風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

雪虫

2017年01月28日 | ストーリー

わたしが生まれたのは、北海道の十勝の音更という町です。
一人っ子です。
正確には、一人っ子ではなく兄がいたらしいのですが、兄がまだ赤ん坊のときに亡くなったらしいです。
なにが原因なのか詳しいことは両親から聞いていません。

音更は、見わたすかぎりジャガイモやらトウモロコシの畑が広がる何もないところです。
わたしの両親は、その小さな小さな町で魚屋をしていました。
ほんとに見わたすかぎりなんにもない場所で、魚屋なんておかしいでしょう?
海なんて、ずーっとずーっと遠くにあるんですから。
わたしが中学生のときに、町にもスーパーマーケットができまして、両親はその数年後に店をたたみました。
店をたたんで、二人で近所の牧場で働き始めました。

そんなこんなで、すっかり元気のなくなった両親にまさか高校に行きたいとも言えず、
わたしは中学を卒業すると帯広の製紙工場で働き始めました。
会社の寮住まいです。
幸い、先輩方いじめられもせず、休日には同期の子達と植物園に行ったり、糠平湖におにぎりを持って行ったり、
それなりに楽しみました。
両親のことは気にはなりましたが、毎月給料のいくらかを送ってやれるだけで、あとはどうしようもありませんでした。

仕事にも慣れたころ、父親が肺炎にかかり亡くなりました。
父の看病をしていた母にも肺病が移り、その三月後に母もあの世に行ってしまいました。
突然独りぼっちになってしまいました。
数ヶ月のうちに両親を立て続けに亡くしたわたしを、上司や同僚はとてもよく気遣ってくれました。
でも、気遣ってくれればくれるほど、わたしの心は寂しくなってたまりませんでした。

そのころを思うと、今でも胸がいっぱいになってしまいます。
こうして夫も二人の子供もいる今の自分がときおり夢ではないかと思うときもあります。

冬になると十勝では雪虫が舞います。
ええ、ユ・キ・ム・シです。
本当に雪が舞っているようにゆらゆらと飛びます。
雪の匂いってわかりますか?
初雪が降る前に、大気中に雪の匂いが満ちるのです。
ちょうどそのころ、雪虫がどこからともなく大量に現れて、そこらじゅうを舞い飛ぶのです。

子供のころ、不思議でたまりませんでした。
雪が本格的に降るようになると、ぱったりと雪虫たちはいなくなります。
どこかに消えたようにいなくなるのです。
雪虫は動きが鈍いのでかんたんに捕まえることができました。
捕まえてみると、ふわふわの真っ白い毛の中に、ちゃんと黒い羽も胴体もありました。
あれはなんだったのでしょう。
冬の訪れを告げるためにだけに舞い飛ぶなんて、そんなことありえるんでしょうか?

十勝には夏のお盆には何度か墓参りに帰っていますが、冬には帰る用事もないため、20年ほど帰っていません。
いつか息子たちを連れて、冬になりかけの十勝に帰ってみたいです。

 


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