雫石鉄也の
とつぜんブログ
動く重り
湖の調査に行っていたチームが帰って来た。転送ルームで実体化した5人は手に手に植物と魚と思われる小動物を持っていた。
「船長、収穫です」
「食べられるのか」
「現地で少し食べてみました。おいしくはないが食べられます」
「そうか、あとで料理長に見てもらおう。食料庫に入れておいてくれ」
「船長、中国の貨客船とすれ違います」
「距離は」
「5.7光年」
「食料に余裕はないか聞け」
「返信がありました」
「米なら65キロほどあるとのことです」
「ゆずってくれるか」
「貴船は食料不足か、と、問い合わせです」
「食料不足だと伝えろ」
「だいじょうぶですか。そんなウソいって」
「しかたあるまい。なんとしても食料を集めなくてはならん」
夕食だ。今夜のメニューは満願全席だ、中華料理の最高峰がテーブル狭しと並んでいる。
「どうしたんだ。これは」
「料理長が中国船からもらった文献を調べて調理したそうです」
全乗組員がテーブルについた。全員暗い顔をしている。ゲップをする者も。
「これ全部食わねばならんのか」
「船長命令だ。残さず食え」
「しかし、こう毎日毎日ごちそう攻めじゃ胃がおかしくなります」
「だったらドクターに胃をみてもらえ。なんとしてでも可動可能な1トンの重量がいるんだぞ」
きのうはフランス料理のフルコースだった。その前はスシ食べほうだいであった。10人いる乗組員全員盛大に肥満している。
日本の美術品専門運搬船北斎丸。今回のミッションは惑星バミヤの遺跡から発掘された彫刻、陶磁器類の移送。北斎丸は絵画の輸送を主に行うが、今回は彫刻、陶磁器類の運搬だ。壊れ物を運搬するための装備は完備しているが、10人の乗組員は、いつもと違う荷に緊張していた。
「船長たいへんです」
「どうした」
「バランス調整装置が故障です」
この船には美術運搬船特有の装置が装備されている。船の重心部分に可動式の重りがあり、船の傾きを感知して1トンの重りが動いて傾きを調整する。宇宙空間を航行している時はいい。問題は着陸する時だ。
「美術館のあるオルセまであとどれぐらいだ」
「7ヶ月です」
「それまでに修理可能か」
「修理不可能です」
「このままオルセに着陸するとどうなる」
「荷物の半分は破損します」
「そんなことになったら、わが社に美術品運搬の仕事はこなくなる」
「可動できる1トンの重りがあればいいのですが」
「山田105キロ。OK」
「冨山80キロ。あと20キロなんとしても増量せい」
「船長」
「どうした」
「久米が死にました。暴食による胃潰瘍による出血です」
「あいつの体重は何キロだ」
「100キロちょうどです」
「残った9人でその100キロを補填する」
「でも、100キロの重りは残りますよ」
「死体は可動物じゃない」
惑星オルセ中央市民病院。北斎丸の乗組員9人が入院している。重度の胃炎、胃潰瘍、胃拡張、大腸憩室出血、糖尿病、痛風、脂肪肝、高血圧による脳卒中、心臓病。これらの疾病に労災が適用されるか、いま、検討中である。
病院の隣の美術館では、きのうからバミヤ遺跡展が開催されている。初日からたいへんなにぎわいだ。
病院の窓から美術館前の行列を見て機関長がいった。
「船長、あんなかの何人かが、アレを運ぶため食いすぎで死んだヤツがいることを知ってますかね」
「だれも知らんさ」
「船長、収穫です」
「食べられるのか」
「現地で少し食べてみました。おいしくはないが食べられます」
「そうか、あとで料理長に見てもらおう。食料庫に入れておいてくれ」
「船長、中国の貨客船とすれ違います」
「距離は」
「5.7光年」
「食料に余裕はないか聞け」
「返信がありました」
「米なら65キロほどあるとのことです」
「ゆずってくれるか」
「貴船は食料不足か、と、問い合わせです」
「食料不足だと伝えろ」
「だいじょうぶですか。そんなウソいって」
「しかたあるまい。なんとしても食料を集めなくてはならん」
夕食だ。今夜のメニューは満願全席だ、中華料理の最高峰がテーブル狭しと並んでいる。
「どうしたんだ。これは」
「料理長が中国船からもらった文献を調べて調理したそうです」
全乗組員がテーブルについた。全員暗い顔をしている。ゲップをする者も。
「これ全部食わねばならんのか」
「船長命令だ。残さず食え」
「しかし、こう毎日毎日ごちそう攻めじゃ胃がおかしくなります」
「だったらドクターに胃をみてもらえ。なんとしてでも可動可能な1トンの重量がいるんだぞ」
きのうはフランス料理のフルコースだった。その前はスシ食べほうだいであった。10人いる乗組員全員盛大に肥満している。
日本の美術品専門運搬船北斎丸。今回のミッションは惑星バミヤの遺跡から発掘された彫刻、陶磁器類の移送。北斎丸は絵画の輸送を主に行うが、今回は彫刻、陶磁器類の運搬だ。壊れ物を運搬するための装備は完備しているが、10人の乗組員は、いつもと違う荷に緊張していた。
「船長たいへんです」
「どうした」
「バランス調整装置が故障です」
この船には美術運搬船特有の装置が装備されている。船の重心部分に可動式の重りがあり、船の傾きを感知して1トンの重りが動いて傾きを調整する。宇宙空間を航行している時はいい。問題は着陸する時だ。
「美術館のあるオルセまであとどれぐらいだ」
「7ヶ月です」
「それまでに修理可能か」
「修理不可能です」
「このままオルセに着陸するとどうなる」
「荷物の半分は破損します」
「そんなことになったら、わが社に美術品運搬の仕事はこなくなる」
「可動できる1トンの重りがあればいいのですが」
「山田105キロ。OK」
「冨山80キロ。あと20キロなんとしても増量せい」
「船長」
「どうした」
「久米が死にました。暴食による胃潰瘍による出血です」
「あいつの体重は何キロだ」
「100キロちょうどです」
「残った9人でその100キロを補填する」
「でも、100キロの重りは残りますよ」
「死体は可動物じゃない」
惑星オルセ中央市民病院。北斎丸の乗組員9人が入院している。重度の胃炎、胃潰瘍、胃拡張、大腸憩室出血、糖尿病、痛風、脂肪肝、高血圧による脳卒中、心臓病。これらの疾病に労災が適用されるか、いま、検討中である。
病院の隣の美術館では、きのうからバミヤ遺跡展が開催されている。初日からたいへんなにぎわいだ。
病院の窓から美術館前の行列を見て機関長がいった。
「船長、あんなかの何人かが、アレを運ぶため食いすぎで死んだヤツがいることを知ってますかね」
「だれも知らんさ」
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