会計スキル・USCPA

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『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』

2015-02-06 10:34:22 | 生活
時間が余ったので久々に映画へ。

でも、観たいものがない。かっている映画に邦画が多い。最近は娯楽映画に徹したものは面白いんじゃなかろうかという気もしていますが、がっかりリスクも高そうなのでどうしようか、と迷っていたら、このアニメなら、と観てきました。サイコパス。題名がいいじゃあありませんか。

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』予告編


ウーン。面白い。

設定が良い。細かな描写もグー。これはワクワクしますね。

逆に言えば、その設定の面白さ故、ストーリーの奥行きと悪役側のキャラ描写はもっと深める余地もあったんじゃないか、と素人目にも感じた次第。

ディテールに凝るのは時間がおしても割と進むんでしょうが、作品の厚みみたいなところはクリエーターが忙しすぎると掘り下げる余裕が持てないんじゃ、とちょいと心配してしまいました。

この作品の設定では、中央のシステムが人間の心理までコントロールしていて、市民の犯罪性向を管理しているんですが、これがちょいと驚きで、それをメインキャラや、市民が基本的には受け入れて生活しているんですね。作品のテイストとしてもそうした超管理社会に対して批判的なスタンスを取っていない。

基本刑事もの、というジャンル上の要請でもあるんでしょうが、意外過ぎてちょっと笑ってしまいました。女主人公の友達がシステムで選ばれた彼氏と結婚することになって、結局システムで選んでもらった彼氏で正解だったわー、みたいな会話のシーンがあるんですが、特に、その友達をバカ女として描いてもいない。世の流れに従う、普通の女として、平凡さを平凡さとして描いているだけです。

近所の世話焼きおばさんに、絶対あんたにぴったりよみたいなことを言われて、最初はそうは思えなかったがおばさんの言った通りだった、とかいうパターンに納めてるわけで、これで、観客に管理社会の深度を理解させて、ぐいっとハナシに入り込ませてしまう。

ハナシの進め方、レベル高いです。

市民を犯罪性向の高いものと低いもの、いわゆる一級市民と二級市民に分けるという設定は、監視官と執行官という刑事の序列にも反映していて、これ、キャリアとノンキャりのSF版。監督は踊る大捜査線と同じらしいんですな。

現代社会のカリカチュアでもあるんですが、学歴や所属によって序列づけられるのではなく、生得的な傾向によって色分けされる、という点でちょいと恐ろしい世界になっています。それでも、文句も言わずに仕方ないものとしてシステムそのものは受け入れられているんですね。それなしでは暴力や犯罪がひどすぎることになるので、そのシステムでやっていくしかない、みたいな。

この「仕方がない」という言葉は、ウォルフレンが日本社会を閉塞させている要因として指摘したものと同じ意味合いなのでありまして、日本社会のカリカチュアというのはそういうこと。

こうし管理社会からドロップアウトして、海外へ逃亡したキャラや、東南アジアに日本のインフラを売ってゆくアベノミクスばりの政策をハナシのコアに据えて、うまーく今の日本社会を捉えてハナシに盛り込んでいるんですね。相手方の政権を乗っ取ってまで、みたいなハナシはCIAかも知れませんがね。

システムへの批判的な目線は、あくまでエリートたる主人公の中にあるものだけに、観客は共感するように仕向けられていて、主人公の目線もシステム完全否定にはなっていない。判断留保の状態が恐らく今後も永遠に続きながら、それを引受て生きてゆくという形になっている。

昔の左翼のように、全面否定で、再編成を狙ってもうまくいかない。民主党も理念は面白くかったが・・・。いわゆるアウトサイダーの無力さや無責任さ、無能さや格好悪さの認識が拡がったことが、単純で左翼的なシステム批判物語を作れなくさせているのかも知れませんね。

出てくるキャラでカッコ良いのはあくまで体制側、ないしはそのシンパ。

これ、ある種、政治的な成熟や安定が娯楽作品に反映したと捉えることもできるかもしれないし、あるいは単に今の世相を反映したものなのかも知れませんが、とにかく一見の価値あり。娯楽作品としての面白さも充分以上。

後半はストーリーの展開に追われて序盤の丁寧さや奥行きをあまり感じられなくなります。物語の骨格の一つをなす憲兵隊の大佐に、もう少し時間を割くべきでは無かったろうか。

それでも後半がひどいってわけではありません。最後まで気を抜けず、良い映画を観た満足感を感じることができますな。