J1第1節 鹿島 4-0 札幌
2008年03月09日
西部謙司
鹿島―札幌 後半5分、先制点を決めた鹿島・新井場(左端)に駆け寄る本山(10)と小笠原(40)=カシマ【共同 】
昨季2冠の鹿島アントラーズと対するのは、J2の覇者・札幌。1部と2部のチャンピオンが激突した開幕戦は、4-0で鹿島が貫録を示した。鹿島は後半に2つのPKを外しているから、これが決まっていれば6-0という大差がついたゲームである。
しかし、前半の45分間は0-0だった。45分で0-0なのに、90分だと4-0になる。この差はいったい何なのか?
■前半は札幌の思惑どおり
鹿島のスタメンはGK曽ヶ端準、DF内田篤人、中後雅喜、伊野波雅彦、新井場徹、MF野沢拓也、小笠原満男、青木剛、本山雅志、FWマルキーニョス、田代有三。おなじみの4-4-2だ。
札幌はGK佐藤優也、DF鄭容臺、平岡康裕、坪内秀介、西嶋弘之、MF西大伍、ディビッドソン純マーカス、芳賀博信、砂川誠、FWダヴィ、中山元気。こちらも中盤フラット型の4-4-2と、全く同じフォーメーション。
札幌の三浦監督は試合後に、「(前半は)こういうゲームの流れにしたいと考えていたように出来た」と語っている。0-0の前半は、札幌としてはプランどおりといっていい。一方、鹿島のオリヴェイラ監督は、「簡単な話で、初めて対戦する相手なので選手に戸惑いがあった。自分たちが、どうやってこの相手を崩していくか。その点に戸惑いがあった」と述べた。どちらの監督のコメントも、そのとおりであろう。
前半、鹿島はボールをキープしながら攻めあぐねている状態だった。札幌は守備組織が整っていた。ゾーンで守る4バックのラインコントロール、その前でスクリーンを張るMFのポジショニングにも穴はない。
5分、正面右のFKを小笠原がペナルティースポットへロブ、マルキーニョスがヘディングで決めたがオフサイド。その後も小笠原からマルキーニョスへ浮き球のパスが出るが、シュートには至らない。25分にも小笠原のFKをマルキーニョスが頭で合わせるが、今度は枠へ飛ばなかった。
20分を過ぎると、鹿島のパスワークが乱れ始める。ボールは回っているのだが、距離感が悪い。トライアングルを作るのが遅かったり、作れなかったりで、後方からFWへ20~30メートルのパスを出すが、札幌のDFが待ち構えているところへ蹴るからカットされてしまう。このあたり、攻めているのは鹿島だが、流れは札幌の思惑どおりだろう。
40分、新井場が左サイドからドリブルで中へ入って本山へ。本山が外へ持ち出すドリブルからクロスを入れ、田代がヘディングで狙ったが枠を外す。42分、後方からのロングボールを田代がディフェンスの裏へ競り落とし、ペナルティーエリアへ走り込んだマルキーニョスがシュートしたがGK佐藤がセーブした。これが、前半最大のチャンスだった。
42分、札幌のエース、ダヴィが左寄りで本山と小笠原を抜いてシュート、一瞬決まったかと思ったがバーを越えた。
■新井場2ゴールの大活躍
後半1分、鹿島にPKが与えられた。野沢、本山とつないで右サイドの内田へ。内田はボックス内へ走り込んだ野沢の足元へクロスを入れる。野沢がコントロールして抜け出た瞬間、坪内が手をかけて倒していた。スタジアムの外に銅像が立っているジーコは、「クロスはパスだ」と、よく言っていたが、内田のクロスは確かにピンポイントのパスだった。
PKキッカーはキャプテン・小笠原。左へ蹴ったが、佐藤の読みが当たってストップ。コースは甘かったが、球速はそれなりに速かったからGKのファインプレーである。
しかし、鹿島は攻撃の手を緩めない。まず、左サイドで本山が30メートル走ってボールホルダーにプレッシャーをかける。相手に自由にさせない、このチームはそうした意識が高い。ボールを取り返すと、左サイドの新井場が立ち足の後ろでボールを動かす巧みなキープ。サポートに寄った本山が新井場から奪い取るようにボールを得る。すると、新井場はディフェンスラインの裏へダッシュ、そこへ本山からきれいにチップされたボールが届く。ゴールライン際で新井場が折り返し、札幌が何とかCKへ逃げた。その左CKを小笠原が蹴り、ゴール正面で新井場がヘディングシュート、1-0。
鹿島の攻撃は、前半と違ってサイドを使うようになった。しかも、ディフェンスラインの裏を狙っている。
札幌は、失点の4分後には選手交代。2トップの一角だった中山に代えて、クライトンを投入した。すでに後半開始時に西を藤田征也に交代しているから、早くも2枚目のカードである。クライトンのキープからダヴィがミドルシュートを放ち、交代は奏功するかに見えたが、すぐに鹿島の攻勢へ戻る。小笠原のミドルシュートがポストをかすめ、15分にはマルキーニョスが倒されてPK。ところが、マルキーニョスはPKをバーのはるか上へ打ち上げてしまう。17分、札幌は最後のカードを切る。砂川→岡本賢明。
鹿島の伊野波(左)と競り合う札幌の中山。個人能力の差が出た後半、札幌は4失点を喫した【写真は共同 】
■“半分”だけの札幌
試合を決める2点目は後半19分、右からダイアゴナル(斜め)なパスが飛び、マルキーニョスが受けるとみせてスペースを空ける。そこへフリーで走り込んだ新井場が、そのままペナルティーエリアへ入って豪快にゴールへたたき込んだ
実は、PKにつながった2分前の展開とよく似ている。右から斜めの長いパスが飛び、マルキーニョスが受けてペナルティーエリアへ入り込んでいるのだ。いずれもDFの前面を横切る軌道で、そのゾーンを担当するDFがいなかったわけでもない。つまり、札幌は組織的に崩れてはいないのだが、DF個人の対応が遅れているのだ。組織は整っているが、強固かといえばそうではなかった。
だが、それよりも問題なのは、全くといっていいほどボールをつなげられないことだ。3本とパスが続かない。1対1でも簡単に取られてしまう。個人能力の差だ。
守備の個人能力にも差があるが、そこは組織である程度は補える。前半がそうだった。ボールを持っていないときの札幌はいいサッカーができる。事実、45分間は0-0だった。もし、そのままの流れなら、カウンターから1点を奪って鹿島に勝つというシナリオもあり得たかもしれない。しかし先行され、2点目を入れられては、もうどうにもならなかった。ボールを持ったときの力に歴然とした差があり、札幌はボールを持ったときによいプレーができない。攻めようとしてもうまくいかず、今度は守備に穴が空いてしまう。
後半25分、スローインから田代が右サイド深く食い込み、折り返しを受けたマルキーニョスがヒールキックでゴール、3-0。田代はマルキーニョスのパスからGKと1対1になるチャンスもあったが、前進してきたGK佐藤にシュートをぶつけてしまう。こぼれ球を野沢がループで狙うも、こちらも左ポスト。
鹿島ベンチは1人ずつ、時間を使いながら3選手を交代。終了1分前、新井場のドリブルのこぼれ球を本山がワンタッチでディフェンスの裏へ転がし、交代出場の佐々木竜太が軽々と決めて4-0。ディフェンスの動きの逆を突いた、本山のキラーパスが見事だった。
「痛かったのは2点目。前半に出来ていたものが、後半に崩れたのが反省点です」
三浦監督の弁だが、札幌が鹿島と互角の試合ができるのは“ボールを持っていないときだけ”なのだから、自分たちが点を取らなければならない状況になってから、差が開いたのは当然である。これは監督や戦術のせいではない。実力の差だ。攻撃と守備、半分だけなら戦える。45分間が0-0、90分間で4-0という結果は、両チームの力関係を正しく表していたと思う。
<了>
細かな戦評である。
実力と結果が伴うのは天下の御正道である。
我等は正義を貫き、更にアジアも征圧するのだ。