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ザ・ラストバンカー  西川善文回顧録

2011-12-25 04:26:16 | 金融
アマゾンの出版社からの紹介欄を読むと,

安宅産業処理、平和相銀・イトマン事件、磯田一郎追放劇、銀行大合併、UFJ争奪戦、小泉・竹中郵政改革......。現場にいたのは、いつもこの男・西川善文だった。「最後の頭取」=ザ・ラストバンカーと呼ばれた著者が綴った、あまりに率直な肉声!

とありますが,まさにその通りで,若い頃から,ずっと住友銀行の経営の近くにいて,中核課題を担ってきたお方なのですな。

ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録
クリエーター情報なし
講談社


安宅産業の破綻問題が前半の山場になっていますが,
いかに住銀にとって,これが大きな問題だったかが良くわかります。

著者は,その解決の陣頭指揮にあたるわけですな。

安宅産業は,伊藤忠に引き取らて解決した,ってことになってますが,著者によればそうじゃない。伊藤忠がロスを被らない範囲で一部を引き取ってもらっただけで,残りは住銀が社長やなんかの人材を派遣しながら,直接再建させたり,処理していったということで,当時のノリがどのようなものだったかをしっかり書いておられます。

驚くのは,安宅問題を着地させるために,銀行が伊藤忠に引き取られなかった残りの関連会社を直接経営していた,と書かれていて,ご自身がそう認識していた,というところですね。もちろん異常事態との前提も置かれています。

実態がそうだとしても,普通はそうは書きにくいんでしょうが,銀行が経営していた,と書いちゃうとこがすごいんで。恐るべし。著者のスゴ味を感じます。

融資三部長時代に各社を自分の足で回り,銀行出身の経営者から,ムダをどうやって省いて利益を出すように工夫したかなどを聞いて回ったとか,書いてあります。


著者は,ご自身のスキルのベースを調査部時代の経験においておられるようで,お取引先に調査に入って,徹底的に帳簿を見て,問題点を把握してゆく中で培われたもの,と言う具合。

ただ,その後の調査部に対しては,著者も辛口で,ちょこっと財務分析をして,新聞や雑誌の記事なんかを引用してまとめているレボートが多くて,役にも立たない,と手厳しい。

安宅後,イトマン事件や,平和総合銀行合併問題,不良債権処理,のハナシなど当事者の視点から書いてあって,ウーンそういうことだったのか,とよくわかります。これまで,オドロオドロしく書かれたものばかり読まされて,よく理解ができなかったんですな。

磯田さんのお嬢さん問題,まで書かれてて,

これ,どっかで読んだことある話だな,とよく考えてみると,金融腐食列島,に同じようなエピソードがあったはずで,会長の娘が・・・。これ住銀がモデルになってたんですな。

銀行の自己資本比率を高めるために,ゴールドマンサックスの出資をしてもらうわけですが,当時のボールソン会長と差しで交渉した経緯等も書かれてます。ボールソンは後のブッシュ政権の財務長官になった人ですが,ゴールドマンの現役時代のハナシを聞くとちょいと驚きます。ああ,ホントにゴールドマンのトップだったんだとか。

日本人的な感覚だと,財務長官よりゴールドマンのトップの方がエライと感じたりするんで。日本の閣僚の権威がチョー軽いので,それに慣れちゃってるんですな。それはオカシイわけですがね。

TOO BIG TOO FAILで,日本の金融機関の判断の遅さについてボールソンがなじるシーンが出てきますが,ゴールドマン時代にいろいろと直接交渉した経験からなんですね。


さて,著者の職業人生の中では,たった三年ちょっとでしかない,郵政の社長時代に,結構なページが割かれています。バランス的に,ちょいと変な感じもするんですが,

まだ,お辞めになってからそれほど時間が経っていない,ということや,政治に持て遊ばれたり,それを告発せずに政治側に安直にノッてしまうメディアに,よほど腹を据えかねておられているんでしょうな。

当時の報道は確かに見ていて不気味なほどで,あんな不当ないちゃもん付けにさえ,メディアは乗っかって悪者扱い。いやあ,怖い怖い。ここはロシアか。

筆致は淡々としていて,品良く書かれていますが,お人柄によるものと思われます。

読んでいると,郵政時代にかなりの努力を払われたことがわかり,それだけ思いも強いということなのでしょうね。民営化に備えて,寄生虫のようなファミリー企業や隠れたOB福祉会社を整理していったり,と苦しくて地味で,しかし重要な作業にもきちんと取り組んでいることが説明されてて,ここには感動します。

金融人としての実力,誇り,そうしたものを読んでいて強く感じます。

民主党政権に変わり,亀井さんに辞任を促されて,お辞めになったわけですが,一国民として大変残念に思います。



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