会計スキル・USCPA

会計はビジネスの共通語。一緒に勉強しましょ。

国債日銀引き受けとシニョレッジ 通貨地理学

2012-12-10 23:49:32 | マクロ経済

今年は,アメリカも,ロシアも,フランスも,韓国も選挙でして。中国は選挙は無いけど政権交代。とにかく政治変動の年,という感じなわけですが,最後に日本まで選挙になって,選挙イヤー最終コーナーです。

アメリカの、一年以上かけて,じっくり,激しく議論しまくって,失言したり,スキャンダルに見舞われたリしながら,生き残ったリーダーが選ばれる,という仕組みはうらやましいですな。繰り返し繰り返し論戦を行えば,いやでも国の抱える問題はクリアになっていきますね。

日本の選挙戦でびっくりするのは,日銀金融緩和が異様にクローズアップされていることなんですな。唐突過ぎるし,そういう専門的なハナシが,しかも日銀の金融政策が,なんで選挙のテーマになるのか,というわけで。専門家の間でも意見の分かれるような話しを,安倍ちゃんが出てきて,エイヤーッ,って言うような種類のハナシなんでしょうか。

中央銀行制度がそもそもおかしい,とか,ロンポールみたいに制度をどうする,みたないハナシならまだわかるんですが,どれだけ金融緩和するか,なんてかなり専門的な領域に入りますよね。


で,本書です。


通貨の地理学―通貨のグローバリゼーションが生む国際関係 (21世紀ヒューマン・ルネサンス叢書)
クリエーター情報なし
シュプリンガー・フェアラーク東京


国家単位で通貨が発行され,管理される,というのは,せいぜい,ここ二百年のことに過ぎず,もともと通貨は国境に縛られずに,しかも複合的,階層的に流通するものだ,というような話しが書かれているんですが,

その中で,通貨の発行権を国家が持っていることのメリットについても説明されていて,それが,シニョレッジ。つまり,紙幣を自分で刷って,それを使う。一万円札を刷れば,コストは印刷代だけで,一万円の価値を自由に作り出せる。

文字通り金のなる木,それがシニョレッジなんですな。

しかし,そんな都合が良いだけのハナシはなくて,国家が利益を得るのであれば,誰かがそのコストを負担しているはずですが,それは,国民なわけで。


つまり,刷られた紙幣分,貨幣価値が失われて,すなわちインフレになって,今まで持っていた貨幣の価値が薄まってしまう。

これ,インフレ税と呼ぶんだそうですな。

徴税システムの整っていない途上国などでは,仕方なく,この手法で資金調達したりする。ひたすら戦費調達のためにお金を刷りまくって,激しいインフレ,国民経済は疲弊,みたいなハナシは聞いたことあるはずですな。

政府の発行する国債を日銀が直接買い取る,みたいなのは,これに近くて,税金を直接とる代わりに,インフレ税にします,と言っているんですな。デフレ対策です,と言われると通りが良くなるだけで,基本的には増税と同じです。

普通は,アホか,と一喝されて終わり,という筋悪な主張だと思いますが,しかし,全く意味がないとも言いきれないんですな。かつて,スティグリッツが,政府紙幣を発行せよ,みたいなアドバイスを日本政府に行っています。


政府紙幣その2 スティグリッツ



国債を日銀に引きうけさせるのも面倒なので,政府自身が紙幣を刷っちゃえ,ってことですね。インフレになる可能性はあるが,今デフレなんだから,ある程度インフレ圧力が生じるのはウェルカム。財政赤字をシニョレッジでファイナンスできる点もメリットが大きい。直接増税することなく,赤字を埋めることができる。国民はインフレで負担するわけですが,ひどいインフレにならない程度でやめとけば良い。デフレなんだからちょっとくらいインフレになるのはむしろ歓迎。

デフレ対策と財政赤字の解決が一度にできてしまう,すぐれもの,というわけですが,

スティグリッツはノーベル賞をもらった超一流経済学者なんで,政府紙幣の議論が根も葉もない荒唐無稽ばなし,とは言えないってことですね。

これ,日銀けしからん,論とは別次元のハナシで,もっとしっかりした政策パッケージとして提示すべきですがね。

けしからん論になっちゃうところが,悲しいトコで,オバマケア導入の時のオバマさんを,ちょっと見習ってほしいですな。何時間も議会共和党メンバーと議論して,一歩も引かず。主要施策については専門家とおなじくらいの議論ができる。

そんな風にならんもんかな。







国際経済秩序の発展 アーサー・ルイス

2012-08-05 00:40:25 | マクロ経済
経済学を勉強していて悩まされるのは,数学と,英語。
数学はここでも書いてきましたが,実は英語も大変。

論文も有名なヤツ以外は翻訳が無いんで,原典にあたろうとすると英語になってしまう。

と,言いながら,翻訳があっても,問題があって,

翻訳の質ってやつですね。

こないだは,ケインズの一般理論の山形訳がいかに読みやすいか,旧訳がいかに問題が多いか,についてここでも比べてみたわけですが,

それどこじゃねえってヤツを発見。

国際経済秩序の発展

アーサー・ルイスの講義録。

開発経済学の巨匠,って感じの人で,ノーベル賞ももらっているんですが,本書を読んでいると,第二章冒頭で、こんな風に書かれてて,

国際経済秩序の発展
クリエーター情報なし
文化書房博文社


『世界はどのようにして,工業国家群と農業国家群に分かれるようになったのであろうか。これは、地理的資源,経済力,軍事力,ある国際的陰謀,その他に起因している』

ナヌッ? 国際的陰謀?

三流評論家ならいざしらず,一流経済学者がんなこと言うかな?

というわけで,原文をあたってみると,

How did the world come to be divided into industrial countries and agricultural countries? Did this result from geographical resources,economic forces,military forces,some international conspiracy ,or what?

ギョヘーッ。

一文目は,良いとして,二文目は疑問文やがな。
しかも,『ある』国際的陰謀,では無くて,someがついているんで,なんらかの,的な訳が妥当なとこじゃないでしょうか。

国際的陰謀,は一番最後にジョークとして持ってきてるんで,多分ここ,笑うトコなんじゃないですかね。この後に,一連の説明が続いて,人口移動なんかの,有名な二重経済論の主題に移っていくわけで,国際的陰謀は文脈的にも関係なし。そもそも,ここでは,俗説として例をあげているだけで,ルイス自身が無限定に肯定しているわけじゃない。

実は、第一章からしてメタメタで,

『元来,国際経済秩序という概念は,漠然としている。従って,ここではそれをできるだけ正確に定義してみたい』

とあるんですが,その後,一切定義が出てこず,変だな,と思って原文をあたってみると,

The phrase "international economic order" is vague,but nothing would be gained by trying to define it precisely. What I am trying to do is to talk about certain element of the relationship between the developing and developed countries which・・・.

ってなってて,

国際経済秩序という概念は漠然としているが,正確に定義しようとしても得られるものはなかろう。

くらいに訳すのが多分正しいはず。

ウーン・・・。

これは誤訳とかいう段階を超えているような・・・。

後半に入ると,日本語として意味も取れない箇所が増えて,もう読み物とも言えず・・・。

これだと,翻訳版を読んでも,読んだことにならないんで,
つらいけど,あきらめて原文で読むしかないですね。


それにしても,こんなん商品として売ってて良いんかな。



実験経済学への招待

2012-07-10 00:24:35 | マクロ経済

いや,随分と更新をお休みをしておりました。
ちょいと忙しかったもんで。

院に通いだすと,なんやかんやレポートや課題が出たり,プレゼンが必須だったり,予習復習なんかもやらないといけなくなって,ブログ更新がおろそかに。

意外にブログ更新にも時間がかかるんで。簡単に書くつもりが,書いてるうちに長くなったりして。

読みたい本も読めず,観たい動画も後回し。院で刺激を受けて満足する部分もあるんですが,我慢することも結構多いです。


とまあ,そんな具合ですが,今日は,本のご紹介。
ちょいと息抜きにと思って買って読んでみたんですが,

こいつは掘り出しモンでっせ。

実験経済学への招待
クリエーター情報なし
エヌティティ出版


初心者向けの入門書と銘打って,くだらないたとえ話に続いて,突然意味不明の説明がつながって,全く付いていけなくなる本が結構あったりするんですが,本書は,かなり高い水準で,わかりやすさと,説明水準の高さを両立させています。

著者達の実力とセンスの高さが相当であることが伺えるんですね。


実験経済学,というと,こないだ『貧乏人の経済学』をご紹介したときに出てきた分野ですが,本書は,開発分野に限らず,『市場とは何か』『経済とは何なのか』について簡単な実験例で,まるで目に見えるように説明してくれます。


大学院に通って,改めて実感するんですが,経済学は大いなる,『仮定の科学』であって,その仮定が正しいかどうか,については,あんまし,ってかほとんど気にしてないんじゃないか,と思えたりして。

こう,仮定を置いて考えると,こんなことも言えまっせ,あんなことも言えまっせ,とひたすら考える。

そうした思考の有効性については疑いは全く感じないし,重要なことだと思うんですが,経済の実態,原理,本質をつかもう,という志の観点からすると,こんなことも言えるかも,あんなことも言えるかも,ということは,どっちかというと枝葉部分に感じられたりするわけで。

とまあ,偉そうに言う資格もない私が,とやかく言うもんじゃあないんですが,

で,本書。

本書は,経済とは何か,市場とは何なのか,について,真正面から説明してくれます。

取引が成立するとはどういうことなのか。

学生を使った実験例を本書では紹介していますが,
カードを使った実験で,最初は,でたらめな値段がついていたのが,

何度も繰り返しているうちに,理論値での値付けが行われるようになったりする。

『バレート優越』って,ホンマかな,絵に描いたモチやろ,とどっかで感じていた私ですが,本書を読んで,意外と伝統的なミクロも有効で,きちんと身につけなきゃいけない,と逆に思ったくらいです。

このブログの読者の方の中には,開発関係に関心をおもちの方もいらっしゃるはずですが,第7章でフィールドワークが取り上げられていてます。

貧乏人の経済学,のテーマになってた貧困国での経済実験のことですね。

例えばマイクロファイナンス。

マイクロファイナンスはここでも何度も何度も触れていますが,

債務者をグループ化して連帯責任を負わせることについて,返済率にはほとんど効果がないんじゃないか,という実験結果について、本書は紹介しています。

グループを組ませることは、マイクロファイナンスの肝だったりするんで,その効果がほとんど無い,ってことになると,じゃあマイクロファイナンスって何なの? って感じになるわけですが,返済率に影響するのはグループ化ではなくて,

むしろ,取引の継続性である,と本書は説明しています。つまり,きちんと返済すれば,次回も借りることができる,という期待ですね。それがあるから債務者は無理してでも返す。

ま,このあたりは,また改めてにしたいんですが,本書は,ポイントになる論文を参照しながら,わかりやすく説明するというスタイルで専門研究と接続していて,とっても使える形になってます。原文にあたられたらごまかしようもない,という点で,真剣勝負でもあるんですね。

しかも,二日もあれば読めてしまうくらいの読みやすさでして,



とにかく,お勧めです。



















シンデレラ婆 エリノア・オストラム 死去

2012-06-18 01:16:08 | マクロ経済
先日、エリノア・オストラムについてご紹介したとこなんですが、
亡くなってしまいました。

Remembering Elinor Ostrom


院に通うようになって、いろいろ調べているうちに関心を持つようになったんですが、おうし、こらすごいかも、と思った瞬間に亡くなった感じなんで、ちょっと驚きだし」残念。こないだの動画でもわかりますが、知的な誠実さ、というのがにじみ出るようなお人柄だと見受けられて・・・。

なんかショックです。


Elinor Ostrom, Winner of Nobel in Economics, Dies at 78

Professor Ostrom’s work rebutted fundamental economic beliefs. But to say she was a dark horse for the 2009 economics Nobel is an understatement. Not because she was a woman ― although women in the field are still rare ― but because she was trained in political science.

オストラム教授の業績は経済学の基礎的な前提に対し論駁するものだった。ノーベル賞は受賞者としてダークホースだったと言うのでは足りないほどだ。彼女が女性だから。そうではない。政治学者だったからだ。

“The announcement of her prize caused amazement to several economists, including some prominent colleagues, who had never even heard of her,” Avinash Dixit, a Princeton economics professor, said when introducing Professor Ostrom’s work at a luncheon in 2011. Usually, he noted, Nobel laureates need no introduction.

彼女の受賞はそれまで彼女のことを待ったく聞いたことがなかったという幾人かの著名学者を含め、経済学者を驚かせた。通常は受賞者というものは紹介を必要としないものだ。

“Some things said about her in blogs and other media were so ignorant and in such bad taste that I felt ashamed on behalf of the economics profession,” Mr. Dixit said.

ブログや他のメディアで彼女の書かれようは、無知をさらした、それはひどいもので、経済学者であることがはずかしかった。

とまあ、専門外ということで、波紋を呼んだ、ということなんでしょうが、
彼女は、若いころから苦労していたことがこないだの動画でも出てきてましたね。政治学では食えないので経済学も、とか。彼女の著書、ガバナンス・オヴ・コモンズには、パレート最適、とか経済学用語がずばずば出てきて、その点では、ノリは十分経済学です。

“A lot of important questions are on the narrow borders between disciplines, but it is difficult to find a home for that kind of work,” said Marco Janssen, a mathematician at Arizona State University who collaborated with Professor Ostrom. “She had experienced many of these challenges over the years. Eventually she and her husband just created their own center for it.”

たくさんの重要な課題が、分野をまたぐ狭い境目に存在する。しかし、そのような仕事には住処を見つけるのは難しい。彼女は長い間、こうした難しい問題に何年も経験してきたのだ。そして最後には夫婦で自身のセンターを作り上げてしまった。


Traditionally, economics taught that common ownership of resources results in excessive exploitation, as when fishermen overfish a common pond. This is the so-called tragedy of the commons, and it suggests that common resources must be managed either through privatization or government regulation, in the form of taxes, say, or limits on use.

伝統的に、経済学では共有資源は過剰開発で終わると教えられる。漁場はとりすぎとなってしまうというわけだが、共有地の悲劇と呼ばれており、私有地にされるか、政府の規制かいずれかの対応いが必要だとされる。

Professor Ostrom studied cases around the world in which communities successfully regulated resource use through cooperation. Her work has important applications for climate change policy today.

オストラム教授は、世界中を回り、協力によって資源を管理している事例を研究してきた。彼女の業績は気候変動に適用される重要な政策となっている。

長い間の苦労が、晩年になってようやく認められた、ということでしょうかね。
09年に受賞して、3年して亡くなった。



The Divided Science

アマルティア・セン vs エリノア・オストロム

2012-05-15 01:01:52 | マクロ経済
チョット前の動画になりますが,セン様が出ています。

セン様? 千昌男?
ちゃいまんがな,経済学者のセン様でんがな。

Amartya Sen and Elinor Ostrom - A discussion on Global Justice


なかなか,くだけた感じのやり取りで,偉い学者がご宣託を述べる,というインタビューになっていません。ノーベル賞をもらうと連絡のあったとき,なにしてましたか,みたいな。内輪の集まりのようで,それに,モデレーターのおばさんがくだけてて,なかなかいい感じなんですな。

セン様,も良いんですが,時期的に言って,ここはもう一人の方,エリノア・オストロムが主役なんでしょうな。女性で初めてのノーベル経済学賞受賞者で,コモンズの研究で実績をあげたんですね。

コモンズって,漫才師コンビの名前? ちゃいまんがな。

日本語では入会地のことなんですが,

コモンズ

コモンズ(Commons)とは、日本語でいう入会(いりあい)の英訳。ドイツ語では Allmende。但し、日本の入会地は、殆どが入会団体などの特定集団によって所有・管理されているため、誰の所有にも属さない放牧地(草原を広範囲に移動する遊牧民でも自由に利用できる放牧地)などを意味する「コモンズ」とはニュアンスが異なる。

なんとなくニュアンスはわかりますが,例によって日本版のwikiでは明確な定義をしてませんね。これじゃ読んでもわけがわからない。

どういう神経で解説してるんでしょうか。

定義を避けたまま解説する,ということの意味がよく分からないんですけどね。放牧地を意味するコモンズとはニュアンスが異なるって,別のコモンズもあるんなら,そっちも説明すべきなんじゃないんかな。

とまあ,引用しながら批判してては前に進めませんな。

で英語版

the commons wiki

Commons are resources that are owned in common[1] or shared among communities

最初に定義がでてきます。当然でしょう。日本語版ってなんでああなんでしょうか。細かいことにはやたら詳しかったりするんですが,おおもとが・・・。

姿勢としてのハナシですが,定義から出発しなければ,なにも解明できませんね。

さて,横道にそれましたが,オストロムのハナシでした。

動画の最初の退屈なバートを飛ばして中盤から観ていただくといいんですが,オストロムが,質問に答えて,

現実は複雑すぎて,既存の理論では説明できない,的なことをおっしゃってます。だから,彼女は,実際に現場を見て回って,コモンズの特質を解明した,ということなんでしょうね。

これ,細部が大事だ,と言っている『貧乏人の経済学』の著者と同じノリですな。
それに,やっぱり女性です。

近代経済学には,従来から批判も多いわけですが,こうやって,現場に出向いて,確認して回るという地道な活動をしている学者がいて,ノーベル賞をもらったりしている,

ということでして,この二人の女性には,未来を感じることができませんかね。


オストロムさんについては,これがわかりやすいですかね。
エリノア・オストロム教授のノーベル経済学賞受賞の意義

ちなみにセン様は,動画の中で,経済学をちょびっとかばうような発言をしてて,経済学で解ける問題もある,とかで。セン様にしてそんな調子では,

経済学って・・・。





ポール・クルーグマン vs  ロン・ポール

2012-05-10 01:10:11 | マクロ経済
こいつぁ,スゲエぜって感じの動画です。

Ron Paul VS Paul Krugman 4-30-12 FULL Bloomberg


リベラルのクルーグマンと,リバタリアンのロン・ボールの直接対決なんですな。

左派と右派とは,意外に親和性がある,ってなハナシをここでも良くしてきたわけで。ロンボールとマイケルムーアなんかは,イデオロギーは違っても,批判している対象が同じ大企業体制だったりします。

マイケルムーアが批判しているのはキャビタリズムじゃない,コーボラティズムだ,私と同じなんだ,とロンポールが言うとき,あきらかに左派草の根の取り込みを意識して発言しているんですな。

ところが,こと政府と中央銀行の役割に関しては,左派と右派は水と油のようでして,この,三十分足らずの動画ですが,ほとんど共通点なく,対立したままで終わっています。

でかい政府は良くない,あれこれ政府が指図すべきでない,中央銀行はマネーをコントロールできる振りをしているが,そんなことはできない,大恐慌はFEDのせい,とロンポールが言えば,

ロンポールの主張は事実に基づいていない,フリードマンが主張したのは,大恐慌をFEDが発生させたというのではなく,FEDが十分に対策をとらなかったから,というものだ,FEDの役割を否定することはできないとクルーグマン。

あたしゃ,中央銀行がいらないと言っているのはなくて,通貨の自由化を主張しているのだ,云々カンヌンとロンポール,はちょいと苦しいですかね。

それにしても,まあ,よくまあこれだけ素早く切り返せるもんで。

プロの政治家のロンボールは別として,クルーグマンは学者なんですけど・・・。

まあ,経済に関しては,当然ながらですが,クルーグマンに分がある感じですかね。

ただ,貧乏人の経済学,じゃありませんが,

どっちも一部は正しいけど,それだけじゃない。
もっと細部を良く見て,効果的な道を探すべし,

というのが本当のところなのかも知れませんね。


それはさておき,

クルーグマン曰く,

まだ緊縮を行うべきではない。財政支出拡大の余地はある。

日本ほどの財政赤字レベルまで大丈夫だと言っているのではないし,
そこまで行けたとしても,行こうと言っているのではない,

とか,

日本をダシにして,好き勝手おっしゃってます。





雇用・利子及び貨幣の一般理論 ケインズ新訳

2012-03-28 02:02:51 | マクロ経済
今度,講談社学術文庫からケインズの一般理論の新訳が出版されてて,訳が読みやすいと評判なんで,買ってみました。

数章読んでみてびっくり。

異様なほど読みやすい。

一般理論は難解なことで有名だし,経済学者じゃない訳者が正確に訳せるのか,とかいう指摘もあるみたいですが,そういう指摘はナンセンスに思えてくるほどこの新訳は読みやすい。

まず,この文章,古い塩野谷訳なんですが,第一章の抜粋です。

そればかりでなく,古典派理論が想定する特殊な場合の特徴は,我々が現実に生活している経済社会とは異なっており,もし我々がその教義を経験の事実に当てはめようとすれば人を誤り導き,災害をもたらす結果となるのである。

ケインズの一般理論だ、と思って読むのでこんなもんだろう,と思うだけで,いきなり読まされれば,マトモな文章とは思ってもらえないでしょうね。

特殊な場合の特徴は,って特殊じゃない場合もあるってことなのか。
経験の事実に当てはめようとすれば,って,なんのこっちゃ。誤り導き,なんて意味は取れるけれども,初めて見る表現ですな。教義を当てはめたら災害がもたらされるってどういうことなんだろう。なんの災害なんだろうと、まあ,意味がとれないことはないけれども,かなり不自然で読みにくい。素人読者は,このあたりでもういやになってくるんで。いかにも直訳調で自然な日本語とはとてもいえません。

まだ,売り物のレベルに達していないと言っても良いかもですね。

以下新訳。

さらに古典派理論が想定する特殊ケースの特徴は、私たちが実際に暮らしている経済社会の特徴とは違います。だから経験上の事実に適用したら古典派の教えは間違った方向を示して散々な結果を招いてしまうのです。


素晴らしい。こなれた日本語です。

特殊な場合,と訳すと分かりにくいので,わざわざ特殊ケースとしている。これは明らかに訳者の意図が働いています。ifクローズと受け取られるのを避けているんですね。

意味が拡散しないように,長いフレーズは短く切るなどの工夫のあとも見えますね。英語だと語順の関係で長くても意味が簡単に取れても,日本語に移し変えると何度も読み返さないと分からない文章になったりするんですが,そういう場合は一旦文章を切って訳したほうが良いんですな。

そんなの恣意的だ,という批判は,ちょいと固く考えすぎだと思いますがね。

なんの抵抗もなく,すらすらと読み下せる新訳の方が明らかに優れていて,プロの仕事,という感じがしますな。

塩野谷訳は,つまりこういうことかな,ああいうことかな,とあれこれ考えながら読み込まねばならず,ケインズ理論どころじゃないっていうのがホントのところなんじゃないですかね。新訳を読んで受け止めた内容と同じものを,塩野谷訳で受け取れるか,という問題なんですな。

塩野谷訳では,正直なところ,災害をもたらす,というあたりでいろんな可能性を考えねばならず,苦しいですね。たとえば政策上の誤りでひどい災害をもたらすことをさしているんだろう,とか,単なる抽象的に災いをもたらすと言っているだけなんだろうか,とか。

翻訳は一つの技術であって,経済学者の技術とは,全く別なんですな。
たとえ専門書であっても,翻訳は翻訳のプロが行うべきではないか,と思いますな。学者は下訳くらいまでにとどめておいて,商品としてはプロが仕上げる,というのがよろしいんではないかと。

塩野谷訳の方が原文に忠実だ,

とおっしゃるような人は,原文で読む方が良いんでしょうな。
明らかに,山形訳の方が細かな配慮が行き届いて作業レベルが高く,読みやすい分だけ,手間隙がかかっていて,完成度が高い。
意味がきちんと取れるという意味でより正確である,とも言えるでしょう。

どうせ躓くんなら,訳文の読みにくさじゃなくて,ケインズ理論の難解さで躓きたいもんですな。


雇用、利子、お金の一般理論 (講談社学術文庫)
クリエーター情報なし
講談社



雇用・利子および貨幣の一般理論
クリエーター情報なし
東洋経済新報社

直感でわかる数学

2012-01-16 00:48:25 | マクロ経済

経済学のテキストや,論文を読もうとすると,数式が出てきたところでわけがわからなくなって,結局,何を言っているのか分からない。

言葉でも説明があるけど,言葉にすると複雑すぎて・・・。

というわけで,昔を思い出しながら高校数学の解説書などを読んでいるんですが,それをやるのも結構苦痛です。

スラスラ説明されて,この場合はどうなる,こんなときはどうする,と解法をひたすら学ぶわけですが,それがどんな意味を持つのかが分からない。モチベーションを維持できないんですな。こうした解法が開発されてきた背景には,多分,知的な格闘があったはずだし,そうせざるを得なかった時代ニーズもあったに違いない,

というわけで,じゃあ,数学の歴史でも勉強するか,と思って検索してみると,本書。


直観でわかる数学
クリエーター情報なし
岩波書店


さっさと読める本ですが,

かなりグーです。数学の歴史本ではありませんが,初学者のなんでこれが大事なの,という疑問に答えてくれます。

著者は,数学の教科書がいかに不親切で,学ぶ側の思考に配慮していないか,をブツブツ文句いいながら,実はこうなんですよ,というスタイルで説明してくれるんですが,

とっても分かりやすい。そういうことだったのか,という具合。

これを読むと,退屈な計算問題にもう一度立ち向かおうか,という気力が戻ります。

教科書の不親切さ,について著者が力説しているのを読んでいると、
何も数学の教科書に限らない,という気がしてきます。

何かにつけて,教科書は不親切で,理解するのに必要な、肝心なことが書いていないことが多いんじゃないかと。

USCPAの勉強をしていたときのことですが,使った英語テキストは,定義が必ず書いてあって,異様なほどの詳しくて,誤解しやすいところはいくつも具体例を持ってきて,確実に理解させる,という姿勢が徹底していて,驚いたんですな。

その昔読んだ日本の会計のテキストは,定義があいまいで,場合によっては無かったりするし,敷居が高いし,仕分けの説明なんかも,いきなりやり方が書いてあってその意味がよく分からなかったり,という印象が・・・。昔なんで,今はもっと改善されているかも知れませんがね。とにかく,教科書的に書かれた本で,良い印象をもった記憶がないんですな。分かりやすく,本質について,順を追って書くことは,著者の水準がかなり高くないとムリなんで,それは,学者としての仕事がフツーにできている,ということともちょっと違うんでしょうな。

不親切,独りよがりの手抜き教科書が,日本の教育の障害になっているに違いない,と本書を読んで思ったりして。


為替と金はどうなるの HS DENT その2

2012-01-14 19:29:53 | マクロ経済

今年の米国経済について,ひいては世界の経済が,今年は厳しくなりそうだ,ということでしたが,

HS DENTが,今年に入って最新の動画をアップしているので,貼っておきます。
前回のインタビュー形式ではないんですが,まあ,内容はほとんど同じです。

Harry Dent January 2012 Youtube Update.wmv


いずれにせよ,FRBが量的緩和策を終えた影響が現れ始める第二Qから,失速をはじめると言っていて,もう,三ヶ月後のことなんですが,よほど自身があるんでしょうな。しかもかなり株価が落ちると言っているんで。

さて,ベビーブーマーの支出低迷→企業収益が悪化して,株価が落ちるのはわかるんですが,投資家に対して,ドルで持っとけ,とか,金もヤバイ,と言っているのはナンデだろうか,

FRBが紙幣を刷り過ぎてて,インフレになり、ドルの価値が下がり,ドル安になる,金も上がる,というのが,ピーターシフや,ロンボールや,ジムロジャースや,バフェットの主張で,結構そういう物言いに慣れてきた人間にとっては,やや唐突な感じがするんですけど・・・。

彼のサイトに,去年9月に書かれた,彼の主張の要約が貼ってありまして,

Deflation and a Deeper Downturn Are the Trends Ahead...Oh, That Means a Depression!



The point here is that we debased the US dollar in the bubble boom from 1983
to 2007 by allowing debt (which creates dollars out of thin air in the banking
system) to grow at 2.65 times the rate of economic growth for two and a half
decades! Creating more dollars than economic growth makes dollars less valuable. When we destroy such debt and dollars in the downturn and debt
deleveraging cycle ahead, dollars will become more scarce and, hence, more
valuable again.

83年から07年にかけて経済成長の2.65倍も債務を膨らませて,そのことは,ドル紙幣を刷り続けたということを意味し,ドルの価値を下げてしまった。

はいはい、ここまでは良いですな。

債務とドルのバブルを潰して,レバレッジを縮小させることになると,今度はドルの量が減るということになり,価値は再び上がるのだ。

なるほど、今は、状況が逆転しているということですね。

We see deflation, not inflation, due to massive private debt deleveraging beyond inevitable rises in federal US debt.

我々は,インフレでなく,デフレを予想しているのだ。なぜならば,連邦政府の債務が拡大するのは避けられないが,それ以上に私的部門での巨額の債務縮小が行われるからだ。

政府の刺激策など、問題でないほど私的部門の債務縮小が大きいってコト。FRBの資産が何兆ドルも膨らんだ、と騒いでも、それが問題にならないくらい全体では債務が縮小している、ということですね。

蛇足で補足しておきますと、債務縮小というのは、社会全体でみて、借入を返すということで、その分自由に支出できる金額、流通するドルが減ってしまうということですね。貸手は債務の返済を受けるのだから貸手の手持ちのドルが増えるだろうというハナシもあるんですが、銀行は返済を受けたらそれを使うわけじゃなくてバランスシートを縮小させるんで、通貨の流通量は減ってしまうんでした。金融の教科書に出てくる信用創造の逆ですな。

Even states and local municipalities will have to cut costs and pare down debt to survive, and those actions are deflationary as well. Deflation means that you need entirely different investment and business strategies,・・・

州政府や地方自治体も生き残るためにコスト削減や債務圧縮が避けられない。

デフレとなれば,投資やビジネスにおける戦略も全く異なったものになる。


We say that gold and silver are inflation hedges, not deflation hedges. Silver could fall from the $50 seen recently to as low as $6 to $10 in the years ahead. Gold could fall from $1,900-$2,000 to a wider range of $250-$750.

金や銀はインフレヘッジであって,デフレヘッジではない。銀は今の50ドルから6ドル~10ドルあたりまで今後数年で下げるだろう。金は1900ドル~2000ドル近辺から250ドル~750あたりに下げるかもしれない。

Oil could fall from a high such as $147 in 2008 to as low as $10-$40.

原油は,08年の147ドルから10ドル~40ドルまで下げるかも。

We advise being in safe assets like very-short-term US Treasuries and T-bills, and, better,the US Dollar Index, to preserve your capital―and even more so if you are overseas, to benefit from the likely rise in the US dollar vs. your currency in the years ahead. We think that the greatest risks among all assets to fall in the next 2 to 3 years during “The Great Crash Ahead” could be in silver and gold!

投資家へのアドバイスとしては,短期の連邦債で持つとか,ドルインデックス。海外に居るんならなおのこと自国通貨に対してドルが上昇するメリットを取るためにそうすべきだ。ここ数年の最も崩落するリスクが大きいのは,銀と金である。


というわけで,財政保守派や,FRB陰謀説論者とは一線を画し,むしろ,クルーグマンの見方に近いんですな。つまり,政府の刺激策は全く不十分で今後経済は失速するはというハナシ。

ただ,彼は,不足を政府が埋めるべきという考えには同意しておらず,刺激策は市場による健全な調整を遅らせるだけだ,という立場です。現状認識はクルーグマンでも,提言は保守派,という,まあ,現実的な線ではないでしょうか。


もう一つ,インフレ原因について,彼は人口動態の影響を主張していて,若い人間の労働市場にどれだけ多く入ってくるか,による,とも言っています。若い人は社会に出て支出を始めるが、実際にビジネスに貢献する以上に支出するから、というのが理由なんですが、給料以上に支出する、という意味ではなく、多分、生産性以上に給料をもらっている、という事を言っているようですね。

DENTは、過去のデータを観て、因果関係を見つける、という手法を取っていて、どうも、若者が社会に出る人数の多寡がインフレに一番関係しているようだ、というトコから出発しているんですな。


さて、金融を緩和し、中央銀行が紙幣を増刷すれば、インフレになる、というのは良く言われていますが、いま一つノレない感じで、日本で、日銀がどんだけ緩和しても、あんまし効果が無い、だからもっと緩和するべきだ、という主張も、ウーン。

DENTの説明は結構しっくりくる感じがしますが、どうなんでしょうな。

金と銀と原油が危ない、というのも、いつまでも右肩上がりは続かない、という常識に照らしてもそうじゃないか、という気がしてくるんですがね。

原油が下がるんなら、経済には良い影響が出るんで、予測も変わってくる可能性がありますがね。



ティファニューが下方修正  悪い兆候?

2012-01-12 07:26:49 | マクロ経済
二日続けて、悲観的な見方を取り上げたところで、もうひとつ、気になる出来事が。

Tiffany cuts view in warning sign for luxury

ティファニーが下方修正した、というんですな。
もともと、前半は調子が良かったんですが、肝心のホリデーシーズンの伸びが今一つだったようで、株価が急落しています。


NEW YORK (MarketWatch) ― In a warning sign that the outperforming luxury sector may be showing some signs of strain, Tiffany & Co. on Tuesday cut its full-year profit outlook after holiday season sales of fine jewelry slowed “markedly” in the U.S. and Europe.

ティファニーが火曜日に、通期の利益予想を引き下げた。米国と欧州のホリデーシーズンの宝石の売上がスローダウンしている。


Tiffany’s worldwide sales in the two months ended Dec. 31 rose 7% to $952 million, led by double-digit growth in Asia and Japan. Excluding the currency impact, comparable sales rose 4%.

2か月過ぎたところの12月段階で、世界全体での売上は7%の伸び。アジアと日本が二桁の伸び。為替変動を調整後での既存店売上は4%の伸び。

In the Americas region, which includes the United States, Canada and Latin America, sales rose 4% to $503 million. On a constant-exchange-rate basis, total sales increased 4% and comparable store sales rose 2%. Comparable Americas’ branch store sales rose 3% and New York flagship store sales, about 8% of the company’s total, declined 1%.

中南米地域では4%の伸び。為替調整後でも4%の伸びたが、

フラッグシップのニューヨークの店舗の売上は1%下がった。

ティファニーの下方修正は、欧州と、米国の東側の売上が悪いから、ということなんですが、規制強化でウォールストリートのボーナスが落ちていることや、ユーロが下がって、欧州からの買い物客が減っているんじゃないか、

と分析されているようですが、

ひょっとして、DENTやウォールストリート流分析が示すような消費支出落ち込みの兆候が現れ始めている、

ということは無いでしょうかね。

今は、まだ、株価の好調が続いているし、ホリデーシーズンの小売売上も全体としては良かったようなんですが、ちょっと気になりますね。