会計スキル・USCPA

会計はビジネスの共通語。一緒に勉強しましょ。

参院選挙 Economist紙の辛口評

2007-07-31 01:39:28 | 英語情報
 Verizonの第2Qの決算が出ているとか、いろいろ気にはなっているのですが今日はやっぱり選挙でしょう。私はノンポリで支持政党無しなのですが、実はここまで自民党が負けるとは思っていませんでした。どう考えると良いのか。何か読みたいわけです。

 さて国内のメディアはどこも同じですな。負けた原因。年金、閣僚の不祥事・失言、それを治められない安倍さんのリーダーシップの無さ。いまひとつ、よく分からない。安倍さんの肩を持つわけじゃあありませんが、年金問題は安倍さんが作ったわけではありませんな。

 で、海外のものを2,3読んでみますと、これが同じような記事でして。よく見ると同じ人が、しかも名前をみると日本人が書いた記事を一斉にのせていたりして。日本に特派員がいないんでしょうな。何年か前に日本から外人記者が居なくなっている、とか聞いたことがあります。記事の内容は、①安倍さんが年金問題をないがしろにして平和憲法の修正や美しい国というアイディアにかまけていた、②後でまずいと気がついて修正したが遅かった、等が指摘されてます。

国内の報道と五十歩百歩といったところですかね。ここはやはり真打にご登場ねがいましょう。安倍さんに恥を知れとなじったことのあるEconomist誌ですね。

今回もなかなか辛口です。

Economist 7月30日

今回の焦点を民主党の小沢さんに当てているんですな。
ちょっと長いですが、

He was relentless in attacking the prime minister’s many weaknesses, starting with his sense of priorities. Where Mr Abe is obsessed with ideological matters, such as revising the pacifist constitution and instilling patriotism in schoolchildren, voters are concerned about money. In particular, while Tokyo, Osaka and other big cities are enjoying the fruits of economic recovery, rural regions continue to miss out. Mr Ozawa’s party targeted rural constituencies, emphasising inequality and the problems of small farmers, and the tactic paid off. As well as sweeping the cities, the DPJ scored well in the countryside, once the LDP’s undisputed turf.

安倍さんの政策の優先順位が間違っていると小沢さんが攻撃した、ふんふん。国民は憲法や愛国心より財布を心配している。特に地方はそうだ。民主党は地方を徹底して攻めたんですね。そういえば、小沢さんが地方、特に一人区を徹底して回っているという報道を随分前に読んだことがあります。Economist誌は冷静に分析してますな。

And at every turn, Mr Ozawa’s party attacked Mr Abe’s competence, an easy enough target perhaps. A string of ministerial scandals and verbal blunders during Mr Abe’s brief administration suggest poor judgment at least. At worst, Mr Abe’s choice of cabinet and his inability to impose discipline on it suggests he is not up to steering the ship of state.

安倍さんのリーダーシップの無さも小沢さんが攻めたか。そうですな。これ、国内の報道と同じように見えますが、違うんですな。小沢さんがそう攻めたと伝えているのであって、Economist誌はその尻馬にのってけしからん、と騒いでいるわけではありません。

まあ、 ”an easy enough target perhaps”と書かれているわけで、Economist誌の安倍さん評価はかなり低いわけですけどね。

A vote, then, against Mr Abe, but not necessarily one for the DPJ. Indeed, Sunday’s victory has merely added to the strains within this opportunist and most unhappy party, made up of bedfellows from right and left. The DPJ won because Mr Ozawa insisted on throwing out all the modernising policy which not long ago defined the DPJ. But many of the DPJ’s younger members despair: Mr Ozawa, who built his career in the backrooms of the LDP, is fashioning the DPJ in the mould of the unreconstructed, pre-reform LDP.

反安倍の票は必ずしも民主党支持とは限らない。単に党内緊張を高めただけかも。小沢さんは民主党を昔の=小泉さん以前の自民党にしようとしている、というわけで党内で若手が失望しているとか。

”this opportunist and most unhappy party, made up of bedfellows from right and left”
民主党評です。右派と左派が同衾している日和見で不満げな政党。政党評としてはボロボロですな。存在そのものを問うていると見て良いかも。


That was a successful tactic for this election. The LDP lacks a leader like the last charismatic prime minister, Junichiro Koizumi, to persuade the people to stick with painful reforms. But it is hardly a long-term electoral strategy.

小泉さんの評価は相変わらず高いですな。カリスマティックな前首相。そこまで言うか。そういうリーダー不在の自民党と戦うには地方を焦点にしたのは成功だった。ふんふん。

A putsch within the party is possible, but who would risk his political life leading one? Indeed, who would want Mr Abe’s job? The DPJ promises to use its upper-house majority to make his life hell.

Economist誌は、この状態でだれが安倍を引き継ごうとするか、といってます。参院が民主党に握られている状況で党首になるリスクを取る人はいない。安倍続投がすんなりきまった背景はこれでしょうかね。短い記事ですがすっきり整理されてますよね。百の記事より一つのEconomist記事。よいしょが過ぎましたな。

最後の決めがすごいです。

With two deeply troubled parties a bleak period now beckons for Japanese politics as well as for the prospects for reform.

2政党とも問題深刻で、日本の将来お先真っ暗、ッぽく締められてますな。
いつもながら超辛ですね。


以上ですが、ついでに映画、選挙評

米クアルコム続報

2007-07-26 04:17:00 | 英語情報
クアルコムのチップが米国内に輸入できなくなっていることを以前ご紹介しましたが、その後動きがあったようです。

Businessweek 7月23日

ちょっとびっくりなんですが、VerizonがBroadcomにライセンスフィーを払うって言うんですね。これで、輸入制限をバイパスすることができるってわけです。

On July 19, Verizon Wireless struck a licensing pact with Broadcom (BRCM), the victor in a patent-infringement suit against Qualcomm (QCOM) that has led to an import ban on all new phone models containing Qualcomm's next-generation wireless chips. Under the deal, Verizon Wireless agreed to pay Broadcom a $6-per-device licensing fee, subject to certain caps, to bypass the ban and continue importing new phones.

ややこしいんですが、もともとはQualcommとBroadcomの争いですわ。どっちもファブレス半導体チップメーカーで、一番手と二番手でやりあってて、この件ではBroadcomが輸入制限を勝ち取ったわけです。で、どこで妥協が成立するか、ということだったんですが、キャリアの Verizon が勝手にかどうか知りませんが、Broadcomと話をつけてしまったんですね。抜け駆けってことですかね。

これまで、mobile-service provider がロイヤリティを払った前例は無かったそうで、というか、従来はモトローラのようなハンドセットメーカーが払っていたわけです。業界内の金の流れを変える出来事なわけで、ある意味大事件なんでしょう。

No wireless chipmaker, be it Broadcom, Qualcomm, or Texas Instruments (TXN), has ever charged a mobile-service provider for royalties on phones containing its components or technology. Until now, only handset makers, like Nokia (NOK), Samsung, Motorola (MOT), and LG have paid these licensing fees.

で、Verizonが払うことになるライセンスフィーを誰が負担するか。結局、クアルコムなり顧客に一部ないし全部をおっかぶせるということになるんでしょうかね。

It appears unlikely that Verizon would be willing to eat the entire $6 extra cost. It's possible the company may seek or has already arranged to recover all or some of the expense from its handset suppliers, Qualcomm, or even its subscribers.

他のmobile-service providerも追随するのか、とかクアルコムの業績がどうなるのか(本件は良い方に影響するのは間違いありませんが)、とか、これによってハンドセットメーカーにどう影響するのか、とかいろいろ気になりますな。


米モトローラ不振続く 第2Q

2007-07-24 01:15:04 | 英語情報
 先日、クアルコムのチップが米国内に入らなくなったことをご紹介しました。モトローラもクアルコムのチップを使っている側なので影響が心配されていたんでしたね。

その影響ではなさそうですが(その影響が出るにしてももっと先なんでしょう)、モトローラの業績不振が続いているようです。

日経7月20日
※※
米モトローラが19日に発表した4―6月期決算は、最終損益が2800万ドル(約34億円)の赤字(前年同期は13億8400万ドルの黒字)だった。赤字は2.四半期連続。主力の携帯電話機の販売台数が前年同期に比べ3割以上減った。
売上高は同19.3%減の87億3200万ドル。同社は人員削減のほか、携帯新機種の投入で巻き返しを目指すが、アップル製携帯の「iフォン」に話題を奪われて新機種の販売も思うように伸びていない。(米州総局)
※※

いや、ちょうどNHKで携帯開発の現場を特集していまして、最近,機能ではなくデザインを中心に開発が進められているというテーマで作られた番組をやってたんですね。

NHKスペシャル 7月23日

韓国のLGや日本のNEC、ソニーエリクソンの開発現場が取材されていて、それぞれ社風がモロに出てて結構面白かったわけです。

その、デザインで打って出た携帯の草分けとしてモトローラのRAZRが番組冒頭で紹介されておりまして。かっちょいいCMで、薄くてかみそりのように女性の水着のヒモをシャキンッと切ってしまう、というやつ。2004年に出たんだそうです。

さて、そのモトローラですが、日経の記事にもあるとおり、落ちが激しいです。確か携帯の世界シェア17%程度あったはずですが、今回の8Kでは13%台まで落ちているとありますな。


モトローラ8K


Mobile Devices segment sales were $4.3 billion, down 40 percent compared with the year-ago quarter. Excluding highlighted items, the segment incurred an operating loss of $264 million, compared with operating earnings of $804 million in the year-ago quarter. Lower sales and earnings are attributable to lower overall unit volumes, particularly in Asia, and the Europe, Middle East and Africa region. Motorola’s share of the global handset market for the quarter is estimated to be 13.5%.

前年同期と比べてみますか。今年と前年の第2Qを並べたものですが、去年は営業利益率が10%以上あった高収益企業だったわけですが、今年は赤字会社になってます。単位は1百万ドルです。おー怖ッ。

                  2007   2006

Net sales            $ 8,732   $ 10,820
Gross margin           2,453   3,357
Operating earnings (loss)    (158 )   1,522

RAXR2のイニシャル出荷がこの2Qから始まっているようですが、果たしてどうなりますか。2004年のモデルでいつまでも戦えるわけもないんでしょうからね。

Handset shipments of 35.5 million units, including shipment of the 100 millionth RAZR and initial shipments of the new RAZR2 and the multimedia MOTO Z8

Iphoneも手ごわそうで、携帯戦争、目が離せませんな。

米キャタピラー2Q

2007-07-23 01:24:23 | 英語情報
米キャタピラー社の第2Qの数字があまりよろしくないようでして。

Businessweek 7月20日

一株益が前年比マイナスなんですね。
Caterpillar reported earnings of $1.24 per share. That compares to $1.52 in the second quarter a year ago, and $1.48 that analysts were expecting according to Reuters Estimates.

米国内の不振が原因なわけですが、海外が伸びているおかげで売り上げはプラスってことですね。
Spectacular sales growth" overseas helped offset poor sales in North America, chairman and chief executive Jim Owens said in a statement. Revenues, at $11.4 billion, were up 7%, and actually beat analysts' estimates.

米国内でトラックが売れてないのか。
In the U.S., Caterpillar suffered along with the very weak U.S. trucking industry. Its on-highway truck sales fell $366 million.

住宅市場も弱い。サブプライムローンも関係あるんでしょうな。
Also, Owens cited "weakness in North American construction markets." The main culprit is undoubtedly the housing market, which is seeing far fewer new homes being built.

海外の伸びと自国通貨安に助けられている点は、米国も日本も同じみたいですね。まあ、先週出てきた米国指標では住宅関連が落ち続けている点を除けばまずまずだったようですがね。

こうやって個別企業の数字で出て来ると、やっぱり住宅関係はだめなのか、と実感しますね。


米インターネット電話会社 突然のサービス停止

2007-07-19 02:25:16 | 英語情報
Forbes 7月17日

2番手のインターネット電話会社が突然、何の予告もなくサービスを停止したことで問題になっているようです。
The abrupt shutdown of Internet phone carrier SunRocket left more than 200,000 customers scrambling for alternate service Tuesday and raised questions about the viability of other standalone Internet phone providers.

既存のキャリアが値段を下げてきて同じようなサービスを始めたせいでして、経営が厳しくなっていたんですな。それで、一番手の方は大丈夫なのか、というとどうも・・・,というわけでして。

The leading standalone provider, Vonage, has more than 2 million customers but it also has faced slowing growth rates and financial losses. It suffered a legal setback earlier this year when it lost a patent infringement case to Verizon Communications Inc. and a judge issued an injunction barring it from signing up new customers.

このトホホな株価推移を見ればわかりますな。

Vonageの株価

まあ、1番手の契約者数が2百万で2番手が20万なのでインターネット電話専門にやっている、こういう会社のシェアはまだまだなわけで、でかくなる前につぶしちゃえ、と既存のキャリアからいじめにあっている、ってとこですか。


この記事で面白いのは、そのサービスを停止した会社のトップや本社がどうなっているかまで報じていることですね。いずこも同じ。こういう記事でもないと分からないですからな。
Nobody at SunRocket was available to explain its quick exit. SunRocket Chief Executive Lisa Hook did not return a call seeking comment Tuesday.

At the company's Tysons Corner headquarters, the phones went unanswered, the doors were locked and a cardboard sign with "Out of Business" scribbled on it hung inside the glass front door. The lights were on inside, and computers and fax machines remained in place, but all the artwork had been stripped from the walls.
さすがに債権者がおしかけてやいのやいの、というのはなさそうですね。

この記事ではインターネット電話会社に対する規制がゆるい(→突然のサービス打ち切りがまかり通っていることに対し)ことにも触れています。

他にもいろいろ書いてあって何かと学ぶところの多い記事なんですね。



サブプライム問題を市場は乗り越えるか?

2007-07-18 06:41:36 | 英語情報
businessweek 7月13日

のど元過ぎればなんとやらで、ダウは上がったり下がったりでして。サブプライム問題ってどうなってるんですかね。

Two days after fears about the subprime housing market and turbulence in the bond market spooked investors, bullish sentiment roared back on July 12, pushing the Dow and Standard & Poor's 500 indexes to new records. The Dow Jones industrial average's 283-point, 2.1%, jump was its largest in more than four years.

The S&P 500 gained 28.94 points, or 1.91%, to 1547.70, and the tech-heavy NASDAQ composite index rose 49.94 points, or 1.88%, to 2701.73, a six-and-a-half year high.

ウォルマート等、major retailers6月の売上が良かったんですな。

Consumer Activity Spurs Investor Activity
The buying spree commenced after several major retailers, including Wal-Mart Stores, Target, and Abercrombie & Fitch (ANF), released June sales figures suggesting that stalwart U.S. consumers were back to their old spending ways and that corporate earnings would rebound. "Maybe the consumer isn't dead after all," says John Wilson, chief technical strategist at Morgan Keegan.

Canada's Alcan のMA話もダウ上昇の背景らしく、
The bulls' primary driver has been "vast and beyond belief" levels of M&A, buyout, and stock buyback activity
とのコメントがのってます。日本でもbeyond beliefみたいなMA本格化があるのかなあ。余談でした。

で、サブプライム問題はどうなったって?
Subprime Who?
But hasn't it been a season of fear for investors? What about the subprime-backed bond mess and the downward revision of billions in asset values by rating agencies? What about the retrenchment in newly cautious debt markets and the likely slowing of M&A activity?

そう、状況が変わったわけではないんですよね。”did nothing to alter them”おっしゃる通りです。
Yes, those issues still hang over Wall Street, and the retail, M&A, and trade deficit picture that emerged July 12 did nothing to alter them. "I don't think anything has fundamentally changed from last week," says Barry Ritholtz of Ritholtz Research & Analytics.


小売が良いって言うけど、Macy's (M)、Home Depot (HD) and Sears Holdings (SHLD)はダメじゃん、ということもある。
Investors' spirits were stirred by good news on chain store sales from retailers including Wal-Mart (WMT; +2.41%), Target (TGT; +6.77%), and J.C. Penney (JCP; +6.04%). Macy's (M) did not share in the good news, after its sales were weaker than expected and the company joined Home Depot (HD) and Sears Holdings (SHLD) in cutting its earnings outlook. Macy's was off nearly 3%, to 39.25.
HDは住宅販売の落ちが効いてるんでしたっけ。

6月の小売だけじゃわからん。7月も見よ。6月ってセールス月ってことですかね。

Briefing.com, a Chicago market analysis firm, noted that June may not be the best indicator of the retail sector, given heavy merchandise promotions. "July will be a more telling month with respect to same-store sales activity and the consumer's willingness to spend in a presumably less promotional environment," the firm said.

サブプライム問題は間接的に効いてくる。
Subprime problems remain an "indirect threat" to the market because of the danger they pose to debt markets and M&A and buyback activity, Ritholtz says.
金余りが支えているマーケットと言われているのに、縮小に向かう危険があるってことでしょうかね。

楽観論者がいるからマーケットも反発したわけですが。
Many seem to believe problems with housing and subprime mortgages are confined to one corner of the economy. The selling earlier in the week, blamed largely on the concern over subprime, may have been simply "a knee-jerk nervous reaction as we start the earnings season," says Wilson of Morgan Keegan.
サププライム問題は限定的だと見ているわけですね。もともと国内の評論家はそういう見方をしていた人が多かったような気がしますが。実際どうなんですかね。

もうひとつの楽観論の背景。円安でもあるが、ドル安ユーロ高でもあるわけで、これが国際企業の業績を支える。ふむふむ。
One other factor possibly cheering equity players? Continued weakness in the U.S. dollar vs. the euro. Roger Volz, chief technical strategist for Swiss American Securities, thinks the lower greenback will actually help the bottom lines of multinational corporations, and he believes that's one reason the Dow has surged to record heights, according to S&P MarketScope. Big multinationals like American Express (AXP; +5.06%), Caterpillar (CAT; +2.34%), Exxon Mobil (XOM; +2.67%), Honeywell (HON; +2.89%), Merck (MRK; +3.82%), and 3M (MMM; +2.33%) were among the blue-chip leaders.




『アメリカの日本空襲にモラルはあったか』その2

2007-07-10 22:44:56 | 読書
その2です。

新装版 アメリカの日本空襲にモラルはあったか―戦略爆撃の道義的問題
  • ロナルド シェイファー、深田 民生
  • 草思社
  • 1470円
Amazonで購入livedoor BOOKS書評/歴史・記録(NF)

前回、訳文のまずさを攻撃しましたが、そのことをもってのみ酷評するにはもったいない中身なんですな。

本書は極めて知的な関心の下に書かれた本で、沢山殺したからひどい、とか、謝罪しろ、とか、良心の呵責を感じるべきだ、とかの主張には一切関係ありません。

テーマは米空軍(正確には陸軍航空軍)内部で、戦略爆撃=無差別爆撃のことですがに関する道義的問題がどう取り扱われていたか、なんですな。

①そもそも、軍隊は命のやりとりをする集団であって、殺害そのものの善悪を問う道義的問題を取り扱うことに無理がある(国際法違反かどうか、等ならわかる)。
②同様に軍隊は自分の命を犠牲にして戦っており、当然ながら敵国民の命について配慮することの優先度は低くなる。

そんな中でも、道義的問題に関する議論は行われていた、という驚きから著者の調査が始まり、調べた結果、ある程度の議論が行われていたことは分かったが議論は不十分だった、というのが本書の結論です。テーマそのものはトライするに足るチャレンジングなものだし本書はそれに成功していると思います。

本書によると、当初は英空軍も独空軍も戦闘員と非戦闘員を区別していました。しかし、空軍基地等の軍事標的だけを空襲しても戦果が上がらない。

精密に標的を設定してもうまく爆弾があたらないし犠牲は大きい、という中で、次第に攻撃しやすく(なんせ広域無差別に居住地に爆弾を落とすので外す心配が無い)、抵抗も少ない(軍事基地よりはるかに守りは手薄)都市攻撃に重点が移っていったんですね。この辺、本書で読まないと分からないことですな。攻撃しやすく戦果を強調しやすいから無差別攻撃なんて、唖然としますが、現場の指揮官からすれば現実的な問題です。戦果がなければ更迭。部隊の士気も下がる。でどうするか、ってことですね。

米空軍は英空軍に同調せず、精密爆撃を実施していましたが、やがて同じ問題にぶつかります。派手に都市攻撃で暴れまわる英空軍に対し戦果いまひとつの米軍。やがてなし崩し的に無差別攻撃に加担してゆく。

その動きには、やはり抵抗勢力が軍内部に居まして、そもそも無差別攻撃に戦略的意味がない、という主張です。一般市民への攻撃が敵戦力を弱めることにはつながらず、返って憎悪を通じて士気を高めてしまう、と冷静に分析していました。そんな無駄なことに戦力を使うな。正論で、当初は米空軍内部でもこれが多数派だったんですな。ただし、抵抗勢力も同義的な問題から反対しているのではないんですがね。著者は表立って道義問題から反対していないことを再三指摘します。当時、米軍関係者は無差別爆撃に対し各人が後ろめたさを幾分感じたにせよ、正式に道義問題を理由に反対はできなかったんですね。

本書はこのあたりの米空軍内部での意見対立を丹念に追っています。ここが真骨頂なんですな。残念ながらこの翻訳では誰がどっちなのか、時々わからなくなるんですけどね。

ルーズベルトは『ドイツ国民全員がドイツはこのたびの戦争で敗北したと認識することがもっとも重要である』として、無差別爆撃を言外に容認し、ドイツ、日本での爆撃効果を分析する機関の設立を指示します。

政治リーダーとして敵国民にヤキを入れることを望んだわけですね。
政治と軍の関係は本書のテーマではありませんが、大統領と国防長官の発言、思考はきっちり追いかけています。スティムソン長官が最後まで無差別爆撃に否定的でしたが事実上見て見ぬ振りをしていたこと指摘しています。

戦争末期になると、無差別爆撃も先鋭化してゆきます。

東京空襲の際には消防機能も無力にして徹底的に都市を焼き尽くすのに必要な爆弾投下密度について、実際に日本住宅を建てて燃やす実験してまで試算したそうです。

そして原爆。

原爆をめぐっての意見対立についても触れています。原爆はさすがに開発者も含め道義問題が表に出てきて議論されることになりますが、それを追いかけています。本書は道義問題がどう取り扱われたかを網羅的に論じる歴史研究の本なのですよ。テーマからしてどっちが良い、悪いを論じているんじゃないんですな(本来は)。

核時代の道義的問題。軍の状況を踏まえた上でしっかり書かれてます。

そして、

『全体としてアメリカ人は戦争中に生じた同義的変化(無差別爆撃を容認するようになったこと)を軽視し散発的な関心しか示さなかった。しかしながら科学技術のなすままに任せてそうした変化を無視し続けたり慎重に思考すのことなくそのような変化を受け入れることが極めて危険であることは今や明らかである』

というのが本書の結論。

本書があまりに読みにくく、かつ扱うテーマから内容を誤解されやすいので、今回は筋を追ってみました。

読みにくいおかげで何度も何度も読み返すことになりました。

これ、本屋さんの深慮遠謀? だとしたらさすが!!

なんて、言うわけ無いだろっ。





『アメリカの日本空襲にモラルはあったか』その1

2007-07-01 22:30:14 | 読書
 さて、ノンポリな私ですが、今日はタイトルにある通り日本空襲について書かれた本の話です。

 先の戦争では、戦地で多くの兵隊さんが亡くなったばかりでなく、本土でも、ものすごい数の一般市民が惨殺されています。焼夷弾、原爆・・・。焼け死んで炭になったり、焼夷弾が酸素を奪って窒息させられたり、放射線にあたって蒸発してしまったり、川に逃げたら川が沸騰してしまって・・・。普通の死に方でなくものすごく苦しんで死んでますよね。アフガンやイラクで多数の女性や子供が殺されて問題になっていますが、六十数年前の日本はもっと徹底的に殺されたんですな。しかも、戦闘の巻き添えでなく、標的にされ、意図されて殺されました。

久間防衛相講演 原爆 しょうがない発言

 防衛相の講演。こういうのってホント信じられないんですが、どういう感覚なんでしょうかね。一番困るのは失言そのものより、この人、まじめにわれわれを守ってくれるんだろうか、ということ。どっかから核ミサイルが飛んできても『これは仕方がない』と判断されたらたまりません。原爆落とされて何十万人もが、もだえ死にしても『仕方がない』状況なんてあり得るのかってことですね。ソ連がどうこうって、ああたねえ、といろいろ言いたくなりますが、本題に入ります。



新装版 アメリカの日本空襲にモラルはあったか―戦略爆撃の道義的問題
  • ロナルド シェイファー、深田 民生
  • 草思社
  • 1470円
Amazonで購入livedoor BOOKS書評/歴史・記録(NF)

この本ですが、ちょっといただけません。文章が、非常に読みにくい。読んでも良くわからない部分が多すぎて文脈を追うことが難しいんですな。パラパラっとめくっただけでも変さが目について、正直読んでいられないんですけどね。

『ピンカスは、ヒューズの発言はきわめて思いやりがあり、ワイカーの対応は意地が悪いと考えた』  

~は、~は、~は、と3連続ですが読みにくいですな。読み返すと意味は取れますがすらすら読みません。普通なら『~と、ヒンカスは考えた』とピンカス部分を最後に持っていくんじゃないですかね。今時、素人ブログでもこんな文章はお目にかかれませんよね。

『スパーツは都市の盲目爆撃を予想しておくようドゥーリトルに命じていたし・・・』

これもどうですかね。予想ってスパーツもドゥーリトルも米軍で上司部下の関係です。盲目攻撃を実行するのは自分たち米軍であるわけですが、予想しておくようにってどういう意味でしょうね。原語が何なのかわからないまま指摘するのも無責任ではありますが、準備せよ、とか覚悟せよ、と命じたんじゃないですかな。予想ってありえないと思うんですがね。

『戦域規模の空爆やマンハッタン計画のような計画を支持することは、肉体的のみならず心理的にとてつもない努力を必要とした。したがって、爆撃の倫理性について苦悩した人々は、そうした努力を停止あるいは方向転換するには、途方もなく強い意志と大きい影響力を必要としたであろう』

この文章、ひど過ぎませんか。読んで意味分かります? 最後に『あろう』で終わってて、ズッコケますな。

これも、何回か読んでかろうじて意味が取れるレベルの文章です。多分こういうことです。マンハッタン計画を支持するためには納得するためのものすごい心的努力を必要としてるわけで、その(勢いのついた)努力を(急に)方向転換したりやめたりするのは大変だったのだろう、ってことですね。あくまで『多分』であって訳文だけ読んでいたのでは正直よく分からないんですけどね。これ書いている間にも,いやこうかな、ああかな、と迷うくらいなんですな。

これ、特にひどい例ということでなくて、こういう練れてなくて意味のとりにくい、あるいは誤訳くさい文章が最初から最後まで延々と続きます。毎ページですぞ。読むのが苦痛で時間もかかる。

 それでも、書評はせねばならぬ、と毎ページなぞなぞを解くようにして何とか読み通しましたがね。こうして読み通してみると原書は良い本のようです。あくまで『多分』ですがね。訳文と私の推測で補った範囲での本書の内容については次回にします。

訳にケチつけたついでに。

訳者あとがきなるものが本書の最後についています。

『アメリカの日本空襲にモラルはあったか・・・。アメリカの政治家と軍人も同じだ。彼らは後になってもルメイの戦法をなおも弁護していたが、かれらの胸中の深い傷になっていたからこそ、そのような戦いをその後することができなかったのである』。

 お訳しになった文章を読んだかぎり、アメリカの政治家と軍人が日本空襲について傷ついているようにまったく読めないんですけどね。そのような戦いを(無差別爆撃)後にできなくなったのは写真や映像による戦場報道によって米国世論が残虐さを許容しなくなったからじゃないんですかね。これは本書が触れていない点ですが。日本人を殺しすぎた反省から彼らが政策を変えたなんて、どっから解釈できるんでしょう。本当は続けたいんだが許されたくなった、と読めますが。

 あくまで、た、ぶ、ん ですけどね。

                         以 上