風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

歪む月

2010年08月01日 | 
自転車で、商店街を抜け、飲み屋街を抜け、オフィス街を抜け、ふと見上げると歪な形をした月が垂れ下がっていた。
こんな月を見るのははじめてだった。
三日月でもなく、半円でもなく、ましてや満月でもない。
萎びた茄子のような黄色い月がでろでろと中空に垂れ下がっていた。

空には薄雲がかかっていて、月の周囲の雲が黄色く月を縁取っていた。
特別の日であったのか、月が派手な衣装をまとっているかのようであった。
天空を舞台にし、誰に見せるための晴れ舞台なのかは皆目分からぬ。
ただ、この奇怪な空の舞台を誰かがじっと見ている気配は確かにあった。

自転車をこぎながら、空から目を逸らし、家路を急いだ。
おれには関係のない舞台だ。
気持ちの悪い月の媚態など見たくはない。
そう思えば思うほど、演じる者の気配は濃くなり、見ている者の興奮が高まるのが知れた。

帰り着いてすることといえば、水のシャワーをしこたま浴びて、焼酎の水割りを飲むことだ。
冷蔵庫には蛸の刺身も冷やしてある。
ぐずぐず酔って、タバコを一服とベランダに出る。
腐ったレモンのような月が、だいぶ西に移動している。

雲も吹き払われて、かなたにはネス湖の怪物の三つコブのように山が並んでいる。
すべての者たちが息を潜めて、何かをたくらむ時間だ。
月はといえば、雲の縁取りを吹き払われた代わりに、いつの間にか右下5度の角度で輝く星を従えている。
この月と星とのたくらみは、決して失敗することがないかのように、天空に右下5度の角度を持って位置していた。


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