tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

来春闘に向けて、労使は賢明な話し合いを

2022年09月16日 17時38分56秒 | 労働問題
もう9月も半ばを過ぎました。おそらく既に、連合は「連合白書」、経団連は「経労委報告」の原案の執筆段階入っているのではないかと思われます。

日本の企業は原則年1回、春闘の時しか賃上げをしないので、それまでは企業にとって原則「賃金コストアップ」はありません。
これが、欧米ではインフレが10%近くにあるのに、日本ではまだ3%程度という違いを生む大きな原因になっているようです。

という事で、これからも年末にかけて、消費者物価はじりじり上りそうですが、実質賃金はじりじり下がるといったことに多分なるのでしょう。

そういうわけで、日本経済の「賃金と物価」、「利益と賃金」などのバランスの調整は来年の春闘にかかっているわけです。

春闘での賃金の引き上げは、教科書的に言えば、「定期昇給」+「ベースアップ」という事になります。
定期昇給(定昇)は企業の賃金制度に従って、各従業員の賃金が上昇する分。
ベースアップ(ベア)は賃金表の書き換え、賃金表全体の上昇改定です。
本来、定昇は、賃金表に従っての賃金改定で、元々の約束事で昇給することがきまっているものの実施です。
ベアは、その時点の経済・経営情勢などに照らし、その企業の賃金表を全体的に嵩上げするかどうかを労使で話し合って決めるものでしょう。
(賃金制度の改定は、此処では別問題です)

以上は、定昇とベア原則ですが、現実には、賃金制度がなく、昇給制度だけの企業も随分ありました。
今は定昇と言わず「1年先輩の軌跡を追う」分が2%などと年功賃金そのもののような言い方もあるようですが、この定昇というのはかなり曖昧なものでした。

昭和30年代高度成長が始まった頃の企業の場合は、定昇が毎年10%などという会社もざらにありました。

それを聞いて安心して就職するなどという事も当たり前だったのですが、昭和40年、戦後最大の不況などと言われた頃には、そんな賃金管理がいつまでも可能なはずがない事が理解され、定年までの賃制度が普及するとともに、定昇率は次第に5%、更には2%と下がってきました。

職能資格制度が一般的になってからは、定昇率は、初めは高く次第になだらかといった設計が一般的になり、平成不況にない入ったころには定昇は消えてくる気配もありました。

しかし、学卒一括採用方式が存続する以上、若い時代の定期昇給は「習熟昇給」という概念とともに残らざるを得ません。
こうしていわゆる2%程度といった「定昇制度の記憶」が今も残っているわけです。

ところで、ここでの問題は、相変わらず組合も「定昇+ベア」と言っていますが、定昇というのは賃金制度の適用で、昇給ではありますが、企業の払う「人件費」、日本経済の払う「雇用者報酬」が必ずしも増えるわけではない現実に注目の必要があるという事です。

定期昇給が10%とか5%とか言っていた頃は、定期昇給の中に実質的には「ベア」が確り入っていたのです。
今は春闘結果の「定昇+ベア」が 、例えば2.5%と言っても。それが日本経済の払う「雇用者報酬」を増やすかどうかは疑問です。

平成不況30年の中で、平均の名目賃金は微増、実質賃金水準がほとんど増えなかったといった現実の背後に「定期昇給」の変質があったという点に気付かないと、消費需要を引っ張るという重要な役割を持つ「賃金上昇」の実態を見誤るような気がします。

1970~80年代インフレ対策として「所得政策」が言われましたが、今極端な消費不振の日本で、必要な消費需要を達成する賃金水準を目指す「所得政策」を日本の労使は日本経済活性化のために考えてみたらどうでしょうか

来年3月の春闘の集回答日までに、日本の労使が日本経済を元気にする賃上げを協力して探り当ててほしいものです。
政府には出来ないので、労使がやるしかないのではないでしょうか。