フランス・バスク地方。それなりの暑さのある4月。私たちは最終目的地のBayonneに到着。 駅の近く、目的のホテルを探す。
同じ場所を行ったり来たり 探し回ったあげく、1階が小さなカフェになっているホテルをやっと見つけた。 カフェといっても、地元のおじさんたちがコーヒーを飲んでるようなところ。 ホテルの受付はここでいいんだろうか。。。私たちはカフェのカウンターの中にいた、お店の主人らしきおっちゃん(という以外にいい表現が見つからない。)に恐る恐る声をかけた。
『Excusez-moi, monsieur, J'ai déjà résérvé : Mlle ....(すみません、予約をした者ですが。)』
『 ah? réservation ? Entrez. (予約? じゃ、入って。)』
ここからが不思議の入り口だった。
適当なノリでチェックインは済み、部屋の鍵を渡される。 『3階だよ。』
鍵には、ゴルフボール(ちなみにダンロップ)の端を切って、〝15〟と書かれた手作りっぽいキーホルダーがついていた。 3階・15号室。
全体的に少し左に傾く螺旋階段を上り(微妙に平衡感覚がおかしくなりながら)、部屋についた。 とはいえ、雰囲気とすれば、若草物語に出てきそうな、温かみのある感じだ。 決して悪くは無い。 ただ、不思議な感じがするだけだ。
部屋に入り、 赤く塗られた木の雨戸を開ける。 一気に部屋の中は明るくなった。 眼下に見える通りには、のんびり 1人のおばさんが歩いていた。
ぐるっと一周、部屋の中を見てまわる。
(見た事ない形のシャワーヘッドとか、ツッコミどころはあったが)
うん。 特に異常なし。 ただ、
『 あ~、そろそろ、このトイレットペーパーなくなりそうだよ。』 相方に声をかけた。
荷物を置き、出掛けにおっちゃんに そのことを話そうとしたが、1階のカフェにいなかったので そのまま出かけた。
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夕方、部屋に帰ってくると、気付いた。
『 あれ。 トイレットペーパー、ある。』
たしか、・・・いや、間違いなく出かける前は、予備もなければ、ホルダーに少し残ったものしかなかった。 普通、ホテルの部屋の掃除というのは、チェックイン前に済んでるようなことだ。 しかも、意外と部屋もあるにも関わらず、あまりお客も見かけなかった。(1・2組、いそうな感じはあったが。) それに“お掃除の人”の気配もない。 着いてから今まで、私達以外で見た人物は、、『カフェのおっちゃん』 だけだ。
『 おじさんが補充したのかなぁ。』 と相方。
『 それしか考えられないだろうね。』 いつ入ったんだ? 何か荒らされたものはないだろうか。 ・・・・・・ 特になさそうだ。 単に、ドンピシャなタイミングで私達の欲しかったトイレットペーパーが補充されてただけだ。 それだけ。
それだけ? いや、 よく見ると、広く開けて出た赤い雨戸が 風でバタバタしないように キチンとされている。 それは、ホテルを管理するというより、〝自分ち〟感覚でやっているように思われた。
おっちゃんは、真似したくなるくらいの、南訛りの持ち主だった。 私達のことは、アジア人の子供が泊りに来たというような風で思っているようだった。 私達が外から帰ってきて階段をあがっていると、訛りの強い言い方で、
『ブ ジレ ウ? ドウメン?(明日は何処行くの?)』と聞いてきたりもした。この訛り具合は、相方のツボだったらしく、その後何日間かは、この言い方を真似していた。
このおっちゃんのホテルには2泊した。 ホテルを発つ前日の夕食は、近くのモロッコ料理店で食べることにした。 私はCousCous(クスクス)、相方はTajine(タジン)を注文した。(Tajineは胸の辺りまでくらいの高さに盛られた量が出てきて、相方はTajine恐怖症になったと言っていた。)
それらの料理を〝やっつけてる〟と、突然、外が真っ暗になり、雷がなり、激しい雨が降ってきた。 レストランには、私達以外にあと2組くらいしかいなかったので、手持ちぶたさで、暇になっていた従業員はその雷雨の様子を見に、入り口へ歩いていった。
私達も、少しの間、そのみたこともないような激しい雨を見ていた。
『 すごいね、 食べ終わる頃には上がるかな。 』
・・・・・・・・・・・ あ。 部屋の雨戸 ・・・・・開けっ放しだ。
相方も 同じ 思考をしたようだ。
『 ・・・たぶん、 雨戸、閉めてくれてるだろうね。』
・・・ だね。 たぶん。
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雷雨はレストランから出る頃には上がった。 雨水が側溝を勢いよく流れるのを見ながら、私達はホテルに着いた。 『 Bon soir. (こんばんは。)』 お互い、挨拶は交わすが、おっちゃんは、〝部屋の××しておいたよ〟なんてことは決して言わない。 しかし、今回も、私達は確信していた。 ゼッタイ、雨戸は閉められている。
半分、期待しながら 部屋のドアを開けた。
『 ふふ。 ほら やっぱり。』 閉めてあった。
おっちゃんの、〝 ホラホラ やっぱり、 あけっぱなしダヨ~ 〟という声が聞こえてきそうだった。
オモシロイ。 おっちゃんにとっては ここは単なるホテルの1室ではない。 全部が おっちゃんにとってはMY HOUSEなのだ。
このMY HOUSE感覚、いいなぁ。
応用するとこないけど。
* 画像は、“バスク語を話そう”キャンペーンのステッカー。