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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

ビロードキンクロ(その1) <em>Melanitta fusca(deglandi)</em> 1

2011-12-23 22:15:39 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ビロードキンクロ 2011年4月18日 北海道十勝郡浦幌町)

 ユーラシア大陸と北米大陸の北部に分布し、3~4亜種に分けられる。日本に渡来する亜種は、アジア産のstejnegeri。近年ではヨーロッパ産の基亜種と、北米・アジア産の亜種を別種とする場合も多く、その場合の学名はM. deglandiとなる。道東へは9月下旬から10月にかけて渡来し、砂質海岸の海上に多く見られる。クロガモに比べるとずっと少なく、分布も局地的。以前より渡来数が減少しているとの指摘もある。越夏個体もごく少数見られるが、クロガモみたいに群れを作るほどはいない。
 亜種stejnegeriではオスの嘴基部の瘤が特に顕著で、本種のロシア語名は「鼻瘤のあるクロガモ類」の意だという。青白い虹彩やその下から後方に伸びる三日月状の白いパッチ、クロガモとは異なる三角形の頭頂部等、オスの頭部には特徴的な部分が多々あるが、飛翔時の本種最大の特徴は、何と言っても次列風切の白である。なお、一連の写真は同日の同海域での撮影であるが、個体は別。
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 海上を飛ぶ8羽の群れ。このように光線条件が良ければ、次列風切の白は遠距離からでも明瞭。海岸から望遠鏡を眺めていて、数km先を飛ぶ個体を識別できることもある。逆光や白っぽい背景では、次列風切の白が見えないこともある。次列風切の白い他のカモ類としては、ウミアイサ、ハジロガモ類、オカヨシガモ等があるが、いずれも形や色が本種とは異なり、ハジロガモ類では白色部は初列風切まで及ぶ。カイツブリ以外のカイツブリ類も次列風切が白いが、大きさや形が異なり、冬羽では白っぽいものが多い。


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 上の群れの一部を切り取ったもの。左から2、3、5番目は明らかにオスだが、嘴の色や目の下の白パッチが明確なのは2番目だけで、他は若いのか?また、左から1、4番目も一見メスのようだが、顔の黒色みが強く、白い斑が見られないことから前年生まれのオスかもしれない。左から2番目の個体以外は、雨覆の褐色みが強い気もする。いずれにしてもこの光線、距離であれば種の識別は容易。クロガモ属の中では、翼の幅が最も広い。


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 「Flight Identification of European Seabirds」(ヨーロッパの海鳥の飛翔識別図鑑)によると、本種の飛翔は「クロガモよりまっすぐで安定的だが、翼の拍動は速く、ウミアイサのそれを想起させる」、「海上を飛ぶ速度はクロガモよりゆっくりで、クロガモの不安定で一生懸命な飛翔とは違う」そうである。私はそこまで本種の飛翔を見込んでいないので肯定も否定もできないが、クロガモに比べると大きくて重量感を感じるのは確かである。右はオス成鳥、左側はメスに似るが顔の黒み強く、白斑も認められないことから前年生まれのオスかもしれない。


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 斜め後方から。右から1、3番目はオス成鳥で、同4番目も脚の色の鮮やかさからオス成鳥と思われる。この角度からだと、特にオス成鳥では次列風切の白に加えて濃いピンク色の脚も目立つ。次列風切以外の翼下面は暗色。右から2番目の個体は腹が淡色で、顔は黒っぽいことから前年生まれのオスと思われる。


(2011年12月23日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。



オオハム(その1) <em>Gavia arctica</em> 1

2011-12-06 22:50:56 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて オオハム 2011年5月5日 北海道十勝郡浦幌町)


 「シロエリオオハム(その1)」の記事で紹介した同種の直前に飛んで行った個体。脇の白斑は写真からは不明瞭だが、長くて大きな嘴、厚みのあるボディ、chinstrapやventstrapの欠如などは本種を示唆していると思われる。全体的な大きさも大きく見えた。もっとも大きさにはかなりの個体差があるので、注意が必要である。渡りの群れを見ながら仲間と「あれはオオハムだろう」、「前から二番目は特大だからハシジロアビでないか」などと盛り上がった後で、画像を確認したらすべてシロエリオオハムだったことがある。

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 雨覆には幼羽と思われる、外側が淡色の羽毛が見える。第1回夏羽の若鳥であろう。
 後頸の茶色の色合いは本種若鳥に多いように感じ、シロエリオオハムであれば、早い時期にはより濃色なチョコレート色、遅い時期であればより銀白色に近い印象があるが、個体差や羽毛の磨滅・褪色の程度とも関連するのでよくわからない。


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 アビ類と飛翔時のシルエットや羽ばたきが最も近いのは、大型カイツブリ類であろう。大型カイツブリ類は、通常の光線条件であれば次列風切や翼前縁に白色部が見える。アビ類で上面に白が出るのは、主に夏羽の背、肩羽、雨覆などであり、部位、見え方とも異なる。ウ類は通常の光線であれば、シルエットは似ていても全身黒色のため見間違うことはないが、逆光であったり、遠距離のウミウ若鳥は時にアビ類のように見えることがある。


(2011年12月6日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。


シロエリオオハム(その1) <em>Gavia pacifica </em>1

2011-12-05 16:28:34 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて シロエリオオハム 2011年5月5日 北海道十勝郡浦幌町)


 首を下げて飛ぶ姿は一見アビのようでもある。アビ冬羽であれば、頭部から頸部にかけて、上面と下面の白黒はもっとはっきり分かれる。アビ幼鳥は顔をはじめ上面は灰色みを帯びる。チョコレート色のような黒褐色はオオハム類に特有のもの。雨覆は外縁が淡色の幼羽であり、第1回夏羽の若鳥と思われる。成鳥なら時期的にも夏羽であろう。本種の特徴である喉の線(chinstrap)は確認できないが、同じく特徴である下尾筒の線(ventstrap)は明瞭に見える。道東ではこの羽衣の本種が多数越夏し、夏に見るのが冬羽タイプばかりなのは、繁殖に参加しない若鳥が留まっているためであろう。



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 左翼次列風切のやや外側が欠損している。右翼の同部位もそのように見え、換羽によるものなのかもしれない。翼下面はアビ類のどの種類でも白く、外縁は黒っぽい。
 アビ類は大型で、翼の拍動はカモ類やウミスズメ類に比べると遅いが、飛翔速度は意外と速いようで、本種が飛翔中のシノリガモを追い抜いてゆくのを見たことがある。


(2011年12月4日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。


スズガモ(その1) <em>Aythya marila </em>1

2011-12-04 23:03:14 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
Photo
All Photos by Chishima,J.
(以下すべて スズガモ 2011年5月5日 北海道十勝郡浦幌町)


 潜水採餌ガモの本種は、脚が体の後方に付いていて重心が後方にあるため、飛び立ちには助走を要する。潜水採餌ガモをその生息環境からBay DuckとSea Duckに分けることがあるが、Bay Duckに属する本種は、漁港や内湾、河口、海岸近くの湖沼などで見られることが多い。道東では越夏個体も多いため、四季を通じて観察されるが、数が多いのはやはり春と秋である。


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 ♂の飛翔。初列風切から次列風切にかけての白帯が明瞭。コスズガモでは、初列風切はより灰色で、白くは見えないようである。ホオジロガモやウミアイサ、ビロードキンクロなど次列風切が白い海ガモ類は多いが、初列風切まで白色部が及ぶ種は本属とアカハシハジロだけで、淡水ガモ類にもいない。キンクロハジロとは背や翼前面の灰色、順光下では緑色みを帯びる顔の色などが異なる。


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 ♀の飛翔。翼帯の白色は上の♂よりも広範囲に見える。嘴基部の白色も顕著。キンクロハジロの♀で嘴基部に白色部分を持つ個体もいるが、これほど明瞭ではない。頭部から上面にかけての褐色にキンクロハジロのような黒みはなく、むしろ赤褐色。虹彩は雌雄ともに黄色いが、秋の幼鳥では暗色。


(2011年12月3日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。

クロガモ(その1) <em>Melanitta nigra americana</em> 1

2011-11-29 21:34:12 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて クロガモ 2011年1月23日 北海道十勝郡浦幌町)


 ヨーロッパ産の基亜種と北米産の亜種americanaから成り、日本へは後者の亜種が渡来する。近年ではそれぞれを独立種として扱う風潮も強く、その場合日本の個体群はM. americanaとなる。道東では冬鳥として10月から5月くらいまで海上で普通に観察されるほか、越夏するものも少なくない(「越夏群」の記事も参照)。概して砂質海岸の海上に多いが、ビロードキンクロほど同環境への依存度は高くない印象がある。1965年に阿寒湖で幼鳥の観察記録があるというが詳細は不明で、確認できる写真等の所在も不明である。

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翼開長は70~84cmで、ウミガラス類より少し大きく、大きい個体はアカエリカイツブリともオーバーラップするが、翼の拍動が早いためかそこまで大きな印象は受けない。丸みを帯びた頭部や腹部等独特のシルエットにくわえて、オスでは嘴基部の黄色い瘤、メスではツートンカラーの顔のパターン等が見えれば識別は容易。遠距離や逆光という悪条件下では、他のカモ類やウトウと見間違えることがある。また、しばしば他種と混群を形成するので注意が必要である。


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♂の飛翔。このような順光下では、嘴基部の黄色と全身の黒色によって識別はたやすい。初列風切の下面と上面外縁は銀白色で、飛翔時には遠距離からでも割とよく目立つ。


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♀の飛翔。大雨覆と次列風切の先端は白いが、これは近距離でもほとんど目立たない。最大の特徴は、頭頂部から後頸にかけての黒褐色とそれ以外の顔の淡色が作り出すコントラスト。初列風切の銀白色は♂ほどではないが、やはりよく目立つ。本個体の嘴は全体的に黒い。嘴基部に黄色の入る♀のような個体を、♂幼鳥とみる向きもあるが、そのような個体へのディスプレイやつがい形成を観察しており、♀でも個体によっては(例えば老齢個体)黄色が出るのかもしれない。


(2011年11月29日   千嶋 淳)