先日ボツリヌス菌の話しの中で、乳児の腸内細菌叢のことに触れました。腸内細菌叢と書きましたが、実は下部消化管には細菌以外に酵母を含む種々のカビ(真菌類)、ファージを含むウイルスもいて、それら全てで一定の生態系を成立させています。腸内微生物叢の方が正しい用語でしょう。
そこでは人間が生産できる酵素では消化できない物質の消化、ビタミンの生産なども行われる一方、微生物叢の構成によっては毒物も産生されることになります。
俗にいう善玉菌、悪玉菌のバランスが良い状態を保つことは健康にとって重要です。
乳児の腸内微生物叢は不完全ですし、腸管の粘膜も薄い。おまけに免疫系細胞もまだ未熟。成人の腸内細菌叢の中にボツリヌス菌の芽胞が入ってきて発芽しても、ボツリヌス菌は増えることができません。他の微生物が圧倒的に多く、彼らの増殖を許さないのです。腸内微生物叢が未熟であると、ボツリヌス菌は容易に増えることができます。
腸管ではまさに菌が菌を制する、ということが起こっています。
皮膚などでもそうです。健康な常在菌叢が成立していれば、変な菌がついても増殖できないため、シャワーなり、お風呂なりで洗い流すことで皮膚は清潔(微生物がいないことを意味しません)を保つことができます。
最近家庭用の消毒用アルコールが売られていたりしますが、あまり多用するのはどうかな、と思うのは正常の微生物叢が破壊される可能性を危惧するからです。人間、とくにアジアに生活する人々にとって微生物は闇雲に排除するべきものではないでしょう。
古代より、共存する知恵が蓄積されてきているのですから、それを我々は受け継いで行かなくてはならないはずです。科学的といいつつの浅知恵でそれらの貴重な知恵を捨て去るのはあまりに愚かだと思います。
話しは少し飛ぶのですが、アフリカのジャングルに住んでいた猿の話しを先日テレビ番組で観ました。彼らは人間による森の破壊によって居場所を里に移さざるを得なくなりました。ジャングルにいた時、この猿は20種類くらいの木の葉を食していました。木の葉には少しずつ毒物があるのですが、多くの種類の木の葉を食べることでそれぞれの毒物の蓄積を避けることができていました。しかし里ではせいぜい5種類くらいの木の葉で生きて行かなくてはなりません。食せる木の葉が5種類になったことで、とうとう毒物の蓄積が危険な領域になってしまいました。
ところが、なんとこの里に住む猿、炭を食べることで毒の排出を促し、事なきを得ていると言うのです。テレビを見ながら「なんでや!」と突っ込んでしまいました。どうやってこの猿は「炭を食べればいいじゃん」となったのか。。。それについては全くわかっていないのか、何の解説もありませんでした。
猿が里に住むようになったのはそう遠くない過去のこと。数十年の間に彼らは毒物の排出のために炭を食べるという「知恵」を獲得したのです。
なんだか科学的、科学的、と唱える人間の浅知恵にうんざりするような話しでした。この猿がどうやって炭を食べることに行き着いたのか解明されたらいいな、と思います。