All Photos by Chishima,J.
(ヒシクイ(亜種オオヒシクイ;奥)とオオハクチョウ 以下すべて 2008年12月 北海道十勝川中流域)
十一月末、相次ぐ湖沼の結氷に急き立てられるようにガン類がいなくなると、十勝平野は本格的な冬を迎える。ところが、師走の声を聞いて数日が経過した穏やかな午前中、1羽のヒシクイに出会った。普段ガン類をあまり目にすることの無い十勝川の中流域で(主な渡来地は下流域と海岸部)、数十羽のオオハクチョウの群れに紛れていたものだから、余計印象的だった。
彼(彼女?)はハクチョウ達と草地を闊歩し、長い首を伸ばし、頑丈な嘴を使って地面を掘り返して根元から草を食み、その後はハクチョウの傍らで羽を伸ばしたかと思うと、地面に座り込んで休息する等寛いだ様子を示していた。何かのはずみで群れと逸れてしまった折に、色と大きさこそ違えど姿形や生活場所のよく似たハクチョウと出会い、そのまま群れに加入したのだろうか。ハクチョウもこの色変わりの新参者を攻撃するでも歓迎するでもなく、普通に受け流しているから、ヒシクイもすっかり居心地が良くなってしまったのではあるまいか。尤も後に写真を見返すと、明らかにヒシクイを凝視しているハクチョウもいたから、居心地良いのはヒシクイだけかもしれないが。
オオハクチョウとヒシクイ
右のオオハクチョウはヒシクイを気にしているようだが、ヒシクイは構わず草を食べている。
十二月に入ってからの十勝は、季節外れの暖かさが続いた。昨日はコートを着て外を歩くと汗ばむくらいの陽気で、一度結氷した幾つかの湖沼では解氷が進みかけていた。帯広の最高気温はプラスの10.7℃(冬の0℃以上の気温に対しては、「プラス」と一言添えるのが北の国の習わしである)だったが、12月10日過ぎにプラスの10℃を超えたのは実に29年ぶりの記録だという。そんな長閑な日々から一転した今日、気温は上がらず、昼過ぎから舞い始めた雪は、地表を春まで覆い隠す根雪になりそうな勢いで降り続いている。
根雪が降ると、ハクチョウは畑や草地での採食はできなくなり、その多くが不凍河川や市街地近くの給餌場に集中する。滅多に人に餌付かないヒシクイは、人に媚を売って暮らすハクチョウと決別して単身南を目指すだろうか、それとも中には居るであろう南下するハクチョウと行動を共にするか、案外人の側で越冬するという選択肢もあるのではないかと、出会った日の警戒心の薄さを思うとそんな気もして来る。
オオハクチョウ
ヒシクイ(左)とオオハクチョウ
(2008年12月11日 千嶋 淳)
昨シーズン、静内川に同じようにオオハクチョウと行動を共にしていた1羽のヒシクイがいたのですが、同じものでしょうか?
同じ個体かどうか、結論から言うと難しいですねぇ。標識以外で鳥を個体識別するのは、かなり至難の業です。コハクチョウでは嘴の黒と黄色の多さや形等で個体識別されている方がいるそうです。また、猛禽等では風切羽の欠損状況等から短期的な個体識別は可能ですが、ヒシクイはいずれも難しそうです。
もし同じ個体だとしたら、彼(彼女?)は自分をハクチョウだと思い込んでしまっているんでしょうか?ガン類は生れて最初に見た動くものを親と思いこむ習性(刷り込み)がありますが、まさかそんなことないですよねぇ…。