ネットでも印刷物でも、大方の表現は、日本場合、労働分配率は低下傾向といった表現が多いようです。昨年今年と、春闘の賃金上昇率は高まってきたようですし、この状況なら労働分配率も上がってきているのではという感じもするのですが、労働分配率が上がってきたというニュースはあまり聞かれません。
調べてみればそれなりに解かることですが、労働分配率には大きく分けて2つの指標があります。
1つはマクロレベル、日本経済全体の労働分配率で、これは国民経済計算の中で算出されるものです。
もう1つは大変複雑で詳細な企業統計の、財務省の「法人企業年報」です。産業別、企業規模別といった企業レベルの労働分配率の基本的なデータです。
経営分析の立場からは法人企業年報のデータが最も頼りになるのですが、四半期ごとに発表される「法人企業統計季報」では、付加価値の調査がされていませんので、労働分配率の計算はできません。「年報」の方は調査や集計に時間かかるため2年遅れということで。今の最新版は令和4年度(昨年11月発表)の数字です。
ということで割合早く労働分配率の状況の解かるのはマクロレベルのGDP統計の四半期速報ということになります。もちろんこれでは、日本全体の付加価値であるGDPと日本全体の人件費の雇用者報酬しかわかりません。
それでもマクロ経済の動向を見るのであれば、現状、速報値ですが今年の1~3月期まで、つまり令和6年度、2024年度の数字まで出ています。
ということで国民経済計算を使って日本全体の労働分配率を見てみました。
労働分配率は、ご承知のように付加価値の中で人件費として支払われた分がいくらかということで、「人件費/付加価値*100」で%表示です。
もちろん付加価値はGDPを使っても良いのですがGDPのGはGrossですから。これは「粗付加価値」で減価償却費が入っています。
減価償却費というのは、大きな買い物をした時発生する大きなコストは一度に払えませんから、分割で何年かかけて払うもので、本当は経費ですから、それを抜いた「純付加価値」の中で人件費が何%かが本当の労働分配率です。
ということで、ここではGDPから原価償却を引いた「国民所得」とそれに、海外から入ってくる利子配当も企業収益ですから「国民所得+第一次資本収支のGNI(国民総所得)を分母にして「雇用者報酬」を割っています。
結果は上のグラフの通りで、2020年度がピークでその後下がっています。2020年はコロナの深刻化の年で、マイナス成長になり、企業収益は深刻な落ち込みで賃金も上がりませんでしたが、利益減で労働分配率上昇になったのです。
翌年から企業はそのマイナスを取り返そうと賃金上昇も抑えましたが、24年度に至り春闘が活発化し、業績回復した企業も納得の大幅賃上げで労働分配率は上がり始めたようです。
今年度の統計が出れば、更に上昇かという気もしますが、この背後には国民総所得と雇用者報酬の微妙な関係もありますので、その点は次回見ていきたいと思っています。