ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

古川健作「火の殉難」

2020-12-15 14:26:51 | 芝居
11月10日俳優座5階稽古場で、古川健作「火の殉難」を見た(演出:川口啓史)。

1936年、陸軍の青年将校たちが1500余名の兵を率いた大規模クーデター、2・26事件。
満州国樹立、第二次世界大戦へと突き進む岐路となった事件から見えてくるものとは・・・。
時の蔵相・高橋是清のもとに経済紙記者の神田が訪れる。
稀代の財政家から語られるのは、原敬や犬養毅らとの政争や絆。
「君側の奸」と資本家や政治家を敵視した者たちと「殺された側」の家族の物語(チラシより)。

冒頭のシーンは昭和11年、是清と亡き養祖母(岩崎加根子)との対話(これは彼の夢)。
この後、時系列が前後しつつ芝居は進展する。
日露戦争の戦費調達のため欧米で奔走する(ことになる)是清。ここで役者たち(是清夫妻)は20年位若返る。
こういうのは役者にとって、さぞかしやりがいがあるだろう。

家を訪ねて来た新聞記者に対して、是清が、政治家としてのこれまでの歩みを語る、という構成のため、分かり易いが教科書的で、いささか変化に乏しい。
この大きな流れの中に、時折2・26事件直前の青年将校2人の会話が挿入される。
若い彼らの独りよがりで視野の狭い思い込み、殺伐とした心情が哀しい。
一方で、是清と家族との温かい関係が描かれ、ラストで悲劇が待ち受けていることが分かっているだけに、見る者に悲しみが迫ってくる。

是清は常に大局的な視点を持ち、国のかじ取りを任され、人柄も温厚で政敵とも個人的によい関係を結ぶことができた。
だがそんな彼にも、人の名前を覚えるのが苦手、という意外な弱点があった。
それでは政党総裁は務まらない、と冷静な長男が指摘するのが興味深い。

場面転換が多くて目まぐるしいが、それを除けば非常によくできた芝居。
さすがは「治天の君」の作者だ。

死者を登場させることによって物語にぐっと奥行きが生まれた。
「治天の君」での衝撃を思い出した。
大正天皇は苦難の生涯を終え、ついに死に、死後の世界で厳しかった父(明治天皇)に出会う。
だが父は、そこでもなお彼に対して生前と変わらず厳しいままなのだった・・・。

原敬首相役の島英臣と犬養毅首相役の加藤佳男が好演。
是清役の河野正明は、ダルマというあだ名だった是清に体型もふさわしい。
是清の亡き養祖母役の岩崎加根子は期待通り、味のある演技。




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