この週末も、少し、デフレの正体を読み返してみたんですね。
以前、本書の主張は要約したことがあるんですな。
『デフレの正体』 藻谷 浩介 その1
いろんな事例が紹介されてて、それはそれで、面白いし、啓発されるんですが、著者は結局何を言ったことになるのか、という点から考えると、どういうことになるんでしょうか。
前半は通説は間違いだらけ、ってな感じで、あれこれデータを引っ張ってきてて、地方が衰退しているという議論は間違いだ、とかですな。よくデータを見ろ、自分は足で稼いで実態を把握してきた、みたいな感じです。
本書のとっても良い点ですね。
ただ、論争的にハナシを進めているので、しかも、論争の相手をかなりレベル低めの層に絞ってしまったために、論旨がとてもわかりにくくなってるんですな。
著者は何を説明したことになるのか。ちょいと考えてみました。
1.日本の消費の絶対額(つまり名目消費総額)は、所得に連動しにくい
まったく連動しないわけでは無いが、きわめて連動性が低い。
これは、公共投資をしても支出に回らず、貯蓄されてしまい乗数効果が効きにくいというハナシと裏表のカンケーでしょう。
2.むしろ日本の消費は、現役世代人口に連動する
所得が増えても消費が増えにくく貯蓄に回ってしまうのは、引退世代が多いから。消費の絶対額の減少(名目の支出額の減少)は、現役世代、生産年齢人口の減少で説明できる。
3.失業も所得に連動せず、現役世代人口増加に連動する
失業は、景気不景気によるよりは、新卒の人数が増えた減ったに連動していて、失業率が高いときは、逆に就業者数も増えている場合が多い。全体の数字が増えているので、失業している人も相対的にふえてしまう。
とまあ、この3点ですかね。
で、一方で、著者のビミョーな議論の部分についてなんですが、どうも、何を言っているのか、何度読んでもよくわからないトコがあるんですな。
1、生産性議論
『人口減は生産性の向上でカバーできる』説を、著者はかなり徹底的に批判しています。
生産性を上げると、人件費の削減につながるだけで、ますます支出が減るじゃないか、
という議論なんですな。
まあ、この辺はかなりメチャクチャな議論と言っていいかもです。
人口が減っても生産を維持するために生産性を上げて、所得を維持しよう、という議論は全く異論の余地が無いし、著者の引っ張ってきたグラフでみても、これまで製造業がそうしてきたことが読みとれます。
『人口減でカバーできる』説は、所得をカバーする、というところまでで、生産性を上げれば、支出が増えて、内需が拡大する、とまでは主張していないのだから、著者がこの説にかみついて、内需を拡大しないじゃないか、とするのはちょっとお門違いって感じですね。
ってか、最初は読んでて何を主張しているのかが、よくわかりませんでした。
著者が説明すべきこと。
著者が自明なこととして書いてますが、本当は説明すべき問題があるんじゃないですかね。
2、『消費の絶対額が落ちていることが、そんなに悪いことなのか』
所得が上がっても消費が増えないこと、が、なぜ悪いのか。若干ではあるが、所得は増えている。単に消費支出に回らないだけだけ。問題だと思うが、では何が問題なのだろうか。
著者の説明では、シャッター通りは、商業施設が過剰になったせい。これは、『地域再生の罠』の主張とも合致しますな。単に過剰な供給が調整されているだけ、
であるならば、特に日本が没落している、というコトとは別のハナシではないではないか。著者の説明でも、実は、地方はバブル期よりも所得が落ちているわけではない。バブル期意向の増加分が、少し減っただけ。なら問題ないじゃん。
必読 『地域再生の罠』~なぜ市民と地方は豊かになれないのか
生産年齢人口が減って需要も減るというのならば、生産も減らせば良い。あるいは、輸出を増やせば良い。生産性を上げて、所得を維持できるのならば、なんら問題無い。
本来、需要があるのに、市場の機能不全によって、調整がうまく行われない場合、政府が出動しろ、だとか、金融緩和しろ、だとか政策議論になるんだと思いますが、そもそも、需要自体が減ってしまった。
3、『本源的に需要が減っているのであれば、そうであることに何が問題なのか』
藻谷ちゃんが、本気で反論しなければならないのは、ちまたの俗論ではなくて、この問いかけじゃないんですかね。
マクロ経済学は、結果としての集計値をあれこれ論じるんで、消費が減っても投資でカバーできれば、とか、労働人口が減っても生産性が上がれば問題ない、とか、そんなトコでお茶を濁してしまってるような気がするし、読んでて実感とマッチしないのもその通り。
藻谷チャンの言う、実感とはどういうことか、人口減少、消費減少とはどうつながっているのか。年寄りが消費しなくなっても残りは今までと同じだけ消費してるんなら、何が問題なのか。それぞれ好きなだけ消費しているだけでしょう。
もう少し、この辺、藻谷ちゃんに突っ込んでもらえば、うれしいんですがね。
こうやって上げ足とりをしててても、小泉さん時代に経済成長しても、自殺が減らなかったことが気になってる私としては、藻谷チャンの実感には全面的に賛成です。だからもう一押し解明してほしいんですな。
消費が減るということは、何が問題なんだろうか。
需要そのものが減っている時、それが人口減によるもので、それ自体はやむを得ない場合、それでも問題だといえるだろうか。
自殺数が減らない、みたいな我々の感じている痛みは、商業施設の過剰を原因とする集約、廃棄、失業など、市場の調整過程に伴う痛みにすぎないのだろうか。