マネー敗戦というと、結構前に出た本で、日本は貿易戦争で米国に勝ったけど、マネーの世界で完全に負けちゃった、みたいな本だったと記憶してるんですが、
新マネー敗戦という本が、別の著者によって書かれてまして、著者は女性で、元ディーラー。
実際にマーケットで戦ってたわけで、戦場でどう戦ってどう負けた、とかいうハナシはよくマッチしてる感じです。
マーケットは、不特定多数がいろんな思惑で動いてて、予測も制御も不可能で、とかいうハナシを真っ向から否定して、マーケットの覇者、ライオンが居て、何も知らないシマウマを食いまくる、というマーケット観。
ある時、なぜか米ドルが売られて、スイスが買われるという動きがあった。
何の材料も無いのにもかかわらず、何だろう、と思っていると、
一か月後に911が発生。
まあ、はっきりと、インボー説に立っているわけじゃないんですが、よーく練られた国家戦略と、マーケットはどっかでつながってて、しっかり国益・私益を確保している、というハナシで、そういう図式を本書も踏襲しています。財政赤字を海外からファイナンスして、ドル安にしてチャラにしちぁう、とか。エコノミックヒットマンにも書かれてました。
とまあ、随分前に読んだんで、詳細は忘れてしまいましたが、基軸通貨の地位を確立するには、『使い勝手』が良くなくてはならず、そのために石油の決済をこれでやることにさせた、という説明が、とっても良かったのが印象的でした。ルービンが回想録で、先物市場の創設にかかわった時のはなしを書いてますが、そういう国際的な市場を育成して取引をドルで行う、ということが、ドルの地位を高めることにもつながるんですな。
日本の当局はそういう発想で動いていただいているんでしょうかね。
国際的な取引所、取引市場の創設、みたいなハナシ。
なんかやるにしても、国内の業者と外人でも言うことをよく聞くヤツに限定。規制でがんじがらめでコントロールしやすくして、よそもんは入ってくると文句が出てうるさいし、ゆうこと聞かないんでシャットアウト。リスク回避最優先の役人発想だったりして。
円の国際化を行うには、国際的に円の使い勝手をよくしなければならず、使い勝手をよくするには、国際的に使える場を提供しなければならず、国際的に使える場を提供するには、国際的なプレーヤーに来てもらって国際的なプレーヤーに思う存分使えるインフラと自由を与えねばならない、ってことなんだけど・・・。まあ、我が国は、円の国際化なんてやってどうすんのってとこなんかな。
さてと、内容覚えてないのに紹介するなって感じですが、実は、その続編とも言える本書を読んだとこでして、
最近の米ドル vs 中国元の戦いについて、著者が深読みしています。
パートナーと中国を持ちあげておきながら、手を返したように中国製タイヤの輸入規制、台湾への武器輸出、ダライラマとの会談、と中国世論を逆なでするような姿勢に転換。関係を悪化させて、
じゃあ、ドル買うの止める、という動きを中国内で醸成 → 結果的に元高への素地を作ることになった、
とか。
それを先回りして、ユーロ圏ではギリシア問題を取り上げて、ユーロ安誘導、
と、各国が輸出振興、通貨切り下げに動くにあたり巧みに政治が絡んでいる、というのが著者の見方。
で、日本は・・・、あれってなわけでして。
最初に彼女の本を読むんなら新マネー敗戦なんでしょうな。本書も面白いですが、後半がイマイチ。
ゆうちょ問題では民営化反対の立場で、まあそれは良いとして、その理由が政府系ファンドとしての活躍を期待できる、とかいうもので。
実際に、ゆうちょは、株式の買いや、ドル買いに動いていて、極端な円高に行った時には頼りになりそうだ、と著者はみてるんですが、ドルを買って、米債を買わされるのは、そもそも米政府をファイナンスすることになってよくないみたいな言い方を別のとこでは主張しているわけで、ちょいと論理が一貫してないっつか、説明不足で荒っぽいんですな。
一貫した国家としての通貨戦略が、日本政府にあるというのが、政府系ファンド支持の前提になるはずですが、著者はそんなの信じてないでしょう。そもそも、ゆうちょがうまくやったのは、民営化のためにトップになった西川さんの指揮のもとにあった時期のことで、民営化ありきで初めて成立したディールなんじゃないんでしょうか。
最後の方で、これからの日本向けの政策提言になってるんですが、いかにもとってつけました風になってて、無い方がマシ。
余計なことには手を出さず、彼女の得意分野に絞り込んで深く掘り下げる方向で書いてもらって方が良いに違いないと思うんですがね。
とまあ、文句を言いまくってるみたいななってますが、基本的に良い著者、良い本なんで、オススメです。
オススメだと思っていながら上げ足をとってしまうのは、性格が悪いんかな。