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人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

2023年春闘に向けて:1、官製春闘では解決しない

2022年09月29日 17時25分40秒 | 労働問題
2023年春闘に向けて:1、官製春闘では解決しない
歴史から学ぶという事は大事なことで、このブログでも30年不況の原因、為替レートの恐ろしさ(変動相場制の恐ろしさ)、日本銀行の失敗と成功、為替レートの正常化と経済政策などと順次積み上げてきますと色々なことに気づいてきます。

出来ればこの2~3回で、そのあたりから出て来る「来春闘にかけての課題」を引き出していってみたいと思います。

先ず、前提は、今日の世界経済システムの中で起きるインフレ、デフレ、スタグフレーションと、政府、労使、一般国民のそれぞれの行動との関係です。

先ず、1970~80年代の石油危機の時の状況と、今日の原油価格高騰によるインフレ急伸の状況との共通点と政策の相違点を見てみましょう。

国際商品である原油の価格上昇は、消費国から産油国への(値上げによる)富の移転を意味します。これは世界共通で、消費国では打つ手はありません。当然国内では輸入物価の上昇(輸入インフレ)が起きます。
 
このインフレをカバーする賃金上昇があれば、輸入インフレは国内インフレに転嫁されます。この状況は今の欧米諸国で顕著です。(10%インフレの状態です)
石油危機の時は、これを放置する期間が長く賃金・物価は上がって、経済成長は止まり、失業率は上昇というスタグフレーションを招きました。

今日の状況はインフレ昂進は同じですが、アメリカのFRBが先鞭をつけ、早期に金融を引き締め国民(含む労使)に「多少経済にマイナスになってもスタグフレーション回避のため」と強い信号を発し、政策金利の大幅引き上げで警告するという構図でしょう。

その中で日本だけが、第1次石油危機の教訓から労使・国民が素早く学び、スタグフレーションの悲惨な経験をせずに済ませています。
欧米の強烈な金利引上げが、労使・国民の理解を得て成功することを願う所です。

日本は、円安移行後も輸入価格上昇の国内価格への転嫁を極力抑え、賃上げも低成長を前提にインフレ抑制にばかり重点を置くという事で、今の消費者物価の上昇は、過去10年来の原材料コストアップを漸くカバーする程度に留まっています。(8月現在3%)

この辺りが、1913~14年日銀の政策変更(異次元金融緩和)で円レートは正常化したのにかかわらず、円高時代と同じような賃金物価政策がとられてきたために、長い円高による日本経済の歪みが残ったままになってしまったという事の大きな原因でしょう。

日銀が、円レートを正常に戻したというのは大きな功績でした。しかし、それを日本経済再活性化の好機と捉え、政労使が協力して取るべき挽回策を話し合うという雰囲気は残念ながらありませんでした。

原因を少し詳しく見ていけば次のようなものが出て来るように思います。
先ず、労使は春闘の再開をよしとし、主要企業では春闘への取り組みを再開しました。しかし労使ともに初めは円高に戻る危険性を危惧し、動きはかなり慎重でした

円安に狙いを定めていた政府は、アベノミクスで「決める政治」を標榜、賃金決定でも主導権を取り賃上げを奨励、これが3年続いた2015年には「官製春闘」という言葉が定着しました。

結果、政労使三者のコミュニケーションは完全に希薄化し、三者はそれぞれに、企業レベルの交渉に集中、「政労使共通の理念」のない、格差社会化を進めるような春闘になっていったようです。
そのあたりの現実を、順次、出来るだけマスコミ情報などを思い起こし、検討してみたいと思います。