風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

魚たち

2009年05月09日 | ストーリー
素朴で純情な魚たちがいました。
周りの景色を楽しみ、漂い来るプランクトンを食べ、それは楽しく暮らしていました。
時にはつまらない理由で喧嘩をすることもありましたが、周囲がとりなせば仲良く収まりました。

あるときを境に、海水中に妙な匂いが流れ込んできました。
長老たちがその正体を巡ってあれやこれやと議論しましたが、それが何かは分かりませんでした。
その頃から、子供たちの様子が変わって行きました。
食べ物は充分にあるのに、隣の子供の食べ物を横取りするようになったのです。
食べ物を横取りされた方の子供は分けも分からずぽかんとしていると、寄ってたかってその子を突付き回すのでした。

大人の魚たちはどうしたことだろうかと大騒ぎをしましたが、誰もその原因を突き止めることはできませんでした。
子供たちの行動はだんだんエスカレートして、ある時子供たちの集団が一人の子供を突付き回した挙句殺してしまいました。
魚社会に衝撃が走りました。
ありえないことが起きているのですが、なぜそういうことが起きるのか、誰にも分かりませんでした。

そうして時が経つにつれ、魚社会の中では充分にあろうがなかろうが、食べ物は横取りしてでも取り合うのが普通となり、
横取りが上手い魚が賞賛されるようになりました。
親も子に他の魚よりも食べ物を上手くとる方法を教えるようになりました。

子供たちは幼いころから楽しむことよりも、奪う技術を競うようになりました。
長老たちは何かが違うと盛んに警告を発しましたが、誰も耳を傾けるものはいなくなりました。

ある時風変わりな子供が生まれました。
食べ物を取り合うことに熱中する仲間たちとは離れ、仲間たちが決して近づかない海域まで一人で泳いで回りました。
自分が見た素晴らしい光景や感動を仲間たちに伝えようとしましたが、仲間たちは彼を馬鹿者としてせせら笑うばかりでした。

ある時、その風変わりな子供は体力の続く限り遠くまで行ってみようと決心して泳ぎだしました。
水は冷たくなり、食べ物も見る見るうちに少なくなっていきました。
日ごとに募る心細さと戦いながら、それでもその子は泳ぎ続けました。

そしてある日彼は透明な壁に突き当たりました。
その透明な壁の向こうには、彼が見たことも想像したこともない世界が広がっていました。
彼は驚愕し、混乱しました。
それでも彼はめげずにさらに探求を続けました。
そいて彼はついに知りました。
全世界だと思っていたこの水中の世界が、実は透明な壁に四方を囲まれた作為的な世界であるということを。
うかがい知れない誰かの作為でこの世界が作られているということを。

彼はそれまでの経験で、その知ってしまったことを仲間たちに伝えても無駄なことを知っていました。
そしてその自分の無力さを嘆きました。

(続く)




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2 コメント

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風変わりな子供 (flower)
2009-05-10 12:34:22
風変わりな子供は、探求を続けてきたtoruさんに似ているような・・
どんな続きになるか楽しみです。
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flowerさん (torut21)
2009-05-10 18:52:36
そういうことを言われると照れます。
バッドエンドにはできなくなりますた(笑)
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