goo blog サービス終了のお知らせ 

鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

ホオジロガモ(その1) <em>Bucephala clangula </em>1

2012-01-13 22:40:30 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
Photo
All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ホオジロガモ 2012年1月11日 北海道十勝川中流域)


 道東へは冬鳥として10月中旬から翌5月中旬まで渡来し、稀に夏期の記録があるもののその多くは単独の個体。漁港や内湾、河口、主に砂質海岸の海上といった沿岸域のほか大きな川や、結氷前後には山間部も含めた湖沼等内陸にも飛来する。一連の写真は河川でのもの。
 本種の飛翔時のシルエットは、オス(手前)メスともそれ自体が識別に有用なほど特徴的。翼開長は62~77cmでシノリガモと近いサイズだが、よりコンパクトでまるまる太って見える。短い嘴からやや切り立った額を経て頭頂部へ上り、そこから後頭部にかけて下るおにぎり型の頭部は、不釣り合いなくらい大きい。翼は割と短めで、幅広い。



Photo_2


 メス7羽の群れ。右から2番目が幼鳥で、ほかは成鳥と思われる。体の軸は水・地平線より上方を向くことが多く、そのため体の後半部に重心のある印象を受ける。翼の拍動は大変速くて力強く、必死な感じがする。人や船の接近で飛び立った場合、大抵はすぐに高度を上げ、頭上を通過する。そのため、野外において飛翔は見下ろすより見上げる機会の方が圧倒的に多い。飛翔は基本的に直線的だが、人や天敵、障害物等を避けるため左右に、群れが散開するような急降下を示すことがある。近距離であれば英語でwhistle(口笛)と呼ばれる、翼が空を切る甲高く金属的な音を聞くこともできる。


Photo_3


 生殖羽のオス成鳥は、シルエットとともに、光線条件が良ければかなりの距離からでも識別可能な特徴的な羽衣を持つ。上下面の白黒のコントラストが強く、見上げる状態では白い部分が目立つ。顔の黒色は、距離と光線条件が良ければ緑色光沢を帯びる。その中の嘴基部の両側に、和名の由来ともなった円形の白斑がある。虹彩は英名Goldeneyeの通り、金色みを帯びた鮮やかな黄色。短い嘴は全体が黒色。黒色の翼上面には次列風切から雨覆に及ぶ広い白色部があり、その部分が見えればよく目立つ。画像では一部しか見えていないが、肩羽の白線も同様に目立つ。脚はオレンジ色。


Photo_4


 メス成鳥。白黒のコントラストの強いオスと比べ、全体に暗色な印象。頭部は暗褐色、胸の上部と脇は灰色で、腹は白い。頭部の褐色と胸以降の灰色の間に明瞭な白色部があり、首輪状を呈する。翼上面のパターンはオスに似るが、白色部は中雨覆、大雨覆の先端が暗色なため、2本の暗色線に分断される。虹彩はオスより黄色みに乏しく、白っぽい。黒い嘴の先端には、やや橙色みを帯びた黄色の部分がある。脚はオス同様。


Photo_5


 左上の個体は虹彩や脚の色、嘴や翼上面のパターン等からメス成鳥であろう。右下の個体(本記事2枚目画像の、右から2番目の個体)は虹彩が暗色で脚の色も鈍く、白い首輪が不明瞭なことから幼鳥と思われ、嘴先端に黄色のあること、翼上面の白色部のうち中雨覆がやや暗色なことからメスと思われる。


Photo_6


 左は虹彩や脚の色、首輪の明瞭さ等からメス成鳥と思われる。右の個体は虹彩や脚の色、首輪の欠如等から幼鳥と思われ、嘴は全体が黒い。翼上面のパターンは画像からは確認できず、性は不明。


Photo_7


 真下から見上げた4羽で、下側2羽がオス成鳥。通常、オスはメスよりも大きい。側面からとはまた違った印象だが、胴体部分の膨らみと丸み、それがもたらす下半身の強い重心感は一緒。すべての羽衣を通じて、次列風切以外の翼下面は暗色。画像では風切部分がより淡色だが、実際には均一な暗色に見えることが多い。


(2012年1月13日   千嶋 淳)


シノリガモ(その1) <em>Histrionicus histrionicus </em>1

2012-01-10 16:24:53 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
1
All Photos by Chishima,J.
(以下すべて シノリガモ 2011年1月23日 北海道十勝郡浦幌町)


 英名のHarlequin Duckは「道化師ガモ」、属名、種小名のhistrionicusは「役者のような」の意で、ともにオスの派手な顔の模様に由来するもの。道東へは、多くは冬鳥として10~11月に渡来し、岩礁海岸を中心に海上や漁港で見られる。十勝川上流や札内川上流、知床半島等では繁殖またはその可能性があるが、詳細な繁殖状況や数は不明。それらとは別に、若鳥を中心に岬や離島周辺の海上で越夏する個体も少なからずいる。

2


 翼開長は63~70cmでホオジロガモと同サイズだが、より細長く見える。飛翔時のシルエットは独特で、短い嘴や切り立った額、丸い頭部、太めの首等体の前半部にその特徴の多くが集中する。メス(左)はオスに比べて首がやや細く、そのため頭の丸さが強調されて見える。オスは光線条件さえ良ければ、かなりの距離からでも嘴基部や耳羽、胸にある白斑・線が目立ち、他種と見誤ることはない。近距離であれば青みを帯びた体色や脇の赤褐色も助けとなる。翼上面は翼鏡の内側や雨覆に白色部が棒または斑状に出るが、それ自体で識別の役に立つほどの特徴ではない。メスは顔の2つの白斑を除くと、全身一様な黒褐色に見え、下面はやや淡色。顔の斑は前方の方が大きいが、飛翔時にはしばしば後方の方が目立つ。


3


 飛翔はたいてい1~数羽で、大きな群れで飛ぶのは岩礁上や岸近くで休んでいた集団(これも密集した群れではなく結果として数が集まった感じで、クロガモ類やハジロ類の群れとは感じが異なる)が船や人の接近に驚いて逃避する時くらいではないだろうか。飛翔高度は低い場合が多い。羽ばたき速度は他のカモ類同様速い。左上のオスで顕著なように、頭を持ち上げたような独特の姿勢を示し、そのため重心が体の後半部にある印象を与える。逆光や光量が乏しい条件下では、この姿勢や上記の頭部周辺のシルエットが識別において有用である。


4


 オスの顔から胸にかけての白色部は、種を識別する上で非常に重要な特徴となるが、その見え方は角度や鳥の姿勢によって異なる。このように翼を打ち下ろしていると目先と耳羽の白斑はよく目立つが、胸の2本の白線は目立たず、特に後方のそれはほとんど見えなくなる。また、脇の赤褐色もごく一部しか見えなくなる。


5


 翼を上げた状態では、胸の2本の白線は顔の白斑並みかそれ以上に特徴的で、特に腹側の白線は太くてよく目立つ。また、脇の赤褐色も広範囲に渡って顕著。翼は上面の僅かな白色部を除き、上下面とも暗色。


6


 ある程度距離が離れるとオスの青っぽい体色は不明瞭になり、黒っぽく見える。それでも顔や胸、肩羽等の白色部はくっきりと見える。メス(前から2番目)は画像では顔が隠れているが、顔の白斑は距離が離れても見える場合が多い。顔に白斑のある海ガモ類としてはビロードキンクロ、アラナミキンクロのメスがあるが、大きさや外観がかなり異なる上に、ビロードキンクロでは次列風切が白色なため、見誤る可能性は低い。


(2012年1月10日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。

シロエリオオハム(その2) <em>Gavia pacifica </em>2

2011-12-26 23:28:07 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
Img_2340
All Photos by Chishima,J.
(以下すべて シロエリオオハム 2011年6月16日 北海道十勝郡浦幌町)


 アビ類は基本的に飛び立ちには助走を要する。アビは助走なしでも飛び立てるというが、助走するのを見たこともある。飛び立ちや飛翔時のシルエットがアビ類と似ているものには、大型カイツブリ類(アカエリとカンムリ)とカワウ、ウミウがあるだろう。このように羽色が見える条件であれば、翼上面、特に次列風切に白色部のあるカイツブリ類とそれのないアビ類との識別は容易。カイツブリ類はアビ類のように海面高くを飛ぶことは少ないのも補助的な条件になるが、少なくとも渡り中のアカエリカイツブリはアビ類並みの高さを飛ぶことがある。カワウ、ウミウは羽色が見える距離、光線条件ならば何ら問題はなく、逆光や遠距離では平たい腹部や丸みを帯びた幅広い翼、細い首、先端が鉤状の太い嘴等がアビ類とは異なる。
 いわゆる冬羽であるが、成鳥であれば6月には完全な夏羽になっているはずであり、雨覆の各羽は外縁が淡色で鱗状を呈する幼羽であることから、第1回夏羽の若鳥であることがわかる。写真はすべて同一個体。
Img_2344


 本種の特徴である喉の線(chinstrap)、下尾筒の線(ventstrap)とも明瞭な、わかりやすい個体。翼は体の中央付近に位置し、細くて先端は尖る。ヨーロッパの図鑑には、アビ類の飛翔姿を「十字架」のようだと記述するものもある。初列雨覆や初列風切は褪色と磨滅により、幼羽より淡色になっている。次列風切の内側に黒っぽく見える羽が数枚あるが、これらが換羽後の新羽なのかは不明。


Img_2349


 成鳥夏羽では背、肩羽には多数の白斑が散在して体色にアクセントを付けるが、この羽衣では一様な黒褐色。この羽衣でもオオハムに比して後頚は白色みを帯びる個体が多いが、本個体ではわずかに淡色になっているだけで不明瞭。左翼の次列風切先端が白く、tip状に見えるものの、飛翔中にこの特徴が見えることはまずない。


(2011年12月26日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。

ハジロカイツブリ(その1) <em>Podiceps nigricollis</em> 1

2011-12-25 23:23:45 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
Photo
All Photos by Chishima,J.
(以下1点(比較画像のミミカイツブリ)を除きすべて ハジロカイツブリ冬羽 2011年9月29日 北海道中川郡豊頃町)


 道東へは旅鳥、冬鳥として8月下旬から9月上旬に渡来する。海鳥の一種ではあるが、湖沼や大きい河川等淡水環境で見られることが多く、海でも漁港や内湾の海上がメインで外洋ではまず見られない。淡水が結氷する厳冬期には個体数は減少し、多くはもっと南まで渡るものと思われる。普通種で個体数も多い割に、海上で本種の飛翔を見る機会は殆どない。ヨーロッパの図鑑によると、本種とカイツブリは主に夜間に渡りを行なうため目にすることがないのだという。十勝地方では秋の渡り時には個体数も多く、湧洞沼等海岸部の湖沼では10~11月に数十~100羽以上の群れも見られる。春の渡りは秋ほど顕著でなく、4~5月に少数が観察される程度であり、降下せずに通過するか渡りコースが違うのであろう。渡り時には陸上も飛んでいるようで、十勝では足寄町や帯広市等内陸部での記録も少なくない。
Photo_2


 翼開長は56~60cmでコガモと同程度。ミミカイツブリよりやや小さいが測定値はオーバーラップする。ただ、体のプロポーションなのか黒色部が多いせいなのか、本種の方が小さく見えることが多い。翼の拍動は速く、カイツブリ同様非常に一生懸命な感じがする。翼後縁の白色は次列風切だけでなく、内側初列風切まで達するのが本種の特徴。その他の特徴としては、急勾配で切り立って見える前頭部、頭頂部からの黒色が頬まで顔の広い範囲を覆い、その後方から後頚へ向けて出る白い切れ込み等がある。


Photo_3


 飛翔時の特徴だけで本種と断定するのは難しいが、体の後半部に重心があるように見える。飛び立ちには助走を要する。


Photo_4


 翼下面と体下面は白色。左側の個体のような姿勢を取ると、暗色部が黒っぽい印象を作り出す通常の浮き姿(右側)とは違って見えるので、注意が必要。下嘴が曲線を描くため、嘴が上に反っているように見え、直線的な他のカイツブリ類とは一線を画するが、距離が近く、光線条件が良くないと確認しづらい。


Photo_5


 ミミカイツブリとの比較画像。ミミカイツブリの撮影データは画像を参照。ミミカイツブリは全体的に白黒のコントラストが強く、顔の黒白の境界も明瞭。ハジロカイツブリでは黒色部は顔の下方まで及び、境界もやや不明瞭。翼上面のパターンに着目すると、ミミでは前縁の基部付近に白色部があるが、ハジロでは前縁に白色部は一切出ない。また、上述の通り後縁の白色部は、ミミでは次列風切だけだが、ハジロでは内側初列風切まで達し、より広く見える。ハジロの方が体の後半に重心があるように見える。全体的な形態ではミミがアカエリやカンムリに近いスリム体型で、ハジロはカイツブリに通じる寸胴で寸詰まりな体型をしている。


Photo_6


(2011年12月25日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。


コガモ(その1) <em>Anas crecca </em>1

2011-12-24 17:28:07 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
1
All Photos by Chishima,J.
(以下すべて コガモ(を中心とした写真) 2011年5月5日 北海道十勝郡浦幌町)


 本種を含む淡水ガモ類やガン類、ハクチョウ類は海鳥ではないが、渡りの時期を中心に海上や海岸で多数観察され、他の海鳥との識別が必要になる局面もあることから、陸域で撮影したものも含めそれらの飛翔写真を本カテゴリで紹介する。一連の写真は同日、同海域の撮影だが個体は別。本種は淡水ガモ類の中でも、個体数の多さからか海上で出会う機会の最も多い種の一つといえる。日本産カモ類中最小で、翼開長は53~59cmとウトウ(同63cm)より小さい。上の写真では50羽ほどが密集して海面低くを飛んでいる。このような密集した群れは、遠目には中型以下のウミスズメ類、あるいはシギチドリ類のように見えることがある。群れは密集しても垂直方向にはあまり広がらず、列状になることが多い。飛翔時の本種の最大の特徴である翼鏡の上の白帯は、光線条件が良ければこの距離でも確認可能。
2


 距離は比較的近いが、曇天時の日の出後間もない時間のため、色はまったく出ない。ただし、翼鏡上の白帯はこの条件でも明瞭。それ以外の、この明るさから読み取れる特徴は体に対して大きめの嘴と頭部、短めの首等である。翼の拍動は非常に速く、一生懸命な感じがする。動きは機敏で、方向転換も頻繁に行なう。


3


 上と同一時刻の写真で、色はほとんど出ていない。左から2、3、7番目はオスである。光線条件が良ければ、この距離ならオスの赤褐色と緑の頭部、褐色みを帯びた胸、腰の脇の黄色い三角形の斑等も見える。


4


 本種はしばしば他の淡水ガモ類や海ガモ類、海鳥と同時に観察される。この写真では右側の海面低くを11羽のコガモが右へ向けて飛び、左側のそれよりやや高くをハシビロガモ3羽が飛んで行く。コガモは大きさや頭の形、翼鏡上の白帯等、ハシビロガモはコガモと比較した大きさ、嘴の形、雨覆や翼鏡のパターン、オスの色彩等、距離はあるが順光のため、識別に用いることのできる形質は多い。


5


 海面低くを約50羽の本種が左から右に向けて飛び、中央のそれより高く(背景が波打ち際)を5羽のビロードキンクロが同方向に飛んでいる。ビロードキンクロは次列風切の白をはじめ、独特の体型等に注目。


6


 曇天で色が出ない状況での複数種の出現は厄介である。手前を一列に右方向へ飛ぶ6羽のうち、先頭と最後尾がウトウで、それ以外の4羽はクロガモ。ウトウはサツマイモのような体型や下面の白、クロガモは頭部や腹部の丸みが作り出す独特の体型や白色部のない翼等に注目。その一列の左奥をやや陸側に向けて飛ぶ3羽がコガモである。大きさ、頭が大きい独特の体型、翼鏡上の白帯(後ろの2羽で見える)等から識別できる。


(2011年12月24日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。