し合って決めた」。オリベイラ体制4季目。監督が交代カードに込めるメッセージを、選手は言葉なしで理解し、さらに臨機応変に色づけして試合を運ぶ。宿敵・川崎からリーグ戦で3年ぶりの勝利。成熟の鹿島が、気がつけば首位に舞い戻っている。(中川文如)
川崎視点のJs'GOALとオリヴェイラ監督の采配を讃える朝日新聞である。
素人視点で見れば、あまりにも早い時間から守りきる采配を振るったオリヴェイラ監督に不満を募らせるのも頷けなくはない。
しかしながら、ここ数年に渡る川崎との相性を考慮すれば、こういうやり方もありである。
と、考えておったが、監督コメントによると、早い時間の守りきりは選手の考えであった様子。
単に中村堅剛に青木のマンマークを付けただけであり、青木自身も攻撃時には攻め上がっておる。
監督のメッセージが常にピッチ上の選手に行き渡っており、鹿島の強さばかりが浮き彫りとなった。
最高の戦術と采配で、首位をキープし、最後まで笑ってリーグ戦を締めたいものである。