鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

練習

2007-08-16 17:38:27 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
トビの幼鳥 2007年8月 北海道十勝川下流域)


 「チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、…」、雛の声が湖面を渡る。この小さな沼ではアカエリカイツブリが子育ての真っ最中。雛は先週の3羽から減っておらず、雛間の体格差も縮まってきたところを見ると、なかなか優秀な親鳥のようだ。2羽の親鳥のうち、1羽は雛に寄り添ってその挙動から目を離さないが、もう1羽は沼内を動き回って潜水を繰り返しては小魚を捕え、それを雛の下に運ぶのに大忙しである。絶えず動き回っている方は雄親だろうか、雌親だろうか、とにかく働き者である。


雛に給餌するアカエリカイツブリ
2007年8月 北海道十勝川下流域
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 先ほどから1羽のトビが周囲を飛んでいる。沼面を舐めるように低空で飛ぶ姿は、まるでチュウヒのようだ。体の各部の羽に白っぽい部分があり、黒褐色の体色と対比を成していることから、巣立って間もない幼鳥と思われる。トビはアカエリカイツブリの家族の上まで来ると反転し、高度を下げた。アカエリカイツブリたちには俄かに緊張が走り、雛たちは咄嗟に潜水した。これはどうしたことか?雛を襲うつもりなのか?トビは餌の大部分を生ゴミや死体に依存しており、時折魚を狩ることはあるが、元気な鳥を襲うことは滅多に無い。
 アカエリカイツブリたちに走った緊張とは裏腹に、トビは何事も起こさず飛び去り、変わらず沼面を舐めるように飛翔している。しばし後、別の地点で急降下して水面に掠めた脚に握られていたのは、水草だった。最初は、先日のミサゴのように(→「ミサゴの早とちり」を参照)水面に踊る水草を魚と勘違いしての行動かと思ったが、その後まったく同じ行動を何回か繰り返していたから、どうもそうではないらしい。とすると、これは独り立ちして間もない幼鳥の、狩りの練習なのかもしれない。たとえ死体であっても水面に浮かぶ魚等を、飛びながら捕えるのは簡単なことではないだろう。ましてや生体なら言わずもがなである。そのための練習なのではないだろうか。


水草を掴んだトビの幼鳥
2007年8月 北海道十勝川下流域
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 同じような「練習」風景をオジロワシの幼鳥で見たことがある。巣立って間もない頃でまだ親の給餌を受けていたが、親が餌探しに出かけている間、ダム湖の洲で待っている雛は、ウグイほどの大きさの棒切れを掴んでは離したり、それを持って羽ばたいたりといつか手にするであろう獲物の感触を味わうような行動を示していた。


オジロワシの幼鳥(前年以前の生まれ)
2007年4月 北海道中川郡豊頃町
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 小さな沼では、トビの飛翔が子どもの戯れに過ぎないことを察したのか、アカエリカイツブリの雛たちが賑やかに鳴き始め、親の1羽は育ち盛りの我が子らに魚を与えるべく活発な潜水を再開した。トビは練習に飽きたのか間もなく沼畔の枯れ木に羽を休め、代わってアオサギがやはり水面を舐めるように飛び過ぎて行った。


アオサギの飛翔
2007年8月 北海道十勝川下流域
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夏の風物詩・花火大会
2007年8月 北海道帯広市
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(2007年8月16日   千嶋 淳)


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